「小さい頃から作文が大嫌いでした。何をどう書いていいかわからなかったからです。教員になってあの時の授業を再現している自分が嫌で、“作家の時間”を始めようと思いました」という高橋優さん(東京都)に「作家の時間」についてのインタビューをしました。(・が質問。→が回答、です。)
・ライティング・ワークショップ/作家の時間(どちらの名称で実践されていました?)を、実践してみようと思ったきっかけを教えてください。
→「作家の時間」でやっていました。
教員仲間と「せーので始めてみよう」と決めて、それぞれのクラスで始めたのが「作家の時間」を始めたきっかけです。
『作家の時間』の本自体を知ったのは、学生時代、ある塾で講師をしていた時です。教室の本棚にその本があり、当時「こんな面白い実践があるんだ」と感じたのを覚えています。
その後、横浜市の教員となり、西多摩PACEの勉強会で「作家の時間」の実践を聞きました。
・西多摩PACE行くきっかけは? どうして勉強会に参加してみようと思ったのですか?→元々は、体験学習法という学び方を知って、それを学びたかったので西多摩PACEに参加していました。その後、「作家の時間」の講座を開催すると聞いたので、元々興味がありその講座に参加しました。その講座を受けた後は、「自分もやってみたいけど、自分なんかにできるわけない。」と考えていました。
・どうしてですか?
→自分にそんな力はないと思っていたからです。今思い返すと「作家の時間」だけを別個にやろうとしていたように思います。他のどの授業とも関連性がないと思い込んでいました。
それから何年か経って、同世代の教員仲間ができ、「作家の時間』が気になってるよね~という話をしていたところに、西多摩PACEで再び「作家の時間」の実践を聞く機会がありました。そんな感じで、教員5年目の2017年5月から実践を始めました。
・優さんが作家の時間の実践を「面白い」「気になる」と思われた理由や要素を教えてください。
→当時は、「自分が書きたいことを書きたいように書く」ことに面白さを感じていました。今は、作家のサイクルの中でたくさんの自己選択・自己決定があることにも大きな魅力を感じています。
・実践する際に、『ライティング・ワークショップ』と『作家の時間』の本はどのように参考になりましたか?
→一通り読んで、手探りでやりながらその都度いろんなところを読みました。
付録もコピーして使いました。振り返りシートとか、作品シートとか。
・これまでの国語の作文の授業と「作家の時間」の違いを教えてください。
→楽しい。私自身が一番楽しんでいるかもしれません。これに尽きます。
・実際に実践していた「作家の時間」の進め方を教えてください。
→基本的には、本の通りです。
・子どもたちをよりよい書き手にするためのコツは何だと思いますか?
→待つことです。
・他には?
→その子の書いた作品に興味をもつこと。クラスの子達が相互に相手の作品に興味をもつこと。お家の人にも自分の子どもが書いたその作品を丸ごと愛してもらうこと。
・「作家の時間」を体験した子どもたちの反応を教えてください。
→「作文が楽しい(または、そんなにイヤじゃなく、普通に書ける)」と書くことに前向きになれる子どもが多かったです。
・「作家の時間」を通して子どもたちが身につける力にはどんなものがありますか?
→自己選択・自己決定する力。「次はこんな作品を書こうかな?」と想像していることを想像で終わらせずに、実際に形にしてみる力。試行錯誤し続ける体力養えると思っています。★
・これから「作家の時間」を実践したいと思っている先生たちへのアドバイスをお願いします。
→自分のできるところから少しずつ始めることで、次が見えてきます。
●以下は、これから「作家の時間」に取り組んでみたいと思っている先生たちから出された質問に答えてもらいました。
・「何を書いてもいいんだよ」は慣れてくればいいと思いますが、最初はどうしているのですか?
→遠くから見守ります。「作家の時間」を始めた頃は、待てなくて子どもにいろいろ言っていましたが、あまり効果がありませんでした。
・効果的な導入の仕方(書くことへの意欲づけをどのようにしているのか)を教えてください。
→書くネタを一緒に見つけて、一作品書き上げてしまうことが大事かも、と思っています。あとは、時々声をかけながら待ちます。
・本当に書けない子へのフォローの仕方を教えてください/どうしても書かない子の指導や教室内にいる多様な子の指導について、学級経営の考え方を教えてください。
→その子の好きなものやことを聞いて、詩にします。信頼ベースの学級ファシリテーションのペアトークで使う「質問の技」でオープンクエスチョンをして深掘りしていきます。ひらがなが書けない子には、別の紙に書いて、それを原稿用紙に写せるようにしたこともあります。友達と合作したり、翻作(首藤先生)という作品の作り方をミニ・レッスンに取り入れたりしました。
・国語の単元で「作家の時間」を組み込むのは難しいですか? 定期的に時間をとらないとダメなのですか?
