2012年11月30日金曜日

手元にある本、手元にない本

 今回のRWWW便りも、紹介しているサイトは英語のサイトですが、「手元にある本とない本」、つまり、教室の中の本の世界から外の世界へ、ということを、一緒に考えていただければ、嬉しいです。

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 RWのクラスのためにそれなりに努力して、学習者の反応も見ながら、それなりに面白い本を、教室の中に少しずつ増やしてきました。

 ということで、少しずつ本は増えているはずなのですが、「不十分だなあ」という思いも、同時に強くなってきています。

 「不十分だ」と思うのには、少なくとも二つの理由があります。

 一つは、やはり学習者の興味を考えると、教師が選ぶものだけでは、とても足りない、ということです。これはブック・プロジェクトをやってみると、特にはっきり分かります。

 二つ目は、教室の中の本を読んでいるだけでは、卒業後、本を読み続けないのでは?という思いです。

 教室の中の本の世界から、外の世界に、少しずつ背中を押していくことも、同時進行で必要なんだろうと思います。

 皆さんも、公立図書館から団体?貸出を利用して、図書館の本を何十冊も教室に1ヶ月ぐらい置いたりして、地元の図書館に目を向けさせたりと、いろいろと工夫をされていることと思います。

 私も、読むものへのアクセスが増える方法を、いろいろと模索していきたいと思っていますが、今日は、その過程で見つけたサイトを二つ紹介したいと思います。

 両方とも英語のサイトです。こういう日本語のサイトでもあるのでしょうか? 私はあまり検索も上手でないので、ご存知の方はぜひ教えてください。

 (1)詩のサイトで PoemHunter.com (http://www.poemhunter.com/)です。英語の詩の好きなかたはご覧ください。

 (2)Lit2Go (http://etc.usf.edu/lit2go/) というサイトは、児童向けの読み物がそろっています。おそらく著作権の関係もあって、比較的古めのものが多いです。なので、長く読みつがれてきた本、例えば、マージェリィ・ウイリアムズのThe Velveteen Rabbit (邦題『ビロードうさぎ』)などもあります。

 Lit2Goは、作家、書名、ジャンル、難易度等で検索できて、なんと、すべて音読のファイルつき(つまり、読み上げられているのを聞く、あるいは聞きながら読むことも可能)です。

 私は、ここ何日か、前から読みたいと思っていたフランシス・ホジソン・バーネットのThe Secret Garden  (邦題『秘密の花園』)を、ほっと一息の休憩のときに聞いています。「読み聞かせてもらう」というのは、こんな感じなのかなという体験中という気もします。楽しいです。

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 インターネットですと教室に本を揃える必要もないので、便利ではありますが、やはりプラス面、マイナス面はいろいろです。教室の図書コーナーであれば、子どもやユニットの目標にあわせて、本の配置を変えることも可能ですし、なんといっても手元に本がある、というのは大きいと思います。

 そんなプラスマイナス(というか、使い分け)も、今後考え続けていきたいと思っています。

2012年11月23日金曜日

複数の作家ノート?


 11月2日のRWWW便りのトピックは作家ノートでした。

 11月の初め頃、谷川俊太郎作(装画は安野光雅)の『すき好きノート』という本(ノート?)がアリス館から、今年の10月に出たことを、友人が教えてくれました。

 大人は右から、子どもは左から開いて、空いているスペースに「好きなもの」を書き込んでいくことで、世界に1冊しかない本になる、というもののようです。

 それぞれのページに、まず、谷川俊太郎さんが、自分の好きなことや、好きなことについての問いかけを書いています。ですから、それを読むことで、自分が書くことや書けそうなことのイメージが広がって、書きやすくなっている感じです。

 親と子など、年齢の違う人が一緒に共有できる(というか、一緒に作れる)ところも面白いなと思いました。

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 『すき好きノート』を見ていて、作家ノートに応用できそうなこととして、「複数の作家ノートをもつ」ことを考えました。
 
 つまり、テーマ別(例えば、『すき好きノート』の場合は好きなこと)に、複数の作家ノートを持ってみるということです。

 作家ノートは、一人ひとりがかなり違う使いかたをしていると思いますし、一人の中でも、進化?するというか、時が流れるにつれて、使い方も変わってくると思います。また、あくまでもブレイン・ストーミングの段階のメモやアイディアを書くことを中心に、使っている人も多いのではないかとも思います。

