新刊の『言葉を選ぶ、授業が変わる!』(ピーター・H・ジョンストン 著、長田友紀、迎
勝彦
、
吉田新一郎編訳、2018年3月31日)を読んでいて何度も何度も「なるほど」と頷きました。国語教育の本で、教師の「言葉」の働きに目を向けた本はありますが、生徒の内面に食い入るような「言葉」の重要性を指摘した本は多くありません。著者であるジョンストンさんの言葉は(苦心して見つけてくださった本書の訳文は)、読者の心を掻き立て、励まします。
たとえば、次のような指摘は、教師の端くれである私も深く頷かざるをえませんでした。
教えるためには、褒めるだけでなく次の成長に必要なことを言わなければなりません。(94ページ)
まさしくそうなのです。「褒める」言葉が「伸ばす」言葉になるたには何が必要かということを教えてくれる言葉です。「褒める」言葉が大事なのはそれが次にやるべき何かを、相手に示すものであるから重要なのです。
言い換えをすれば、その子のやり方が否定されにくくなるのです。(95ページ)
これも至って微妙な言葉選びの心理と成果を言い当てています。ある生徒が学ぶなかで生み出した言葉について、その生徒の思いもよらない言葉でコメントしても、なかなか受け入れてもらえないことがよくあります。ましてや、自分が正しいと思い、よかれと思って発した言葉がかえってその生徒の学習成果を否定してしまうこともあります。それよりも「言い換え」をしていった方が伝わりやすいというのです。「言い換え」をすることは相手が苦心したことをまずは受け入れて、それを豊かに変身させることであり、うまくできれば、相手はその「言い換え」られた言葉に自分のやろうとしたことを発見してくれるかもしれません。こういうことに気づくことができる感性が素敵だと思いました。
次のようにも書かれています。
ときには、正面から挑むよりも裏口から挑んだ方が効果的な場合があるのです。明確化しても必ずしも効果的な学習をうみ出すことにはつながりません。(19ページ)
「裏口から挑」むというやり方、いろいろと工夫ができそうです。「言い換え」はその具体化の一つです。「明確化」するよりも、「言い換え」をしたり、相手の言葉を繰り返したりしてあげた方が、こちらの伝えたいことを理解してもらえることはよくあります。それは、相手の言葉を理解しようとしていることが伝わるからなのではないでしょうか。
これは、ジョンストンの言葉に、エリン・オリヴァー・キーンが『理解するってどういうこと?』などで明瞭にした「理解するための方法」の重要性を教えるものが少なくないこととも関係しています。「質問する」ことは本書で沢山取り上げられていますが、そのほかにも次のような言葉がありま
書くことはきわめて意図的なことであるということを会話の中で習慣化することが、クリティカル・リテラシーを育む素地となります。(100ページ)
読み書き一如のこうした考え方がまず魅力的です。書くことがきわめて意図的であるということを念頭に置いて読めば、主体的な読み方になります。何を言おうとして、どのような言葉を選んでいるのかということに気をつけようとするからです。「書くことはきわめて意図的なことであるということを会話の中で習慣化すること」は、読むときに文章の「大切なことを見極める」という方法を使えるようになる「素地」となります。そうすることで、著者との対話、他の読者との対話、何より自己との対話が促されるからです。
ジョンストンさんの言葉は、こうした「なるほど」を私という読者からたくさん引き出してくれます。「なるほど」を引き出すというだけでなく、読者の記憶や経験を引き出してくれるのです。読むことは、著者が生み出した言葉と読者とのやりとりのなかで、読者の記憶や経験が引き出される、ということを実感させてくれるのです。言葉を選ぶことはその言葉の意味も選ぶことでもあります。そのことで、見慣れた日常の見方が変わるのです。
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