今回は、2025年1月11日の投稿「『共有の時間』から『リフレクション』の時間へ (その1)」に続く(その2)です。今回は、リフレクションの時間での「グローバルな問い」(global questions)の役割について、 前回(その1)と同じ本『The Literacy Studio』(★1)の、主にReflection の章(174-196ページ)から考えます。
前回(その1)では、1) 他の子どもに教えることもリフレクションの時間の一つの選択肢であり、教える子どもにとっては知識やツールの定着となり、教えられる子どもにとっては新たな知識やツールの獲得となること、2) 読み書きにおける自分の学びを共有することで、これまでに自分が学んだことのリヴィジョン(書き直し、読み直し、考え直し)、つまり知識や視点の改変や再構築(★2)につながることを考えました。
今日(その2)の「グローバルな問い」(global questions)は、自分の学びを、今読んでいる本や今書いている作品だけにとどまらず、他教科での学びや教室の外、あるいは社会正義や公平性といった概念の理解など、新たな地平に向かって後押ししてくれるというものです。
私は、A) 短いリフレクションの時間に、どうやって「グローバルな問い」を活用できるのか、B) 社会正義や公平性と言われると、例えば「社会正義/公平性は大切、そのために自分ができることは?」のような、教師側になんらかの模範解答なり目指す方向があって、それに誘導するようにならないか、という質問を持ちながら、リフレクションの章を読みました。
さて、著者のキーン氏は「グローバルな問い」とは、ウィギンズ とマクタイと「本質的な問い」(essential questions)(★3)の特徴と重なるだけでなく、さらに以下のような点があるとしています(181-182ページ)。
1) 読み書きを統合したワークショップ(lieracy studio)のどの部分においても、対話の支え(anchors)(★4)となる。
2) 学んだことを、社会正義や公平性という観点につなげる。
3) 生徒が発案することも多く、個人やグループでの探求につながる。
4) 他教科での関連する学びも含めて、生徒が教室の外の世界とつながるのを助ける。
5) 年間を通して、またカリキュラム全体を通しての学びにつながる。
6) リフレクションの焦点となるものを提供してくれる。
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まず、A) 短いリフレクションの時間に、どうやって「グローバルな問い」を活用できるのか、です。上記「 1) 読み書きを統合したワークショップ(lieracy studio)のどの部分においても、対話の支え(anchors)となる」と「6) リフレクションの焦点となるものを提供してくれる」とあるように、「グローバルな問い」は、ある日のリフレクションの時間に唐突に、登場するものではありません。そうではなくて、現在学んでいることのポイントをおさえる印象ですから、短時間で可能となっているように思います。
具体例で見ると、5年生の例(183ページ)では、「グローバルな問い」は「説得力のある文章やスピーチは、社会変化を引き起こしたり、それに対応するために、どのように使われてきたのか。社会変化を引き起こしたり、それに対応するために、どのように説得力のある文章を使うことができるのか」です。この問いは、「説得力のある文章」というジャンルを学ぶユニットの中で設定されています。
3年生の教室(184-189ページ)での「グローバルな問い」の例は、「本(およびその他のメディア)や私たちが書くものは、どのように私たちの思考、感情、信念、行動に変化をもたらすのか?」となっています(183ページ)。
子どもたちは、「どのように、本(読むこと)によって、考えや行動が変わるか、また、書くことによって、どのように書けば、読者の考えや行動を変えられるのか」という読み書きを統合した単元で学んでいる真っ最中です。
3年生のこの事例はかなり詳しく紹介されています。このクラスを教えるラファエル先生は、本を読んでいる子どもの中に、最初に「こうだ」と思い込むと、それを変えることなく読み続ける子が少なからずいることに気づいていました。
そこで、クラス全体に対して、読んでいる間に自分の考えが変わることについて、先生自らの「考え聞かせ」で教えたり、必要に応じて個別カンファランスや、小グループで教えたりしてきました(小グループに教えることは、この本では Invitational Group と呼ばれています)。
「本(およびその他のメディア)や私たちが書くものは、どのように私たちの思考、感情、信念、行動に変化をもたらすのか?」という「グローバルな問い」が意識できるように、この問いは教室にも掲示(★5)されています。つまり、グローバルな問いは、学習中の単元と密接に関連していますし、リフレクションの時間以外(先生が全体に対して教える時間、それぞれがひたすら読み書きをする時間など)でも、意識され、学びのポイントとなっています。
私が気になっていた2点目、「B) 社会正義や公平性と言われると、教師側に模範解答があって、それに誘導するようにならないか」です。これは、3年生の事例(184-189ページ)を見ていて、「そうならない」ようにできることがはっきりわかりました。
この事例では、結果的に子どもたちは、その日の学びを「他者理解のための共感」という概念につなげて学んでいるのですが、それは教師があらかじめ決めていたことでも、予想していたことでもありません。
→ とはいえ、教師の立ち位置や進め方によっては、誘導的に進めてしまう危険性がないとはいえません。この点は、(その3で)引き続き考えていきたいと思っています
上記で説明されているように、「グローバルな問い」は、対話の支え(anchors)であり、リフレクションの焦点であって、どこかに導くような羅針盤ではありません。むしろ、常に学びを再構築し、生成していくための土台のように思いました。
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★1 Ellin Oliver Keene. The Literacy Studio: Redesigning the Workshop for Readers and Writers. Heinemann, 2022.
★2 リヴィジョン(書き直し、読み直し、考え直し)については、先週(2月2日)の投稿「修正を通じて、生徒たちに書く自信を育む」では、リヴィジョンの動詞であるrevise について「再構築」という言い方もされていて、次のような文が記されていました。
「修正は、生徒が書いている作品を「再構築(revise)」する重要な方法です。それは、一人ひとりの子どもが「自分の人生を再構築する/生き直す/自分自身をつくり出す」重要な段階と言い換えられますから、とても大切です」
→「再構築」と言われると、reconstruction や rebuild などの単語が浮かびます。でも、リヴィジョンで行なっていることは、新しく構築するためのやり直しですから、まさに「再構築(revise)」に向かうプロセスのように思います。
★3 ウィギンズ とマクタイについては、以下の訳書が出ています。
『理解をもたらすカリキュラム設計』 G. ウィギンズ、J. マクタイ、西岡加名恵訳、日本標準 2012年
★4 次の★5でも記すように、「錨、支え、拠り所」等々の意味がある、anchor という単語が気になっています。
★5 教室での掲示ですが、anchor charts(アンカー・チャート)と呼ばれています。学びのポイントや学びの軌跡が掲示され、そこに戻って学ぶこともあります。