2010年9月24日金曜日

また同じ(?)ミニ・レッスン

 『ライティング・ワークショップ』の原著者である、ラルフ・フ レッチャー氏とジ
ョアン・ポータルピ氏は、多く のいい本を出しています。

 その中には、以下のクラフト・レッスン集(「作家の技」を教えるミニ・ レッスン
集のような感じです。これをカンファランスに応用する ことも、もちろん可能です)
が2冊あります。

Craft Lessons: Teaching Writing K-8
Ralph J. Fletcher (著), Joann Portalupi (著) (Stenhouse, 1998)

Nonfiction Craft Lessons: Teaching Information Writing K-8
Joann Portalupi (著), Ralph J. Fletcher (著) (Stenhouse, 2001)

 また、「作家の技」以外も含めての、多岐にわたる項目とその教え方を書いたカー
ド形式のものとしては、以下があります。

Teaching The Qualities of Writing
Joann Portalupi (著), Ralph Fletcher (著) (Firsthand, 2004)

 WWを始めた頃は、ミニ・レッスンに何を教えようかと迷ったときには、 この3冊を
よく見ました。

 目次を見ているだけでも、「あ、こんなこと もできる」とヒントがたくさんありま
した。3冊とも、アイディア満載の超実用的な本です。

 毎年、違う学習者が教室にやってきます。その学習者を見てい て、「次のミニ・レ
ッスンはこれにしよう」と、学習者を見ることから、ミニ・レッスンの予定が決まる
ことも多いです。

 自分の中にミニ・レッスンのストックがいくらかあることで、学習者の観察から、「そろそ
ろ○○もおしえなくては」と思えるときもあるようにも思います。

 そう思うと、人のミニ・レッスンを聞いたりして、いろいろストックを増やしてい
くのも大切な気がします。

 ところで、上のように思う一方では、毎年、ほとんど必ずミニ・レッスンで扱う項
目もあ ります。

 今日は、私がよく扱う項目5つを、短いコメントとともに紹介します。

  もちろん、これは教えている学習者によって変わると思いますが、時には、
「毎年、ほとんど扱う項目」とその理由の意見交換をしても面白いかもし
れません。

 ○ 仮題をつけて書き始め、あとで題を磨く
(Craft Lessons: Teaching Writing K-8, 104ページ)

→ まず仮の題をつけることで、何について書くかということが決まる。

 まず仮の題をつけて、どんどん書いて、そしてある時点で、題を見直す。

 これは、とても納得しました。最初から、いい題をつけてスタートしようとする
と、まず無理です。

 「いい題のつけかた」というミニ・レッスンをする前に、まず、これが必要だと思
いました。

○ どこから始めるかを決める
Craft Lessons: Teaching Writing K-8, 80ページ)
 
→ 例えば、タイムラインをつくり、書きたいことを時系列で整理したあとに、さ
て、どこをスタートに書き始めるかを考える。

 学習者の中には、いきなり、構想を練らずに、最初の段落の1文目から、「起こった
順」に書きはじめる人も、けっこういるからです。

 こういう方法を知っていると、全体を大きく見るといういい練習になると思いました。

 
○ ビザの一切れ(Craft Lessons: Teaching Writing K-8、58ページ)

→ これは「夏休み」とか「家族」みたいな大きなトピックを扱うときに、焦点を絞
るということです。

ピザ全部を食べる代わりに、ピザの一切れ一切れが、家族のメンバーとすれば、例え
ば「おじいちゃん」とか、一切れだけに焦点をあてて書く。

そしておじいちゃんというトピック自体も大きなトピックなので、さらにおじいちゃん
のいろいろなことから、何か一つに絞って書く、そんな感じです。

→ 私の教えている学習者には、これはけっこう難しい印象です。

やはり、できるだけたくさん、いろいろな情報を提供しようとします。

どうしても、ピザ全部を扱いたいときは、シリーズものにして、一切れ一切れを
別の作品にするのはどう? と、私は提案してみることもあります。

○ 書き出し Teaching The Qualities Of Writing, D17-D-22)

○ 書き終わり Teaching The Qualities Of Writing, D23-D26)

→ いろいろな書き出し、いろいろな書き終わりがあることを知る、これはやはり定番、一度は扱
っておきたいと、いつも思います。

本を読んでいるときに、書き出し、書き終わりの
いい本があると、「あ、これ使おう」と思うこともあります。こういう情報交換も大切だと思います。

*****

 ☆ そして最近は、先週のWW便りに登場したメンター・テキストを豊かにしたいと思っています。

例えば、、「一人称でなくて三人称で書いてみる」、また、「違うジャンルや形式」
を楽しむ、こういうのは、やはりメンター・テキストからヒントを得ることが多いと
思うからです。

