2025年5月17日土曜日

共有の問題として語り合うこと

  哲学者・小野純一さんの近刊『僕たちは言葉について何も知らない』(ニューズピックス、2025年)を読みました。この本で、著者の小野さんは、「言葉」について、①「言葉は記号である(論理的)」②「言葉には含みがある(心理的)」③「言葉は〈場〉である(相互作用的)」という「三つの見かた・考えかた」を示しています(『僕たちは言葉について何も知らない』34~36ページ)。

 『理解するってどういうこと?』第5章にある「表5・2 読み・書きを学ぶ際の主要な構成要素 さまざまな認識方法」には「表面の認識方法」として三つ、「深い認識方法」として三つの領域がそれぞれ掲げられています(『理解するってどういうこと?』167ページ)。 
 小野さんの言う「言葉」についての「三つの見かた・考えかた」のうち①は、エリンさんのいう「表面の認識方法」に対応しています。言葉を「記号」として捉えるための「認識方法」が「表面の認識方法」です。「文字と音声」「語彙」「構文」の「認識方法」を知らなければ私たちは言葉を「記号」として捉えて、流暢に読み・書きすることができません。小野さんの言葉を借りれば「平板な(一つの意味しかない)ジグソー・パズルを、決まった通りに並べるように、言葉を理解する」ことです。本や文章の読みだと、そこに書かれている「情報」を取り出すように「理解する」ことになります。だから「表面の認識方法」なのです。
 しかし、言葉を理解することはそれに留まらない営みです。小野さんは「言葉は情報という客観だけではなく、新しい考えや感情といった主観に働きかけます」と言っています。エリンさんは「筋を捉えたり、ヒントになるアイディアを深く理解したり、自分の理解を拡張して応用するための理解」は「表面の認識方法」を乗り越えます。だから「深い認識方法」なのですが、これは小野さんの言葉の「見かた・考え方」の②と③にあたるものになります。読んだり、聞いたりした話や文章が読み手・聞き手にとって大切なものになるのは、この②や③の理解があるからだと言ってもいいでしょう。「新しい考えや感情」が喚起されるから、私たちはその話や文章を面白いし、自分にとって意味があると思うのです。
 エリンさんが「深い認識方法」の「優れた読み手・書き手となる領域」は、小野さんの言う③の「言葉は〈場〉である(相互作用的)」という「見かた・考えかた」を前提としたものだと考えられます。エリンさんは「優れた読み手・書き手となる領域」の「一番効果的な方法」が「本や文章について自分たちの考えたことを話し合うこと」だと言っています。「話し合う」ことが読み手・書き手の相互作用を引き起こすからだと考えられます。
 「自分たちの考えたことを話し合う」こと自体に大きな意義がありますがが、一人ひとりの考えたことや経験を述べ合うだけで終わったり、お互いの発言に共感するばかりで、本や文章の内容について深めることができなかったりすることも少なくありません。小野さんの本を読むとこの問題をもう少し掘り下げて考えることができます。たとえば。小野さんは次のように言っています。

「そこで私たちは、言葉とは個人それぞれの感情だけでなく、個人を超えて機能する概念であるという視点を持つ必要があります。そうすることで、不要な誤解や行き違いを、共感の有無ではなく共有の問題、意味の〈ずれ〉としてとらえることができます。それは互いに問題を〈共有〉して、その解決に取り組む共同作業に転換します。そうすることで、問題を個人的にとらえず、理性的になることができるのです。」(『僕たちは言葉について何も知らない』174ページ)

「当たり前ですが、経験や記憶、立場や事情は人それぞれです。それぞれの〈当事者だけにかかわる〉出来事を、自分のことであるかのように語るのは、私有であって、共有ではありません。自分のことに結びつけて語るのではなく、共有の問題として語るには、自分の経験から語ることをやめる必要があります。」(『僕たちは言葉について何も知らない』176~177ページ)

 実際、エリンさんは「優れた読み手・書き手となる領域」で各自の思考を「共有するための方法」を考えるときに「ブッククラブですること」を考えてみるのがわかりやすいと言って、次のような例を出しています。

「私がブッククラブに出かけて、読み終わったばかりの小説の最後の章をそれぞれ書き出してみましょう、などと提案するでしょうか? 私がブッククラブでそんな非常識なことを提案しようと考えたことはけっしてありません。しかし、今言ったことは、私の知るところ、理解を「教える」ための教材のなかでたくさん行われている「活動」の一例にすぎないのです。私が、「最後の章のあらすじを書き出してみましょう」などと提案することはけっしてありませんが、「その作者なら考えたかもしれない別の終わり方をみんなで論じましょう」という提案ならするかもしれません。その小説の終わり方について、その作者ならこう考えたかもしれない、いや、そうは考えるはずがないということを、1時間ばかり話し合う素敵な時間をみんなで過ごすことができるからです。」(『理解するってどういうこと?』183ページ)

