2022年3月11日金曜日

「感情なしに学びはない」

  どうしたら、生徒たちは「主体的」に取り組むようになるのでしょうか?

どういう働きかけが、生徒を「深い学び」へと誘うのでしょうか?

これらの答えが、『感情と社会性を育む学び(SEL) ~子どもの、今と将来が変わる』(マリリー・スプレンガー著/大内朋子ほか訳、新評論、2022年)の中にありました!

2022年度の高等学校への適用をもって、新学習指導要領の段階的移行が完了し、日本の教育シーンの中でも「主体的に学ぶ」姿勢や探究的な「深い学び」を目指すことの重要性がさかんに議論されています。でも…その実現は一筋縄ではいかない、なかなかの難問です。私も国語教師として日々の教育活動に取り組む中で、「知的好奇心を発動させ、目を輝かせて生き生き学ぶ生徒の姿」を思い描くものの、上記のような問いの前で立ち竦む日々でした。そんな中、この『感情と社会性を育む学び』に出会い、“目からウロコ”のたくさんの素敵な気づきをもらいました。

 本書の第1章に書かれている「ブルームの前にマズローが必要」では「『「社会的欲求(所属と愛)」が満たされて、初めて高次の思考力に集中できるようになる」とあります。生徒が「ここに居ていいんだ」という所属の欲求が満たされ、安心安全の場を得ること。そして「ありのままの自分」を受け止めてくれる仲間や教員との安全な人間関係を結ぶこと。それらが保証されない環境の中で「学び」は深まるでしょうか?「主体的に学びたい」という前向きな気持ちが育つでしょうか?「読み書き」のような認知的能力を鍛えて伸ばす前に、われわれ教員はしっかり土壌を耕す必要がある、ということをこの本は教えてくれました。

 子どもたちがまず、「自分」にしっかり目を向け、自己の存在を丁寧に受け止められるような教室づくりこそが、「もっと学びたい!自分の可能性にチャレンジしたい!」という成長マインドセットを育むことにつながるのではないでしょうか。また「学力」がそれぞれ異なるように、「感情に向き合う力(EQ)」・「社会性にかかわる力(SQ)」も生徒一人ひとり異なり、それらは生徒に応じた適切な働きかけによってその力の伸展を促すことができると述べられています。そして、その具体的な方法が本書ではたくさん紹介されています。脳科学の知見が織り込まれた説得力のある手法は、明日からすぐに使いたくなる魅力的なTIPS満載です。

 特に「感情」を取り扱うことの多い「国語」という教科に関しては、親和性が高く、SELの要素が取り入れやすい、と書かれています。『感情を表す言葉リスト』や『感情(を特定するための)チェックイン』の取り組みは、言語化することによって「感情」に気づき、その感情への対応について理解することにつながる取り組みやすい方法として紹介されています。自分の感情に鈍感になり、「いまどんな感情がありますか?」との問いに「何も感じていない」と答える子どもたちが多いような気がしています。自分の内側を深く観察し、そこにある感情に気づき、言語化して表現するというトレーニングを通して、自己を知り、共感力や表現力を高めることは、国語科の学習を進めるうえで非常に大切な視点であると感じました。

 最終章の中の、「大人がEQとSQを培ってこそ、初めて生徒に教えることができる」という文章は衝撃に近い感情をもって読みました。「教師が自分自身を『価値ある存在だ』と感じ、目の前の生徒を変えてゆく力があると信じられることが必要だ」――生徒の前に立つ大人こそが自分自身の感情も丁寧に扱い、自己の存在に意義を感じ、安心安全な環境で教育活動に取り組めること。これが「より良い学び」を創造するための出発点なのかもしれない…まず自分自身のEQSQに意識を向け、自覚的でありたいと思って読み終えました。

 たくさんの視点から、貴重な気づきが得られ、具体的な手法も満載の本著は、探究的な学びに取り組まれている先生方に特にお薦めしたい本です。

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 以上は、私立かえつ有明中・高等学校の国語教師の大木理恵子先生が書いてくれた感想でした。

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