 私の場合、作家ノートの内部は特に整理されていないので、アイディアをブレイン・ストーミング的に書き留めておいても、そのまま、書き留めたことも(もちろんその内容も)忘れてしまったり、見つけられなくなったりもします。

 でも気になるテーマ別で、作家ノートを1冊以上もっていると、そのテーマ(関連)のアイディアが1カ所にまとまっているので、そこに戻って、考えて、また新しい考えを生み出して、ということがしやすくなるようにも思います。

 みなさんは、どんな使い方をされていますか? いい使い方をされている方は、ぜひ教えてください。

2012年11月17日土曜日

「読者の権利 10ヶ条」再考

今年の4月に、ペナック先生の「読者の権利 10ヶ条」を取り上げています

とてもいいリストなのですが、これですべて網羅されているわけではありません。
(世界人権宣言や子どもの権利条約が、すべてを網羅していないのと同じように。)
欠けている部分は、教師が子どもたち(や司書や保護者)と協力しながら補っていくことが求められています。

もう一度、掲載します。(元のリストに、私のコメントつきで。)

   1. 読まない権利  → これが最初にあるのが、なんともいいです!
   2. 飛ばし読みする権利  → 本には、ほどほどお付き合いすればいい!
   3. 最期まで読まない権利 → 最後までお付き合いする必要はない!
   4. 読み返す権利 → とても大事なのに、なかなか出来ない(特に、大人は)
   5. 手当たりしだいに何でも読む権利 → 読みたくないものは読まない権利
   6. ボヴァリズムの権利(小説と現実を混同する権利)→私の場合は、『ギヴァー』
   7. どこで読んでもいい権利  → どんな姿勢で読んでもいい権利?
   8. あちこち拾い読みする権利 = 全部はちゃんと読まない権利
9.  声を出して読む権利  → ということは、出さないのが普通?
10.    黙っている権利 = 感想を求められても、言わなくていい権利

  (出典:『ペナック先生の愉快な読書法―読者の権利10ヶ条』
      ダニエル・ペナック著、藤原書店、2006年)

あなたが、他に加えたいものはありますか?

今年の4月20日の書き込みには、「多くのいい本にアクセスできる権利」が加えられていました。

いま、ブッククラブの本を書いている私としては、「何人かと一緒に読む権利」をぜひ加えたいところです。

あなたも、子どもたちと一緒に、「自分たちのクラスの読者の権利」をぜひつくってください。その際、数を10に限定する必要はまったくないと思います。

ペナックさんのリストには、「どこで読んでもいい権利」が含まれていますが、「いつ読んでいい権利」というのは含まれていません。それがあると、問題の方が多いからでしょうか?
「本を読みなさい、読みなさいと言われない権利」というのは、どうでしょうか?
でも、たとえそれを教師や司書や親から言われ続けたとしても、第1条の「読まない権利」で守られているのかもしれません。
ある意味で、「場所と時間(と姿勢まで)を制約されて読むのが、朝の読書の時間」なわけですが、そういうのは読書と言えるのか、と考えさせられてもしまいます。そもそも、朝の読書が目標としていることは、何なのでしょうか? そのための方法として、適切なのでしょうか? などとも。

ここまでは「普通の読者」を対象にした権利を扱っていますが、「優れた読者」というか、「少し熱狂的な読者」というか、「書くことにつなげている読者」の十箇条を紹介します。それは、2年半前に亡くなった井上ひさしさん(『本の運命』文藝春秋)のです。

     オッと思ったら赤鉛筆
     索引は自分で作る
     本は手が記憶する
     本はゆっくりと読むと、速く読める
     目次を睨むべし
     大部な事典はバラバラにしよう
     栞(しおり)は一本とは限らない
     個人全集をまとめ読み
     ツンドクにも効用がある
     戯曲は配役して読む

全部ではなくても、部分的には子どもたちだって十分にできるものがあります。モデルを示して、やれるようにしてあげる価値はとても大きいと思います。(これらができてしまうと、国語の学習指導要領に書かれていることはすべて押さえられるだけでなく、相当のお釣りもくるのではないでしょうか? しかも、生涯にわたって使える読み方も身につきます。)

2012年11月9日金曜日

「読む内容」と「読み方」のブック・プロジェクト

 ここ2週間ぐらい、二つのクラスでブック・プロジェクトをしています。今回は、一つのクラスは「読む内容」、もう一つのクラスは「読み方」に焦点をあてて、ブック・プロジェクトを導入しました。