教えるのは先生ひとり、でなくて、世界中の作家が先生、というのもWWの魅力の一つですし。

 来年の今頃、定番ミニ・レッスンがどう変わったか、また振り返ってみたいとも思います。

2010年9月17日金曜日

教師と生徒の力強い味方「メンター・テキスト」

 私たちは真似することで、いろいろなスキルを身につけていきます。
プロの作家もそこからスタートしている人たちが多いぐらいですから、小学生、中学生、高校生、大学生が同じことをやらない手はありません。むしろ、積極的に奨励しようというのが、このメンター・テキスト(師匠代わりの本)を使うという方法です。

 メンター・テキストの選び方は、
  ① 選ぶ教師自身が好きであること。
  ② 教えた「作家の技」がたくさん使われていること。つまり、単にストーリーが面白いというだけではダメということ。
  ③ 子どもたちのニーズとカリキュラムのニーズの両方を満たしていること。
  ④ 子どもたちにも気に入ってもらえること。
  ⑤ 多様なジャンルのメンター・テキストを探すこと。

 メンター・テキストの使い方は、
  ・ まずは、読み聞かせからスタートです。何よりも、子どもたちに気に入ってもらうことが先決ですから。
  ・ その後で、いろいろな形で使いこなしていきます。ミニ・レッスンで作家の技を教えるのに使ったり(作家の目で読んでもらったり)、個別(やグループ)カンファランスで使ったりします。要するに、メンター・テキストは子どもたちが自分でも試してみたくなるような書き方を多く含んでいるものが好ましいわけです。
なお、ミニ・レッスンやカンファランスで使う時は、本や絵本を全部使うことはありません。目的に適した部分のみを選んで使います。(子どもたちはストーリーをすでに知っているので、一部のみを使うことができるわけです。)
  ・ さらには、作家の技等を学ぶだけでなく、書く題材を見つけるのにも使います。

 メンター・テキストには、よく絵本が使われますが、その理由はいくつかあります。
  ・ 短時間で読めるだけでなく、年間を通して繰り返し読める。
  ・ 子どもたち自身で作家の技を探すことも容易にできる。
  ・ 子どもたちに真似して欲しい内容をたくさん含んでいる。
  ・ 長さは、質とは関係ないことにも気づいてもらえる。(短い方が、文章や作家の技が選りすぐられていることに気づける)
  ・ 何よりも魅力的なイラストが描かれている。読むのが好きではない子にとっては、それがあることが大いに助けになる。

 もちろん、メンター・テキストを絵本に限定する必要はありません。効果的なメンター・テキストの条件を揃えていれば、何でも使っていいし、また使うべきです。多様な方が好ましいです。(もちろん、教科書の中にある教材もメンター・テキストの候補に含まれるとは思いますが、上の5つの基準にあわないと、はずれてしまう可能性はあります。)

 以上は、Mentor Texts: Teaching Writing Through Children’s Literature K-6, by Lynn Dorfman and Rose Cappelli, Stenhouse, 2007を参考に書きました。

 具体的にどのような本がメンター・テキストとして使われているかというと、たとえば
    ジェーン・ヨーレンの『月夜のみみずく』
    ピーター・レイノルズの『てん』
    クリス・ヴァン・オールスバーグの絵本
    レオ・レオーニの絵本
    メム・フォックスの『おばあちゃんのきおく』
    バード・ベイラーの『だれにも石が大切』
    E.B.ホワイトの『シャーロットのおくりもの』
などです。「メンター・テキストの選び方」を参考にして、年間に数冊用意できるといいのではないかと思います。日本人が書いたのでいいのがあったら、ぜひ教えてください。

2010年9月10日金曜日

書くことにおいて「親切で、具体的で、助けになる」フィードバックとは?

8月27日のブログに、That Workshop Book (Samantha Bellnett著、Heinemann, 2007)で、他の人からの「親切で、具体的で、助けになる」フィードバックが、作品をよくするとてもいい手段なので、そのことを教える、という話を書きました。

 同じく8月27日のブログに「私自身、『親切で、具体的で、助けになる』フィードバックの価値を実感したのは、比較的最近のことなのです」と書きました。実感したのは、やはりそれで自分の書いたものがよくなるのが分かるからです。

 少し前には、最初に書いたことが、何度もフィードバックをもらう中で、最終的にほとんど原型をとどめなかったこともありました。

 また、ごく最近では、「ここまで批判的に書いてもいいのかな」とか「こういうふうに書くと、どう受け取られるのかな」と、自分の書いたもののトーンというか、内容に大きく関わる部分でかなり迷うことがありました。それで、「親切で、具体的で、助けになる」フィードバック」をしてくれるのが分かっている人に送り、そのフィードバックのおかげで励まされて、書き上げられたこともあります。

