2022年7月30日土曜日

新学期最初のライティング・ワークショップ 〜高校の英語授業の場合〜

(★ 時々、投稿をお願いしている吉沢先生に、今回、以下を書いていただきました。)

ライティング・ワークショップを、高校の英語の授業で取り組むようになって数年になります。新学期、「私の授業では『書く』ことを中心に進めます。」と言うと、生徒たちは悲しそうな表情で、押し黙ってしまいます。何人かに聞いてみたり、アンケートをとったりして、生徒たちが「書く」ことについて次のように思っていることがわかってきました。

・書くことは面倒くさい。

・書くことは難しい。まして、英語で書くなんて。

・書きたいことなんかない。

このような生徒たちに対して、 ライティング・ワークショップをどのような手立てで始めればよいのでしょうか。今回は、新学期のスタートの授業をどのように組み立てるかについて、私の実践を紹介します。


<意図していること>

新学期、授業をスタートするにあたり、私は次の5つのことを意図して授業を組み立てます。

1. 前置きの説明をしない

ライティング・ワークショップの意義や進め方についての一般的な説明はしません。生徒はまだ、それを体験していないのです。まずは、体験させることが大切です。そして、授業が進んでいく途上で、どのような意義があるのか、どのような心構えが大切かといった説明をはさむようにしています。

2. スモール・ステップで進む

書くために必要なさまざまな作業を、細かいスモール・ステップに分けて、一つずつ進むようにします。

3. 「書くサイクル」を体験させる★1

何を書くかについてブレーン・ストーミングをし、構想を練り、下書きをします。

書きながらカンファレンスを受け、仕上がったものを修正して、さらに良い作品にします。そのプロセスの中で、クラスメイトと共有する活動もします。

4. とにかく「書けた!」という体験をさせる

英語で書くのは難しいことです。あるまとまった分量の文章を、生徒自身が「私も書けた!」と実感することを大切にします。

5. 英文を組み立てる手がかりを与える

これは、英語の授業に特徴的な項目です。英文を組み立てる知識・技能が不足しているために、生徒たちは「書けない」という思いにとらわれています。それを手助けする工夫をします。しかし、それはあくまでも手がかりであって、一朝一夕に書けるようになるわけでもありません。そこを励ましていくことも大切です。


<何を書くかについて>

ライティング・ワークショップでは、書く内容は生徒自身が決めるのが原則ですが、私は新学期の最初については、ある緩やかなトピックを与えることを試みてきました。英語という外国語で書くことを考えると、まずは、高校生の英語力で書きやすそうなトピックでやらせてみるのが良いのでは、と考えたのです。

ただし、それは生徒たちの思考を刺激し、しかも楽しく取り組めるものである必要があります。

一昨年、昨年と私が行っているのは、「私のお気に入りスポット」です。★2 「みなさんの住む地域や学校の周辺などで、お気に入りの場所はありませんか?」と投げかけます。よく訪れる、景色が良い、そこに行くとホッとする、有名ではないが人に薦めたい・・・といった場所です。普段そんなことを考えたことがない生徒たちは、はじめキョトンとしていますが、考えを巡らせているうちに、ノートにリストアップして作業に入り込んでいきます。


<最初の8時間>

私が行うライティング・ワークショップは、多くの場合、週2コマ(1コマ50分)です。その限られた時間をどう使ったかを紹介します。

▷第1時間目 

「私のお気に入りスポット」と板書し、私自身の例を話します。まず、教師自身が本当に自分の気に入っている場所について話すこと。これが導入に欠かせません。

それを受けて、ノートに、思い当たる場所をリストアップするように言います。いくつか書けたところで、イメージ・マップを描かせます。ノートの真ん中に円を描きその中に選んだ場所を入れ、思いつく言葉を周囲に書いて、広げていくのです。★3

気楽に取り組ませることが大切です。頃合いを見て、ペア活動をします。お互いにイメージ・マップを見せ合って話をするのです。教室が会話でにぎわいます。

次に、文章に書こうと思う項目を選び出し、ノートに書き出すように言います。箇条書きでかまいません。これを「アウトライン」と名付けておきます。

ここまでできたら、次は英語で下書きを書くステップに移ることを予告して授業を終わります。

▷第2〜3時間目

前回の授業で行なったプロセスを簡単におさらいしてから、「主語は何か」についてのミニレッスンをします。日本語では、主語を省略することがよくありますが、英語では必ず主語をおきます。日本語では「お腹すいた」で通じますが、英語では I am hungry. です。いくつかの日本語の例文を出して、英語でどう言うか考えるエクササイズを行います。このエクササイズをしたからと言って、すぐに完璧に使えるようになるわけではありませんが、英語を書き進める時に意識すべきポイントを教えておくのです。

英語で書くにあたって、「自分の知っている単語を並べて、わからないところは空けておいていいですよ」と言います。とにかく、ちゃんと書かねばならないというプレッシャーを与えないようにします。

書けた人から個別にカンファレンスをします。カンファレンスのポイントは2つ。1つは、書かれている中身について、「面白そうですね」「よく分かります」などの反応を返すこと。もう1つは、英語面でつまずいているところを指摘することです。口頭で説明したり、ノートに書き込んだり、黒板に書いて見せたりします。