  読む内容に焦点をあてたブック・プロジェクト

 「読む内容」に焦点をあてたクラスでは、「ブック・プロジェクトは、選択の幅を広げるのにとてもいい機会」ということを、改めて実感しました。

 RWでは、子どもたちの読むものの選択が大切にされています。とはいえ、通常の授業の場合、「教室(あるいは図書館)にある本の中での選択」が、中心になることが多いです。

 しかし、ブック・プロジェクトを導入すると、教室の中の本の範囲では、いまひとつ興味のある読み物に出合えていなかった学習者がよく見えてきます。

 実際のところ、今回のブック・プロジェクトの結果から、一人の学習者については、教室の中のものを読むかわりに、しばらく、今回のプロジェクト関連のトピックをインターネットなどから、読み続けるように提案してみよう、そのほうがこの学習者にとってはプラスではないかと思い始めています。

  「読み方」に焦点をあてたブック・プロジェクト

 もう一つのクラスでは、「読み方」に焦点をあてて、「読むことについての課題」からブック・プロジェクトを考えてもらいました。

まずは、「ここ6週間の振り返りと、現在、読むことについて持っている課題」を考えた上で、「その課題を克服することに役立ちそうなことを1週間でやってみる」というブック・プロジェクトにしました。

そして、「自分の読むことについての課題克服に役立ちそうなブック・プロジェクト」を考えている段階で、全員にカンファランスをしました。

「その課題克服に適した方法か?」と「実現可能か?」に絞ってのカンファランスです。特に問題がなさそうな学習者については、ほとんど時間をかけずに、「いいね、それでやってみて」で、30秒ぐらいです。

  
 でも具体的にどうやっていいのか分からないとか、その方法が適切だと思えない学習者には、少し時間をかけてカンファランスをしました。また、こちらからも「こうやってみたらどうだろう?」という提案もしました。

 「読み方(や読みの課題)」に関わるブック・プロジェクトは、通常はブック・プロジェクトの選択肢の一つにすぎません。でも、今回、その一つの選択枝に焦点を絞って行い、カンファランスをセットにすることで、何らかの形で、定期的に読み方を振り返ることの大切さも見えてきた感じです。
 
  なお、ブック・プロジェクトについては、『リーディング・ワークショップ』(ルーシー・カルキンズ著、新評論、2010年)の12章(リーディング・プロジェクト)208215ページをご参照ください。
 
 またこのRWWW便りも、いくつかのページに「ブック(リーディング)・プロジェクト」というラベルをつけてみましたので、よろしければご覧ください。

2012年11月2日金曜日

作家ノート


 『ぼくたちの散歩』(工藤直子作、文溪堂)は、子犬のカンタが日記帳をもって散歩に出かけるという設定で、書かれた歌やお話がたくさん載っています。
 おそらくなりきって書くのが大好きな工藤さんのことですから、実際にこんなふうに書いているんだろうな~、と想像してしまいます。
子どもたちに作家ノートの使い方を教えるときに、この本の一部を読み聞かせてあげると、作家になるということがどういうことか、日記帳の代わりに作家ノートをいつも持ち歩くということがどういうことかがイメージしやすくなると思いました。
長新太の絵も描かれているので、書くことだけじゃなくて、絵でもOKということも伝わります。
ということで、低学年にはもちろん、高学年でも(特に、詩や自分の日常の中から題材を選んで書く時など)試してみてください。

もうひとつ、作家ノートについて作家本人が書いているのも見つけました。『安房直子コレクション2 見知らぬ町ふしぎな村』(偕成社)の巻末エッセイ(336ページ)です。「一冊のノートのこと」というタイトルで、以下のように書いてありました。

 思いついたことは、何でも、メモすることにしています。
 そのためのノートを一冊、いつも、引き出しにしまっておいて、ときどき、とりだしては、書きこんだり、ながめたりします。
 そこには、おぼえたての花の名前や、珍しいお料理の作り方、猫の会話や、うさぎのひとりごと、そして時には、短編のはじめの一行や、きちんとしたあらすじや地図まで、何でも書いておきます。ごたまぜの、すごいノート! 他人には、とても見せられないし、見せたって、誰にもわけのわからないノートですが、これは、私の宝物です。
 ひとつ作品を書き上げて、さあ、次は何を書こうかしらと、とりとめなく、このノートを開く時が、私のいちばん幸福な時です。
 このノートの中身が、豊かであるかぎり、私は、これから、いくらでも、作品を書いていけるし、その過程の苦労にも耐えてゆけるという気がするのです。
              『児童文学の世界』1988年 偕成社刊