『言葉を選ぶ、授業が変わる!』ピーター・ジョンストン著を読み直しています。翻訳前から数えると、もう20回目ぐらいですが、読むたびに新しい発見のある本です。
この本の売りの一つは、教師が投げかける問いというか、発する言葉です。
それが、実際に小見出しにもなっているぐらいです。
全部で50弱あります。(その各小見出しの中にもいくつかの投げかけ/問いかけが紹介されているので、全部を合わせると、200近くになるかと思います。正直のところは定かではありません。数えていませんから。しかし、それほど教師によるいい投げかけ/問いかけの見本が見られる本です。)
この本のメールでのブッククラブを終えたときに、共訳者の二人に次のような情報提供をしました。「長田さんが日本語訳を試みていた教師の投げかけ/問いかけを、①クラス全体が対象のもの、②特定の個人対象のもの、③いずれとも特定できないもの=両方と解釈できるものに分けて数えてみたら、①が16、②が18、③が15でした」
すでに読まれていた方は、どのような場面をイメージして読まれていたでしょうか?
まだ読まれていない方(や、再度読んでみようと思う方)は、どの質問は誰を対象に発せられたものかに注意して読んでいただき、その判断の結果を、ぜひ下のコメント欄か、pro.workshop◆gmail.com宛にお送りください。
数字はほぼ同数ですが、この結果から通常の授業よりははるかに個人対象の投げかけが多いことが分かります。これは、使われている事例の多くがライティング・ワークショップ(WW)とリーディング・ワークショップ(RW)を実践している教師たちの授業を著者が観察したり、引用したりしていることからも当然と言えます。要するに、カンファランスという授業中の3分の2の時間を教師が費やしている実践だからです。これを常にしていると、当然、クラス全体への投げかけ方も変わっていきます。より生徒に届くというか、一人ひとりを大切にした会話が展開することになります。★
ということで、著者本人は、こういう投げかけが出てきた背景についてはこの本ではまったく語っていませんが、上のような歴然とした事実があります。
この投げかけ方が、授業/クラスの雰囲気づくり(本の裏表紙には「healthy
learning communities(健全な学習コミュニティー)」をつくり出すの)に大きく貢献しています。さらには、知識やスキルをもった子だけでなく、caring, secure, actively literate human beings(思いやりがあり、不安をもたず、主体的で学問のある人間)を育てるのに。
日本の学校の3本の教育目標は、思いやる子、考える子、元気な子です(ないし、これら3つのバリエーションです)が、それらが実践されているかというと、大きな疑問です。はっきり言って、それを実現するための方法を持ち合わせていません。日本の目標というのは往々にして永遠に達成しないもの(つまり、夢ないし希望のレベル)のようなのですが、この本を含めてWWやRWの実践者たちはcaring, secure, actively literate human beings/ literal citizens for
a democratic societyや、agency(主体者意識)をもった子どもたちや、自立した学び手・考え手(strategic thinkers)を育てることを実践しています。
主には、この本で紹介されているような投げかけ、healthy learning
communityをつくって共に学び合う授業をすることや、一人ひとりが独自に作家のサイクルや読書のサイクルを回せるようにすることを通して。http://wwletter.blogspot.jp/2010/05/ww.html
ちなみに、上記の資質は、テストで測れる能力には含まれていないので、教育政策にかかわる官僚や政治家、マスコミ、保護者、教師、研究者から軽視ないし無視されがちな部分かと思います。テストで測れるものよりも、はるかに重要であるにもかかわらず!!
★ 一斉授業の場合よりは、教師が意図するメッセージが生徒たちに届くようになることを意味します。この辺のことを別な切り口で体験できるエキササイズがあります。演劇家で教育者でもあった竹内敏晴さんが紹介してくれていたものです。興味のある方は、私が体験したのを『会議の技法』の100~103ページで紹介したものを参照してください。そこでは、会議の中での発言/発表に引きつけて書いていますが、授業中の教師の発言もまったく同じです!