3時間目の終わりには、下書きを提出してもらいます。

▷第4時間目

「私のお気に入りスポット」というトピックで書かれたモデル作文を2編、読ませます。過年度の生徒の作品をストックしておき、そこから細部が書き込まれている作品を選びます。生徒たちの書く下書きの多くは、「私のお気に入りスポットは〜です。そこには….と….があります。」といった内容でほぼ終わっています。取りかかりとしてはそれで良いのですが、それをどう肉付けしていくかという課題が次にあります。モデル作文はその一助となります。

また、生徒に英語にふれるチャンスを作り、英語の表現を身につける一助とするという側面もあります。音読は必ず行います。そのことは、ひとときの気分転換にもなるでしょう。

「修正する」という取り組みの意義を伝えます。「書いて、提出して終わり。」というパターンに慣れ親しんだ生徒にとっては、「書き直す」という言葉を聞いただけで抵抗感を感じる生徒もいるかもしれません。「何度でも書き直し、そのたびに良くなっていくことが学びです。」と、励まします。生徒たちは第2稿の作成にとりかかります。

▷第5時間目

生徒の書いた下書きから、2〜3編を選び紹介します。下書きをチェックした時に目星をつけておくのです。「具合的な地名が入っていますよね」「自分がどんな気持ちだったかが書かれているのがいいですね」といったコメントを伝えます。クラスメイトの作品が紹介されることは、他の生徒たちにとって刺激になるようです。

このあたりから、カンファレンスは、内容面でのアドバイスが多くなります。「ここがもっと詳しく知りたいですね」「この場所のイメージが具体的にわかるといいね」といった感じです。もちろん、それに伴って、必要となる英文も複雑になるので、英語面でのサポートも継続します。

▷第6時間目

「間違えやすい表現」というミニレッスンを行います。生徒の書いた下書きをチェックした際に、頻出する間違いをメモしておき、間違いさがしの練習プリントを作ります。

「これ、皆さんの書いている英文によく出てくる間違いが含まれています。」と言って、どこに間違いがあるか考えさせます。

ミニレッスンで扱った内容は、カンファレンスの材料に組み込みます。「これ、この間プリントでやりましたね。どのように直したらいいかな?」というふうに問いかけたりします。

▷第7〜8時間目

このあたりで、「どちらが上手かな」というミニレッスンを行います。★4 これは、過去の生徒の作品を使って、(A)原文と(B)教師が手直ししたものの2つの作文例を提示して、どちらが上手にかけているかを考えさせるものです。例えば、書き出しの部分。

(原文は英語です。)

(A)  私のお気に入りのスポットは忍ケ丘駅です。四條畷市にあります。忍ケ丘駅は便利です。近くにお店がたくさんあります。周囲には木があります。私はこの安らかな雰囲気が好きです。私は以前、この駅のそばに住んでいました。

(B)  私のお気に入りスポットは忍ケ丘駅です。大阪府の四條畷市にあります。忍ケ丘駅は便利です。近くにお店がたくさんあります。周囲には木もあります。私は以前、この駅のそばに住んでいました。よく「大阪パル・コープ」というスーパーで新鮮な野菜を買いました。10才の時にこの町を離れましたが、ここの安らかな雰囲気が私は好きです。

(A)だけを読めば、「ああ、そうか」で終わってしまいますが、(B)と対比すると、こちら方が情報が詳しくなっていることがはっきりします。「スーパーの所、『買い物をした』じゃなくて、『新鮮な野菜を買った』と書く。それだけでリアルになるでしょう」といったふうに言うと、生徒たちはうなずいています。

生徒たちは、カンファレンスやミニレッスンで学んだことを生かして、第2稿を書いて提出します。

<最後に>

英語の習得を兼ねて、いくつかのエクササイズやレクチャーをはさんでいますので、国語の授業でライティング・ワークショップをする場合は、もっと違う展開になるだろうと想像します。

最後に、私がライティング・ワークショップを進める時に、自分に言い聞かせている心構えを記しておきます。

1. なかなか書き出せない生徒に対してどうするかが大切であること。★5

ライティング・ワークショップは、書くことの中身は生徒自身が考えて決めます。ところが、そのこと自体ができないと、向かうべき対象がない状態に置かれてしまいます。読み書きの経験が不足していたり、自分の思いつくことを自分で批判的にチェックしてしまうケースが多いようです。しんぼう強く、その生徒に付き合うことが教師の仕事です。

2. 書くプロセスの途上で紹介する表現のスキルを、性急に教え込もうとしないこと。ここで教えたことを、次のステップで全員が使えるように指導する、そして一つでも優秀な作品がかけるように導く、というふうには考えないことです。もちろん、カンファレンスで、ノートへのコメントの書き込みで、折に触れて、ミニレッスンで教えたことに触れて、それを使えるようにうながしますが、最終的にその表現スキルを使うかどうかは、生徒本人の選びです。性急に教え込もうと構えることは、生徒自身の選びを受け止める余裕を失わせます。それはライティング・ワークショップの目指す所ではないでしょう。

3. 書くのは個人だが、クラスメイトがいるこの場で書くことに意義があるということ。

時々、こんな生徒がいます。授業中だらっとしているので、集中して取り組むように言うと、「先生、私、家でちゃんとやってくるから大丈夫。締め切りはいつですか?」と返してきます。私は次のように言います。「今、クラスメイトがいるこの場で書くことが大切なのです。作文が出来あがればいいのではありません。クラスメイトがここにいる、そのエネルギーで書くのです。」