 読み終えた小説の「最後の章のあらすじを書き出してみましょう」では各自が要約したことの確認で終わってしまいます。そこに参加者相互に小野さんの言う「意味の〈ずれ〉」は生まれません。各自の「あらすじ」を確認して終わることになりかねません。しかし「その作者なら考えたかもしれない別の終わり方をみんなで論じましょう」という課題なら、各自の小説の読みや解釈をもとにしながらも「意味の〈ずれ〉」をもとに「互いに問題を〈共有〉して、その解決に取り組む共同作業に転換」することができますし、「自分のことと結び付けて語るのではなく、共有の問題として語る」ことができます。
 それは、今読み終えた小説についての「深い認識」を生み出すことにつながるでしょう。一人ひとりが小説を読んで考えたことを、自分の経験と結びつけながら語るのではなく、参加者「共有の問題」として語ることになりますから、その小説の登場人物、出来事、筋立て、テーマ、文体その他について、一人ひとりで読んでいたときよりもさらに深い意味づけが可能になります。「共有の問題」を介した「共同作業」のようなものですから、共同してその小説を深く読み解く会話が行われることでしょう。そうした対話のなかに各自の経験や状態を反映させることもできます。読み手同士の理解にもつながっていくはずです。

2025年5月9日金曜日

どうしてこんなに面白い? 書くツールについての本 [その2] 〜横糸と隠しボタン 

  2025年4月25日の投稿「どうしてこんなに面白い? 書くツールについての本 [その1] 〜「レントゲン読み」(★1)、そして拡がりへ 」で紹介した本(★2)から、今日は[その2]です。面白く読める理由を考えながら読んでいて、二つのことに気づきました。

 まず、優れた書き手は、注意深くかつ幅広く読む読み手であることが、どのツールを読んでいてもわかります。55のツールを縦糸とすると、その横糸は「書き手は読み手」だと感じます。

 それぞれのツールのポイントが明確にわかるように、数行から半ページぐらいの引用が、ほとんどのツールで1つ以上、登場しています(★3)ツールのポイントが実例で示されると、「確かに!」と納得できますし、実例を読むだけでも面白いです。

 多様な実例の引用がふんだんにあるという本のつくりかたを通して、「書き手は読み手である」ことが、何度も念押しされているように感じます。

 二点目は、 著者自身がツールを時々使っていることを発見できることです。「あ、ここで使っている」と、隠しボタンを見つけたような気持ちです。

 例えば、[ツール16]は、「自分のオリジナルなイメージを求めよう 〜決まり文句や凡庸に甘んじるのをやめよう」(80-83ページ)から考えます。

 スポーツ記者であるレッド・スミス(Red Smith)が書いたボブ・フェラー(Bob Feller)投手の描写、後述するアン・ラモット(Anne Lamott)の本からの引用など、ここでも、著者が読み手だから提示できる例が横糸になっています。また、ピッタリくるものが見つかるまで1ダース以上の表現をブレインストーミングするという記者サウル・ペット(Saul Pett)のことや、ジョージ・オーウェルやドナルド・マレーのような著名な書き手たちが、決まり文句に甘んじてしまう危険性を指摘していることも示し、このツールも具体例が豊富です。

 でも、それだけではありません。

 この[ツール16]の最後の方(82-83ページ)で、作家であり、書くことの教師でもあるアン・ラモット(Anne Lamott)の本(★4)から、たとえ、しょっちゅう使われる、ありふれた表現("Whatevewr" や”Oh, well")を使っていても、その使われる文脈を移動することで、その表現に新しいイメージが吹き込めることを示しています。つまり、オリジナルなイメージとは、誰も使ってこなかったような斬新な表現を考えるだけでなく、ありふれた表現であっても、その使われる文脈を動かすことでつくり出せるのです。

 この本は5つのパート(★5)に分けられていますが、パート2は 「特殊効果 Special Effects」となっています。使われている単語 Special Effects(特殊効果)を調べると、映画やTV番組制作に関わる文脈で、よく使われる表現のようです。この表現自体は特に目新しいものではありませんが、「映画やTV」という文脈から、「書くツール」という文脈に持ってくることで、新鮮味が生まれています。

