2013年2月22日金曜日

読み手としての失敗・成功を語れる本

  RWでは教師はモデル、とよく言われます。

 「モデル」と思うと、「いい例を見せたい!」という気持ちになったりもします。実際、「読み手のモデル」という目で、自分を振り返ると、「詩が面白い」と初めて思わせてくれた詩、引き込まれて夢中で読んだ本、読めないと思っていたジャンルの本が楽しめたときのこと等々、成功体験に関わる本や出来事にまず目がいきます。

 しかし、考えてみると、読み手としての失敗をはっきり示している本や出来事があること、そしてその失敗から学習者に語れることも多いことに、気付きます。

 ですから「読み手としての失敗を語れる本も、自分のミニ・レッスンの引き出しにいれておこう」と思います。「なぜ読めないのかということ」を、教師が実感に基づいて語れるミニ・レッスンがつくれるからです。時には、失敗(お薦めできないこと)を使って、お薦めしたい読み方を語るのは、いかがでしょうか?

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 以下は私が読み手としての失敗を語れる本です。

 私は英語を教えているので、どうしても英語の読み物に目が行きますが、読み手としての自分の失敗が語れるのは、『ナルニア国物語』の最終巻(『さいごの戦い』)の英語版です。★

 これは30年以上前にもらった本です。内容どころか、読んだのかどうかさえも覚えていません。開いてみると、見覚えのある自分の字で、分からない単語の下に意味が書き込んでありますから、30年以上前に、読もうとはしたようです。ただ、その書き込みも、半分ぐらいまでしかありませんから、そこからあとは挫折したようです。

 30年と少し前の私は、「これじゃあ、読めるはずがないよね」という読み方で読んでいたのがよく分かります。

 例えば、『ナルニア国物語』について何も知らずに、いきなり最終巻(『さいごの戦い』を読もうとしています。また、自分のレベルでは読めない本を、時間がかかりながら読んでいたのでしょう。これでは話も忘れるし、楽しくなかったと思います。「1ページ目から、単語を調べて書き込む」という「一つの読み方しか知らなかった」のだろう、ということも簡単に想像できます。

 150ページ以上ある本を1ヶ月かけて挫折するのでなくて、まずは「短い本をどんどん読み終わる経験を積んで、少しずつステップを上げていくこと」、「1ページ目を読む前に読み手が行うこと」、「長い本を読むときに助けになること」等々、この「失敗を語れる」本から教えられることは多そうです。おそらく、この本は、私のクラスでは、来年度、比較的早い時期でのミニ・レッスンに登場するのではないかと思います。

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★ 手元にあるのはPenguin Books から出ている、C. S. Lewis の The Last Battleで、1956年のものです。なお、 RWに関わってからしばらくして『ナルニア国物語』は7巻とも英語で夢中で読みました。そういう意味では、読み手としての成長も後日、感じられた本でもあります。

2013年2月15日金曜日

ブッククラブの長~い歴史


 前回に続いて「歴史」についての情報です。
最近出た『読書をさらに楽しくするブッククラブ』RWの大切な要素のひとつ)では、具体的な事例を中心に、その効用や運営の仕方について紹介することが中心だったので、歴史的な部分については最小限(=日本の戦前・戦中以降)になっています。
今回は、その歴史について本を書き終えたあとに見つけた情報を紹介します。それらからは、ブッククラブが人と本との付き合いが始まって以来、連綿と受け継がれてきた方法であることがわかります。私たちはそれを長い間忘れていただけだということも。

『新・本とつきあう法』(津野海太郎著、中公新書)の163ページに、アメリカ建国の父の一人といわれるベンジャミン・フランクリンが「1731年、当時はまだ20代で、友人たちの蔵書を一か所にあつめて私的な読書クラブを組織した」のがアメリカにおける公共図書館のはじまりと書いてあります。
 『市民結社と民主主義』(ホフマン著、岩波書店)の28~29ページには、読書クラブは18世紀初めにイギリスで誕生したこと、ドイツで最初の読書協会は1760年に成立されたが、30年後には500以上に達していたことなどが書かれています。
 『江戸の読書会』(前田勉著、平凡社)の8~12ページには、色川大吉が明治の自由民権運動の時代は「学習熱の時代」であったことを指摘したことを紹介したうえで、それは江戸時代、全国各地の藩校や私塾★で行われていた会読という「定期的に集まって、複数の参加者があらかじめ決めておいた一冊のテキストを、討論しながら読み合う共同読書の方法」の遺産だとしています。

 このように洋の東西を問わず、私たちは本ができていらいブッククラブ(読書会)に親しんできたわけですが、いつのまにか「一人静かに読むもの」にしてしまったようです。もったいないです。上記の本の効用(特に、パート1の第3章)をご覧いただければ、ブッククラブをしないことで失われるものの多さに驚くはずです。

 なお、ブッククラブは読書や国語の時間にその使用が限定されるものではありません。教科の壁はありません。ぜひ、本物の本(や関連する記事)を使って各教科で取り組んでみてください。それによって、その教科が好きになる子が必ず増えるはずです。本物のパワーはそれほど強力です。特に、教科書(=偽物?★★)をなかなか受け付けない子たちにとっては、救いとなるでしょう。

 ちなみに、本ができる前に存在した長~い「語り」の時代には、語り聞いた後に、話し合いはしていたのでしょうか?


★ 寺子屋では、この方法は使われませんでした。
★★ ここでは、「本物」に対して「偽物」としただけです。少なくとも「読み物」として作られた代物ではありません。

2013年2月8日金曜日

RWはニュージーランドではじまった?


