2019年11月30日土曜日

「作家読み」のためのリストから、絵本を少し紹介

 校内の図書館にある本から、「この作家なら、この1冊」という、「今後の作家読み」につながりそうな、簡単なお薦め(絵)本リストを作ってみました。リストに記載したのは以下です。

①著者名、② 書名、③個人的感想などを一言、④校内図書館にある、その著者の異なる本の冊数

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 私は英語を教えているので、リストは以下のような感じになります。
 ① Anthony Browne  ② Piggybook  ③ 母親が家事をするのを当たり前と思っていると、ブタになるかも? ④ 21冊

① Louis Sachar  ② Small Steps   ③ ニューベリー賞受賞の Holes の登場人物が活躍するスピンオフ作品。不器用な主人公にドキドキハラハラしながら読み、途中で深呼吸しないと読み続けられないぐらいでした。 ④ 15冊
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  私自身は、選書手段として、「作家読み」を一番よく使っているので、「作家読み」を後押しできるような、こういうリストも「あり」かな?と思っています。なお、このリストで紹介する本は、すべて、勤務校の図書館では作家の名前別で配架されています。
   
 「10歩以内で本が手に取れるのと、100歩以上歩かないと手に入らないのでは、自ずと読む量が変わってきます。これが、いくら立派な学校図書館があっても、多くの子どもたちがなかなか読むようにならない理由の一つではないでしょうか」と、『読書家の時間』36ページに記されています。本当にそのとおりだと思います。

 物理的環境が与える影響を否定するつもりはありませんし、本が10歩以内にあり、かつ、学期が進むにつれ、学習者の成長や単元に併せて、本の配置を変えたり、オススメ本を置く場所の本が増えたりする、それができればどんなにいいだろうかと思います。

  でも、諸事情で教室に図書コーナーがつくれない場合もあると思いますし、図書館でリーディング・ワークショップを行う先生もいらっしゃると思います。そうなると、校内の図書館(そしていずれは町の図書館)に、願わくば、少しでも頻繁に足を運べるようになるように、あの手この手を考える必要があります。トピック別や作家別のリストをつくり、その本を教室に持って行ってブックトークしたり、授業中にリストの本をできるだけ手にとって読むことも、その一つです。


  このリストに載せた(絵)本を調べてみると邦訳が出ているものも多いです。今日は、そのリストの「絵本」のところに入れた本から、邦訳が出ているものを中心に少し紹介します。「ひとりの作家から1冊だけ紹介し、あとはその作家を好きになって、どんどんその作家を読んでね!」というのが目的ですが、それぞれの作家から「この1冊」を選ぶのが難しくて、この手のリストをつくるときは、いつも苦労します。

 本好きの皆さんには、ご存じの作家、本ばかりかもしれませんし、皆さんなら、同じ作家から違う1冊を選ばれるかもしれません。なお、→ で個人的な感想を一言入れました。

・アンソニー・ブラウン 『おんぶはこりごり』
→ 「この1冊」を選ぶのが特に難しいアンソニー・ブラウンですが、メカに強いお母さんに敬意を表して、今回はこの本を選びました。
 


・ショーン・タン 『ロスト・シング』 
→ アカデミーの短編アニメーションも受賞している作品です。最近、ショーン・タンの個展も開催されたようです。行きたかったです。

・ジャネル・キャノン 『ともだち、なんだもん!』
→ 映画、アイ・アム・サムのなかで、サムの子どもの女の子が読んでいる絵本。この映画の中でこの絵本が読まれていることに納得です。

・トミー・デ・パオラ 『絵かきさんになりたいな』 

→ 最後の1ページ、なんともカッコイイです。

・マーラ・フレイジー 『あかちゃん社長がやってきた』

→ あかちゃんが生まれるというのは、こういうことなんですね!

