2023年5月27日の投稿「多彩な作品のある作家が惹きつける、多様な読者たち 〜作家についての学びの可能性」では、例えば、森絵都氏のような多彩な作品のある作家が好きな子どもたちが対話すると、「一人の作家の好き嫌いは1冊だけで判断しない方がいい」「これまで手に取ろうと思わなかったジャンルやタイプや難易度の本に興味が広がる可能性がある」と考えました。
この投稿の後に、引き続き同じ作家の『生まれかわりのポオ』(金の星社、2022年)と『チイの花たば』(岩崎書店、2021年)も読みました。どちらも挿絵もある児童書で、前者は飼い猫の死について、後者はお花屋さんになりたい女の子の話です。森絵都氏のような多彩なテーマと難易度の作品のある作家は、教室の子どもたちの顔を思い出しながら、いろいろな組み合わせで「作家別配架コーナー」を構成できそうです。
今日の投稿は、そんな多彩な作品のある作家とその作品を紹介します。
そのために、『改訂版 読書家の時間』(新評論、2022年)にも登場した、本好きの都丸先生に教えていただこうと、都丸先生と少しメールのやり取りをしました。
都丸先生も、「多彩な作品」という作家では、森絵都の名前がまず浮かんだそうですが、今回は、梨木香歩について紹介を書いてくださいました。また、メールのやり取りの中で、オマケで、原田宗典、小手鞠るい、島本理生、そして、ジョン・クラッセンとマック・バーネットについても教えてくださいました。(個人的には、オマケに登場の、小学校の高学年におすすめの絵本、原田宗典の『ぜつぼうの濁点』と、検索の過程で見つけたマック・バーネット(文)とジョン・クラッセン(イラスト)の『三びきのやぎのどんけろり』に興味津々です。)
以下、都丸先生からの紹介です。ジョン・クラッセンとマック・バーネットについては、→で私も少し書き足しました。
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梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』(新潮社, 2001年)を再読したときに、最初に読んだときよりも感動が大きかったことがきっかけとなり、他の作品も読むようになりました。
梨木さんの作品を好きな理由は、「見よう」と意識して見なければ、見ること、感じることができないものを、それぞれの作品を通して読者に示してくれる、そんな気がするからです。
「おもしろくてページをめくる手が止まらない」というよりは、一文ずつ時間をかけてゆっくり味わいながら読みたい作家です。梨木さんの作品と過ごす時間は、自分にとって読書の喜びの大きな部分を占めています。
『家守綺譚』(新潮社, 2006年)とその続編『冬虫夏草』(新潮社, 2017年)では、四季の移ろいと、自然界と異世界が絶妙につながる不思議な感覚を味わうことができます。
本にまつわるエッセイ集『ここに物語が』(新潮社, 2021年)では、梨木さんがどんな本を、どんなふうに本を読んできたかだけでなく、読書という行為そのものについても触れられているところが興味深いです。
「児童文学をもっと大人にも読んでほしいと思うのは、この、「幼かった自分の感覚」を手元に引き寄せることで、今の自分が存在の厚みを増してゆく、確かな『感じ』があるという効能のためでもある」(27ページ)
読書の不思議な力の一つは、生身の自分は決してその場に居合わせるわけがないのに、内側のどこか奥深く、その場を『生きている』確かな感覚が逃れようもなく生じることだ」(69ページ)
小学校高学年から大人向けという気がしますが、『ペンキや』(理論社、2002年)、『蟹塚縁起』(理論社、2003年)、『よんひゃくまんさいのびわこさん』(理論社、2020年)など、絵本の文章も書かれています。
自分がこれから読もうと思っている作品は、児童書では『岸辺のヤービ』(福音館書店、2015年)。
小説では『村田エフェンディ滞士録』です。こちらは先日、立ち寄った書店で文庫版を購入済です。『家守綺譚』の登場人物、村田が主人公の話。あとは、『裏庭』(新潮社, 2000年)です。
梨木香歩さんの作品は、動植物をていねいに表現しているところも魅力の一つです。
