2018年10月12日金曜日

「対話読み聞かせ」をしました



対象は、小学3年生です。(このやり方なら、中学や高校でも使えるはず!!)
対話読み聞かせでは、読み聞かせをしながら子どもたちの対話を促していきます。
本について語ることで、本について考えることができるようにします。

今回、対話読み聞かせに選んだ本は、
『名前のない人』(クリス・ヴァン・オールズバーグ 著 村上春樹 訳)です。

お百姓のベイリーさんがトラックではねてしまったのは、鹿ではなく人間でした。
ベイリーさんは自分がトラックではねてしまった男を家に連れて帰ります。
不思議な服を着て、口がきけないその男は事故の衝撃で記憶を失っているだけなのか。
それとも、人間ではない別の存在なのか。
ベイリーさんの一家にとって大切な存在になっていく「名前のない人」とは何者なのか
クラスのみんなで語り合うのにぴったりの絵本です。

まず、表紙の絵(温かい料理から立ちのぼる湯気に驚いたような表情の男性)を見せながら
「何か気づいたことはある?」とたずねてみました。

子どもたちの反応は、
「スープを見て驚いている。」
「初めて見るみたいな顔をしている。」
「記憶をなくした人なのかもしれない。」
「きっとこの人が『名前のない人』だ。」などでした。

*以下、太字は絵本の文章の引用です。

夏が秋へと移り変わって行く頃
「夏の暑さが終わって涼しい風が吹き始める頃だね。」(教師)
「ちょうど今頃(9月)の時期かな。」(子ども)

ベイリーさんが何かをたずねても、その人は何を言われているのか全然わからないみたいだった。
「車とぶつかったショックで記憶喪失になったんじゃない?」(子ども)
「うん、そうだと思う。」(子ども)
「それで、自分の名前を忘れちゃったから『名前のない』なんだよ。」(子ども)

「ああ、それ捨てちゃって構わんよ」とお医者は答えた。「壊れてしまってるんだ。水銀がちっとも上にあがってこないんだよ。」
「昔の体温計はガラスでできていて、熱があるとガラスの中に入っている水銀があがるしくみになっていたんだ。先生が子どもの頃も使っていたよ。ガラスが割れて中の水銀が出てしまうと危険なので、今はみんな電子体温計を使っているけれど。」(教師)

「医者は、名前のない人は『記憶を失っているようだな』と言っているね」(教師)
「やっぱり記憶喪失だったんだ!」(子ども)
「車にぶつかったのが原因で記憶がなくなったんだよ」(子ども)

男はボタンのとめかたがよくわからないみたいだった。
「ボタンのとめ方まで忘れちゃったのかな。」(子ども)
「でも、そんなことまで忘れることってあるかな?何か変だよ。」(子ども)

温かい料理から立ちのぼる湯気を見て、男はなんだかびっくりしてしまったようだった。
「やっぱり変だよ。食べ物を見てびっくりするのはおかしいと思う。」(子ども)
「記憶喪失といっても、普段の生活のことまでは忘れないんじゃないかな。」(子ども)

ベイリーさんの奥さんはぶるぶるっと身震いした。「うう、寒い。今夜はどこかからすきま風がはいってくるようね。」
「今、読んだところだけど名前のない人がケイティーの真似をしてスープを吹いて冷ましたときに、奥さんが身震いしているね。前のページの、壊れてしまった体温計と何か関係はあるかな?」(教師)
「あっ! もしかしたら名前のない人は、体温がものすごく低い人間なのかもしれない。」(子ども)
「でも、体温計で測れないくらい体温が低いとなると、人間じゃないのかも。」(子ども)
「宇宙人だと思う。」(子ども)
「ボタンのとめ方も知らないし、料理見てびっくりしているから地球人じゃないんだよ。」(子ども)

それどころか兎たちはぴょんぴょん跳んで、男のほうにやってきた。
「兎たちは名前のない人を仲間と思っているみたい。」(子ども)
「野生の兎だったら人間が近づいたら逃げるはず。」(子ども)
「兎たちは、名前のない人を森のほうに誘っているみたいだから、名前のない人は本当は動物なんじゃないかな。」(子ども)

男は疲れというものをまったく感じないようだった。汗さえかかなかった。
「やっぱり変だよ。 ベイリーさんは疲れて休憩をしているのに、名前のない人は、汗もかかないなんて。」(子ども)
「人間じゃないと思う。」(子ども)

ここには何か大変な間違いがあるぞ、と彼は感じた。
「間違いって何だろう?」(教師)
「北のほうは、木の色が赤やオレンジになっているのに、ベイリーさんのところから南はまだ夏のままってことかな」(子ども)
「名前のない人は、自分が誰なのか思いだしたんじゃないかな。絵を見ると、何かに気づいたような顔をしてる」(子ども)