<注>

★1 「書くサイクル」については、R.フレッチャー&J.ポータルピ(小坂敦子・吉田新一郎訳)『ライティング・ワークショップ』(新評論, 2007年)81〜91ページを参照。

★2  この実践の源は、長崎政浩氏(高知工科大学)の大学での実践である。

★3  プロジェクト・ワークショップ編『増補版 作家の時間』(新評論, 2018年)106〜108ページを参照。

★4 この実践は、国語教育者の市毛勝男氏の考案した方法をもとにしている。市毛勝男著『小論文の書き方指導』(明治図書, 2010年)参照。

★5 「書き出せない子どもへの勇気づけ」について、『増補 作家の時間』33〜34ページの実践も参考になる。


2022年7月23日土曜日

気がついたら、何度も本と対話しながら読んでいた『一万円選書』

  最近の私のお薦め本は『一万円選書』(岩田徹著、ポプラ新書、2021年)です。その理由は、最近、読んだ本の中で、一番、本と対話しながら読んだ本だからです。

 『一万円選書』で行われている選書は、その目的も対象者も、ライティング/リーディング・ワークショップとは異なります。でも、私は、ついついライティング/リーディング・ワークショップでの選書と比較してしまい、文脈が異なるので、ギャップが出てきます。著者が意図していないギャップを勝手に自分で作り出し、ツッコミを入れ、その答えを見つけるという、本との対話を何度も繰り返した気がしますが、そのプロセスも面白かったです。ということで、今回の投稿は、『一万円選書』について、自分の偏った視点から、リーディング・ワークショップも念頭におきつつ、紹介します。

 「一万円選書」は、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」ほか、メディアでも多く取り上げられたとのことですから、ご存じの方も多いと思います。北海道砂川市にある「いわた書店」の店主、岩田徹氏が読者のために行っている選書サービスです。この本の「おわりに」に、「僕はこの本に一万円選書のノウハウをすべて書き込んだつもりです。それは多くの書店にこの一万円選書に取り組んでみてほしいからです」(181ページ)とあるように、実際、どのようにこの選書サービスを行うのかが詳しく描かれています。

 ごく簡単に書くと、「一万円選書」を希望する読者は、まず「一万円選書」に申込をします。希望者が多いために抽選があります。抽選に当たると、読者はいわた書店作成の「選書カルテ」を書きます。カルテが届くと、岩田氏はそれをもとに1万円前後で本を選び、選書リストを作成して送ります。(読者側に既読のものがあれば差し替え可能です。)その後、入金が確認された後に手紙を添えて本が送られます。

 岩田氏の選書のもとになる選書カルテの項目は驚くほど詳しく、自分の人生でのベスト20の書名を書いたりもしますし、「選書のために参考になりそうなことを教えてください」ということで、「例えば、年齢、家族構成、お仕事の内容、これまでの人生で嬉しかった事、苦しかった事等」などを書く欄もあります。カルテを記入する読者側にはかなりの自己開示も必要ですが、『一万円選書』を読んでいると、読者の多くは、時間をかけてカルテに取り組み、自分を見つめる機会として活用しているように思えます。

 『一万円選書』の巻末には、各章で紹介された本のブックリストがあり、氏がよくお薦めする本は、本文の中で具体的に紹介されています。

*****

 『一万円選書』とリーディング・ワークショップとの一番の相違点は、1回の関わりを前提としているか、継続的な関わりを前提としているかのように思います。(「一万円選書」には、リピーターの方も多いようです。とはいえ、抽選に当たらないと続けられませんから、希望しても継続できるか否かは抽選の結果次第です。)

 大きな共通点は「個別対応」です。「一万円選書」では、岩田氏が、読者が記入した選書カルテをもとに、個々の読者に個別対応をされています。

 「一万円選書」は「ミニ・レッスンが存在しない、カンファランスだけの、(通常)1回限定のリーディング・ワークショップ」というイメージかもしれません。そういえば、それぞれの読者が記入する、かなり詳しい選書カルテについて、岩田氏は「カルテを読むことで、その人の話をただ聞く」(62ページ)とも記しています。これは、ワークショップのカンファランスで「聞く」ことが大切にされていることと似ています。

 私なりに感じた相違点や共通点を踏まえながら、リーディング・ワークショップに応用できそうなことを、いくつか考えてみました。

▷ 個別の関わりは、個の肯定からスタート

 読者との個別の関わりについては、岩田氏は上記のように「選書カルテから読者の話を聞く」ことを通して、「読者の現在」を、ひたすら肯定し、寄り添おうとされています。例えば、以下のような文章が出てきます。

「僕は特別に相談に乗ったりアドバイスをしたりはしません。ただ、選書カルテを読むことで、まだ本人も気づいていないその人なりの「答え」を見出し、それを肯定してくれる本を選ぶんです。その人が望む生き方を肯定し、人生に寄り添ってくれる本を。それが本屋の僕にできる精一杯のこと」(59ページ)

「一万円選書の特徴として、読者の Needs ではなくて Wants を見つけるということがあります。Needs は『これがほしい』という顕在的な欲求、Wants は提供されたときに、『そうそう、これがほしかったんだ』と思うような潜在的な欲求のこと」(67ページ) 

