ライティング・ワークショップの初日、子どもたちに対して、「作家には決断が必要」という話から始めるという例を、先日、思い出しました。「作家には決断が必要です。どうやって書き始めようか、どの単語を使おうか、読者は誰にしようか、どのくらいの長さにしようかと、作家には決めなければならないことがたくさんあります」と『ライティング・ワークショップ』に記されています(フレッチャー&ポータルピ、新評論、2007年、53ページ)。
「作家には決断が必要」を思い出したのは、最近手に取った本(フィクション)が「読み手には決断が必要、読み手は決断する人」だとしっかり認識させてくれたからです。
先日、ある本(★1)で、馬具に関わる単語がたくさん出てくる章にぶつかりました。「もし、読み手がこれを一つ一つ調べていたら、読み終わるのにとんでもない時間がかかるし、中断ばかりしていると、その段落や章のポイントがわからなくなってしまうだろう、(特に読むのがそれほど得意でない)読み手は、ここでどういう読み方をするのか決断をする必要がある」と強く思いました。
読むことに関わる本も多く出しているLaura Robbが挙げている7つのリーディング・ストラテジーの中の2つ目に「大切な点を見極める」(★2)というものがあり、その説明には以下のように書かれています。
「2. 大切な点を見極める: 熟達した読み手は、テクストの中に多量の詳細や情報が出てきても、行き詰まったり、落胆したりはしない。これまでに持っている知識を使うことや読む目的を定めることで、大切なポイントとそうではない点を分けることができる」(←私のざっと訳です)
ここに書かれていることの中で、「読む目的を定める」という決断をすることで、読み方も、読むことから得られることも大きく変わります。
馬具に関わる単語がたくさん出てくる章も、少し考えるだけでも、以下のような幾つもの目的・読み方が浮かびます。
A) 馬具に関わる単語をしっかり理解することを目的に、一つひとつ画像検索などもしつつ、どのような馬具なのかを理解する。
B) 馬具に関わる単語の名前は初めて見るものが多いものの、頭の中で「馬具」というカテゴリーに入れて、立ち止まって調べることはせずに、ストーリーについていくことを目的とし、どんどん読んでいく。
C) この章の全体がどういう内容なのか、頭の中でまとめながら、この章で伝えようとしていることに焦点を当てて読む。
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読み手によって異なると思いますが、この本はフィクションということもあり、読むことを楽しみたい私のアプローチは以下のような感じです。
→ A) は、一度目に読む時に、この読み方を行うと、章全体が把握しにくくなる場合が多いように思います。私は知らない用語を調べずにこの本を読了しました。その後、読み方を教えるという点のミニ・レッスンも鑑み、「より深く丁寧に理解したい」と考えて、それぞれの馬具の画像検索をしました。この読み方は、早くても三度目か四度目に読む時だと思います。視覚化できてイメージがはっきり浮かぶので、その馬具の役割や馬への負担などがよくわかりました。「さらに」理解を「深める」という点では、私には、三度目か四度目に読む時の読み方として大きなプラスでした。著者がそれぞれの馬具について、具体的なイメージを持って書いているのがよくわかりますから、それに少し近づくことによって深まる理解があるのを実感しました。
→ B) これは知らない(イメージしにくい)用語が多い際、私がよく行う読み方です。具体的には一つひとつの単語は正確にはわからないものの、「馬具」というカテゴリーに頭の中で入れながら読み進めます。その際、その前後の記述から「これはかなり馬にとっては不快感があるものなのだ」等の情報を得られるので、一度目に読む時には、私にとってはこれで十分です。
→ C) これも、私がよく行う読み方です。章の題名からも、この章は仔馬として比較的自由だった時代から、人間の意図に沿って動けるように調教される年代になった時の様子を描いていることがわかります。章全体の主旨がわかれば、調教がいかに人間中心か、それでも馬の状況を考えながら接すれば、馬にとっての負担は減ることが書かれているように思います。それが把握できれば、話の先が気になる時は、この章はある程度、ザクッと飛ばし読みもできます。
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一度だけ読んで終わる本もありますし、いろいろな理由で読み直すこともあります。「再読」という決断をするかどうかも、読み手が行う決断になります。「再読」も、またその目的によって、読み方が大きく変わります。
最近、「再読ってすごいなあ」とつくづく感じています。
「再読」と一言で言っても、ある一冊を読みながら、読み終える前に「読み直す」こともありますし、何らかのきっかけがあって、かなり昔に読んだものに「再会?」することもあります。
読んでいる途中あるいは読み終わってすぐに再読するときは、「わからない箇所の解決のため」「誰かに紹介するため」「書き手の目で見て書き手ができることに気づくため」「単純に好きな箇所にもう一度浸るため」等々、目的は様々です。でも、ほとんどの場合、目的以外のプラスアルファがあることが多いです。著者の工夫やテクスト内外のつながりに気づいたりと、私には再読しなければ得られないものがたくさんあります。
また、初めて読んだ後に、かなり時間が経過してから、何らかのきっかけで、その本に再会して読み直すこともあります。TEDトークも、かなり前に視聴したものを、最近、再視聴してみて「ああ、いいなあ」と思うことが2回ほどありました。数年前に視聴しているので内容はわかっているのですが、私がいろいろな経験を経ることで、これまでとは異なる反応や味わいをしているのがわかります。
「よい読者がいなければ、よい本も存在しない」というラルフ・ワルド・エマーソンの言葉が、『イン・ザ・ミドル』(アトウェル、三省堂, 2018年、203ページ)に紹介されています。読み手はいろいろな決断をしながら、再読も含めて、いろいろな読み方で本を読み、読み手として成長していきます。それは、よい本を存在させるよい読者になっていく過程でもある、と思うと、「本は辛抱強い!」と感じます。
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★1 『黒馬物語』です。邦訳は岩波少年文庫(シュウエル、土井すぎの訳)他、多くの版があるようです。私が読んだのはoriginal 1877年版(Black Beauty, Anne Sewell著, 2020年, printed by Amazon)です。この本はノンフィクションではなく、馬の一人称形式で書かれているフィクションです。馬への酷い扱い(特に冷酷な所有者や馬を理解していない所有者の元にいる辻馬車や荷物を運ぶ馬など)を告発した本として有名な本らしいですが、私はこれまで、読む機会がありませんでした。いい本でした。
★2 Laura Robb著 Teaching Reading in Middle School: A Strategic Approach to Teaching Reading That Improve Comprehension and Thinking. Scholastic, 2000, 14~16ページに7つのストラテジーが説明されています。)
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