 また、著者自身も、決まり文句や凡庸に甘んじるのをやめて、自分のオリジナルな表現を、この本の随所で使っています。例えば、[その1]で紹介した「レントゲン読み」(X-ray reading)(211ページ)。また、[ツール12]では、自分が書くときの言葉の選択の傾向を説明するために word territory と言うフレーズをつくったことも紹介されています(64ページ)。

 [ツール16]という一つのツールを見るだけでも、「書き手は読み手」という横糸が織り込まれ、ある表現の文脈の移動(予想外の文脈への移動)や著者による造語など、このツールが、隠しボタンのように、他の箇所で使われていることにも気づく。そんな発見も、面白く読み進められる理由の一つです。

*****
★1 Roy Peter Clark著 Writing Tools: 55 Essential Strategies for Every Writer (10th anniversary edition) (2016年, Little Brown Spark)の中の211ページで出てきます。

★2 上記の本です。2006年に出版されたものに、さらに5つの新しいツールを加えた、出版10周年記念版です。

★3  → ざっと見たところ、55のうち51のツールで登場しています。残りのツールは以下の4つです。
[ツール 47] 自分のためのサポートグループを整える〜フィードバックのための、助けてくれる人たちのグループをつくる
[ツール 49] 批判者から学ぶ〜理不尽な批評も許容する
[ツール 50] 自分の道具を持とう ~道具を収納するための仕事台を作ろう
[ツール 55] ストーリーのきっかけとなる出来事を探す〜その1日、あるいは人生を変えるような瞬間に注意を払う

 [ツール47] [ツール49] [ツール50]は、いずれも「パート4 有益な習慣 Useful Habits」の中にあります。数行にわたる引用はないものの、著者の体験も含めて、具体例が豊富です。[ツール 55] は10周年記念版の最後のツールで、数冊の本に言及されていて、ここでも「書き手は読み手」である横糸はしっかり健在です。

★4 アン・ラモット(Anne Lamott)の本 Traveling Mercies からの引用です。

★5 この本では、55のツールが、以下の5つのパートに分けられています。
パート1 基本 Nuts and Bolts
パート2 特殊効果 Special Effects
パート3 見取り図 Blueprints
パート4 有益な習慣 Useful Habits
パート5 おまけのツール Bonus Tools
 (→パート5は、10周年記念版で追加されたツール5つです。)

2025年5月2日金曜日

今年度の残り11か月で、あなたが伸ばしたい授業力は?

あなたは、教室にいるできるだけ多くの生徒が興味をもって授業に取り組め、かつ扱っている内容を理解し、身につく形で学んでもらうことを心がけておられると思います。

それは、いったいどのようにして実現されるか考えたことがありますか?

単純に、教科書を順番通りにカバーしていくだけで実現されるでしょうか?

『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』の24ページの図(下に貼り付け)は、まさにそれを可能にするために考えられたものといえます。

 あなたは、これらの項目のいくつぐらいを押さえながら教えていますか?

 (全部を薄くというか、いい加減に押さえるよりも、少ない項目を確実に押さえながら教えた方を向上させたほうが、生徒たちはありがたがります。) 

 2段目には「一般的原則」として、5つの項目が挙げられていますが、実際に本の中では8つの原則が紹介されていますし、本が出版されてから9つ目が追加されていますから、常に進化し続けるものです。固定化されないのがいいですし、自分で足したり引いたりできるのもいいです(残りの項目を知りたい方は、本をチェックするか、それともpro.workshop@gmail.com にご連絡を!)。

 3段目の4つの要素と、5段目の具体的な「さまざまな教え方」の紹介が、この本『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』の中心になっていますが、あなたは授業を考えるときに、これらのどれくらいを意識していますか?

 4段目の生徒の違いを表す要素は、レディネス、興味関心、学習履歴の3つで表されていますが、あなたは他に何か思いつきますか? これだけで、すべてを表しているでしょうか? 思いつくのがあったら、ぜひpro.workshop@gmail.com 宛に教えてください。

 一般的には、授業を考え、かつ実際にする際の(ということは、「授業を決定づける」ないし「教師の腕の見せ所」の)ポイントは、3段目の「内容」「方法」「成果物」「感情/環境」になると思います。つまり、2段目と4段目をしっかり理解・把握しながら、3段目(5段目は3段目の「方法」を膨らませたものと捉えられます!)の持ち駒を一つでも増やしていくことが、単に教科書をカバーして終わりの授業ではなく、教室にいる一人でも多くの生徒が興味をもって、しかも身につく形で取り組んでもらえる授業をする際の鍵といえるでしょう。


◆指導内容=学習内容=カリキュラム?

学習内容(=2段目の「質の良いカリキュラム」)は、教師がコントロールできる枠の外にあると捉えられがちですが、本当にそうでしょうか? 