 子どもたちとの継続的な関わりが基本のリーディング・ワークショップの教師であれば、「現在」を肯定し、「現在の」Wantsを見つけるだけでは物足りなく感じるかもしれません。先輩の読み手として「譲り渡したいこと」も、導きたい方向も、紹介したい本も、今後読めるようになってほしい本も、たくさんあると思います。

 でも、「現在の肯定」というスタートラインがなければ、何も始まらないのかもしれません。

 そういえば、『改訂版 読書家の時間』の「終わりに」で、ワークショプに現在でも魅せられている理由は「子どもを認める」ことができることだ、とした上で、次のような文章が出てきます。

「ワークショップではそれぞれの子どもの好きなものやこれまでの経験が、書いた作品を通して、あるいは読んでいる本を通して、ガラスのごとく透き通って見えてきます。<略>ワークショップという学習環境のなかにおいて多様であることが認められると、子どもたちは自らがもっている体験や強みに対して価値を見つけられるようになります」(『改訂版 読書家の時間』216ページ)

 上記のように、自分に対して価値を見つけられること、自分のことを大切に思えるようになることが、次の自分、これからなりたい自分に向かっての扉を開けてくれる力のように思います。

▷ 本を読むこと自体に魅力を感じる体験を 〜そのための合わせ技

 「一万円選書」に応募する約7割の方が、本を読みたいけど何を読めばいいのかわからない、いわば「生の読書体験」をしていない人とのことです。(69ページ)

(→ この数字は正直なところ驚きました。)

 そんな人たちに本を読むことの楽しさを体験してほしいと考えながら、岩田氏は選書をされているようですが、その中で印象に残ったのは「合わせ技」です。

「誰にでも響くオールマイティな本はない、と思うんです。同じ本でもぴったり自分に重なる人もいればそうでない人もいるし、それぞれのタイミングもあるし、心に引っかかる言葉も違えば、感じ方も異なる。だからこそ1万円分っていうのが、ちょうどいいと思っています。1冊ではそんなに効力がなくても、10冊ほど組み合わせたら合わせ技一本取れるかなと」(76ページ)

 リーディング・ワークショップの教師が、一度に1万円分ぐらい(10冊前後)の本を薦めることはないと思います。でも、その子の興味や関心を見ながら、お薦めするときに、「やや多めの複数冊」をお薦めしていくのも「あり」だろうと思います。もちろん子どもはその中から1冊だけ選ぶこともできますし、子どもによっては「パンダ読み」や「レインボー読み」が好きな子もいるはずです。

 また、「誰にでも響くオールマイティな本はない」という点は心しておきたいです。今回、『一万円選書』の本文の中で、具体的に本がたくさん紹介され、私の読んだことのある作家や読んだことのある本も何冊かありました。また岩田氏のお薦めを少し読んでみて、その中には、私にはスッと入れないものもありました。そうなると「あ、この作家ならこっちの本の方が好きだなあ」とか「どうしてこの本なんだろう」等々、その本自体について反応し、その部分でも、本と自分勝手な対話をしていました。

 本が大好きな、書店のプロの方でも「誰にでも響くオールマイティな本はない」と言われる。でも、それが現実だと思います。逆にいうと、子どもに「とてもいい」と思う本を薦めても「響いていない」ように見えるときは、その子の読み手としての個性が見え始める時かもしれません。その子らしい読み手として成長していくチャンスが垣間見える時期と考えられそうにも思いました。

▷ 合わせ技はジャンルを広げるのに最適

 上記の合わせ技はジャンルを広げるにも最適なようです。以下のような文章が出てきます。

「合わせ技1本で勝負するときに、先に挙げたような読みやすい小説に混ぜておくのが、小説よりも手に取るのが少ないであろう、詩集や歌集です。僕は失敗を繰り返していた頃、何冊かの詩集や歌集に支えられていました(77ページ)

 *****

 最後に、私がこの本で心に残った文を紹介します。

 「本はいつだって、弱者や少数派の味方ですから。その人の背中を押してくれる言葉や文章が見つかるはずなんです」(59ページ)

 ここから思い出したのは、フランク・スミスの本『なぜ、学んだものをすぐに忘れるのだろう?』の中にあった文です。

 「著者は、どんなに子どもに甘い両親と比較しても、子どもたちや幅広い世代の読書にとって、最も忍耐強い協力者であると言えよう。学習者が一七回続けて物語を読みたくても、難しい文章をとばしても、頻繁に間違った解釈をしても、ある部分に戻り続けても、著者は決して異議を唱えることはない」(フランク・スミス、大学教育出版 2012年 44ページ)

 「その人の背中を押してくれる言葉や文章」は、もしかすると「正しい解釈」や「著者の意図」とは異なるかもしれません。ある読者の読み方や解釈の中には、教師や他人には許容できないものがあるかもしれませんが、本は許容してくれます。本というひたすら忍耐強い味方が存在していることを実感できて初めて、読者は、他の人の解釈や読み方にも開かれていくような気もします。

2022年7月19日火曜日

新刊案内『あなたの授業力はどのくらい?』  

訳者の一人・池田匡史さん(岡山大学・国語教育学)が、ジェフ・マーシャル著『あなたの授業力はどのくらい?デキる教師の七つの指標』(教育開発研究所)の紹介文を書いてくれました。