 これまで、RWWWがあまりにも効果的なので、それを読むことに応用して誕生したと思い込んでいました(どこかにそう書いてあったのを読んだ記憶があります)。しかし、一方で、この種の教え方・学び方はニュージーランドやオーストラリアではじまった、ということも読んでいた記憶がありました。そこで、年末から年始にかけて綴方関連の資料を読み漁るのに並行して、南半球の国々の本も読んでみました。

 そして発見したことは、すでにIndependence in Reading (by Don Holdaway)という本の中で、RWらしきものが行なわれていた、という事実です。これの初版は、1972年ですから、1960年代の末にはすでにニュージーランドで実践されていたことが想像されます。(私が読んだのは1980年発行の第2版ですから、1970年代を通じて実践されていたことも、わかります。)その何よりの証拠は、1時間の流れが紹介されている以下の図(43ページ)です。


  ミニ・レッスンの代わりにOpening activitiesとなっている以外は、ほぼRWそのものと言えます。時間の配分も、まさにRWそのものです。「静かにして、ひたすら読む」時間=教師はカンファランスをしている時間が、8割ぐらいを占めています。★
 Group Teachingというのは、同じような課題を抱えた子たちを集めて教えることを指しています。「ガイド読み」もすでにこの当時からやられていた手法なわけです。

 この本の参考文献を見ると、Jeannette Veatchというアメリカ人が書いた本が3冊あげられており、その中の一冊はIndividualizing Your Reading Programというタイトルで初版が1959年に出ています。ひょっとすると、上で紹介したIndependence in Readingはこの本に影響を強く受けたのかもしれない、と思わせます。ということは、出発点はやはりアメリカ、ということになるかもしれません。興味のある方(+英語に挑戦したい方)は、ぜひ原書に当たってみてください。この本、どういうわけか50年以上経った去年、再刊されています。

 ちなみに、Independence in Readingも、Individualizing Your Reading Programも、子どもたちみんなが同じものを読まされる教科書アプローチからの解放を中心にしているのでIndependenceIndividualizingという言葉が使われています。つまり、各自が自分にあった本を読むアプローチです。これは、日本の国語教育ではいまだに検討されていないことではないでしょうか? それとも、綴方教育の随意選題★★と同じように、好きな本を読んでもOKという実践が日本で行われたためしはあったのでしょうか? 


★ 時間の割合を、40分、60分、90分の3種類で紹介しているのが、面白い/不思議だと思いませんか? これにはいくつかの理由が考えられます。①学年による違い、②年度当初と終わりごろの違い。いずれにしても根底にあるのは、管理する側の都合で時間の使い方を一律にするのではなく、学ぶ側の学びやすさを重視して、臨機応変に時間割は変えていいんだ/変える方が効果的なんだ、という姿勢です。 ぜひ、皆さんも子どもたちを枠組みに合わせるのではなく、枠組みを子どもたちに合わせる実践に挑戦してください。それができるようになると、これまでには見えなかった、いろいろな可能性が実現し出すはずです。

★★ 随意選題の芦田恵之助さんも、読みの分野では文部省、朝鮮、南洋群島と3度も読本編纂(教科書作り)に関わって、教科書大好き人間だったようです。そして、退職後は26年間も日本全国を教壇行脚(モデル授業)してまわったので有名な人なのですが、授業でしたのは綴方ではなく、読むほう専門だったようです。それも、極めて伝統的なアプローチで。

2013年2月1日金曜日

本棚の二つの段

  1月11日のRWWW便りでは教室内の物理的環境(とその変化)について書きました。
 
 物理的環境の中でも、本棚での配列やどんな分類で本のバスケットをつくるのかを考えると、「作家」、「テーマ」、「難易度」、「ジャンル」など、いろいろな分け方が頭に浮かびます。

 まずは、新年度の前に二つの段(あるいはバスケット)を確保するのはいかがでしょうか。

 ひとつの段(あるいはバスケット)は、新学期が始まる時点では空です。なので、準備としては、そのスペースを確保するだけです。ここは学期が始まると、クラスの子どもたちのお気に入りやお薦め本が、少しずつ入っていくところです。★

 もうひとつは、先生の段(あるいはバスケット)。先生が情熱をもって語れる、先生の大好きな本で、かつ子どもたちも読めそうな本が入るところです。ここは新学期の前に何冊かはいれておきたいです。★★

 この二つの段は、作家、テーマ、難易度、ジャンルなどが混じる段でもあり、「好き」が選択の基準になるスペースです。

 本棚の配置も、RWも「好き」からスタートする、悪くないのでは?と思うからです。

 そこから、一人ひとりが、自分に合ったものを読み進められるように、いろいろな工夫や指導を考えていくのも、RW開始のひとつの方法のように思います。

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 ★ 1月11日のRWWW便りでも紹介した、Nancie Atwell氏のReading in the Middle: Workshop Essentials 2011, Heinemann)のDVDでは、アトウエル氏が新学期前、空の本棚を前にしてそのスペースを説明しています。

★★ 先生の段ですが、これは、Steven L. Layne氏のIgniting a Passion for Reading: Successful Strategies for Building Lifetime Readers (Stenhouse,2009) という本のなかに、目立つ場所に本立てをおいて1冊の本を置く、そこに「先生が今読んでいる本」というサインをつけておく、こんな実践紹介が載っていました(7071ページ)。それを読んでいるうちに、新学期の前に、「先生の大好き!本」の段(バスケット)もつくっておきたいなと思いました。