2021年3月12日金曜日

講話は読み聞かせとセットで? 〜「キャプテンたちのコーラス」を読みながら

  この1月、アメリカ大統領就任式で、自身の詩「The Hill We Climb」を読み上げた22歳の詩人アマンダ・ゴーマンは、2月には、スーパーボウルの試合前イベントで、新作の詩「キャプテンたちのコーラス」★も読みました。このところ、大きな舞台での活躍が続いています。

 そういえば、大統領就任式では、『歌え、翔べない鳥たちよ ―マヤ・アンジェロウ自伝―』(矢島翠訳、2018年 青土社)で知られるマヤ・アンジェロウが招かれた大統領就任式もありました。ネットで少し調べてみると、1961年、ジョン・F・ケネディ大統領の就任式で、ロバート・フロストが式のために作った詩を朗読したのを皮切りに、アメリカの大統領就任式では詩人がけっこう登場しているそうです。(https://www.elle.com/jp/culture/celebgossip/a35270366/biden-inauguration-amanda-gorman-210121/)大統領就任式に詩人を招くのは「よくある一つのパターン」とも言えそうです。

 「始業式、卒業式その他いろいろな節目の式に詩人を招き、その時にふさわしい詩を読んでもらう」ということは、実現が難しいかもしれません。でも、子どもたちのことをよく知っている教師、あるいは自分の学校のことをよく知っている校長先生が、自分の教室で、あるいは全校規模の集会や式で、詩もしくは短い絵本を読み聞かせる。こんなことが、講話の「よくある一つのパターン」になると面白そう、と勝手に思いました。

 「教育者の仕事は心に残る感銘を与えることができますが、本もそうすることができます」★★と言う教育者もいるぐらいですから、本に活躍してもらうというのも、一つの選択肢に思えます。絵本や詩は短いので時間もかかりません。例えば、ある学校の20クラスのうち5クラスで、何かの式の時に読み聞かせがあり、その5クラスで読み聞かされた絵本や詩の情報が玄関に掲示されるだけでも、教師と子どもたちの世界は広がりそうです。

 もちろん、その選択の質が問われることになるので、教師自身もアンテナを貼り続け、自分の選択を吟味する、という楽しみも増えます。また何を選択したかが共有されることで、自分の好みや(時には)偏りを意識する助けにもなりそうです。

 そして絵本や詩で世界が広がる中で、何かを話す時にも、本や詩から得たことを使うこともできるかもしれません。

 そういえば、『リーディング・ワークショップ』(ルーシー・カルキンズ、新評論)には、「本が大好きな本担当の先生」を自認しているファリーナ校長が出てきます(「読み書きを学校の中心に位置付ける」というセクション、28〜32ページをに登場します)。ファリーナ校長は、「毎月の本」を選び、「ほかの人がまだ見つけていない本を探したいと思っているので、実は本屋さんや図書館の本棚をいつも丹念に見て、本を注文している」そうです。そして、それを「毎月の本」や他のいろいろな方法で、教職員や生徒たちに共有している様子が伺えます。子どもたちも親たちも、ファリーナ校長が「本が大好きな本担当の先生」であることをよく知っていて、親たちも本を推薦する手紙を校長に書いてくるそうです。

 ファリーナ校長先生が全校生徒に読み聞かせをしたという記述はありませんが、本のおかげでファリーナ校長がいる小学校ではみんなが理解できる共通の言葉が生まれ、何かを話すときに、本の登場人物がまるで学校内にいるかのように話の中に出てくるそうです。

 校長が学校全体の集会で話している場面は次のように書かれています。

「みなさんを見ていると、一緒に読んだ本の主人公のように行動していることが分かりました。ルビィ・ブリッジズさんのように、勇気をもって正しいことのために立ちあがり、ルピナスさんのような決意をもって、世界を美しい場所にしようとしていますね」

 第6小学校の子どもたちは、ファリーナ校長が、どの本の誰を指して、何を言っているのかが分かっています。そして、もっと大切なこと、つまり本が自分たちの生き方を変えてくれるということも分かっているのです。(30ページ)

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★「キャプテンたちのコーラス」の訳は以下(1)に、関連のニュースとアマンダ・ゴーマンが読んでいるニュース(こちらは英語)の動画は以下(2)をご参照ください。

(1) https://www.asahi.com/articles/ASP28424SP28UHBI00H.html?iref=pc_extlink

(2) https://www.harpersbazaar.com/jp/celebrity/celebrity-news/a35453835/amanda-gorman-super-bowl-210209-lift1/?utm_source=yahoonews&utm_medium=distribution&utm_campaign=210211_yahoo

★★ JoEllen McCarthy の Layers of Learning, Stenhouseから出版、2020年. Kindle版 16ページに "Yes, our work can leave lasting impressions, but so can books" と書かれています。ちなみにこの本は、絵本から、アカデミックな知識やスキルだけではなく、学び手のコミュニティづくり、主体性、尊重、エンパワメント等々、多くのことを学べるとして、概念に分けて多くの絵本を紹介しています。

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