作品を読みながら感じる安心感や心地よさは、著者の動植物に対する造詣の深さも関係していると思います。
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ここからは、都丸先生がオマケで紹介してくださった部分です。
▷ 原田宗典
一般文芸・エッセイの他に、小学校の高学年におすすめの絵本『ぜつぼうの濁点』(教育画劇、2006年)、児童書『百人の王様 わがまま王』(岩波書店、1998年)、 詩集『青空について』(光文社、2003年)
▷ 小手鞠るい
一般文芸・エッセイの他に、小中学生が読める作品多数。『放課後の文章教室』(偕成社、2019)、『文豪中学生日記』(あすなろ書房、2021年)は作家の時間のメンターテキストとして使える。
▷ 島本理生
図書館の司書の方に紹介してもらった作家。絵本『まっくろいたちのレストラン』(岩崎書店、2020年)。 真っ黒なイタチがお客さんのうさぎに恋する絵本。一般文芸では、恋愛がテーマの小説多数。映画化されているものも多い。自分は絵本しか読んでいませんが、図書館の司書の方曰く、幅の広い作風とのことでした。メインの読者は高校生から大人かもしれません。
▷ ジョン・クラッセン
絵本作家。シンプルだけど、大人も子どもも、語られていない部分を想像してドキッとさせられる作風。
『どこいったん』『ちがうねん』『みつけてん』は、「ぼうしシリーズ」の3冊(クレヨンハウス、2016年)
→ 3冊読み比べると、同じシリーズの本で、雰囲気は似ているのですが、パターン?が異なる?というか、この3冊の間だけでも違いを感じます。
→ そして、『そらから おちてきてん』(クレヨンハウス、2021年)。題名から分かるように、「ぼうしシリーズ」も『そらから おちてきてん』も、全て大阪弁で訳されています。同じ著者で同じ訳者ですが、『そらから おちてきてん』もこれはこれで、その前の3冊とまた異なります。「作家クラブ」を行うと、この4冊の絵本、難易度としては、とても大きな差はないとは思いますが、それぞれのどれが好きかで、この作家の違う部分に注目できるかもしれません。
(ただし! ブラックな部分もあるので、「小さな子ども向きではない」とか「好きではない」というレビューもあります。)
▷ マック・バーネットが文を書いている絵本『サムとデイブ、あなをほる』(あすなろ書房、2015年)もおすすめ。
* オマケのオマケ
→ 『サムとデイブ、あなをほる』のイラストを描いているのは、上記のジョン・クラッセン。このペアによる絵本として『おおかみのおなかのなかで』(徳間書店、2018年)もめちゃくちゃ面白いです。
→ 以下も全て絵本で、難易度にとても大きな差はないものの、この2冊と雰囲気が異なると感じた絵本は、『アナベルとふしぎなけいと』(あすなろ書房、2012年)。また、『めを とじて みえるのは』(こちらのイラストは、イザベル・アルスノー、評論社、2019年)は父と娘の対話です。
→ マーク・バーネットの絵本『めを とじて みえるのは』と『おおかみのおなかのなかで』については、2021年2月26日金曜日の投稿「お薦め絵本」の中でも紹介しています。またこの時の投稿では、マーク・バーネットのTEDトーク「良い本が秘密の扉である理由」も紹介しています。
→ 今回の投稿を書くために、書誌情報などを確認している時に、『三びきのやぎのどんけろり』(化学同人、2023年)を見つけました。マック・バーネットとジョン・クラッセンのペアに、翻訳者が青山南。「この本、面白い!」と思って検索すると、青山南氏が翻訳されていることが時々あります。上で紹介されていた原田宗典の『ぜつぼうの濁点』とあわせて、『三びきのやぎのどんけろり』も、次に読みたい本となりました。
本についてのやり取りを少しするだけで、読みたい本がたくさん増えます。「オマケのオマケ」は私の脱線ですが、本仲間とのやりとりが楽しくて、書き足してしまいました。リーディング・ワークショップを通して、子どもたちにも、本仲間と本についてのやりとりという楽しさをぜひ体験してほしい! と思います。
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