2025年3月1日土曜日

祝って、眺めて、次の子どもにバトンをわたす 〜作家の時間の閉じ方アイデア集〜

(全ての人物の名前は仮名です。学習場面にも、ある程度のフィクションが入っています)



 1年生が植えたチューリップの球根はまだ何の変化もありません。にこにこ笑顔のチューリップが4つ並んだプレートは、いまかいまかとチューリップの芽生えを待っているかのようです。

 さて、特別支援学級の作家の時間もクライマックスを迎えています。今年度は、「卒業生に贈る言葉」というユニットを計画しました。

 このブログで連載しているいつもの教室では、3月に卒業する夏彦くんが、一人黙々と卒業制作の木工ケース作りに取り組んでいます。私は夏彦くんをまだ2年生だった頃から見ていますが、一年間じっくり関わったのは今年が初めてでした。夏彦くんは成長し6年生になり、なんと栽培委員会の委員長に立候補し、一年間見事やり遂げました。リーダーシップに長けた6年生です。もちろん、特別支援学級のみんなからも信頼は厚く(ちょっとナイーブなところもありますが)、優しいお兄さんとして学校生活を送りました。彼に贈る言葉というのが、今回のテーマです。

 特別支援学級に在籍する子どもはこだわりが強く、自分の書きたいものへのこだわりも相当です。いくら夏彦くんのためといえど、自分の作家の時間に書きたいものを諦めて、夏彦くんのために時間を使うということは、彼らにとっては大きな試練でした。しかし、夏彦くんが大きな存在だったこともあり、これはチャンスであると考えています。大切な人のために、真剣に考え、言葉をつないでいきます。どんな言葉が紡ぎ出されるか、これからが楽しみです。



作家の時間を「閉じる」とき、どんなことをしたらよい?


 さて、1年間作家の時間に取り組んで、4月に始めた作家の時間を3月にどのように閉じたらよいかと、思いあぐねている先生も多くいると思います。今回は、作家の時間の閉じ方について、考えていこうと思います。

 作家の時間を新しく始めたい先生のために書いた記事もあります。ぜひ来年度から挑戦したい先生は、こちらのリンクを参照してください。

https://wwletter.blogspot.com/2024/04/blog-post_26.html


 1、これまでの作品を集めて個人全集を作る


 図工などの作品を返却せずに年度末まで保管しておいて、貯まった絵をつなぎ合わせて作品集を作る実践をされている方もいるのではないでしょうか? この作品集の作家の時間への応用が、この「全集作り」です。完成まで行き着いた原稿、未完の原稿、作家ノートなどもすべてを綴じて表紙をつけて、手渡します。製本テープや表紙用にちょっといい紙なんかを用意すると、子どもの気分も高まるでしょう。

 僕の場合は、ただ返すのではなく、ギャラリーウォーク(机上のブックスタンドに作品を立てて、美術館風に仕立て、付箋紙のメッセージを貼る)で付箋に「いいねメッセージ」をつける時間を用意していました。この取り組みで子どもの中には、自分の成長を感じられる言葉も出てきます。そのような自分への気づきを認め、変化できたことを祝います。


 2、ポートフォリオに入れる


 全集の中から一つだけ取り出して、ポートフォリオに入れます。私は作家の時間に限らず、学校生活全体でポートフォリオを作っているので、今年度も作った作家の作品からお気に入りの作品をポートフォリオに入れていました。おうちの方が書く「がんばったねカード」を用意し、ポートフォリオの最後のページに入れたこともありました。今はキャリア・パスポートが似たような役割を担っていますが、子どもたちのエイジェンシー(自分の取り組んだ学習を自分のものとして捉え大切にする意志)で比較すると、キャリア・パスポートとは格段に子どもの喜び具合が違います。


 3、本屋を開く


 作家の作品を廊下や図書室に並べて、本屋を開きます。私は年度末にこれをやったことはないですが、ユニットの最後に廊下に並べてみんなで祝ったことがあります。学年でノンフィクション・ユニットに取り組んでいたときに行いました。長い廊下に色鮮やかな表紙が並び、本当の書店に引けを取らない豪華な書店になりました。また、ペア学年のクラスと協力して同時に書店を開き、お互いの書店を訪問しあったこともあります。年度末に限らず、ユニットの閉めにも効果的な方法の一つです。


閉めるときには「祝う」・「眺める」


 ここまで書いた閉じ方のアイデアに共通する考え方は、「祝う」こと「眺める」ことです。

 「祝う」という感覚は、日本の学校文化ではまだまだ発展途上な感覚かもしれません。ライティング・ワークショップに関する英語の本の中には、お菓子を持ち寄って祝ったり、家族も学校にきて一緒に祝ったりする情景が描かれています。それほど、祝うということが重要視されているということでしょう。「祝う」は、評価される環境の中では生まれにくい感覚ですし、書くことを苦役と捉えていると成立しません。やりがいのあることを達成したときに、みんなで同じような気持ちになって、満足感を共有します。もちろん、誰もが満足な出来栄えになるとは限りません。けれど、それも一緒に分かち合い、次の作品づくりへのエネルギーに変えていけるような機会を、祝うという行為から生み出します。自分で決めて、自分で取り組んだ学習が、結果はどうあれ一つ形になったということは、本当に喜ばしいことです。「がんばったね」「ありがとう」と、子どもを心の底から認められる機会になることでしょう。

