METの卒業要件は、次の9点であることが、以下の注意書きと共にhttps://x.gd/h7Eqs に書かれています(その訳は、以下の通りです)。
「生徒とその家族は、これらの期待(要件)を理解しておく必要があります。これらの要件は大変ではありますが、ロードアイランド州のすべての生徒が、卒業後の進学やキャリアで成功できる準備を整えることを保証するものです。
- ロードアイランド州の卒業要件を満たすこと
- 1年間にわたる卒業研究プロジェクトの完了
- 75ページの自伝(Autobiography)の完成
- 地域社会に基づくインターンシップへの参加経験
- 特定の進路分野におけるキャリア探索と準備を結びつけること
- 進路と、それに関連する大学単位または資格を明確にした包括的な「卒業後プラン」の完成
- SATまたはACT(アメリカ版の「大学進学のための全国統一試験」)の受験
- コミュニティー・サービス(地域奉仕活動)への参加
- 在学4年間★、年3回の口頭による公開エキシビション(学習発表)の実施」
一般的に、MET(および他の Big Picture提携高校)の卒業要件は、「単位取得(机に何時間座っていたか)」ではなく、以下の3つが3本柱と捉えられています。
1. 75ページの自伝~4年間の学び・成長・挑戦・アイデンティティーをまとめる。
2. ポートフォリオ~LTIでの成果物、リフレクション、プロジェクト記録など。
3. 卒業エキシビション~自分の学びの旅路を、家族・メンター・学校関係者の前で発表。
●75ページの自伝の目的と内容は?
ポートフォリオも、エキシビションも、インターンシップについても紹介したいのですが、本ブログでは国語に一番関係する「自伝」に絞ります。
卒業要件に、最低でも75ページの自伝を置いている目的は、
・生徒が4年間の学び・成長・葛藤・アイデンティティを、自分の言葉で語り直すこと。
・自分の人生を「物語」として構造化し、agency(自立)
を獲得するプロセスそのもの。
・単なる作文ではなく、自己理解・自己決定・自己表現の総まとめ。
内容としては、たとえば次のようなものが含まれます。①家族・背景・文化的ルーツ、②自分の興味の変遷、③インターンシップでの経験、④成功と失敗、⑤自分の価値観・強み・弱み、⑥将来のビジョン、⑦自分の学びのスタイル、⑧自分がどのように「世界と関わってきたかなどで、自分の物語の包括的な再構築を目的としています。
なぜ(最低でも)75ページなのか?
これは単なる分量の問題ではなく、「自分の人生を深く掘り下げるには、一定の時間と文章量が必要」というMET/Big Pictureの哲学に基づいています。①量があるからこそ、表層的な自己紹介ではなく、深い自己省察に到達し、②文章化のプロセスが、自分の人生を自分の手に取り戻す行為になるからです!
●75ページの自伝は、世界の教育実践の中でも「自分の物語(self‑narrative)」をここまで構造的・制度的に組み込んだ稀有なモデルという評価を得ていますが、その理由を次に紹介します。
1. 「自伝=自分の物語」を卒業要件として制度化している稀有なモデル
多くの教育モデルは「振り返り」「自己紹介」「志望理由書」などを求めますが、「75ページ以上の自伝を書き上げること」を卒業要件にしている学校はほぼ存在しません。
- 分量が明確に規定されている
- 4年間の学び・人生・価値観を統合する
- 形式ではなく「自分の物語の構築」そのものが目的
これは、自分の物語を教育の中心に据えるという強烈なメッセージです。
2. 「自伝=自分の物語」をプロセスとして扱う設計になっている
75ページの自伝は、単発の課題ではありません。
- アドバイザリーで継続的に書き進める
- インターンでの経験を物語化する
- エキシビションで語り直す
- ポートフォリオに蓄積する
- 最終的に自伝として統合する(上の4つについては、本に詳しく書かれている!)
つまり、自分の物語の構築が4年間の学習プロセス全体に埋め込まれているのです。
3. 「自伝=自分の物語=エージェンシー(自立)」という思想が明確
MET/Big Pictureの哲学はこうです:「若者は、自分の物語を語れるときに初めて、自分の人生の主体になる」。75ページの自伝は、まさにその力を育てるための実践的な装置です。
4. 「自伝=自分の物語」を学術的・社会的に意味づける構造がある
75ページという分量は、単なる作文ではなく、以下のような学術的営みに近づきます。
- 自分史(life history)
- 個人の経験を「物語として」研究する方法(Narrative Inquiry)
- 自己省察的実践(reflective practice)
- アイデンティティー形成の研究
つまり、教育実践と学術的ナラティブ研究が接続されているのです。これは、他の教育モデルにはほとんど見られません。
5. 「自伝=自己物語」が評価の中心にある
MET/Big Picture の評価は、テストではなく、①ポートフォリオ、②エキシビション、③自伝の3本柱になっています。つまり、自分の物語が評価の中心に置かれているのです。これは「自分の物語を教育の周辺ではなく“核”に据える」という、極めて具体的かつ効果的な実践です。
6. 自伝=自分の物語が「自分が関わりをもつ人たちと共有される」設計
75ページの自伝は、書いて終わりではありません。METのアドバイザー(教師とは言いません!)、家族、メンタ―/インターン先の大人、同級生など、多様な他者に向けて語り、フィードバックを受け、再構築します。つまり、自伝=自分の物語の執筆と紹介が他者とのかかわりを重視したプロセスとして扱われているのです。
『一人ひとりを大切にする学校』の著者(=METの創設者で、約20年間校長を務めたデニス・リトキー氏)は、次のように書いています。
「高校生が書いた自伝だとは思えないほど素晴らしいもので、すべての自伝をこの本に掲載したいくらいです。多くの卒業生が自伝を書くのはとても難しかったと言います。これは、長さの問題ではなく、これまでの人生で、感じてきた痛みをもう一度思い出さなければならいことが、彼らにとって本当に恐ろしいことだからです」(25ページ)
ある保護者は、「私は息子の自伝を見るのが大好きです。自分の人生と自分が受けている教育を分析して100ページ以上も書いたことを誇りに思っています」(208ページ)と言っています。
学校で生徒たちがつくり出す成果物で、このように言われるようなものを今の日本の教育はつくり出しているでしょうか?
以上紹介した自伝、評価の仕方、卒業要件等も含めてMET/Big Pictureが取り組んでいることが分かりやすく書かれている『一人ひとりを大切にする学校』のアクティブ・ブック・ダイアローグを2006年1月31日(土)に開催しますの、興味をもたれた方はぜひ参加してください。
★アメリカの高校は、9年生から12年生までの4年間と決まっています。なお、中学校は、教育委員会によって7~8年生だけ、6~8年生、小中一貫など多様です。
参考: https://www.themethighschool.org/(METのホームページ)
https://www.bigpicture.org/ (Big Picture のホームページ)
a town torn apart film - Google 検索 ないし https://x.gd/Bac7v (著者のDenis Littky氏が80年代から90年代の初めにかけて(?)校長を務めたニューハンプシャー州ウィンチェスターにあるThayer High Schoolでの体験を映画化したもの。こんな保守的な高校と地域ですら、METやBig Picture に加盟する学校が今していることを、やれてしまった!! ということは、やり方と関係の築き方次第?)

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