 さて、先日、リーディング・ワークショップについて一緒に学んでいる先生たちに、私のブログに書いた原稿とその他の原稿を使い、ごくごく短時間(3~4分?)で、「親切で、具体的で、助けになる」フィードバックを付箋に書いていただくという時間を持ちました(そのときに、その先生たちから、「親切で、具体的で、助けになる」に加えて、「言うべきことは言う」というフィードバックも大切だ、と学びました)。

 そこで今日は、「親切で、具体的で、助けになり、かつ、言うべきことを言うフィードバック」例と、それを受け取る側になったときのことを共有したいと思います。

 もちろん、下に書くことは、私の個人的な例です。「親切で、具体的で、助けになる」というフィードバック例は、人間関係やクラスの雰囲気にもよって、変わってくると思います。ライティング・ワークショップが動きだしたら、それぞれのクラスで、いいフィードバック例のリストをつくることがあってもいいのかもしれません。

 まずどんなフィードバック例があったかと言いますと、「質問する」、「選択肢を提示する」、「分かりにくい点、あまりいい表現ではないという点を指摘する」、「足りない点を指摘する」、「具体的にいい点を指摘する」などです。

★ 質問する。
 
「大切な友達」の手法(『作家の時間』69~72ページ参照)でも学びましたが、質問というのは、フィードバックのとてもいい方法だなと思いました。何よりも、フィードバックを受け取る側として、受け入れやすいし、考えさせてくれるのです。

 例えば、「文が長い。どこで切ればいいと思う?」と、答を本人に委ねる質問もありました。また「○○とは、人の名前ですか?」という質問から、読者にとっては分かりにくい点も、質問されることで気付くことができると分かりました。

★ 選択肢を提示する。

 よりよい単語や表現、よりよい語順など、あるいは「○○○○○○が、まわりくどいので、△△△△△△」のほうがいいのでは」と、一言、理由つきで、選択肢を提示というのもありました。

★ 分かりにくい点、あまりいい表現ではないという点を指摘する
 ある箇所に下線をひいて、「分かりにくい表現」、「不自然な表現」と書き込む形での指摘です。

★ 足りない点、あればいい情報を指摘する
→ 実は上の2点(①分かりにくい点、あまりいい表現ではないという点の指摘、②足りない点、あればいい情報の指摘)は、書いている本人にとっては一番気付きにくい点だと思いました。指摘する方は、もしかすると、こういう指摘したくないかもしれませんが、実は、これは指摘される方にはとても有り難い、と私は思いました。

★ 具体的にいい点を指摘する
 「良い出だし(書き出し)」とか「基準を明確にしてあるのが有り難い、自分で行うときの参考になるから」など、よいと思ったところを具体的に書いてくれている付箋もありました。
→ これは、「親切で、具体的で、助けになる」フィードバックなのでしょうか? 私はそう思います。もちろん、まず、嬉しいですし、励みになります(なので、親切なフィードバックと言えると思います)。かつ、例えば、今後、大幅修正や大幅削除をするときに、「ここを残すか否か」という一つの判断材料にもなる、と思いました。

2010年9月3日金曜日

(質問)「作品をつくるときの好きなジャンルは?」 → (答え)「詩!」

 突然ですが詩について書きます。そして、WWのブログですが、書くことだけ、というよりも「読み書きのつながり、つまり、書けるようになるために読む、そこから学ぶ」、そんなことについて書きます。

 中学生のクラスの子どもの2学期の「自己振り返りシート」を見ていた先生が、 「どのジャンルで書くのが好きですか?」という質問に、なんとクラス全員の子どもが「(特に形の決まっていない)詩」と答えていた、と気づいたそうです。

 この中学生のクラスとは? と言いますと、ナンシー・アトウエル氏のクラスです。(おそらく何度か名前を聞いたことのある方もいらっしゃると思いますが、RW/WW に大きな貢献をした中学校レベルのとてもとても有名な実践者です)。

 「どうしてそのジャンルで書くのが好きですか」という質問については、「素晴らしい時間をもう一度生きることができる」、「見たり、聞いたり、感じたりしたことを描写しようという、知覚・感覚的チャレンジが好き」、「表現に限界がない。自分のあらゆる思いを、具体的かつ美しく言葉にできる」等々、すごい答えがたくさん紹介されています。

 上のことはアトウエル氏の Naming the World: A Year of Poems and Lessons (Heinemann, 2006) とセットの A Poem a Day: A Guide to Naming the World の 最初のページに書かれています。