本書は、主に下記の価値があると考えています。

「授業力」なるものの具体を、観点別に示してくれる。

個人の「授業力」を構成する観点のうち、強みと弱みを見出し、その向上への道を示してくれる。

個人にとどまらず、学校改善への道を示してくれる。

――――

「授業力」と言われるものがあるとすれば、それは何なのか。雲をつかむような、ぼやっとした問いですが、おそらく、一つの指標だけではそれを語ることはできないでしょう。「授業力」とは、さまざまな観点から複雑に構成されたものだという(なんとなくの)イメージは多くの人がもっていると思います。

ただ、それがどのようなものなのか、具体的に特定してくれるものがあれば…と思ってきた方も少なくないのではないでしょうか。

また近年、カリキュラムマネジメントという名のもと、あらゆる教科の先生たちが協力して、学校全体の教育活動を改善していくことが要請されてきています。教員免許更新講習の発展的解消に伴って、校内研修の充実が図られようとしていることも同じ路線にあるものといえるでしょう。具体的には、他教科の先生の授業も観察して、改善への意見を求める、という取り組みも多くなることが予想されます。

ただ、いくつかの問題点、困難点、懸念点も生じて(残されて)います。代表的なものを二つ示します。

一つは、教科の枠を超えて、どのような視点で意見を出せばよいのか、困っている方や、教科を超えて「こういう方向性のもと、改善していけばよい」という手がかりになるものがあればよいのにと思っている方も多くいることでしょう。(言語活動が軸になるから、国語科の先生は中心的な役割を果たしてくれ!などという要請を受けた方も多いのではないでしょうか?)

いま一つは、学校組織としての改善に注目がいくあまり、個人の資質・能力の面がおろそかにしていないかという懸念です。教職員支援機構などは学校改善を目的とした内容を、指導主事レベル向けの講習等で推しますが、個人の資質・能力の向上という面の捉え方は明確にできていないような個人的印象があります(学校改善の取り組みができていればよいとされ、その具体的なクオリティを問えているかは・・・ということです)。学校組織と個人の資質・能力は、これまでの(教員研修に関する)法律・法令等でも、別物として語られてきたものですが、どちらも見据えたものにしていかなければなりません。そのためには、どちらにとっても有意なものであることを自覚できる「何か」が必要です。

ここまで示したことを達成してくれる、具体的なものが、この国には少なかったように思います。本書は、それを与えてくれるものの一つです。

まず、本書の強みは、「ニーズ・アセスメント」★です。自分(あるいは、自分の学校の同僚たち)の強みと弱みを分析することができる指標が設けられており、そこで強みとして導かれたものは、さらにいろいろな資料や前例を参考にしながら伸ばしていけばよく、弱みとして導かれた観点は重点的に改善していけばよい、というものです。

これは、個人の資質・能力の強みや改善点を見つけることはもちろんですが、学校改善という面でも重要なことです。 

先にも述べましたが、校内研修の充実がより目指されているという動向があります。

では、どのような校内研修を組む必要があるのか。せっかくの時間をムダなものにしないために、弱み(ないしは強み)に焦点化したものにしようとすることにも寄与してくれます。

(これがあったことで、私が学校に参与するとき、個人的に助かったなと思ったこともあります。)

もちろん、それぞれの弱みを底上げしていくための方法の解説や、あるいはなぜそれが強みと言えるのかを言語化してくれる解説も多くなされています。

個人、そして学校の自信を確信に変えてくれるとともに、改善するポイントを探り、その方向性を見出すための確実な手がかりになってくれる一冊だと思います!


★この背景には、1970年ぐらいから延々と行われ続けている「効果的な教え方」の研究と実践があります。(それに類するものは、日本にも存在しているでしょうか?)今秋から冬に出版を予定している数冊の本も、そういう流れの上にあると言えますので、ぜひ楽しみにしていてください。

 

◆割引情報

・本体価格2400円でご提供します(消費税分をサービスします/送料も1冊から無料です)。

・教育開発研究所への直接ご注文に限ります(書店は不可)。   

下記リンクよりご注文ください。その際、「WW便りを見ました」とお書き添えください。  https://www.kyouiku-kaihatu.co.jp/bookstore/products/detail/558

 今年9月いっぱいまでのご注文まで。

 

 

2022年7月16日土曜日

本について語り合う「幸福」

  『理解するってどういうこと?』の第8章「すばらしい対話」の最後のあたりに、たたみかけるように、複数の問いが連続する段落があります。

  あなたは自分の知的な生活のなかで対話が果たしている役割を考えたことがあるでしょうか? もし毎月のブッククラブに参加しているなら、その本についてのまったく新しい理解を得て、その場を後にしたという体験をもっていますか? そのブッククラブに出席している他のメンバーたちの家で政治や教育に関する問題について論じ合って、自分自身の考えが思いのほか明確になったという体験をもっていますか? 「わあ」ってあなたは思います。「私もなかなかいいこと言うじゃないか。」考えあぐねていたことにいつも新しい見方を示してくれる友達や家族の誰かの対話を楽しんでいますか? 自分がずっとはっきりされられないでいた考えを、正確にきちんと説明することのできる友達を持っていますか? 職員会議での同僚の発言にいらついて、後で考えてみると、その考えを自分が先に言いたかっただけなんだと気づいたことはありませんか?(『理解するってどういうこと?』329ページ)