各学校は、文部科学省が定める学習指導要領に基づいて、学習課程(=カリキュラム)を編成する義務があ」りますが、これは、残念ながらほとんど行われていません。学習課程を教科書にすり替えてしまっているのが実情です。どこにも、「教科書」とは書かれていないのに! 別なところに、教科書は「主たる教材」とは書いてありますが、どこにも「それを使え」とも「それしか使えない」とも書かれていません。

カリキュラムの考え方ないし捉え方は、いい学校のつくり方が書かれている『いい学校の選び方』のなかで紹介されている、次のような要素を踏まえてつくりだすものです。

 これによって、教科書をカバーするのとはまったく違った、教師が中心でもない、生徒と教師が中心の授業がつくれます! このリストは、カリキュラムが生徒のことはもちろん、教師のことも知らない「雲の上の人」がつくれるものではないことも明らかにしてくれています。

 

◆指導方法=学習方法

 ライティングとリーディング・ワークショップ(作家の時間と読書家の時間)は、この内容の部分はもちろん、他の3つの「方法」「成果物」「感情・環境」も見事なぐらいにしっかり押さえて、教室にいるほとんどの生徒が興味をもって、しかも身につく形で取り組んでもらえる授業です。この方法に取り組んでみたい、ないしさらに磨きをかけたい方は、https://docs.google.com/spreadsheets/d/1KXuWtBc4kl6jRr2KGwnqPAH1vSryYkM7qNXd0ArKpYU/edit?gid=1042705275#gid=1042705275 のなかから選んで読み進んでください。

 また、ライティングとリーディング・ワークショップ以外の指導方法=学習方法を知りたい方は、まず『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』の第7章以降から読み進めることをお勧めします。なお、『一斉授業をハックする~学校と社会をつなぐ「学習センター」を教室のつくる』は、5段目の最初に書いてある「学習/興味関心センター」について詳しく紹介してある本です。また「契約」については、『「考える力」はこうしてつける』の第4章「交渉」と同じものです。

2025年4月25日金曜日

どうしてこんなに面白い? 書くツールについての本 [その1]  〜「レントゲン読み」(★1)、そして拡がりへ

 「どうしてこんなに面白いの?」と思いつつ、書くことのツールについての本『Writing Tools』を読んでいます。2006年に50のツールを紹介する形で出版され、私が持っている出版10周年の記念版(2016年出版)(★2)では、ツールが5つ追加されて55のツールとなっています。55のツールは5つのパートに分けられています。一つひとつのツールは、どれも4−5ページの長さで、淡々と説明されていますが、飽きることなく、惹き込まれて、読んでいます。

 著者は、ジャーナリズムの有名校で30年以上、書くことを教えてきたロイ・ピーター・クラーク(Roy Peter Clark)氏です。本を開くとすぐに目に飛び込んでくる献辞から、ライティング・ワークショップ関連の文献でよく登場するドナルド・マレー氏に捧げられた本だとわかります。また、10周年記念版の序文(xiiiページ)の最初のページには、著者のお勧め本が数冊記されています(★3)。その1冊は、2024年12月13日の投稿「書き手の『声』が溢れ出す、書くことについての本」で紹介したアン・ラモットの本 『ひとつずつ、ひとつずつ 〜「書く」ことで人は癒される』(パンローリング、2013年)です。

 ドナルド・マレーとアン・ラモット。この二人の名前のおかげで、ツールを読む前から、私はすでに期待感いっぱいです。

 今日の[その1]では、著者が「レントゲン読み」(X-ray reading)と呼ぶ読み方が出てくる「ツール43」「形と内容の両方を読もう〜テキストの下にある仕組みに目を向ける」(210-213ページ)から考えます。

 「段落から段落へ、ページからページへ、章から章へ、あなたを駆り立てるために、作家はどんな魔法を使ったのだろうか?」(211ページ)と記されています。レントゲン写真は表面には見えてこないものを見せてくれますが、「表面の下には、文法、言語、構文、レトリックといった目に見えない機械があり、意味を作るための歯車、機械設備がある」(212ページ)のです。

 献辞や序文で、インパクトの大きい人の名前(ドナルド・マレーやアン・ラモット)を出すのも、著者の使った魔法の一つのように、私には思えます。

 さらに、ドナルド・マレーは、「ツール50の中」で、「私が教えることや私が書くことを、生涯に渡って変えた」(241ページ)教師として、カッコよく再登場します。初版は50のツールの紹介ですから、最後のツール50をドナルド・マレーの登場で締めています。ドナルド・マレーへの献辞でスタートして、途中でも、ドナルド・マレーに言及し、最後に、ドナルド・マレーからの学びがきっかけとなったツールを語ることで、着地が綺麗に決まった印象です。