・ジョン・バーニンガム 『コートニー』
→ 最後に近いページに、よく見ると浪の間にコートニーの姿が小さくあるところが気に入っています。

・バード・ベイラー 『わたしのおいわいのとき』
→ 独特の世界観が楽しめる作家です。

・ユリ・シュルヴィッツ 『おとうさんのちず』
→ 主人公の実体験に基づいています。食べ物が満足にない状態で地図を購入したお父さんの思いを考えてしまいます。


・シェル・シルヴァスタイン 『ぼくを探しに』
→ 人生を考える?絵本。この続編もお勧めです!

・クリス ヴァン・オールズバーグ 『西南号の遭難』
→ この作家は、村上春樹が何冊も翻訳しているようです。

◇ 「この作家ならこの1冊」と思った本の邦訳が見つけられなかった作家もいました。以下、その作家で邦訳が出ている中から、オススメを紹介します。

・ イヴ・バンティング 『スモーキーナイト』→ これはロス暴動が元になっています

・ピーター・レイノルズ 『てん』 → 『てん』から始まる3部作は、もう絵本としては「古典」の域?みたいな気すらします。

・メム・フォックス 『おばあちゃんのきおく』 → 読み聞かせの名手でもあるメム・フォックスが、記憶を失いつつある高齢者と男の子の交流を描きます。


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 このリストを作りながら、つくづく思うのは、「もっと範囲を広げたい!」です。過去の学習者に好評だった作家を中心に、毎年、図書館に、できるだけ「作家読み」ができるようにリクエストを出していますが、学習者と話していると、「あ、こういうトピックの本リストが必要なんだ」「この作家の本ももっとたくさん必要」と思わされることが多いです。また、私がすぐに対応できないジャンルや私が詳しくない分野の本への興味もでてきます。

 『イン・ザ・ミドル』では、著者のアトウェルやアトウェルの同僚の教師が、「生徒一人ひとりがリーディング・ゾーンに入れているかどうか、読むのを楽しめているのかどうかを確認する」ことを大切にしています(279ページ)。この一見シンプルに見えることを確実に行うために、アトウェルや同僚の教師が、いかに学習者をしっかり理解しているか、そしてそれに対応できるだけの知識をもっているかを、改めて思います。

 そして、自分には学習者の理解も、それに対応する知識も不十分であることを思い知らされます。学習者の興味やリクエストを教師が知っていく過程は、学習者が、教師を読み手として成長させてくれる過程でもあるようです。リーディング・ワークショップは、教師を読み手として成長させてくれる教え方だと、よく思いますが、生徒が成長させてくれるという部分も大きい気がします。

2019年11月22日金曜日

RW第Ⅰ期の生徒たちの様子を踏まえた第Ⅱ期の構想


新潟の佐藤さんのRW実践を、http://wwletter.blogspot.com/2019/11/blog-post.htmlで紹介しました。かなりの反響がありました。「自分もやれると思った」「生徒の生の声を送ってほしい」など。
その後、佐藤さんから以下のメールをもらいました。

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今回、RWをやって、その後の生徒の所感をGoogleフォームで集めたのは以前お話ししたとおりです。

RW以外でも、今年度の3年生は、総合の時間(内容は修学旅行、キャリア)の単元ごとの振り返りでGoogleフォームを活用しています。RWの振り返り入力で6回目くらいだと思います。

そうした中で、生徒に大きな変化がありました。
家でゆっくり自分の学習を振り返ることができる。好きな時間に。(生徒のフォームへの入力時間は個人によって相当に違います。)
回答の文章の長さが、どんどん長くなります。書きたいことを書くようになります。
回答を印刷して共有するので、書いていいことかどうか、自分で精査するようになります。
回答を印刷して共有するので、コメントを入力すればするほど、他者のコメントへの関心が高まります。
スマホ、またはPCから入力するので、書字に不安のある生徒でも安心できます。
書くことが自然になります。
授業のことについてコメントを求めるので、RWで培った、自分なりの意味を実際に構築する場面として活用できます。もちろん自分への期待も!
などなど。
特に、次の授業への期待についてコメントを求めると、本当に自分がしたいことを書いてくるようになりました。それを受けて、授業を作っていくことができます。これは生徒も教師もWin Winだと思います。

