本日の投稿は、「本の紹介」プラス「知っている人に本をお薦めをする/してもらう」こと自体の「お薦め」です。私はそこから多くの収穫を得ているからです。
書評やブックガイド、あるいは知人からの紹介などである本を読み、いわゆる芋づる式(それに関連する本、同じ作家、同じテーマなど)に読みたい本が増えることは、私にはよくあります。紹介された本や芋づる式に見つけた本は、順調に読み進められる時もありますが、そうではない時もあります。
Yahoo!ニュース|本屋大賞2021 ノンフィクション本大賞受賞の『海をあげる』(上間陽子、筑摩書房、2020年)は、私には順調に読み進められない1冊でした。お薦めされた書名だけ頭に残っていて、ほとんど予備知識のないまま読み始めました。最初の章「美味しいごはん」をなんだかよくわからないまま読み、続く章を読んでいくと次々と話題が変わっていくことに戸惑い、なんだか全体がうまく見えてきません。
幸い、この本を薦めてくれたのが、時々投稿をお願いしている吉沢先生でしたので、どうしてこの本をお薦めしてくれたのだろうかと尋ねたり、私がもやっとした部分を伝えることもできます。何度かのやりとりを経て、吉沢先生に、今回の投稿のためにこの本のお薦めを書いてくださるようお願いしたところ、以下を寄せてくださいました。
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上間陽子『海をあげる』(筑摩書房, 2020)
沖縄で未成年の少女たちの支援・調査に携わり、若年出産をした女性の調査を続ける著者によるエッセー集です。その人たちの声を聞く営みは、自分自身の声を聞きとることでもあったのでしょう。さまざまな弱者に向ける優しい眼差しが、読み手の私にも染み込んでくる本でした。
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吉沢先生とのメールのやり取りの中で、「読みながら感じた著者の透き通った眼差し、そして爽やかな読後感が私の中に残っています。こういう読書体験は珍しかったです」とも書いておられました。
本を薦めてもらうことで発生する「やり取り」は楽しい、と改めて思います。一般論というよりは、「私にとっての」疑問や思うことなど、極めて具体的な、個別のやりとりになるからです。
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『改訂版 読書家の時間』の執筆メンバーでもある本好きの都丸先生にも、ここしばらくの読書から数冊のお薦めをお願いしたところ、以下を挙げてくださいました。
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▷『喜嶋先生の静かな世界』 森 博嗣 講談社
日々「これでいいのか?」とあれこれ思い悩みながら人生を歩んでいる自分からすると、喜嶋先生の研究に対するどこまでも真摯な姿勢、生き方はとても輝かしいものに思えました。「おもしろくて仕方がない」「追究せずにはいられない」そんな研究対象と出会い、それをライフワークにできたら最高です。
▷『遠慮深いうたた寝』 小川 洋子 河出書房新社
ふらっと立ち寄った書店で、背表紙に惹かれて手に取った本です。
装丁は陶器のように美しい。小川洋子さんの日常を綴ったエッセイ。
日常を生きるということは、何かを読むことであり、書くに値することに出会うことでもあるのだと、気づかせてもらいました。
「何か本を読みたいけど、忙しくて本を読む時間がない!」と思っている人に紹介したい本です。読む前にこの本の美しい装丁をぜひ味わってみてください。
▷『だいありぃ 和田誠の日記 1953〜1956』文藝春秋 (この本は大人でも、子どもでも楽しめます)
イラストレーター和田誠さんの17歳〜19歳の手書きの日記を書籍化。
高校2年生から大学1年生までの和田さんが書き残した記録の数々。
たった一行「きのうと同じ」という日もあれば、観た映画についての詳細な記録を残している日や友人とのやり取りを書いている日があったり、『三四郎』を読んでいたり、淀川長治さんに手紙を書いていたり(返事のハガキの内容も記録してある!)。
こんな貴重な記録を読ませてもらえるのは、とてもありがたいことです。
▷『クラバート』 プロイスラー作 中村 浩三訳 偕成社 (この本も、大人でも、子どもでも楽しめます)
この本を初めて読んだのは中学1年の夏休み。
ページをめくる手が止まらなくなった感覚を今でも覚えています。
作者は『大どろぼうホッツェンプロッツ』で有名なプロイスラー。
水車場の見習いになったクラバートに様々な試練が待ち受けます。
クラバートは愛する人を救うことができるのか?