 思わず、「献辞での前振りを着地で回収」と、勝手にこの方法に名前をつけてしまいました。

 (なお、ツール50は、それまでに紹介されたすべてのツールを俯瞰的に見ている印象です。このツールについては、「どうしてこんなに面白い? 書くツールについての本 [その3]」で紹介できればと思っています。)

 さて、「ツール43」(210-213ページ)「形と内容の両方を読もう〜テキストの下にある仕組みに目を向ける」で強く感じたのは、二つの点で、優れた書き手は優れた読み手であることです。

 一点目は、(自分が感銘を受けた本などを)何度も何度も読み直して、どうしてうまく書けているのかを考えることです。これができるだけでも、他の書き手から学ぶことは多そうです。

 でも、著者のクラーク氏は、それだけでは終わりません。著者自身、何かを書く時には、そのトピックの[内容]に関わるものを読むことから始めるものの、同時に[形・ジャンル]についても目をとめていることを記しています。

 そして、「よりよい写真のキャプションを書きたいなら古いLife誌」、「説明が上手になりたいなら、優れた料理の本」「気の利いた見出しなら、大都市でのタブロイド」等々を読むといいというアドバイスもしています(210-211ページ)。

 また、以下のように読めることも紹介しています(212ページ)。

・書き手の声を聴くために読む

・これから発展できる可能性のある話のアイデアを求めて新聞を読む

・さまざまな新しいストーリーテリングの形を体験するために、オンラインで読む

・どうしても読みたくなったら本を全部読む。しかし、その一端を味わうこともやってみる

・何を読むかを選択する際には、他人のアドバイスよりも、書くことにおける自分の羅針盤に従う

・コーヒーが飲める書店で、最新の雑誌や雑誌を無料で試し読みしてみる

・建築、天文学、経済学、写真など、自分の専門外のトピックを読む

・ペンを片手に読み、余白に書き込む。作者に話しかける。興味深い箇所に印をつける。質問をする。

→ 上記のようなアドバイスを見ていると、[内容]と[形]の両方に目を向ける際、一点目として挙げた、「自分がよく読むものをレントゲン読みする」だけで終わっていません。二点目として、読み手として自分が接するものを「拡げていく」ことが強調されているように思います。
 
 この本では、随所に豊富な具体例が提示され、この著者はすごい読み手!と思わされます。それは、著者がこのツール43で書いているように、書き手としての観察力を高めながら、幅広く読むことを、自ら行っているからだろうと思います。

 「書くことのツールを著者自身も使っている!」そんな気づきができるのも、この本の魅力の一つです。次回[その2]では、その点も含めて紹介できればと考えています。

*****

★1 Roy Peter Clark著 Writing Tools: 55 Essential Strategies for Every Writer (10th anniversary edition) (2016年, Little Brown Spark)の中の211ページで出てきます。

★2 上の★1で紹介した本です。

★3 それ以外で、邦訳が出ているものとしては、以下です。

・ナタリー・ゴールドバーグの『クリエイティヴ・ライティングー自己発見の文章術』春秋社 (1995/6/25)。この本は 2006年『魂の文章術 書くことから始めよう』へ改題・増補新装。2023年には新書版が登場 『魂の文章術』扶桑社新書

・スティーヴン・キングの『書くことについて』小学館文庫 2013年

2025年4月18日金曜日

「本を選ぶことは明日の自分を選ぶこと」

古賀史健さんの『さみしい夜のページをめくれ』(ポプラ社、2025年)という本を読みました。海のなかの生き物たちを擬人化した同じく古賀さんの『さみしい夜にはペンを持て』(ポプラ社、2023年)と同じく主人公の〈タコジローくん〉が、この本でも語り手です。『さみしい夜にはペンを持て』では〈ヤドカリのおじさん〉が〈タコジローくん〉の「書くこと」の導師でしたが、この本ではおまつりの日にバスターミナル広場の路地で、占い師の〈ヒトデ〉に出会います。その〈ヒトデ〉に読むという行為について大切なことを教わっていきます。きっと〈ヤドカリのおじさん〉や〈ヒトデ〉さんは、本のなかで著者の古賀さんの考えを代弁する人物なのでしょう。読み書きのリーダーないしコーチのような存在です。それだけにこの人物たちが〈タコジローくん〉にかける言葉は、読者である私の胸にもしっくりとなじみます。