主体的で対話的って、こういうことかな、と思います。
生徒が勝手に主体的になっていきます。

今後なんですが、こんなことを考えています。

Googleフォームでの振り返りと、その共有を繰り返していく。
私がブログを開設して、生徒の作品や、授業のことを公開していき、生徒にコメントを求めることを繰り返していく。またはGoogleドキュメントの共同編集を使う。
③①からへの流れに慣れることができて初めて、子どもたちはSNSTwitterやインスタ)で学習内容の交流ができるようになる。

こういう国語の授業があってもいいのではないかと思うし、実際、こうした授業でもしないとSNSトラブルなんて減らないし、常に問題発生の後追いになるのでは。

いつまでに、ということではないのですが、生徒の時間と学習の手段に自由度を持たせられるようにしたいなあと夢見ております。

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  そこで、第Ⅱ期の進め方を教えてほしいとお願いしたところ、以下の資料が送られてきました。まだ構想段階なので、前回と今回のを読まれて、感想・質問・提案などがありましたら、佐藤さんの実践をさらによくするために、ぜひお送りください。お願いします。

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【第II期の取組の柱】
何よりも優先して『生徒のニーズ』に応える!

I期の振り返りで得られた『生徒のニーズ』は、およそ以下の通り。

違うジャンルに挑戦したい、レター・エッセイを書く時間がもっと欲しい、レター・エッセイをもっと上手く書きたい、本の中の表現技法にもっと気付きたい、分からない言葉を辞書で調べたい、先生のオススメ本を紹介して欲しい、表現やセリフなどを抜き出して皆で話し合いたい、時間の使い方を考えたい、スキルをもっと使えるようになりたい、自分の視野を拡げていきたい、もっとゆっくり読む場所や時間が欲しい、もっと読了したいetc
     
I期で最も生徒が使ったと実感しているスキルは「映像化」「推測」だった。これ以外のスキルに目が行くようにミニ・レッスンをする。
絵本を活用する。読みの苦手な生徒、「映像化」「推測」のスキルをうまく使えない生徒は、第I期でそれが自覚できているので、絵本を推奨し、相互にやり取りしながら体験的に学んでもらう。(同じ本を読んだ上での思考のやりとりの機会ももつ。)

II期 13時間〜18時間を生徒に委ねる!

全時間を示し、生徒が自分で時間配分を計画できるようにする。その中で、「テスト」というジャンルに時間を使うことを4時間に1回許可する。受験期の不安と学びの本質の両立に対応するため。(早い生徒は1月に進学先が決まる。遅い生徒は3月後半である。生徒自身に自分に合う学習プランを立てさせたい。)
I期のルーブリックの内容を絞り、言葉を優しくし、生徒に示し直す。
希望があればPCを使った成果物づくりを一部でも可能にしたい。短いエッセイならばGoogleフォーム入力による提出を試してみる。

【『生徒のニーズ』の集め方】
経験を積むことが重要ポイント

今年度は、第I期として4クラス全部でRW1013時間程度実施している。
生徒の半分は、前年度からRWを経験している。(佐藤担当2クラスのみ)
今年度は、RWの振り返りを、レジュメに記述する方式(授業時に書く)と、Googleフォームで実施する方式(家庭で入力する)の2種類を行っている。
RW以外でも、生徒は、総合的な学習の時間(内容は修学旅行、キャリア)の単元ごとの振り返りでGoogleフォーム入力を経験している。第 IRWの振り返り入力までに6回ほどの経験がある。

Googleフォームによる振り返りが生徒をさらに育てる!

Googleフォームの効用
家でゆっくり自分の学習を振り返ることができる。好きな時間にできる。(生徒のフォームへの入力時間は個人によって相当に違う。)
回答の文章の長さが、どんどん長くなる。書きたいことを書くようになる。
回答を印刷して共有するので、書いていいことかどうか、自分で精査するようになる。
回答を印刷して共有するので、コメントを入力すればするほど、他者のコメントへの関心が高まる。
スマホ、またはPCから入力するので、書字に不安のある生徒でも安心して参加できる。
日常的に、書くことが自然になる。
授業のことについてコメントを求めるので、RWで培った、自分なりの意味を実際に構築する場面として活用できる。もちろん自分への期待も!

