2022年7月8日金曜日

「本自体にある物語 〜驚きの連続! 職人技が凝縮されている本づくりを辿る」

紙を切って

版を作って

墨を塗って

紙に刷って

(その後は本の形にするために)

紙を折って

束を組んで

糊をつけて

本を裁って

 『改訂版 読書家の時間』(新評論より先月下旬に刊行)の執筆メンバー2名(冨田先生、広木先生)が、先日、本づくりの現場の作業を見せていただくというツアーに参加しました。

「本を書くなら、そして子どもたちに本をすすめようと思っているなら、本がどのように出来上がるかを知っておいた方が良い」という、新評論の熱い思いを余すところなく実感した1日だったようです。

  ツアーに参加した二人に「全く知らなくてびっくりしたことは?」と尋ねたところ、冨田先生からは「本」という物に目を向けたことがなかったので、驚きの連続」との返事でした。

 「小学校の図工で版画を行うが、その工程そのものだった」とのことで、その工程を冒頭のように記してくれました。「形になるのだから当たり前ですが、そうやって一つ一つの工程の末に本の形があることが驚き」としめくくってくれました。

 広木先生は、知らなくてびっくりしたこととして、以下を挙げてくれました。

・印刷所と製本所が別の場であったこと。

・一冊あたりの製本費用が安すぎること。

・編集者から印刷所の担当に渡ってからも、間違いがないか何重ものチェックがあること。

・ほんの数十年前は活版印刷であったこと。

  「一番感銘を受けたことは?」と尋ねると、二人から次のような回答が返ってきました。

 ・「印刷所、製本所、どちらも、それぞれの工程で関わる方全てが、著者や編集者の思いを形にしようと、真剣に丁寧に仕事に向き合っていること。出版業界の逆風の中で、これまで受け継いだ歴史の重みを感じながら、今に合わせて最善、最良の選択をし続けていることが肌で感じられたこと」(広木先生)

 ・「今でこそありふれている「本」という物は、先人の多くの人の知恵と工夫を通して、今の形があるということです。

活版印刷の一文字一文字の活字判子を拾っていた時代には

フォントやサイズごとに分類された活字(判)を拾い

余白板やスペースなども計算して

組版していきます

あまりの作業量に呆然としました

コップを手にして大海を量るような気持ちです

ページの中の文字の割合、ひらがなカタカナのバランス、図表の加工、紙質の選定、インクの選定、本のサイズ

どれ一つとっても

これまで本を生業にしてきた人たちの息吹を感じました

今手にとっている本も

これまでの多くの人の仕事が地層のように積み重なり

この形をしていることを感じ

本が重たくなりました」 (冨田先生)

 本づくりの現場を見ることで、広木先生も冨田先生も、本への接し方が変わったようです。

 広木先生は「一冊一冊の本は著者だけからの発信ではないことの重みが伝わり、何人ものリレーを経て私に届くことがわかり、新聞の読み方まで変わった」そうです。

 冨田先生は「本は内容にしか興味がなかった」ところから「本それ自体にも物語があることに気づいた」と言います。それは「料理にしか興味がなかったけれど、料理と一緒に器や空間にも目が向くようになったということと似ているような気がして、本の楽しみ方がより多角的になった」そうです。

 このツアーの様子と、その迫力あふれる写真は富田先生のブログにより詳しく、2回に分けてアップロードされていますので、以下のリンクよりどうぞ!

・「本は安いと思いませんか? 本づくりツアーから見る本への敬意」https://tommyidearoom.com/%e6%9c%ac%e3%81%a5%e3%81%8f%e3%82%8a%e3%83%84%e3%82%a2%e3%83%bc%e3%80%80%e6%96%b0%e8%a9%95%e8%ab%96%e3%80%80/

・「読書家の時間ができるまで」https://tommyidearoom.com/%e8%aa%ad%e6%9b%b8%e5%ae%b6%e3%81%ae%e6%99%82%e9%96%93%e3%81%8c%e3%81%a7%e3%81%8d%e3%82%8b%e3%81%be%e3%81%a7/

 冨田先生は次のようにも言っていました。

 「多くの人の思いや仕事がつながっています

それが手間やコストがかかって大変だという見方もありますが

それによって読み手や書き手の人生が豊かになっているという見方もあるように思います」

 『改訂版 読書家の時間』も、このような工程を通る中で、書き手の人生を豊かにしてくれたように思います。読み手の人生にも何かをお届けできることを願っています。


<おまけ>

 TEDトークでは、本のデザインを手掛けるチップ・キッド(Chip Kidd)氏が、本やデザインについての熱い思いを3つのTEDトークで語っています。(TEDトークですから日本語字幕、英語字幕が選択できます。)以下、「デザインと日常における第一印象」の中では、村上春樹氏の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の英語版のカバーが、「笑い事ではないけど笑える本のデザインの話」では『1Q84』の英語版のカバーが、それぞれ、どのようにつくられたかが説明されています。

「本はなぜ存在し続けるのか」(約3分)https://www.ted.com/talks/chip_kidd_why_books_are_here_to_stay?language=ja

「デザインと日常における第一印象」(18分強)https://www.ted.com/talks/chip_kidd_the_art_of_first_impressions_in_design_and_life?language=ja

「笑い事ではないけど笑える本のデザインの話」(約17分)https://www.ted.com/talks/chip_kidd_designing_books_is_no_laughing_matter_ok_it_is?language=ja

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