  いずれも「対話」がわたくしたちに何をもたらすかを考えさせる問いです。同じ本を読んできた人と話し合ってよかったと思う経験があれば、おそらくこれらのどの問いにも「はい」と答えることができるでしょう。エリンさんが追究したのは「理解の種類とその成果」の一つですが、それは本について語り合う「幸福」に浸ることができたことの証なのかもしれません。

 タイトルに惹かれて手にした、図書館司書で翻訳家の向井和美さんの『読書会という幸福』(岩波新書、2022年)を読んでその思いを強くしました。向井さんは、翻訳家・東江一起さん(最後の翻訳作品となったジョン・ウィリアムズ『ストーナー』(作品社、2014年)に感銘を覚えたばかりです)の主催する読書会に参加しはじめた頃の経験を次のように語っています。

  読書会に参加しはじめた当初、わたしは人前で話すのが得意でないこともあって、ほとんど発言できなかった。周囲のパワーに圧倒されて、口をさしはさむ余地がなかったともいえる。けれども、仲間の発言を聞いているうちに自分が耕されていく感じがして、自然に話したいことが頭に浮かんでくるようになった。ひとりで読んでいるあいだはなにも浮かんでこないときでも、読書会に行くと周囲の意見に刺激されて、いつのまにか喋りまくっていいたりするから不思議なものだ。/読書会の利点はまずなんといっても、自分では手を出さないような本や挫折しそうな本でも、みなで読めばいつのまにか読めてしまうことだ。ひとりだったら途中で放りだしていたかもしれない本でも、来月までに読んでいかねば、と思うとつらいページも乗り切れる。そして、生や死や宗教など、日常生活ではまず口にしない話題でも、文学をとおしてなら語り合える。さらに、ほかの人の意見を聞くことで、自分では思いもかけなかった視点を得られるのも読書会の醍醐味だ。ひとりで本を読み、物語の世界を味わう段階から一歩踏みだし、読書会という場でアウトプットすることで、自分の考えがはっきりとした形になっていく。つらい出来事があって鬱々とした思いを抱えているとき、それを文章にしてみると気持ちがすっきりすることがある。同じように、読書会で自分の考えを存分に喋りつくすと、帰りには不思議とすがすがしい気分になっている。(『読書会という幸福』vviページ)

  向井さんの参加した読書会は「毎月一冊ずつ(長編は複数回に分けて)、おもに外国の古典作品を読」むものでした。この読書会で読んだ作品は、『レ・ミゼラブル』『ノートル=ダム・ド・パリ』(ヴィクトル・ユゴー)、『戦争と平和』(トルストイ)、『八月の光』(ウィリアム・フォークナー)のほか、『老人と海』『武器よさらば』『誰がために鐘は鳴る』『移動祝祭日』(ヘミングウェイ)、『チボー家の人々』(ロジェ=マルタン・デュ・ガール)『ペスト』(カミュ)、『人間の絆』『月と六ペンス』(サマセット・モーム)・・・と続きます。ここにすべてを書き切れないほどですが、『読書会という幸福』には向井さんがこの読書会に参加した経験が、わかりやすい筆致で綴られていて、読者としてこれらの本を自分でも手に取ってみたくなります。また、この読書会でのことが本書の中心ですが、彼女が図書館司書として中学生・高校生と営んでいるもう一つの読書会のことにも筆が割かれて、全国学校図書館協議会から刊行されている「集団読書用テキスト」シリーズの作品を使った読書会の模様が描かれています。(そして、読書会の「作法」や「形式」がわかりやすく示された章には、参照文献として吉田さんの『改訂増補版 読書がさらに楽しくなるブッククラブ』(新評論、2019年)も掲げられていました!)

『読書会という幸福』の向井さんの言葉を読んでいるうちに、わたくしも、大学1年生のときに同級生10名ほどではじめた日本の古典文学作品の読書会のことを思い出していました。毎週1回午後6時頃から学部の教室の一室を借りて、適当な分量をみんなで読んでくることにして、その日の話題提供者のレポートをきっかけに話し合うという会です。はじめはそのレポートに書かれた感想や質問について話しているのですが、話しているうちにそのレポートとはまったく関係ない話題へと脱線してくことがほとんどでした。毎回例外なく教室での議論の続きは、大学近くの定食屋の座敷での夕食会の席で行われ、時には下宿まで持ち越されることも。最初は『方丈記』からはじめ、次に『更級日記』に移り、そして『徒然草』と半年ごとにテキストは変わっていきました。それぞれ半年で読み終えた後は、参加者各自が考えたことを短い文章にまとめて、印刷し冊子を作って終わるというサイクルを繰り返しました。(ガリ版刷りの冊子は、杜甫の詩「兵車行」の一節に言葉を借りた『哭聲』(こくせい)というタイトルで、確か3号雑誌で終わりましたが)。本を読んで語り合った「幸福」の記憶を想起せざるを得なかったのです。「幸福」を語る向井さんの本にはそういう「呼びかけ」の働きがあるのだと思います。