特に、「次の授業への期待」についてコメントを求めると、本当に「自分がしたいこと」を書いてくるようになった。教師は、生徒のニーズを把握しやすくなる、それを受けて、授業を作っていくことができる。これは生徒も教師もWin-Winの循環だと思う。生徒が勝手に主体的になっていくのが嬉しい。
RWだけでなく、読み書きのスキルを実践的に使う総合的な学習の時間でも、生徒はGoogleフォームでの振り返りを複数回経験した。これらが関連づくことによって、生徒が何かしらの影響を受け、生徒の変容に繋がったのではないかと考えている。
「慣れる(なれる)」ことによって「熟れる(なれる)」ということ。

【これからの夢・理想の授業】
「読むこと」「書くこと」を生活につなげる!

Googleフォームでの振り返りと、その共有を繰り返していく。
教師がブログを開設して、生徒の成果物や、授業のことを公開していき、生徒にコメントを求めることを繰り返していく。または、Googleドキュメントの共同編集を使って、成果物作成をWeb上で行う。

からへの流れに慣れることや、Web上のやりとりについて学習できて、初めて、子どもたちはSNSTwitterやインスタ)で学習内容の交流ができるようになると思う(熟れる)。
 実際、こうした授業でもしないとSNSトラブルなんて減らない。生徒も教師も学ばなければ、常に問題発生の後追いになり、しかも状況を変えられない負のスパイラルが続くことになる。

いつまでに、ということではないが、生徒の時間と学習の手段に、もっともっと自由度を持たせられるようにしたい。
つくづく、コンピュータ室なんていらないから、1人に1台のChrome bookとか、iPad miniで十分!)が欲しいものだと思う。

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 感想・質問・提案など、よろしくお願いします。


2019年11月16日土曜日

そのものを理解するためにはWHYから始めよ!




 『理解するってどういうこと?』の第9章「感じるために、記憶するために、理解するために」には、著者キーンさんの「親友」であるブルース・モーガンという先生のことが書かれています。「感情がどのように理解に影響を及ぼすのか」についてキーンさんに大きな影響を与えた人物でもあります。「彼は思春期直前の子どもたちの不安や優柔不断さに対して果敢に挑戦し、子どもたちが自分自身やお互いに正直になれるように刺激し、励まし、問いかけます」(344ページ)とキーンさんは書いています。モーガン先生はこうして子どもたちばかりでなく周囲の人々の学ぶ「歓び」を呼び起こすのです。

 どのような問いかけが、私たちの学ぶ「歓び」を呼び起こすのでしょうか。

 TEDTechnology Entertainment Design)スピーカーの一人である、サイモン・シネックの『WHYから始めよ!インスパイア型リーダーはここが違う』(栗木さつき訳、日本経済新聞出版社、2012年)にはそのためのいくつものヒントが示されています。

たとえば、コンピュータの売り込みについての次のような二つのメッセージを読んでみてください(『WHYから始めよ』の48ページから49ページにシネックがあげているものです)。



①われわれは、すばらしいコンピュータをつくっています。

  美しいデザイン、シンプルな操作法。取り扱いも簡単。

  一台、いかがですか?



②現状に挑戦し、他者とは違う考え方をする。それが私たちの信条です。

 製品を美しくデザインし、操作法をシンプルにし、取り扱いを簡単にすることで、私たちは現状に挑戦しています。

 その結果、すばらしいコンピュータが誕生しました。

 一台、いかがですか?