 『さみしい夜のページをめくれ』のなかで〈ヒトデ〉が〈タコジロー〉に向けて語ったことで私の印象に残ったのは「本を選ぶことは明日の自分を選ぶこと」という言葉でした。もちろん、本を選ぶという行為はが、どうして「明日の自分を選ぶこと」になるのでしょうか。不思議ですね。〈ヒトデ〉と〈タコジロー〉たちの会話を立ち聞きしてみましょう。

 

「アタシたちはずっと、『選んだおぼえのない自分』を生きてきた。中学生や高校生くらいま  では、とくにそうだ。選んでいいのはお菓子くらいで、大事なことはなにひとつ選べやしない」

 ぼくたちは黙ってうなずく。

「でも、家を出る。本屋さんに行く。本棚を眺める。

 そこでは、学校じゃ決して聞かせてくれないような話が、堂々と語られている。

 むずかしい話もあれば、おもしろい話、

 危険な話、残酷な話、

 思わず耳を塞ぎたくなるような話

 だってあるだろう。

 そしてアンタは、一冊を選ぶ。

 両親も知らない、学校の先生も知らない、

 仲良しの友だちだって知らない、

『自分だけの一冊』を選ぶ。

 それは、本を選んだんじゃない。

 自分の進む道を、選んだんだ。

 自分はこっちを信じる。

 自分はこっちに一歩踏み出すんだ、ってね」

「・・・本を選ぶことは、自分を選ぶこと?」

「ああ。そして自分を選んだその瞬間、

 アンタはもう、子どもじゃなくなるの」

(『さみしい夜のページをめくれ』297299ページ)

 

 「本を選ぶ」ということが、選んだその人の成長の一コマになるということを〈ヒトデ〉は言っているのです。たかが「本を選ぶ」ぐらいで人生が左右されるわけではない、と考える人もいると思いますが、されど「本を選ぶ」です。図書館や本屋の本棚の前で「『自分だけの一冊』を選ぶ」、それを幾度か繰り返してみると、以前とは違う自分が顔を出します。〈ヒトデ〉の「子どもじゃなくなるのさ」とはそのことを言っているのです。

 ここで〈ヒトデ〉の言う「子ども」とは「選んだおぼえのない自分」のことです。「『自分だけの一冊』を選ぶ」ということは、素朴な行為ですが、その「選んだおぼえのない自分」に別れを告げることです。「明日の自分を選ぶ」ことは、「選んだおぼえのない自分」からすれば、とんでもなく大きなことです。

 それを自力でできるようになるのは容易ではありません。〈ヒトデ〉のようなサポートしてくれる存在が必要なのだと思います。では、「選んだおぼえのない自分」が「自分で選ぶこと」ができるようになるためにどのようにサポートしていけばいいのでしょうか。『理解するってどういうこと?』には次のようなことが書かれています。

 

・一年を通して教師たちから選書について継続的にいろいろなことを教わりながら、次第に子どもたちが自分で適切な本を選べるようにします。

・教科書の教材を扱うだけでなく、ひとまとまりの本(一組の関連しあった本)を読むことによって、子どもたちは、さまざまな作者、テーマ、ジャンルの間に重要な関連づけができるようになります。

・教師がモデルで示すことは何より大切です。教師は自分が本を選んだり推薦したりするさまざまな方法をモデルで示し続ける必要があります。

・子どもたちは自分で選んだ本を実際に試してみる方法を見につける必要があります。たとえば、12ページが部分を試しに読んでみたり、考え聞かせをしてみたり、五本指法(知らない単語やよくわからない考えに出会ったら指を折って数える方法で、1ページに5本以上だと難易度が高すぎると判断する)などを試したりします。

(『理解するってどういうこと?』228ページ)

 

 『さみしい夜のページをめくれ』を手に取っていただくと、〈ヒトデ〉がおうしたことを実にうまく〈タコジロー〉たちの前でやっていることがわかります(四番目の「方法」についてはこの通りではなく、〈ヒトデ〉独自の魅力的な「方法」が示されています)。だから〈タコジロー〉たちも「自分で選ぶこと」の持つ大切な意味を実感することになるのです。それがどんなふうになされるのか。是非この本を手に取って読んでください。

 『さみしい夜のページをめくれ』はこの3月に、帰省していた実家近くの書店の店先で見つけました。『さみしい夜にはペンを持て』の続編であるということはすぐにわかりましたので、迷いなくその一冊を選びました。その時、この本を選んだからこそ、私は今日この文章を書くことができています。この本と出会ってちょうど一月ほど経ちましたが、ひと月前に私は「明日の自分」を選んだことになります。選んだから書くことができたのです。〈ヒトデ〉の言った通りです。

