2024年3月9日土曜日

共同授業者としての本 〜[鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸](★1)

「多様な本に溢れている」教室。ーーーリーディング・ワークショップでも、ライティング・ワークショップでも、事例を見ていると、多様な本が活用されていることをよく感じます。

 多様な本の活用において、「絵本等の中から書き手の足跡を学ぶこと」と「絵本等から外の世界を学ぶこと」という二つの方向があるように思えることにも、興味を感じています。

 前者、つまり絵本等の「中から」学ぶことは、絵本をメンター・テキストとして、作家が行った工夫や技を見つけるような学びです。メンター・テキストという言葉は、ここ15年ぐらい? 耳にする回数が増えました。「メンター・テキスト」という言葉を題名に含む本も、多く出版されています。「子どもたちにできるようになってほしい書き手ができる技や工夫」を念頭において、教師は選書をしていきます。

 他方、後者、つまり「絵本等から外の世界を学ぶこと」については、絵本の読み聞かせや対話的読み聞かせを通して、生徒たちが自分や社会について学び、世界を広げたり、その中で自分のできることを考えたりということに主眼があるように感じます。絵本は、教師一人では提供できない世界観を教室に持ち込む「共同授業者」(★2)という位置付けで捉えられることもあります。

 今日の投稿は、そういう世界観を広げるという点から、教室の図書コーナーや教師自身が読む本について考えます。

 2023年8月11日の投稿「選択という扉の向こう側にある世界〜[鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸]」で紹介したビショップ氏(Rudine Sims Bishop)の比喩をよく思い出しますが、どのような内容、テーマで、誰が」書いた本を選ぶのかが問われるように思います。氏は多文化児童文学の観点から、多数派ではない人たちが主人公になっている本の少なさ、また、本に登場しても、否定的なイメージで描かれたりすることに警鐘を鳴らしています。

 ビショップ氏は、本は世界を見せてくれる[窓]であり、読者が想像力を働かせて[ガラスの引き戸]を通り抜けて本の中に入るとその世界の一部になることができる。[窓]である本は光線のあたりかたによって、[鏡]にもなり、読者の人生や経験の一部を映し出してくれると、説明してくれました(★1)。今から30年以上も前の1990年のことです。

 [鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸]は、30年以上時間が流れた現代でも、とても有効な枠組みだと思いますし、アメリカの図書館の司書や教師の指針にもなっているようです。

 図書館司書のフィリップス氏(Jaenie Phillips)は、[鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸]に関連して、Great School Partnership という団体のブログに2022年8月に投稿(★3)し、この枠組みを実際にどのように、自分に応用したのかを記しています。

 この投稿によると、フィリップス氏は15年前に自分の読むものを、この枠組みを使って見直したそうです。白人である氏は自分が読んでいるものの大半は、自分の[鏡]となる本、つまり白人によって、白人について書かれている本だと気づきます。そこで、自分の読む本の少なくとも50%は、非白人の人によって書かれている本を読むという目標を設定します。この目標を毎年、達成していく中で、これまで読むことのなかった多くの素晴らしい作家の本を読むことになり、自分とは異なる人種の登場人物の立場で考えることで、自分も成長したと述べています。

 また、フィリップス氏は、2018年に出版された児童書を見ると、約27%が動物を主人公としていて、この数字は、白人でない登場人物の本を全て合わせた割合よりも高い数字であると指摘しています。つまり非白人の子どもたちにとっては、自分の人種的アイデンティティの[鏡]となる本が少なく、白人の子どもたちは、自分と異なる人種的アイデンティティを持つ人たちについて学ぶ機会が少ないまま過ごしていることになります。

  自分の[鏡]となる本が教室の中や、社会に溢れている場合、上記のフィリップス氏のように、最初は意識的に自分の読書生活を見つめて何らかの目標を設定しないと、狭い世界にとどまってしまう危険性があることは、自分自身を見ていて、よくわかります。

 リーディング・ワークショップや対話的読み聞かせが積極的に行われている教室の事例などから、アメリカの教室にいる様々な子どもたちの[鏡]になるような本を知ることができ、私もそれらを少しずつ読むようになってきました。しかし、例えば、アメリカ社会での移民の子どもたちや家族が主人公のストーリーを読む時、対岸の出来事として読んでいるところもあります。

 日本の教室や社会にある多様性ーーー例えば、日本在住の外国ルーツや難民の人たちが書いた、あるいは日本にいるLGBTQや障がいのある人が書いたお薦め本は?と言われても、さっと提示できません。読んだ本を思い出して、ようやく「そういえば」という感じです。私の場合、読んでいる絶対数が少ないことが大きいです。

 自分の成長に必要であるからこそ、[鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸]という枠組みを通して、定期的に自分の読書生活を振り返っていかなくては、と思います。

*****

(★1)

以下の情報は、2023年8月11日の投稿でも紹介しましたが、下に記すURLでPDFが読めます。PDFの最後には次のように出典が記されています。

Source: By Rudine Sims Bishop, The Ohio State University. "Mirrors, Windows, and Sliding Glass Doors" originally appeared in Perspectives: Choosing and Using Books for the Classroom. Vo. 6, no. 3. Summer 1990. 

http://www.rif.org/us/literacy-resources/multicultural/mirrors-windows-and-sliding-glass-doors.htm

また英語ですが、著者が語っている90秒ぐらいの動画を見つけました。

https://www.youtube.com/watch?v=_AAu58SNSyc

(★2)

Layers of Learning: Using Read-Alouds to Connect Literacy and Caring Conversations (JoEllen McCarthy, Routledge 2020年)のなかで、「私たちの住んでいる世界について、考え、可能性を見出し、真実や時には厳しい現実を明らかにするのを助けてくれるような、「教師の共同授業者」(16ページ) と書かれています。

(★3)

https://www.greatschoolspartnership.org/mirrors-windows-and-sliding-glass-doors-a-metaphor-for-reading-and-life/

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