①と②との違いをどのように考えますか。いや、どちらのメッセージが「買いたい」という気持ちを起こすでしょうか? メッセージを受け取る側を「鼓舞」するでしょうか? ①はコンピュータをつくる側のWHAT(していること)をそのまま伝えています。それはそれで、受け取る人の「なるほど」という思いを引き出すでしょう。これに対して②の一文目と二文目は、WHAT(していること)そのものではなく、している理由(WHY)を提示しています。

  「一台、いかがですか?」と言われて、私がその製品を手に取ってみようと思ったのは、②の方でした。何をどのようにつくったのか、ということを聞かされるよりも、なぜそれをつくったのかということをぶつけられた方が、対象に対する興味を引き出されます。「考え方」や「信条」や「挑戦」についてもっと知りたいと思うのです。

  ちなみに、この②は「アップル」のメッセージの提示の仕方です。シネックは言います。



「製品が優れているから、アップルが抜きんでた存在として認識されているわけではない。アップルのWHAT、つまり製品は、かれらの信念が具現化したものだ。かれらのWHATと、それをしているWHYのあいだに明確な相互関係があるからこそ、アップルは傑出した存在となっている。だから私たちはアップルを本物と見なす。アップルがしていることはどれをとっても、かれらのWHY、つまり「現状への挑戦」の実演である。どんな製品をつくろうが、どんな産業に算入しようが、アップルの「シンク・ディファレント」(異なる考え方をしろ)はつねに明確だ。」(52ページ)



誤解のないように言えば、私は「アップル」のコンピュータのユーザーではありません。だから「アップル」の「製品」の質についてとやかく言う資格はありません。ですが、そのことはいまの問題ではありません。何をどのようにつくったのかということを説明されても、モノを買う気は起こらないけれども、つくった理由を語られるとモノを買う気が引き出されるということが問題です。

 この問題は、あるものを「理解する」という行為にとって、決定的に重要です。目の前に見えているものや聞こえてくることが、どうしてそのようなかたちでそこにあるのかという理由を考えていくことが、そのものを「理解する」ということの第一歩であることは間違いのないことだからです。

 キーンさんは、モーガン先生が街を散歩したときにその街並みについて「たくさんの観察」をしながら次のように問いかけたことを紹介しています。



「あそこでミッドセンチュリーモダンをつくっているのに気づいた?(私の答えは、もちろん「いいえ」です)、何しているんだと思う? どうして緑色に塗ったんだろうね? (私に答えられるわけがありません)、あの正面のデザインをどう思う? なぜまわりの建物と調和するように考えなかったんだろうね? どうしてこのあたりにオープンスペースを作ろうと誰も計画しなかったんだろうって思ったことないかい? まったく素晴らしい町だよね?」彼はとどまることがありません。そうなんです、とどまらないのです。彼とほかの町に行ったときにも、今みたいなたくさんの質問を繰り返すのです。私たちが一緒に行った、シカゴでの90分予定の建築ツアーは3時間にも及びました。他のツアー参加者たちはだんだんと一人去り二人去りして、残ったのはとうとう私と、ブルースと、くたびれきったガイドだけでした。」(『理解するってどういうこと?』341ページ)



 明らかにブルース先生の「とどまらない」問いかけはWHYの問いかけです。その街の景観がどうしてそうなっているのかということを問いかけています。私もシカゴのリバークルーズに参加したことはありますが、とてもこのようなWHYの問いを繰り返すことはできませんでした。しかし、モーガン先生のような問いを発してみれば、少なくともこの街がこのようにつくられた理由を考えることができます。シカゴの街を「理解する」きっかけになることは確かです。そう考えると、キーンさんが言うようにモーガン先生が子どもたちの目と心を「鼓舞」している理由がわかるのです。



「人間の行動に影響を及ぼす方法は、ふたつしかない。操作(マニピュレイト)するか、鼓舞(インスパイア)するか、だ。」(『WHYから始めよ!』12ページ)



モーガン先生は「鼓舞する(インスパイア)」という方法で子どもたちの行動に影響を与え、学ぶ「歓び」をもたらし続けているのではないでしょうか。『WHYから始めよ!』のシネックの言葉を手がかりにしてモーガン先生の言葉を読み直してみると、そこには、理解を引き出し、学ぶことを「生きる歓び」に満ちたものにする手がかりがたくさんあることがわかるのです。何がどうなっているかという問いよりも、なぜそうなっているのかという問いから始めることがそのものの深い理解を生み出すのです。「人々は、あなたのWHATを買うわけではない。あなたがそれをしているWHYを買う。」(『WHYから始めよ!』50ページ)