『読書会という幸福』の「おわりに」は、カズオ・イシグロ『日の名残り』を読書会で取り上げた時のことが綴られ、次のように閉じられます。

 ひとりで本を読んでいると、途中でさまざまな感情が押し寄せてきたり、考えにふけってしまったりすることがよくある。読み終えても、その思いはまだ言葉になりきっていない。そんな、いわば半熟状態のまま、わたしは読書会に臨む。すると、読みながら考えていたことや、考えもしなかったことが、ほかのメンバーの言葉を聞いているうちに次々と自分のなかから引きずりだされてくる。三十年近く読書会を経験していても、これはいまだに不思議なことだと思う。自分の思いに言葉が与えられ、形として放出できたときの爽快さはなにものにも代えがたい。そして、話し合いが終わるころには、作品を何倍にも味わえたことに気づくのだ。ときおり、本の内容から雑談へとそれることがあっても、その雑談さえ、最後にはこれまで読んできた本のどれかに行き着く。それもそのはずだ。文学を語ることはわたしたち自身の人生を語ることなのだから。(『読書会という幸福』199ページ)

 まるで『日の名残り』のラストのようなうつくしい文章です。そして、これが冒頭に引用したエリンさんの問いへの何よりの回答にもなっていることに気づかされます。そして、誰かと同じ本を読んで語り合う「幸福」を味わいたくなるように背中を押される思いがします。

2022年7月8日金曜日

「本自体にある物語 〜驚きの連続! 職人技が凝縮されている本づくりを辿る」

紙を切って

版を作って

墨を塗って

紙に刷って

(その後は本の形にするために)

紙を折って

束を組んで

糊をつけて

本を裁って

 『改訂版 読書家の時間』(新評論より先月下旬に刊行)の執筆メンバー2名(冨田先生、広木先生)が、先日、本づくりの現場の作業を見せていただくというツアーに参加しました。

「本を書くなら、そして子どもたちに本をすすめようと思っているなら、本がどのように出来上がるかを知っておいた方が良い」という、新評論の熱い思いを余すところなく実感した1日だったようです。

  ツアーに参加した二人に「全く知らなくてびっくりしたことは?」と尋ねたところ、冨田先生からは「本」という物に目を向けたことがなかったので、驚きの連続」との返事でした。

 「小学校の図工で版画を行うが、その工程そのものだった」とのことで、その工程を冒頭のように記してくれました。「形になるのだから当たり前ですが、そうやって一つ一つの工程の末に本の形があることが驚き」としめくくってくれました。

 広木先生は、知らなくてびっくりしたこととして、以下を挙げてくれました。

・印刷所と製本所が別の場であったこと。

・一冊あたりの製本費用が安すぎること。

・編集者から印刷所の担当に渡ってからも、間違いがないか何重ものチェックがあること。

・ほんの数十年前は活版印刷であったこと。

  「一番感銘を受けたことは?」と尋ねると、二人から次のような回答が返ってきました。

 ・「印刷所、製本所、どちらも、それぞれの工程で関わる方全てが、著者や編集者の思いを形にしようと、真剣に丁寧に仕事に向き合っていること。出版業界の逆風の中で、これまで受け継いだ歴史の重みを感じながら、今に合わせて最善、最良の選択をし続けていることが肌で感じられたこと」(広木先生)

 ・「今でこそありふれている「本」という物は、先人の多くの人の知恵と工夫を通して、今の形があるということです。

活版印刷の一文字一文字の活字判子を拾っていた時代には

フォントやサイズごとに分類された活字(判)を拾い

余白板やスペースなども計算して

組版していきます

あまりの作業量に呆然としました

コップを手にして大海を量るような気持ちです

ページの中の文字の割合、ひらがなカタカナのバランス、図表の加工、紙質の選定、インクの選定、本のサイズ

どれ一つとっても

これまで本を生業にしてきた人たちの息吹を感じました

今手にとっている本も

これまでの多くの人の仕事が地層のように積み重なり

この形をしていることを感じ

本が重たくなりました」 (冨田先生)

 本づくりの現場を見ることで、広木先生も冨田先生も、本への接し方が変わったようです。

 広木先生は「一冊一冊の本は著者だけからの発信ではないことの重みが伝わり、何人ものリレーを経て私に届くことがわかり、新聞の読み方まで変わった」そうです。

 冨田先生は「本は内容にしか興味がなかった」ところから「本それ自体にも物語があることに気づいた」と言います。それは「料理にしか興味がなかったけれど、料理と一緒に器や空間にも目が向くようになったということと似ているような気がして、本の楽しみ方がより多角的になった」そうです。

 このツアーの様子と、その迫力あふれる写真は富田先生のブログにより詳しく、2回に分けてアップロードされていますので、以下のリンクよりどうぞ!

・「本は安いと思いませんか? 本づくりツアーから見る本への敬意」https://tommyidearoom.com/%e6%9c%ac%e3%81%a5%e3%81%8f%e3%82%8a%e3%83%84%e3%82%a2%e3%83%bc%e3%80%80%e6%96%b0%e8%a9%95%e8%ab%96%e3%80%80/

・「読書家の時間ができるまで」https://tommyidearoom.com/%e8%aa%ad%e6%9b%b8%e5%ae%b6%e3%81%ae%e6%99%82%e9%96%93%e3%81%8c%e3%81%a7%e3%81%8d%e3%82%8b%e3%81%be%e3%81%a7/

 冨田先生は次のようにも言っていました。

 「多くの人の思いや仕事がつながっています

それが手間やコストがかかって大変だという見方もありますが

それによって読み手や書き手の人生が豊かになっているという見方もあるように思います」

 『改訂版 読書家の時間』も、このような工程を通る中で、書き手の人生を豊かにしてくれたように思います。読み手の人生にも何かをお届けできることを願っています。


<おまけ>

 TEDトークでは、本のデザインを手掛けるチップ・キッド(Chip Kidd)氏が、本やデザインについての熱い思いを3つのTEDトークで語っています。(TEDトークですから日本語字幕、英語字幕が選択できます。)以下、「デザインと日常における第一印象」の中では、村上春樹氏の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の英語版のカバーが、「笑い事ではないけど笑える本のデザインの話」では『1Q84』の英語版のカバーが、それぞれ、どのようにつくられたかが説明されています。