2025年4月11日金曜日

アンカー・チャート ~学びの錨(拠り所・支え)となる教室の掲示物

 「この前、題名の付け方について学んだんだけど、いい題名をつけるためには、何ができるんだったっけ」とか「次に読みたい本が見つからない時は、何をすればいい?」等々、学んだことを忘れてしまうこともあります。そんな時に、そのポイントが教室に掲示してあれば、それを見て、自分で解決ができます。

 ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップ関連の文献を見ていると、教室の掲示物が活用されている事例が多くあります。「作家たちは、どこから書く題材を見つけるのか?」の具体例を掲示している教室もあります(『ライティング・ワークショップ』33ページ)。また、「書く前にすること」「パートナーの作品を修正するときの手順」など、書くことのさまざまなプロセスにおいて、子どもたちが自分でできることを掲示している教室もあります(『ライティング・ワークショップ』35ページ)。

 文献を見ていると「アンカー・チャート」という用語も、最近、よく目にします。アンカー(anchor)は、錨、拠り所、支え等の意味があります。

 アンカー・チャートとは、「教室での学習の成果物であり、錨のように、生徒と教師の考え、アイデア、プロセスを固定する。アンカーチャートは、事前の学習を思い出させるものとして表示することができ、複数のレッスンにわたって積み重ねることができる」という説明もインターネット上にありました。(★1)

 アンカー・チャートには、上記のように、クラス全体で一緒に学んだポイントなどを書くこともありますし、今学んでいる単元で考えたいことや達成したいことなどを記しておくこともできます。「1回だけ使って終わり」ではなく、学びの拠り所として、以前の学びを思い出させ、複数回の授業を通じて積み重ねていくこともできます。

→ アンカー(anchor)と言えば、2月14日の投稿「『共有の時間』から『リフレクション』の時間へ (その2)~『グローバルな問い』の役割」では、「グローバルな問い」は「読み書きを統合したワークショップ(lieracy studio)のどの部分においても、対話の「アンカーになる」(anchors)と書かれていて(★2)、ここでもアンカーという単語が使われていました。


🔸イーゼルの魅力

 イーゼルの活用という手もありそうです。『イン・ザ・ミドル』(75ページ)には、イーゼルの写真があり、イーゼルの上に乗せる紙について、次のように説明されています。

「70センチ弱✖️80センチ強の罫線つきの一束の紙を載せて、ちょうど黒板のように使えますが、書いたものを保存できるのが大きな違い。そのおかげで、生徒と私は、過去の紙をめくって、参考資料を見つけたり、改訂したりもできるのです」(『イン・ザ・ミドル』75-76ページ)。

 イーゼルの場合、記録が簡単に残るので、1年の終わりには、すべてのページを見て、残しておきたいアイディアやページの保管などもできます(『イン・ザ・ミドル』76ページ)。

→ 中学校のように、ライティング/リーディング・ワークショップ用の教室がない場合は、上のイーゼルのような「移動できるもの」は、かなりメリットがありそうです。また、ライティング/リーディング・ワークショップを図書館で実施する等で、アンカー・チャートを掲示しにくい場合なども、イーゼルは便利かもしれません。

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 最後に私の失敗を一つ。大昔、ミニ・レッスンで学んだポイントなどを、紙に印刷して配布し、作家ノートや読書ノートに貼っておけば、すぐに参照できて、便利だろうと考えました。ノートに貼る手間を簡単にしようと、名刺ぐらいの大きさの宛名シールに「いい題名とは?」とか「書き始めで考えたいこと」等々、印刷して配布したことがあります。「こうしておけば、準備は少し面倒、でも貼るときは簡単!」と思ったのですが、イマイチでした。

 → 今、思うと、それは教師から一方的に与えられた、閉じた情報になっていたからのように思います。ミニ・レッスンで教えたいポイントや情報は、教師が持っていて、それを与えるというスタンスでした。しかも、一度ノートに貼ってしまうと、貼った場所を動かすのは面倒ですし、書き込みもしにくいです。

 他方、アンカー・チャートやイーゼルは、学びのポイントを錨のように、しっかり固定してくれます。錨が下ろされているので、安心して、そこから考えを巡らせることができ、新たな知見が生まれることもあります。授業の進み具合に応じて、場合によっては、クラス全体で書き込んだり、改訂することもできます。掲示物ですから、単元に応じて、部分的に貼り替えるのも簡単です。私のイメージは、今からの「開かれた学び」のために「固定されている土台」です。

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★1

https://www.learningforjustice.org/classroom-resources/teaching-strategies/exploring-texts-through-read-alouds/anchor-charts

