2025年9月12日金曜日

The Artful Read-Aloud: 10 Principles to Inspire, Engage, and Transform Learning (『心を動かす読み聞かせ―学びを刺激し、引き込み、変革する10の原則』)レベッカ・ベリングハム著のレビュー

 このレビューを書いたのは、中学校で国語を教えるジェニー・ランドール先生です。

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私は本を読むのが大好きです。財布やスマホ、鍵を持たずに家を出るなんて考えられないのと同じで、本を持たずに出かけるなんてありえません。ところが、私の中学校のクラスで読み聞かせを続けるのはとても難しいと感じてきました。そんな思いから、レベッカ・ベリングハムの著書『The Artful Read-Aloud』を手に取りました。

ちょうどこの本を読み進めていたころ、私の教師としての日常が一気に崩れました。世界中の学校と同じように、私の学校も閉鎖になったのです(4年半ほど前の話です!)。離れ離れになった生徒たちとつながり続け、学びを続ける方法を探しながら過ごしました。そんな中で「読み聞かせ」についての本を読むのは、なんだか皮肉なことのように感じました。

でも、毎晩『The Artful Read-Aloud』に戻るうちに、読み聞かせが不安定な時期にどれほど強力なツールになるかに気づきました。物語は、時間も距離も越えて私たちをつなげてくれるのです。だから、私が生徒たちのために撮った最初の動画は読み聞かせでした。そして気づいたのです——私は流暢に、感情を込めて読むことはできるけれど、まだまだ学ぶべきことがたくさんある、と。

ベリングハムは本書を、「生徒の心を動かす読み聞かせのための10の原則」を中心に構成しています。たとえば「本文になりきる(Embody the Text)」「顔を上げて読む(Look Up)」「(生徒たちの本に関する)会話を引き出す(Invite Conversation)」といった原則です。それぞれの原則には、具体的なコツが例や写真とともに紹介されています。

読み聞かせで実際に使える資料――アンカーチャート、グラフィック・オーガナイザー、本文への書き込み例――も掲載されていて、読者が具体的な場面をイメージしやすくなっています。ベリングハムは、生徒への読み聞かせの経験、教師へのコーチング★経験、そして女優やリテラシー・コーチ★としてのキャリアから得た知見を惜しみなく紹介しています。

 

国語の授業を超えて

ベリングハムは、読み聞かせがリーディングとライティング・ワークショップを支える方法を示すだけでなく、国語以外の授業にも広げて考えています。

たとえば、第七の原則「驚きを大切に(Be Awed)」では、生徒を「わくわくさせる」ことを勧めています。「理科や社会などのユニットの導入で絵本を使えば、生徒の興味を一気に引き出し、すぐに背景知識を与えることができます」(p.91)。

昨年の秋、私は個人叙述のユニットで、6年生(アメリカでは中学1年生)のクラスにジャクリーン・ウッドソンの『Brown Girl Dreaming』(わたしは夢を見つづける ジャクリーン・ウッドソン作 ; さくまゆみこ訳  小学館 2021年)を読み始めました。私の落とし穴の一つは、読みながら自分の思考をすべて声に出して説明してしまったこと★★です。ある日読み始めたとき、生徒の一人が「先生、ただ読んでくれますか?」と尋ねました。「あれこれしゃべらずに?」と、私が言葉を補いました。恥ずかしくなって、そのあとはウッドソンの美しい作品そのものに語らせました。だからこそ、ベリングハムが「読むこと」と「語ること」のバランスについて丁寧に考察している部分が、とてもありがたく感じられました。

The Artful Read-Aloud』を読み終えたあと、私はパム・ムニョス・ライアンの『Mañanaland』(明日の国  パム・ムニョス・ライアン著 ; 中野怜奈訳  静山社, 2022年)を読み始めました。すると、物語を主役に据えつつ、生徒たちを引き込むチャンスを探しながら読む、自分の読み方が変わっていることに気づきました。

第四の原則「顔を上げて読む(Look Up)」で、ベリングハムはこう提案しています。「子どもたちを共演者にすることで、場面のドラマ性が高まり、子どもたちは場面の細やかなニュアンスにアクセスできるようになります」(p.59)。私も読みながら、どこで立ち止まり会話を促すかを探しましたが、それは慎重に選ばなければならないと感じました。

ベリングハムは、授業での対話を支えるためのツールも用意しています。読み聞かせ以外の場面でも使えるコツや発問が紹介されているのです。中でも秀逸なのが、文章の難易度別に整理された質問の一覧表(p.68)。また、「正しいかどうかをすぐに言わないで待つ」(p.50)といった対話のヒントや、理解に苦しむ生徒をうまく導くための工夫など、授業全般に応用できるアイディアも多く紹介されています。

 

日々の授業準備を超えて

教師に役立つのは、授業準備を導くための工夫も紹介されている点です。たとえば、「子どもの本を読むときに心に留めておきたい意味づけのための質問リスト」(p.38)、自分自身の読書生活を豊かにするための方法、そして厳選された読み聞かせ向けテキストのリスト(引用文献一覧 p.152)などです。

ベリングハムがもっとも私を惹きつけたのは、彼女自身の学びの旅、迷いや成長を正直に見せてくれる部分でした。たとえば「ひと呼吸おいて(Take a Breath)」という章では、忙しさについてこう書いています。「忙しさは、私自身、人としても、友人としても、もちろん母親としても、そしていつも教師としても、取り組んでいる課題です。」

一方で、この本にはとても深い思索と共感に満ちた部分もあります。読み聞かせが、教師とすべての生徒とのつながりをつくり、学年相応の読書力に達していない生徒にも公平な学びの場を提供する方法について語る中で、ベリングハムはこう述べています。「読み聞かせをすると、どんな日でも、たとえちょっとやっかいな気分の子や問題を抱えている子でも、私はもう一度、彼らを愛おしいと感じられるのです」(p.60)。

第八の原則「深く掘り下げる:公平性・行動・変革を育む(Dig Deep: Promoting equity, action, and change)」では、読み聞かせを通して「社会正義のための教育」を支える方法を探ります。ベリングハムは「自分の視点が限られていることを認めつつ、複雑な会話の場を設ける」ことで、生徒と一緒に難しいテーマに向き合うための具体的な方法を提示しています。

私自身も、深呼吸して覚悟を決め、Google Meetや録画動画を使って『Mañanaland(明日の国)』を生徒たちに読み聞かせ始めました。第1章では2回立ち止まり、生徒たちが感想を書き込める時間を取りました。ペアトークではなく、チャット欄に生徒の言葉が次々と流れました。本を閉じたとき、私は生徒たちの表情に気づきました。それは、少なくともその瞬間だけは、彼らが別の世界へ旅していたことを示す表情でした。そして私は改めて思ったのです——読み聞かせは確かに「安心感とつながり、そして最終的には愛の源」なのだと(p.61)。

 

★コーチおよびコーチングに興味のある方は、10月に出版予定の『インストラクショナル・コーチング』と『The Art of Coaching(邦訳タイトル未定)』を参照してください。欧米では、過去20年ぐらいの間に、学校や授業改善に欠かせない存在になっています。

★★「考え聞かせ」という方法です。詳しくは、『読み聞かせは魔法!』を参照ください。しかし、ここに書いてあるように、やりすぎると問題があります。逆に、ほどほどだと効果があります(特に、ノンフィクション系で有効と言えるかもしれません)。

出典:https://www.middleweb.com/43154/ten-principles-of-artful-read-alouds/

10 Principles Read-Aloud また、10の原則については、https://blog.heinemann.com/10-principles-of-artful-teachingを参照。

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