2019年11月8日金曜日

「自分にとってのブッククラブ」


『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』の増補版を出すにあたって、数人の過去数年ブッククラブを数多く実施している人に「自分にとってのブッククラブ」というテーマで寄稿してもらいました。
 そのうちの二人分を紹介します。

●廣瀬充さん――研究会や学会に勝る優れた学びの方法

 中高一貫校の教員です。主に、知り合いの教員同士で教育関係の本を選んでブッククラブを行っています。基本的にはオンラインで行っていますが、ほかの仕事もあるので、極力「通勤時間のみ」と決めてやっています(ほかの人のコメントを見るのが楽しみで、結局、それ以外の時間もちょくちょく開いてしまうのですが……)。スマホに「Googleドキュメント」を入れておけば、通勤電車の中で読んだり書いたりすることができます。
 ブッククラブに出合う前は、研究会や学会、フォーラムに参加することが主な勉強の手段でした。これらの場合、その時は「いろいろ勉強したなあ」という感じにはなるものの、どうもイベントチックに終わってしまったり、その場かぎりのものだったりして、なかなか日々の実践が変わったり、継続的な取り組みに発展することにならないという課題意識をもっていました。そんな時にブッククラブという方法に出合い、その有効性を今は十分に感じています。
 自然と話題がそれぞれの授業の話にも及ぶことが多いので、わざわざ研究会などに行かずとも、自分の実践を聞いてもらったり、ほかの人の実践を聞いたりすることができます。また、私の場合、一人ではなかなか読む気になれない洋書を読む機会が得られたことは、自らの幅を広げてくれたようにも思います。
 人が学び続けるコツは、「誰かと」、「気軽に」、「細く長く」の三つだと思っていますが、オンラインのブッククラブはそれらを満たす最高の方法と言えます。

●小見まいこさん――三つの意義を見いだして、積極的に活用中!

 私がブッククラブを続ける意義は三つあります。第一に、「主体的で対話的な深い学び」の機会です。主体的に選書し、仲間を集めて、毎週読み続けること。メールでのやり取りや読書を通して、仲間や自分自身と対話すること。そして、読書で得た知識と実践を往還し、深い理解へと昇華させることです。それは、まさに、今学校に求められている「主体的で対話的な深い学び」を自らの日常で実践していることだと感じています。
 第二に、学びにおける実践コミュニティーをつくることです。役割や立場の違う人とブッククラブをすることで、いろいろな視点から教育をとらえ、自分の実践を俯瞰することができます。また、ブッククラブでのやり取りを通して、互いの考えや価値観を共有することができ、信頼関係が深まります。メール上だけでなく、授業の相談に乗ってもらう、互いの授業や研修の参観をするなど、実際の現場におけるかかわりもかなり増えてきました。
 第三に、講座のアフターフォローとしての活用です。私は、教育支援NPOという立場で、教育に携わる方を対象にした研修会を定期的に開催しています。1回の講座で終わるのではなく、参加者と学び続ける関係性をつくりたいと講座修了生に働きかけて、ブッククラブをすることがあります。そのなかで、本の内容だけでなく、お互いの近況やオススメの本などを共有しています。続けていくなかで、私自身も含めてですが、困った時のサードプレイスのような居場所や心の拠り所になっている人もいるようです。
 ブッククラブを実施する際に工夫していることは、読み終わったあと、実際に集まってダイアログをすることです。本を読んでみて、自分のなかで生まれた問いや変化したことなどを共有し、本で得た学びや収穫を語り合っています。そうすることで、本の「総まとめ」をすることができ、次なる学びに向かう力も湧いてきます。物理的なことが理由で叶わない場合もありますが、その場合はテレビ会議システムなどを活用すれば可能となります。

 本には、小学校1年生と6年生の授業での実践も含めて多様な事例や、ブッククラブの歴史やブッククラブを通して得られる様々な力などについて詳しく紹介されています。まだ読まれていない方は、①自分の学びをさらに進化させるためと、②自分が受け持っている生徒/学生たちの学びを拡張するために、ぜひ読んでみてください。「読むこと」は決して一人だけで行うものではない、という大きな意識転換にもなります。(もちろん、ブッククラブ形式で読んだ方が、効果は大きいです!)