→国語の「書くこと」の単元を「作家の時間」と位置付けて、指導事項をミニ・レッスン化していくことで、テーマ固定の「作家の時間」ができるようになります。また、本にもありますが、可能なら週2で定期的に「作家の時間」を設定すると効果が出ます。高学年はそもそも国語の時間が少ないので週1が限界だなあと感じています。
・教科書も教えているのですか/教科書とは対応しているのですか?
→上記と重なりますが、教科書を生かして「作家の時間」を作っていくという感じです。
・「書き手を育てる」という発想はとてもいいと思いますが、出版しない子、作品を完成しない子の評価はどうしているのですか?
→テーマフリーの作家は、評価に入れていませんでした。テーマ固定の作品は教科書を使って指導しているのでいわゆる作文という扱いで評価に入れました。
・年間を通した子どもの成長はどのような形で明らかにしているのですか? また、それを達成するために、具体的にどのようなことをしているのですか?
→出版をしていう時には、前書きをつけて成長しているところを可視化しました。同時に保護者にも伝わるように意識して前書きを書いていました。学校事情により、実際に出版までできたのは1校のみです。その後は、個人で作品ファイルを作ってためていく、個人出版に変えました。
・学年の歩調のそろえ方や、管理職に理解してもらえる方法について何かいいアイディアがあったら教えてください。
→横浜時代には、自己観察面談で校長に話しました。話す必要が出てきたので話した、という少し後ろ向きな感じですが、保護者に理解してもらえるのであればOKという、教員の実践の多様性が認められている職場でした。その後は、国語の発展的学習という位置付けで学級だよりに書きました。
・「作家の時間」に対する保護者の反応があったら、教えてください。
→「自分の娘がこんなことを考えていたんだ。」「得意げにHave Fun(出版物の名前)を見せてくれました。」「最初は自分の子供の名前がなくて焦りましたけど、聞いたら何を書こうか考えているんだと言っていて……ようやく自分で作品が書けたんだと安心しました。」「国語の力が伸びました。」などですね。いわゆるクレームというものはありませんでした。
・45分の中で、書く時間を30分とると、ミニ・レッスンや共有の時間が少ないです。
→ミニ・レッスンの時間を極力減らせるように努力しました。また、共有の時間を取らない日もありました。
・子ども一人ひとり書くことに対する課題が違う中、どのようにミニ・レッスンの内容を決め、どう子どもたちに提示したらいいのでしょうか?
→作家のサイクル、作家ノートの使い方、書けそうなことリストなどの書くための最低限のミニ・レッスン以外は、子ども達の様子を見てミニ・レッスンを組みます。また、教科書の指導事項を入れたミニ・レッスンも行います。
・書く内容や文章表記の仕方をどこまで自由にさせていいのでしょうか?
→出版を個人でする場合は、ほとんどのことを認めています。ただ、「作品には読んでもらいたい読者がいる」という、他者の目も意識できるように個別に声かけしています。
・子どもたちは自分の作品をどのようにして修正できるようになっていくのでしょうか?
→出版されて再度自分の作品を読むと、「あ!」とよく言っています。そうやって客観的に自分の作品を見たり、合作で複数の友達と共同して書いたりすることを重ねていくと、自然と良くなっていきます。
気をつけなければならないなあと私が個人的に思っていることは、「私たち大人の基準(または私個人の価値観)でその作品の良し悪しを決めないようにすること」です。
・子どもが自分や友だちと修正・校正していた文に、教師が踏み込むタイミングがとても難しいです。
→本当に正しい介入は、実は存在しないかも、と思います。
・校正は、出版の前に指導するのですか? 間違ったまま出版しても、クレームはでないんですか?
→出版物の前書きに書いたりします。大人が書く文章でさえ、誤字脱字や文章のクセがあります。それを他の同僚に見てもらって修正しながら仕事をしています。子どもにだけ「完璧な清書や間違いのない作品を求めるってナンセンスだな」と思っています。もしかしたら、誤字脱字がない完璧な文章を大人が要求するから書けなくなっているのかな、とも思います。
いくつかの間違いをとても気にしている保護者の方はいませんでした。それよりも書くのが楽しい、学校の勉強が楽しいと言って、毎日学校に笑顔で言って元気に帰宅することの方を望んでいるような気がします。
・インタビューへの回答、ありがとうございました。
★これを「デザイン思考」といいます。
知識をたくさん暗記していい点を取るよりも(これらはほぼすべて、スマホが答えを出してくれるので)、人生ではるかに役立つスキルです(←こちらは、スマホは教えてくれません!)。
デザイン思考は、来春出版予定の『教育のプロがすすめるエンパワーメント』の中のキーワードの一つですので、お楽しみに!