2022年3月4日金曜日

なんて素敵なノンフィクション(その1) 〜ノンフィクションとライティング・ワークショップ

  子どもたちがノンフィクションを書くことについて、「なんて素敵なノンフィクション」と思った本から学びつつあることを紹介します。『ライティング・ワークショップ』の共著者の一人フレッチャー氏が書いた本★で、タイトルはMaking Nonfiction from Scratchです。

 タイトルの中にあるフレーズ from scratch は「最初から」とか「ゼロから」という意味があります。すでに他の誰かが準備した出来合いのフォーマットやガイドラインを使うのではなくて、自分で材料を集め、どのように書くのかを考えながら、ノンフィクション・ライターが使える技を駆使しつつ、魅力的なノンフィクションをつくりだす。そんなことを具体的に示してくれる本です(なお、以下の参照ページはこの本のページ番号です)。

 ふんだんにノンフィクションの例も登場します。例えば、地殻からのメタンの噴出という深刻なトピックを扱ったノンフィクションの書き出しが紹介されています。アラン・ワイズマンというジャーナリストがCNNのために書いた記事「なぜ地球はおならをしているのか」です。読者を惹きつけ、読ませるために、「おなら」という多くの人にとって身近な現象から、ユーモアを感じる書き出しになっています。フレッチャー氏も、この書き出しと文体のおかげで、この記事に目が留まり、最後まで読むことができたと記しています(12-13ページ)。

 逆に言うと、そのような書き手の工夫がなければ、この記事は(少なくともフレッチャー氏には)読まれなかった可能性が高いことになります。「どうやって、読んでもらえるように書くのか」と言うことは、現実のノンフィクションの世界では、決して蔑ろにできないことがよくわかります。

 このフレッチャー氏の本では、子どもたちの読み聞かせにおすすめのノンフィクションのリストもあります。Kindleですぐに入手できるものを数冊読んでみましたが、書き手の工夫が私にもわかり、上手いなあと思いました。ワイズマン氏の書き出しにしろ、ノンフィクションのお薦めの絵本にせよ、これらを見ていると、思わず「なんて素敵なノンフィクション」と呟いてしまいます。

 フレッチャー氏は、実際の世界には秀逸なノンフィクションが溢れていること、それが「形式を与えて書かせる、教室内のノンフィクション」とは大きなギャップがあることに気づかせてくれます。

 「あらかじめ決められた、それらしいフォーマット」に入れて、ノンフィクションの作品を仕上げることは可能です。おそらく、私がこれまで学習者として書いてきたノンフィクションは、ほとんど全てこのパターンだろうと思います。課題として出されるので少し調べ、それらしい形式に落とし込んで終了。私の記憶にもほとんど残っていませんし、読む方にとっても退屈極まりないものだったと思います。書き手には工夫しようという意欲も生まれないと思いますし、工夫する余地もほとんどありませんから。

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 著者のフレッチャー氏は、作家であり、詩人であり、書くことを教える専門家でもありますが、フリーランスで『ウォール・ストリート・ジャーナル』『コスモポリタン』また複数の機内雑誌などに、特集記事を書いてきた経験ももっています。この本は、フレッチャー氏のノンフィクション・ライターとしての経験と「書き手として良いものを書きたい」という思いが、本全体からあますことなく伝わってきます。例えば、フレッチャー氏は以下のように書いています。

「書いていく過程では、”ノンフィクションを書く”ことと同じぐらい”優れた作品を書く”ことを意識します。読者の想像力を鷲掴みにするようなものを書きたいからです。鮮明な文章を書くために自分が知っていることを総動員します。つまり、正確な描写、注意を惹きつける詳細、人の心をつかむ比喩、記憶に残る引用などです。読者の注意を惹きつけ、最後の最後まで夢中にさせたいからです」(22ページ、筆者訳)。

 ノンフィクションを書くためには、子どもたちは「自分自身」から「世界」にシフトする必要があり(49ページ)、あるトピックについて調べていくことになります。

 その集めた情報について、「提示する切り口や目的を考えつつ、ノンフィクション・ライターの使える技を厳選してノンフィクションに取り組み、読者を引きこみ、読ませ、記憶に残るものを書く」ーーこの部分はまさにライティング・ワークショップだからこそできる部分です。

 ノンフィクションというと、他教科の調べ学習との関わりを感じるため、「ライティング・ワークショップだからこそできる点」について、わかりにくい部分も私の中にはありましたが、ノンフィクションをライティング・ワークショップで扱う視点・理由が整理できた気もします。

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 フレッチャー氏の本の題名の中のフレーズ from scratchにあるように、「最初から」とか「ゼロから」その作品に取り組む場合、子どもたちは多くの選択をしていくことになりますし、多くの秀逸なノンフィクションから学びながら、ノンフィクションで使えることも身につけていきます。

 例えば以下のような選択です(51-53ページ)。

・書き出しはどうしようか? 一般的な書き出しにしようか、あるいは、ありふれていない書き出しにしようか?

・歌、詩、あるいはラップで表現しようか?

・目的はなんだろう? 説明するため? このトピックについて一般的に信じられている神話を覆すため? 実用的なアドバイスをするため?

・読者は誰?

・どんなトーンにしようか? もし、各地で発生している、蜂に大きな打撃を与えている蜂群崩壊症候群について書くとすれば、冗談まじりの軽快な文章にする? あるいは読者を行動に駆り立てるような作品にするのか?

・どのような資料をどのくらい使うのか?

・状況が伝わるようなストーリーや逸話を加えるとすると、何が良いだろうか?

・インタビューを入れようか? その場合は誰を選ぶ?

・文章以外で含めるものは? 地図、グラフ、絵、図表、写真? 作品がより良くなり、読者にしっかり伝わるものは?

→ この例だけでも、こういうプロセスを経験できるのは大きいだろうなあと思います。

 私があまりノンフィクションが得意でないこともあり、引き続き学びつつ、ノンフィクションというジャンルでよく行われる選択やこのジャンルの特徴、そして教室でできそうな具体的なことを、今後も紹介できればと思っています。 

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★ Ralph FletcherのMaking Nonfiction From Scratch。Stenhouse Publishersから 2015年に出版されています。

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