でも名前のない人の姿はもうどこにも見えなかった。あたりの空気はひやりとして、まわりの樹々の葉はもう緑色ではなかった。

名前のない人がやってきて以来、ベイリーさんの農場では、毎年秋になると同じことが起こるようになった。

「名前のない人は、一体何者だったのだろう?」(教師)
「やっぱり宇宙人だったんじゃないかな。いそいで家を出たのに一瞬でいなくなったから。」(子ども)
「体温計で測れないほど、体温が低いし、不思議なことがいっぱい起こっているから私も宇宙人だと思う。」(子ども)
「名前のない人がいると夏のままだったでしょ。だから名前のない人は『夏』だと思う。名前のない人がいなくなったとたんに秋が来るんだよ。」(子ども)
「名前のない人は『秋』だと思う。名前のない人を見ても兎が逃げなかったし、自然は動物と友達だから。最後のほうで名前のない人は秋の葉っぱを見て、自分が誰なのか思い出したんだと思う。」(子ども)
「名前のない人は『木』だと思う。茶色の服を着ていたし、木のそばで葉っぱを1枚とって息を吹いたら色が変わったから」(子ども)
「名前のない人は『季節』だと思う。名前のない人が行くところで季節が変わるから。」(子ども)
「すごい力をもった森の動物だと思う。なぜかというと、うさぎとなかよしだったり、鳥をずっと眺めたりしていたから。あと、最後の場面のところでリスになってベイリーさんの家を覗いている。」(子ども)
「いちばん最後に『また来年の秋にね』と書いてあるから、やっぱり秋だと思う」(子ども)

    <以上、対話読み聞かせは終了>

 対話読み聞かせは、通常の読み聞かせとは違い、読み聞かせの途中で教師が子どもに問いかけたり話したいことがある子どもが自由に発言したりする機会を大切にします。必要に応じて一つのテーマについてペアやクラス全体で話し合う時間をとることもあります。これらを行うことによって、1冊の本についてクラスのみんなで考え、互いの解釈を交流することができるようになります。

通常の読み聞かせでは、話の内容に集中し、最後まで静かに話を聞くことが求められます★。一方、対話読み聞かせでは、話の内容についてどれだけ考えることができたか、自分の考えを伝えることができたか、友だちの考えを聞くことができたかなどのことが大切な要素になります。

教師の立場からいえば、通常の読み聞かせのように、話をすらすら読めるようにしておくことに加えて、どこでどのような問いかけをするか、何について話し合うべきかを予め考えておくことが必要になります。

話を聞く子どもの立場からいえば、話を集中して聞くことに加えて、話の途中で浮かんだ疑問や思いついたことなどを、遠慮なく話せることが必要になります。また、話を聞くことと、話し合うことの切り替えがすぐにできることが求められます。

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以上の実践を紹介してくれたのは、相模原市の都丸陽一先生です。

対話読み聞かせのやり方は、『読み聞かせは魔法!』の第3章で詳しく紹介されています。

都丸さんは、その本の192~3ページで、対話読み聞かせと、従来の読み聞かせ、考え聞かせ、そしていっしょ読みの4つの方法を比較する表を作成してくれています。

今回の選書について都丸さんに尋ねたところ、以下のように回答してくれました。

通常の読み聞かせで選ばれる多くの本は、
読み聞かせをする対象の児童が「聞いてわかること」が条件だと思います。

考え聞かせ、対話読み聞かせを行うと、
「聞いてわかる」本だけでなく、
自分の力では読めない本まで選書の選択肢が広がると思います。
その理由は、先生の説明を聞いたり、友達の話を聞いたり、
わからないことを質問したりと、理解するための要素が増えるからだと思います。

『名前のない人』の場合は、使われている漢字や言葉の言い回しなど、
3年生が1人で読むには、かなり難しいと思いますが★★、
対話読み聞かせによって、多くの児童が話の内容を理解できたと思います。

作品中の「水銀式体温計」「隠者」などの子どもたちに馴染みのない言葉については読み聞かせを行いながら補足の説明を入れています。

一方的な読み聞かせと同じか、それ以上に対話読み聞かせが効果的な理由については、次の引用文から明らかだと思います。
「より典型的な一方的な(教師による)話が行われているクラスの子どもたちと比較し て、(対話のあるクラスの子どもたちは)読んだことをよく覚えており、より深く理解しており、文学を喜び味わう側面に対してより詳しく反応することができます」Opening Mindsの第5章からの引用。Opening Mindsは『言葉を選ぶ、授業が変わる!』の続編として現在翻訳中で、あと2~3か月で出版されますのでお楽しみください)

★ どれだけ理解しているかはすべて聞いている各人に委ねられます。残念ながら、教師はそれを把握する術がありません。子どもたちの顔色ぐらいしか?
★★ この本を大人対象のブッククラブの練習のときに使うことがありますが、大人にも難しいぐらいです!!

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