私立の女子中高一貫校で英語を教えています。昨年の秋、高校3年生10名の小さなクラスで、詩を書かせてみました。
何年か前に、男子校のクラスで英語で詩を書かせてみたことがありましたが、うまくいきませんでした。そもそも、どのような方法で書かせるか分からぬまま書かせたのですから、詩そのものに触れる機会のほとんどない生徒たちが、うまく書けないのは当然のことでした。
2学期も残り少なくなり、あまり時間がありません。その少ない時間の中で、一定の形のあるものを仕上げる経験をさせたい。そのために詩はどうだろうか、と考えたわけです。
ナンシー・アトウェルは詩を用いることの効用を次のように述べています。★1
・詩は短くまとまっているので、クラスで一緒に読んで話し合うのに比較的短時間で済む。
・詩には書き手が使うさまざまな技がつまっている。
・詩はあらゆるところにある。
▶︎ ミニレッスンのポイント
私は、次の2つを意識してミニレッスンを組み立てることにしました。
1。どのような作品をモデルとして読ませるか。
- 最初に日本語の詩、その後、英語の詩を読ませる。
- 日本語の詩は、いくつも読ませる。
- 簡単で、技法のはっきりわかるもの、しかも質の良いもの。
- 英語の詩は1編。技法のはっきりわかるもので、質の良いもの。
英語の授業ですから、本来なら、名作と呼ばれる英語の詩を読み解き、鑑賞するところから始めるのが真っ当なやり方でしょう。しかし、時間の余裕がありません。生徒にとって身近な作品を読んで刺激を受ける方法を模索したいと考えました。
私は日頃から折にふれて詩を読んでいて、気に入った作品を書き抜いたり、本を買い揃えたりしています。今回も、そのような作品のストックがあったのも、詩を書かせてみようと思い立った理由の一つでした。
2。どのような技法に焦点をあてるか。
詩にはいろいろな作品があり、いろいろな技法が使われています。技法を知れば、すぐ書けるけるというものでもありません。その技法によって、具体的な題材を自分で見つけられること。そのことを目標にしました。
- 対比をとりあげる。これは、解説がいるだろう。
- 繰り返し(リフレイン)にも言及する。こちらは、解説するまでもなく、読めば感じがつかめるだろう。
- 比喩をどうするか。・・・勘のよい生徒は、比喩をつかって作品を書くかもしれない。
✏︎ 子どもの詩を読ませる
最初に読ませたのは、日本語による子どもの詩です。1編紹介します。★2
たったひとりだけ
おにんぎょうは
ひゃっかてんに
いくらでも うっているけど
わたしは どこにも
うってはいない
せかいじゅうに
わたしは たったひとりだけ
それに かあちゃんは
わたしを しかる
この詩では、「おにんぎょう」と「わたし」が対比されています。最初の3行があるから、次の3行が生きています。そして最後の2行で、「かあちゃんが自分を叱る」という事実が書かれています。
大事なことは、事実を描写して感想は書かない、ということです。「叱られて嫌だ」とか、「お母ちゃんはひどい」とか書いてしまうと、詩としての魅力が半減します。この「わたし」と「かあちゃん」の姿を思い浮かべ、どんな気持ちでいるのかは読者の想像に委ねる。そこに詩が成り立ちます。
私は、同じ本から選んだ10編の詩を読ませました。そして、気に入ったものを3編選ばせ、それを選んだ理由を考えさせました。皆の前で発表してもらい、クラスで感想を分かち合いました。その後、どんな表現の技法があるかに注目させました。
私は、ミニレッスンで作品を読ませる場合、まず教師の解説なしで読ませるようにしています。その上で、技法に注目させる。そのような手順で進めます。
✏︎ 英語の詩を読ませる
次に英語の詩を読ませました。次の詩です。★3(私の日本語訳を掲げておきます。)
This Morning
by Monica
This morning I didn't want to lift my head,
I didn't even want to get out of bed.
This morning I didn't want to take a shower,
all I could do was listen to the clock tick another hour.
This morning I didn't want to sing a song,
I just hoped the morning wouldn't go on.
This morning I didn't want to see the sun shine,
to see it meant I wasn't fine.
This morning I didn't want to eat,
I didn't even want for my bed to look neat.
This morning I didn't want to go to school,
this just wasn't the day for me to act cool.
This morning I didn't want to talk to anyone,
I just didn't want to have any fun.
This morning I didn't want to hear the truth,
I didn't want to front or act couth.
This morning I hated what I saw.
This morning I just couldn't go on.
This morning for me was just all wrong.