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2019年11月1日金曜日

生徒も!教師も!RWが育む「自分への期待」


 新潟の公立中学校の先生の佐藤可奈子さんがリーディング・ワークショップ(以下、RWと略す)の実践記録を送ってくれたので、そのダイジェスト版をこのブログ用に書いてもらいましたので紹介します。

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 2019年度、中学3年生の国語科カリキュラムにRWを設定してみました。2期に分けて、1期につき13時間程度、年合計26~30時間を目途に4クラスに対して行います。前期末にRW1期を終了しました。RWの時間は、教科書教材を取り扱う時間をぎゅっと圧縮して生み出します。教科書教材「を」教えようとしなければ可能だと思います。

 今回は、同じ学年を担当する同僚とRWに挑戦しました。以下は同僚の声です。
RWは、とてもよくできた仕組みだと思った。自分は『イン・ザ・ミドル』を読んでいないが、日常の中で授業を見たり、RW実践経験者と一緒に授業をすることで、生徒がどんどん読めるようになり、書けるようになることが実感できた。一部の読みの困難な生徒について、初めてのことなのでお互いにうまくいくようにはできなかった。第2期への課題だ。また、授業の空気感は重要だ。図書館に自由に放牧するのではなく、目的意識を明確にして授業の見通しを生徒に示すことがRWのキモだと感じた。日常の授業で「教科書を」教えるのではなく、「教科書で」スキルや知識を扱うようにしておかないと、生徒が、このRWを理解出来ないと思った。今の2年生にはそうした取組がされていないので、来年度、RWは無理かもしれない。また、自分だけで実践する自信がない。私のような、ありきたりな教師をもっと使ってもらい、いろいろ実験してもらいたい。実験体になりたい。生徒への声かけや対応について、どうすればいいの?と思ったとき、佐藤から『イン・ザ・ミドル』の一部を見せてもらった。言葉がけの内容まで公開しているナンシーさんに驚いた。」

 同僚は、2期への課題を自分で発見しています。また、これまでの教科書「を」教える授業の問題にも気づき、体験的に学びたいと考えています。
 生徒も同様の反応が多く見られました。1期終了後、Googleフォームを通して「1期の振り返りと2期への期待」のコメントを集めました。この振り返りには、第2期での「自分への期待」が多く綴られ、前向きな意欲とエネルギーを感じました。生徒のレジュメの厚さが日に日に増していくのが、私自身うれしかったし、生徒の自信につながると思いました。

 習った知識やスキルを使う機会があり、それをやり直す機会もあることで、学びのサイクルが回るのだと実感しました。教科書を教える授業の意味のなさ、ドリル学習の意味のなさ、勉強嫌いを生産するシステムを変えて行くには、どうしたらいいのか、RWの実践を通して、その答えを得た思いがしました。

 第2期は受験期に実施することになります。そのため、各自で自分のRWスケジュールを決めてもらおうかと思案中。RWの期間に、週1時間だけ「テストというジャンル」の学習を認めようと考えています。学びのハンドルを生徒の手に持たせることが2期の目標です。

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 生徒たちの振り返りを読んでみたい方は、pro.workshop@gmail.com宛にメールをください。お送りしますので。また、第1期と第2期用のカリキュラム概要は以下の通りです。
この表から佐藤さんたちが達成しようとしていることが明らかになると思います。なお、佐藤さんにとってRWの実践は今回が2回目です。昨年度2年生2クラスで約1か月(13時間)程度行っていました。