★2

Ellin Oliver Keene. The Literacy Studio: Redesigning the Workshop for Readers and Writers. Heinemann, 2022. (181-182ページ参照)

2025年4月4日金曜日

相性がいい「生涯にわたって楽しく学び続けるための原則」とライティングとリーディング・ワークショップ

「知り合いの先生から創造力を育むためのいい本はありませんか?」と尋ねられたので、しばらくぶりに『ライフロング・キンダーガーテン』(ミッチェル・レズニック著、日経BP社)を読み直してみました。

 この本の中心は、サブタイトルの「創造的思考力を育む4つの原則」(=プロジェクト、情熱、仲間、遊び)を第2~第5章で詳しく解説していますが、第6章は「創造的な社会」をつくり出すために、4つの貴重な情報(以下の4つの●)が提供されています。

 それらのほとんどが、ライティングとリーディング・ワークショップ(作家の時間と読書家の時間)の実践とオーバーラップするのではないかと思ったので、そのまま紹介します(ということは、ライティングとリーディング・ワークショップはほとんど創造的思考力を育む4つの原則を押さえる形で行われている学びの形態と言える?? それに対して、教科書をカバーする形で行われる通常の授業は、下に紹介する項目をルーブリック/評価基準として使うと、どのように評価できるでしょうか?)。


●100の言葉 ~ https://www3.pref.nara.jp/bunkamura/100kotoba/で読めます

 

●学習者のための10のヒント

1.シンプルに始めること

2.好きなものに取り組むこと

3.何をすべきかがわからないときは、とにかくいじりまわすこと

4.実験することを恐れないこと

5.共に働き、アイディアを分かち合う友人を見つけること

6.(自分のアイディアを加えるために)他のものをコピーしてもOK

7.あなたのアイディアをスケッチブック(ジャーナル)に残すこと

8.構築し、分解し、再構築すること

9、こだわりすぎると、うまくいかないかもしれない ~ 適度の「いい加減さ」が大切!

10.自分自身の学びのヒント(戦略)を作ること!

 

●親と教師のための10のヒント

1.発想: アイディアを喚起する例(見本/モデル)を見せる

2.発想: 材料をいじくり回す(手を使う)ことを奨励する

3.創作: 幅広い種類の材料を提供する

4.制作: あらゆる種類の作り方を受け入れる

5.遊び: 作品そのものではなく、プロセスを強調する。

6.遊び: プロジェクトの時間をたっぷりとる

7.共有: マッチメイカー(仲介人)の役割を果たす

8.共有: コラボレーターとして参加する

9.振り返り: (本気の)質問をする

10.振り返り: あなた自身の振り返りを共有する

 

1回きりでなく、このスパイラル(サイクル)★を回し続けられるようにする!

 

●デザイナーと開発者のための10のヒント

1.デザイナーの(子どもたちがデザインする=子どもたちが創作、表現、振り返り、共有する機会)ためにデザインする

2.低い床(簡単に始められるもの)と高い天井(複雑な作品の制作)をサポートする

3.壁を広げる =アクティビティーの集まりではなく、探究可能な空間の提供 ~

https://digitalcast.jp/v/12178/

4.子どもたちの関心とアイディアの両方につなげる

5.シンプルであることを優先する

6.デザインを使う人々を(深く)理解する

7.自分自身が使いたいものを発明する

8.学際的デザインを可能にする小さなチームをまとめる(5人前後)

9.大勢の意見を取入れつつ、デザインを制御する

10.繰り返し、繰り返し、そしてさらに繰り返す

 

 最後の「デザイナーと開発者のための10のヒント」は、ライティングとリーディング・ワークショップ(作家の時間と読書家の時間)と関連づけるのが難しい項目があるかもしれませんが、よく考えてみてください(そこにこそ、創造力の種がありますから)。

 なお、これらの「ヒント集」は幼稚園のために書かれたものではありません、幼稚園以上すべての学びの場のために書かれています。それには、教師の学びも含まれています。現状の教員研修は、これらの提案のどれほどが実現できているでしょうか(ほぼ皆無)?

 

 年度初めには、書くことや読むことについてのアンケートをお忘れなく! その際は、

https://docs.google.com/document/d/1hwgyEsSHdC2bFKnuMDFr_4BQy6U7leijOIpj2pZGIr8/edit?tab=t.0 を参考にしてください。

 

★ここで言っているスパイラル(サイクル)は、本の35~36ページで紹介されている、下の図のことです。

これ自体、https://wwletter.blogspot.com/2012/01/blog-post_28.htmlと似ているというか、同じと言えませんか?!