生徒同士のカンファランス、つまり、ピア・カンファランスについて、私にはイメージしにくい部分があります。
特に、現時点では、二つのことが疑問です。
1)ピア・カンファランスの関係性は、何に例えると分かりやすいのか?
2)ピア・カンファランスの多くの事例が、ライティングであり、リーディングで少ない印象があるのはどうしてなのか?
2)に関しては、ライティングの推敲や校正の段階であれば、ピア・カンファランスは、特に一斉に行うには取り組みやすい、という点があるようには思います。
もっとも、カンファランス自体は、書くこと・読むことの様々な過程で使われることを考えると、「今日までに下書きを仕上げる、今日は一斉にピア・カンファランスを行う」という使い方だけでは、何か違う、というか、なんだか勿体ない印象を受けます。
2)についても、考え続けたいと思っていますが、今日は1点目、「ピア・カンファランスは、何に例えると分かりやすいのか?」を考えます。
ピア・カンファランスではなくて、教師によるカンファランスの場合、例えば、「医者と患者」や「親と子」の比喩が使われることがあります。
たとえば、 『読書家の時間』(新評論、2014年)の「評価」の章(161ページ)には、以下のような記述がありますが、それがカンファランスにも生きていると言えます。
「このような評価の考え方は、医師のカルテに似ています。医師は患者を一同に集めて、一斉に同じ治療を施すことはありません。一人ひとりの症状を確認し、どのように回復したいのかを聞いてから、その患者にあう助言や治療法を提案していきます。そして、その一連のやりとりをカルテに書き込んでいきます」
中学校レベルの優れた実践者、ナンシー・アトウェル氏は、自分の子どもが5歳の時に「靴ひもの結べるようになりたい」、と言ってきた時のことから、「引き渡すこと、手渡し、譲り渡すこと」という意味のある handover という単語を使って、知識やスキルを生徒に教えて、できるようにすることを説明しています。★
医師にしろ、親にしろ、はっきりしているのは、教える人と教えられる人との間にある、知識やスキルの差です。
一方、ピア・カンファランスではどうなのでしょうか? 人数の多い日本の教室ではピア・カンファランスが大切!と考えている『作家の時間』(新評論、2008年)では、ピア・カンファランスというセクションを設けて6ページにわたってその様子を述べており(68~73ページ)、その中には次のような文もあります。
「そして、ピア・カンファランスの最大のメリットは、お互いに読み合うことによって、子どもたちの間に一緒に高め合っているという学び合いの気持ちが生まれることです」(68ページ)
このような学びは何に例えればいいのでしょうか? 「ライバル同士の切磋琢磨」でもないし、「仲良しグループ」でもないし、複数で一つの目標に向かう「チームワーク」でもないし。。。
ピア・カンファランスにおける関係性を例える、よい例や比喩がさっと思い浮かばないのは、自分を振り返るとき、それぞれにピア・カンファランス的に、学び合い、高め合うという関係性が少ないからかもしれません。どうしても、知識やスキルに差(「多様性」というよりは、埋めるべき「差」です)があるところでの学びが多いのです。
逆に言うと、学ぶ人同士の、知識やスキルの差を、一方的に埋めるためではない関係性を、子ども時代に体験できることは、とても大きいのかもしれません。
また、先生は学びのいいモデル、と考えると、先生自身がピア・カンファランス的な学び合いを経験することも大切なはずです。
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そこで教師がピア・カンファランス的な関係性の学びを経験できる方法は?と考えてみることにしたところ、とりあえず、二つ、頭に浮かびました。
1)上下関係がなく、気持ちよく共有やコメントが出しあえるような、授業研究やライティングのグループ。できれば、コメントされる人とコメントする人とに分かれるのではなくて、それぞれが両方の立場を経験できるようだと、さらにいいと思います。
⇒ 一つの試みとして、
ここ何年か、数名の先生と「閉じたブログ」(メンバーしか見れないブログ)」で、お互いの実践を振り返ったり、情報を交換したりしています。いいフィードバックができているのか等、まだまだ課題はありますが、でも、この関係は、うまく運用できると、よいピア・カンファランスの関係性に近いのかも?と思います。
2)ブッククラブ体験
ピア・カンファランスの関係性の例えとして、「医師と患者」でも「親と子」でも、また「ライバル同士の切磋琢磨」でも、「仲良しグループ」でも、「チームワーク」でも ないと思うと、「ブッククラブの参加者」が近いように思いました。
それは、ブッククラブでは、「知識とスキル」の明らかの差を、一方的に埋める時間ではなく、違う視点が提供され、みんながその学びに集中しているからです。もちろん、自分の必要(自分の尋ねたいこと)をはっきり述べて、助言を求めることもあります。
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ピア・カンファランスをより深く理解するためには、まずは自分自身がピア・カンファランス的な学びの成功体験を増やしていくなかで、新たに見えてくるものもありそうに思っています。
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★ handover ですが、Nancie Atwell著のIn the Middle: A Lifetime of Learning about Writing, Reading, and Adolescents, (Heinemann, 2015) の 14-15ページ。それ以外の箇所でもこの概念はでてきています。
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