小学校中学年から大人まで楽しめる本です。
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→ 都丸先生が寄せてくれたこのお薦めを読み、すぐに以下のような主旨の返信を書きたくなりました。
『クラバート』について「ページをめくる手が止まらなくなった感覚」と読むと、自分がそういう状態になっている時の幸福感?を思い出したり、『イン・ザ・ミドル』のアトウェル氏にとっては『秘密の花園』がその1冊だったのだろうと考えたりします。小さい時に、たとえ1冊でもそういう本に出合うことができれば、それはその子どもの今後にとって大きな経験になるだろうと思います。
『喜嶋先生の静かな世界』は、読んだことがありませんでした。作家読みをする傾向のある私は、森氏の本も何冊か読んでいたのですが、あまりにも氏の著作数が多く、ちょっと困っていました。ですから氏のほかの本や選書の難しさについても言及したくなります。また、紹介文の「日々『これでいいのか?』とあれこれ思い悩みながら人生を歩んでいる自分からすると」という文を読んでびっくり。私からすると、都丸先生の予想外の一面を、本の紹介から見せていただいたように思いました。
→ 知人にメールを書くときに、「本のお薦めや紹介を一言入れる」と思いがけない収穫がありそうですし、逆も然りです。「一般的な」お薦めが、「自分仕様あるいは相手仕様」になるからです。結果として、自分仕様の読みたい本リストがさらに充実する可能性も高いです。
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(おまけ)
最後に私からも、主にここ1ヶ月ぐらいで読んだ本から、何冊かお薦めです。
1)『本屋さんで待ち合わせ』 (三浦しをん、大和書房、2012年)
この本の1ページ目に、「一応『書評集』」であり、「ちゃんとした評論ではもちろんなく、『好きだ!』『おもしろいっ』という咆哮」と説明されていますが、まさにその通りの本です。
私の知っている本はほとんど登場せず、知らない本ばかりでした。それでも、咆哮(?)の勢いに押されて、書評自体が楽しく読めました。著者は幅広い本を読んでいる人であること、勢いのある魅力的な文で本の紹介ができることもすごいなと思いました。
少し前に同じ著者の『舟を編む』(2012年の本屋大賞受賞)を薦めていただきました。それで同じ著者の本を読んでみようと思い、上記の本に出合いました。
→ 『舟を編む』を薦めていただいた人に「『舟を編む』を読みました」とお伝えしたところ、その返信で、歴史、経済、政治など、分野別にお薦め作家さんを複数教えていただきました。こちらも読んだことのない作家がほとんどでした。
→ 『舟を編む』をお薦めしていただいたことがきっかけで、『本屋さんで待ち合わせ』を読み、また、分野別のお薦め作家まで教えてもらえたのです。これも、「お薦め」に関わるやり取りの嬉しい収穫の一つです。
2) ブックガイドとして「も」楽しく読めるのは、7月16日の投稿「本について語り合う『幸福』」で紹介されていた『読書会という幸福』(向井和美、岩波新書、2022年)と7月23日の投稿「気がついたら、何度も本と対話しながら読んでいた『一万円選書』」で紹介した『一万円選書』(岩田徹、ポプラ新書、2021年)です。
ブックガイドとして考えると、『読書会という幸福』では比較的、一人で読むにはハードルが高そうな本も少なからず含まれています。『読書会という幸福』を先に読んでからそれらの本を読むと、著者自身が読んでいく上で苦労した点などもわかるので、「あ、ここは動きがなくて描写が延々と続くけど、ここでめげてはいけない」等、前もって励まし?を得ることもできます。
→ 『読書会という幸福』についても、この本に言及したおかげで、著者の師匠である東江一起さんが訳したお薦め本を教えていただくことができました。読みたい本がまた増えました。
3)『今を生きるための現代詩』(渡邊 十絲子、講談社現代新書, 2013年)
リーディング・ワークショップを学んだおかげで、いい詩にも多く出会うようになりました。それでも、「詩はうまく読めないなあ」「うまく教えることができないなあ」という意識をどこかでもっています。ですから、下のような文章に出合うと、詩についての(おそらく本についても同じだと思いますが)話し合いがつまらない理由の一つが「結論ありき」なんだなあと改めて思います。
「教科書は、詩というものを、作者の感動や思想を伝達する媒体としか見ていないようだった。だから教室では、その詩に出てくるむずかしいことばを辞書でしらべ、修辞的な技巧を説明し、『この詩で作者が言いたかったこと』を言い当てることを目標とする。国語の授業においては、詩を読む人はいつも、作者のこころのなかを言い当て、それにじょうずに共感することを求められている」
(渡邊十絲子『今を生きるための現代詩』 29ページ Kindle 版)
4) 『生のための授業』(マルクス・ベルンセン/清水満訳、新評論 2022年)
デンマークの教師10名の具体的な授業のやり方とその土台にある考え方を描いた本です。それぞれの教師の考え方や生き方が見えて来る本でした。8月13日の投稿で触れた「手法のショッピング」の先にあるものをたくさん感じられる本です。生き方の「選択肢」をたくさん学べる教育、それを体験することで生きやすくなる(救われる)子ども(大人)もいるだろうと思いながら読みました。
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(そして、今回の投稿のためにやりとりしていたところ、私の「おまけ」を読んだ都丸先生からさらにメールをいただきました。都丸先生の許可を得て、以下、抜粋します。1冊の本からのやりとりはどんどん続き、読みたい本もさらに増えます!)
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人からすすめられた本でも「自分には合わない」と感じることは、
よくあります。
やりとりの中で、その人が本のどこに魅力を感じたのかを知ることができると、
本の読み方も変わるかもしれないと思いました。
『本屋さんで待ち合わせ』と『今を生きるための現代詩』は
自分も以前に読みました。
三浦しをんさんが紹介していた『きのう何食べた?』(よしながふみ)は、
大好きな作品です。漫画です。
「何を食べるか」、「どう食べるか」だけでなく、
「誰と食べるか」が日々の生活の中でいかに大切かということに
気づかせてくれる作品です。
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