とても短い絵本の中に、作家の工夫がぎっしり詰まっていて、思わず「お見事!」と思った絵本(★1)があります。感心した私は、この絵本であれば短時間で導入でき、しかも気づくべき作家の技がたくさんあるので、「書き手の目で読む」ことを「効率よく」学ぶのに最適!と、そのことにすっかり満足してしまいました。そして、意気揚々と紹介し、具体的な工夫を見つけてもらいました。そこで出てきた具体的なことを、いずれ自分が書くときに使えるように「一般化」して、「書き手の目で読む」という学習が終わった気になってしまいました。
しかし、以下に述べる二つのことのおかげで、上記のような学習で欠けているものが見えてきました。
1) 1点目は最近、ブッククラブで読み始めた本(★2)の中で、先生が「書き手の技」を教えるミニ・レッスンの場面でした。先生は本を読み聞かせながら、「自分の感情が動かされた」箇所を指摘します。そして「どうして感情が動かされたのだろう?、著者は何をしているの?(どんな工夫をしているの? どんな技を使っているの?)」と考える見本を見せます。
それから、生徒たちもそのテキストを続けて読み、それぞれが自分の感情を動かされた場所を選びます。そして、教師は、生徒が自ら選んだ箇所で、著者がどんな技や工夫をしているのかに気づけるようにサポートしています。
このように「子どもたちそれぞれが、自分にとって何かを感じた箇所を選び、そこから考えること」は、私のように「ここには作家の工夫がいっぱいありますね、探してみましょう」と読み手の反応を無視して押し付けることとは、学びのベクトルが異なります。どちらも教師が選んだテキストを使っていますが、前者は、自分が読み手として印象に残ったところからスタートしています。後者は、読み手の反応は全く無視ですから、「教師が持っている正解探し」に参加する活動になってしまうかもしれません。
2) 2点目は1月21日の投稿「『作家の技』を学ぶ」です。このときの投稿では、佐藤誠一郎氏の『あなたの小説にはたくらみがないー超実践的創作講座』(新潮新書967、2022年)が紹介されていましたが、投稿の中に以下のような段落がありました。
「『作家の技』と言えば『いかに書くのか』ということを中心なのだろうと私などは考えがちですが、佐藤さんがここで述べているのは「なぜ書くのか」の重要性です。そこにこだわらないと、書き手が読者に訴えたいこと(テーマ)は伝わらないというのです。そして読むプロセスを能動的にするのが作品に仕掛けられた『予感』をいざなうことでもあるとも述べられています」
→ この段落を読んだときに、「作家の技、工夫がたくさんあるので見つけてほしい」という、教師が持っている正解探しをするようなミニ・レッスンでは、「なぜ書くのか」という視点は完全に欠落していることがわかりました。
「作家の目で読む」というミニ・レッスンでは、いずれ、自分の作品を「作家の目」で見て、より伝わるように書けるようにという教師の思いがあると思います。でも、自分の作品を見直すときに、「書き手が読者に訴えたいこと(テーマ)」をどうすれば伝わるの、というところに立てない限り、断片的な作家の技を散りばめても意味はありません。「いかに書くのか」ということについての表面的な知識が身についても、それだけでは道具箱に入ったまま使われずに終わってしまいそうです。
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★1 ここで紹介した絵本は People are wild という題名です(Margaux Meganck著、Knopf Books for Young Readersより2022年に出版)。著者の読み聞かせ動画があります。著者が読み聞かせの前後に少し話しているのも入れて2分程度ですから、読み聞かせ自体は1分30秒ぐらいです。絵本としては、本当によくできていると思います。私は、それぞれの読み手の反応を無視して押し付けてしまいましたが、押し付けたくなるぐらい(苦笑)いい絵本です。よろしければぜひ!
https://www.youtube.com/watch?v=9bZviuy7pY4
★2 Writing Clubsという題名で、著者はLisa EickholdtとPatricia Vitale-Reilly、Stenhouse より2022年に出版。28ページから始まる Noticing Writing Craftというセクションで28〜33ページに詳しく書かれています。