「本はなぜ存在し続けるのか」(約3分)https://www.ted.com/talks/chip_kidd_why_books_are_here_to_stay?language=ja

「デザインと日常における第一印象」(18分強)https://www.ted.com/talks/chip_kidd_the_art_of_first_impressions_in_design_and_life?language=ja

「笑い事ではないけど笑える本のデザインの話」(約17分)https://www.ted.com/talks/chip_kidd_designing_books_is_no_laughing_matter_ok_it_is?language=ja

2022年7月1日金曜日

アンケートで、夏休みの読書に興味をもってもらう

  夏休みは、可能性があふれる期間ではありますが、自分自身の小・中・高時代の夏休みを振り返っても、満足いくようなものにできた記憶はありません。

 その意味で、夏休みに過剰な期待を子どもたちにかけるのは差し控えるべきなのかもしれません。(しかし一方で、現実的に夏休みをどのように過ごすかは、その期間中に得られるものはもちろん、その後にも引きずる大きなものがあることも事実です!)

 そこで、夏休み前のいまの時期に、各生徒におすすめの本を紹介してもらったり(ブックトークないしビブリオバトル)、公立図書館の児童書担当の職員に夏休み期間中の図書館のプログラムを中心に、いかに読む生活を送ったらいいかという話などをしてもらうのも方法としては考えられます。しかし、これらも1学期の期間中にどれだけ読む生活が送れていたかによって、ひょっとしたら大半の生徒にとっては、先生や司書への「お付き合い」のイベントになりかねませんから、単にやればいいというものではありません。

 ほかにも、次のような方法が考えられますし、実際提案もできます。

・自分のお気に入りの参加の本を読み漁る

・リーディング・パートナーを確保して、一緒に読む

・家族でブッククラブをする

・家族で、それぞれのお気に入りを読み聞かせする

・公立図書館を頻繁に訪れる計画を立てる

・夏休み期間中の読書スケジュールを立てる

 「課題図書をしっかり読んで、読書感想文を書く」というのは、宿題としてすでに毎年出されているのかもしれませんが・・・・果たして、それは生徒たちの夏休み期間中の(そして、より大事なそれ以降の)読む生活や自立した読み手を育てるために、どれだけ寄与しているでしょうか?

 1学期にどれだけ読んできたか否かに関係なく、自分事として考えるきっかけを提供できる方法を紹介します。それは、アンケートです。

たとえば、

1どこで読むのが好きですか?

2どんな本を読むのが好きですか?

3どんな登場人物が出てくる本が好きですか?

4好きな作家はいますか?

5どんなジャンルやテーマの本が好きですか?

6自分が読む本はどのように選びますか?

7これまでに目にした本で、読みたい/読み直したい本はありますか?

8夏休みの間の読書計画(毎日、いつ、どこで、どれくらい読むか)を立てますか?

 これらすべての質問に答えられなくても、それらを考えることの大事さは伝わるかもしれません。可能なら、学校にいる間に回答してもらうのではなくて家に持ち帰り、保護者にも答えてもらいながら、2~3日後に戻してもらう方がいいかもしれません。夏休みの読む生活に保護者までも、巻き込める可能性が出ますから。★

 そして、その中から何人かのを紹介できたら、すばらしいのではないでしょうか?

 その際のポイントは、上記の8つの質問全部に答えられている必要はありません。一つ、二つ、三つの光る回答だけを紹介しても、十分なインパクトがあるはずです!

 最後に、アンケートへの私の答えを。

1自分の布団の上で横になって読む

5ノンフィクション作品

6「芋づる式」選書法 ~ ノンフィクションの本に言えることですが、いい本は、いい本を引用したり、紹介したりしているから。(それを書いた人や訳した人、出した出版社の本もチェックすると、かなりの確率でいい本に出会えます!)

7本ブログの5月21日号(http://wwletter.blogspot.com/2022/05/blog-post_21.html)で紹介されていた★★マイケル・ボンド著(竹内和世訳)『失われゆく我々の内なる地図空間認知の隠れた役割』(白揚社、2022年)の読み直しと、そこで紹介されていた(芋づる式で見つけた)『自然は導く 人と世界の関係を変えるナチュラル・ナビゲーション』(ハロルド・ギャティ著、みすず書房、2019年)、『迷うことについて』レベッカ・ソルニット著、左右社、2019年)等を読む。


★8つ以外に、いい質問が考えられたら、差し替えてください。そして、それをぜひ教えてください(pro.workshop@gmail.com宛)。

★★私が興味をもったのは、そこで紹介されている内容とは若干違いました。「私たちのナビゲーション能力こそが人類の成功にとって必須のものだったというものだ。なぜならその能力こそが広範な社会的ネットワークを育てることを可能にしたからである」(15ページ)という点です。そして、スマホやGPSを使う/に依存することは、確実にその機能を弱めている、と。ナビゲーション能力の低下は、社会的ネットワーク能力の低下ももたらしますから、事は深刻です!