 「眺める」とは、自分の書いたもの全体を俯瞰してみるということです。自分の変化に気づき、次の成長へのゴールを探すことになります。3月は作家の時間を閉じて、自分の作品を綴じるときになります。走り続ける作家は、立ち止まることを疎み、ともすると自分を省みる機会をつくりにくいかもしれません。ユニットの切れ目はもちろんですが、常設的な作家の時間を続けていたとしても、夏休み前、冬休み前、年度末と、しっかり区切りを設けてあげることも、作家の時間には大切なように思います。


 ※私の作家の時間は、特設型ユニット(詩や表現など)をつく作ったとしても、子どもたちは自由創作の場である常設型の作家の時間を年間を通して続けています




来年度の作家の時間で学ぶ子どもたちに向けて


 私がかつて行っていた年度末の大切な活動の一つに、来年度の作家の時間に取り組む子どもたちのために行う活動があります。これもいくつかのバリエーションがあります。


 1、来年度の子どもたちのために、手紙を書く


 「・作家の時間の一番の思い出」「・作家の時間での苦労や失敗」「・作家の時間のマル秘テクニック」など、黒板にアイデアを書いておいて、来年度の作家の時間で学ぶ新しい作家たちのために、手紙を書いてもらいました。相手のために書いているようで、実は自分の振り返りになるという仕掛けでしたが、本当に次の作家の時間を実践する子どもたちに読ませることができました。(もちろん、作家の時間を体験する前に読むので、うまく捉えられない子が多いですが、それでも楽しみ!という気持ちは高まります)


 2、グループ・インタビューを録音する


 まだ録画など気軽にできなかった頃の実践です。手紙を書くのではなく、来年度の子どもたちのために、グループインタビューを録音しました。子どもたちは先生が前にいるにもかかわらず、割と本音で作家の時間の「よいところ」「気をつけるべきポイント」など、話し合ってくれました。「先生は教えすぎるので注意!」とたしなめられたこともありました。手紙を書くときよりも、より本音が出るので、子どもたちのリアルな感想を聞くことができました。

 生の声には、文字情報にはない不思議なパワーがあります。本当に楽しんでいる子どもの声の力は、他の子どもを動かしていきます。


 3、作家ノートをもらう


 良いノートを書いている子などには、その作家ノートを頼んでもらっていました。作家ノートはその子どもの個性が詰まっていて、こちらの研究材料になりますし、子どもたちが見れば、楽しそうなエネルギーに満ちたノートなので、ワクワク感が高まります。また、作家ノートの取り方で悩んでいる子には、(例えば、ぐちゃぐちゃでもいいんだ!など)とても参考になりました。ただし、作家ノートは思い出のノートなので、先生にあげたくないという子もいますので、ちゃんと子どもの声を聞く必要があります。


子どもの生の実践は、子どもに響く 


 先生の「作家の時間は楽しいよー」よりも、子どもが創り出すことを楽しんだ作品、作家ノート、インタビュー、手紙などは、本当に強力です。子どもの声は、子どもの心に響くからです。子どもたちの学習成果は、次の子どもたちの教材になっていきます。その教材群やカリキュラム、支援の経験が蓄積して、教師の厚みとなっていくように思います。今年度、作家の時間にチャレンジした先生方は、来年度に向けて、大きな一歩を踏み出せるアドバンテージを得ています。子どもたちのリアルな実践を蓄積して、次の子どもたちにバトンを届けていきましょう。




先生自身も「祝って」、「眺めて」、「バトンをわたす」を忘れずに


 一年間、お疲れ様でした。作家の時間に勇気を持って取り組めた先生も、もしくはいろいろあって取り組めなかった先生も、大変なご苦労があったことと思います。まずは、ここまでやれた自分を「祝って」あげてください。もちろん、「眺める」につながるよい祝い方ができると、より良いと思います。来年はどんな作家の時間をしたいですか? 今のうちに、メモやブログに書き留めておいたり、来年度の学年が決まり次第、3月のうちに年間計画を作ったりするのもよいかもしれません。また、良い実践仲間がいたら、一緒に計画を作るのもとても楽しいことです。

 作家の時間のバトンを渡せる先生もつくれるといいですね。「早くいきたければ一人で、遠くまで行きたければみんなで」のような諺もあります。一緒にやれたらいろいろなアイデアをもち合えますし、一緒の職場ならば、喜び合うこともできます。

 自立的な学び手を育てるために、作家の時間はあります。自立的な学び手には、子どもだけでなく、先生であるあなた自身も含まれていることを、忘れないでください。


(写真は長野県 湯の丸高原や烏帽子岳周辺の風景です。一人で行けば早く行けますが、一緒に行けば遠くまで行けます。)

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