 ★ 生徒たちが、詩とは自分にとってとても強力な表現手段と感じている、そして中学生にとっては、このジャンルは、自分を表現するのにとても適したジャンルになっている、だから子どもたちは詩が大好きなんだなと思いました。★
 
 私はこの本を読みながら、詩ができることの素晴らしさというか、すごさに、目から鱗が落ちるような思いと、大きな感動をもちました(この本に限らず、アトウエルさんの本は、いい本が多いです)。

 A Poem a Day: A Guide to Naming the World には DVDもついていて、そしてNaming the World: A Year of Poems and Lessons の方は、アトウエル氏が厳選した集めた詩(200 以上)とその教え方が載っています。英語のいい詩(特に授業使えそうな)をさがしている人にも、いい本です(
中には教師が生徒をダメにしていく、みたいな恐ろしい詩もあります)。

 A Poem a Day: A Guide to Naming the World  の方に目を戻します。

 まずはいい詩に触れ、それらを使って適切に教えられること、これが基本です。

 アトウエル氏は自分にとって、授業で詩を選ぶ基準として4つ挙げています。

(1) 自分が好きな詩であり、それを共有するときに情熱を持って共有できる。

(2) 印象的で記憶に残るもの。そうすると、生徒の心に残る可能性もある。

(3) 自分の教えている生徒たちが、きっと好き、あるいは惹かれるだろうと思うもの。

(4) 詩とは何について書くことができるのか、そして、詩ができることとは何か -- これらについ
て、生徒が学べるような(いろいろな)詩

 → つまり、そういう幅をもって、いろいろな詩を扱っていく、ということです。

 → そうすることで、生徒は、詩でどういうことについて書けるのか、とか、詩を書くことでどういうことができるのかを理解できるようになってきます。(この4項目については、A Poem a Day: A Guide to Naming the World  4ページ) 

 『ライティング・ワークショップ』(新評論、2007年)に、「絵本には多くの利点があり、ワークショップに使うには理想的です。まず、そんなに長くないので一度のワークショップで読み終えることができます。また、短いことの利点はほかにもあり ます。書き出し、場面設定、話の進め方、山場、結末といった話の構成要素が、子どもたちにとっては複雑な長編小説よりもはるかに把握しやすいのです(97~98ページ)と書いてあります。

 詩は、絵本と同じように、(絵本より短いものもあるので)、それほど時間がかからずに、でもいろいろなことを沢山教えられるようです。

 アトウエル氏はワークショップの初めにみんなに同じ詩を配り、先生がその詩について、簡単に話したあと、先生がとても上手に読みあげて(A Poem a Day: A Guide to Naming the World 21-24ページ)、そしてそのあとで、それについて学ぶ時間を少し取ります。詩についての時間は
全部で10分でできるといっています(A Poem a Day: A Guide to Naming the World 3ページ)。

 そして、Naming the World: A Year of Poems and Lessons (3ページ)では、新学期の初めの授業で、ノートの一番上に「詩ができること」という題名を書いて、そしてそれから
2週間、詩について話し合いをしたあとで、その日に新しく学んだ詩から、そのリストを少しずつ足していくようです。
 
 その2週間が終わったあとも、「生徒は詩ができること」について新しく気付いたときは、そこに足していくようです。詩の学びは最初の2週間で終わるわけではないからです。

 アトウエルさんが上の条件に合うように選んだ詩を、アトウエルさんが上手に教えるので、子どもたちもいろいろなことを気付きます。
 
 子どもたちが気付いたこととして、そのリストにどんなことが書かれているかが、なんと
20項目ぐらい挙げられています。Naming the World: A Year of Poems and Lessons、3ページ)

 そこからいくつか紹介します。

○ 詩は何についてでも書ける

○ 私たちの感覚をくみ上げてくれるーー想像の中で、見たり、感じたり、聞いたり、味わったり。

○ 本質的なレベルで他の人と結びつけてくれる:心と知性から心と知性へ

○ 怒りを表現する、苦しかった経験を理解するのを助けてくれる

○ 感情を定義し、それを芸術につくりあげる

○ 日常生活を新しい視点でみれるようにしてくれる

○ 日々存在していることの美に気付く。私たちの周りに隠れている詩について目をひらかせてくれる。
 
*****

 いい詩をみつけたとき、いい詩を教えたときは、ぜひそれも記録に残し、共有し、蓄積していきたい、そういう詩の(共有)仲間が増えると、詩も教えやすくなるように思いました。そして蓄積ができてきたら、1日のどこかで10分とって、「その日の詩」を毎日教え、生徒たちもそこから学ぶ、こんな学校生活もいいなあと思います。