<日本語訳>
今朝
今朝、私はうなだれたままでいたかった、
ベッドから出たくなかった。
今朝、私はシャワーを浴びたくなかった、
私にできることは、時計がカチカチ言うのをもう1時間聞くことだけ。
今朝、私は歌いたくなかった、
朝なんか来なければいいのに、と思った。
今朝、私は輝く太陽を見たくなかった、
気分が良くないことを認めたくなかった。
今朝、私は食べたくなかった、
ベッドなんかグシャグシャのままでいいと思った。
今朝、私は学校へ行きたくなかった、
今日は格好よくふるまえる日ではなかったから。
今朝、私は誰とも話したくなかった、
面白いことなんかしたくなかった。
今朝、私は本当のことを聞きたくなかった、
前を向いて、気品よくふるまうなんてしたくなかった。
今朝、目に映るものを私は憎んだ。
今朝、私は生き続けたくなかった。
今朝は、私にはすべてが間違いだった。
これも私の解説なしで、まず読ませました。その上で、「この詩の作者は10代の女性です。一体何があったんでしょうね?」と問いかけました。「失恋したのかな」「学校でいじめにあったのかな」「気に入らないことがあったんだよ」など、いろいろ意見が出ました。
これは、作者がボーイフレンドと死別した悲しみを書いた詩です。しかし、「私は悲しい」とか「私は悔しい」といった言葉は使われていません。「今朝は・・・・したくなかった。」というフレーズの繰り返し(リフレイン)で、その悲しみを表現しています。そこに詩が成立しています。
✏︎ エクササイズ
次に、「対比」と「繰り返し(リフレイン)」を使うエクササイズを日本語で行いました。ここでは、「対比」にしぼって考察していきます。
次のような型を示し、[ ] にことばを入れるエクササイズです。ワークシートに記入させた後、2~3人のグループでお互いに読みあって、感想を交換してもらいました。生徒たちはお互いの書いたものへの関心が高く、「いいねえ」「かわいい!」といった素朴なコメントを書き込んでいました。
3つ紹介します。
Aさん: 彼女の家はケーキ屋なのに彼女はケーキが食べられない。
この生徒は、改行していません。散文的です。
彼女の家はケーキ屋だ
それなのに
彼女はケーキが食べられない
こうすると印象が変わります。「改行」は一つの技法です。
Bさん: うなぎの味はおいしい
それなのに骨が多くて、喉にひっかかる。
好きじゃない。
「おいしい」と言っておきながら、「好きじゃない」と言い切る。自分の中に生じる相対立する二つの気持ちを取り上げているところが面白く感じられます。これを、「こんなふうに感じるのは矛盾するなあ」と言ったことを書くと、魅力は半減してしまいます。
Cさん: 私が忙しい時はにこ(ペット)はかまってくれる。
それなのに私が暇な時はにこ(ペット)はかまってくれない。
自分と「にこ」(犬の名前だそうです)の関わりあいを、忙しい時と暇な時とで対比しています。どちらも「かまってくれる」ということばを使っているので分かりにくいのですが、話を聞いていくと、「忙しい時に限って、犬がじゃれついてくる」「私が暇にしている時は、じゃれついてこない」ということだとわかりました。この対比も面白いです。
Aさん、Bさん、Cさんとも、「それなのに」で前後をつなげる題材を選んでいます。しかし、Bさん、Cさんは自分自身のことを取り上げている分、Aさんのものよりインパクトが強く感じられます。
✏︎ エクササイズから作品へ
このフレーズを、作品にしていくにはいくつかの方法が考えられます。この授業では、繰り返し(リフレイン)を一つの手がかりにしました。
Aさんの場合。例えば、「酒屋なのに、その主人はお酒が飲めない」というような例を並べることはできます。ただし、それが自分の身近なものとして出てくる必要があります。そして何と言っても、そのことで自分(作者自身がどうなのか)という部分が感じられないと、面白くありません。
Bさんの場合。これも、似たような例を繰り返すことが可能だと、私は考えました。そのことをBさんに言うと、彼女は2つの例を考えてきました。一つは、手羽先肉。好きなのだけど、あの形がリアルすぎる。もう一つは、いちじく。好きなのだけど、内側の実の色が気持ち悪い。----というものでした。「対比」の構造は同じのまま、素材の選び方に飛躍があります。それが面白味につながりそうです。
Cさんの場合は、好きな犬でも忙しい時に近寄ってこられると困る。暇な時に近寄ってこないのも淋しい。そのような気持ちの揺れが、描写されると面白くなると私は感じました。ですから、忙しい時のことをふくらませて第1連、暇な時のことをふくらませて第2連にする、という方向で進めてみてはどうかと助言しました。
*
ここで紹介した3名とも、「ケーキ屋」「うなぎ」「犬がかまってくる場面」という具体的な題材をつかみ出しています。
1学期から、自分の身の回りのことについて文章を書くことを続けてきましたが、難しいのは、具体的な題材をつかまえる、ということでした。例えば、「ペットの犬のことを書きます」と生徒は言って書き始めます。どんな犬か、ペットとどんな関わりをしているのか、どんな楽しみがあるのか・・・などと聞いていって、それを書き出して、文章にしてみて・・・といった手続きを踏んでいきます。
今回の詩の場合では、Cさんはいきなり、ペットの「にこ」がじゃれついてくる場面を取り出してきました。[ ]/それなのに/[ ] という形を示し、そこから自分の体験を思い返して、ある場面を切り取ってきたわけです。
いくつもの作品を読ませる。そして、技法に着目して、自分の周囲から題材を見つけさせる。この方法は、一定の効果がありそうです。
また、英語で書くという点では、詩はシンプルな文の積み重ねで作品を作ることができます。
詩の技法にはたくさんあり、さまざまな詩があります。それに一つ一つ触れることで世界を広げていくことができます。今後、この詩というジャンルの魅力を、もっと伝えられるよう試行錯誤していきたいと思います。
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★1 ナンシー・アトウェル(小坂敦子・澤田英輔・吉田新一郎編著)『イン・ザ・ミドル』(三省堂, 2018)112~113ページ。
★2 灰谷健次郎・石川文洋『しりたいねん』(倫書房, 1997)より。
★3“100 Best Teen Poems” http://100-poems.com/poems/teen/index2.htm より。
上で取り上げた詩はhttp://100-poems.com/poems/teen/1286001.htmです。