2021年10月22日金曜日

新刊『学習会話を育む ~誰かに伝えるために』

 かえつ有明中・高等学校の大木理恵子先生(国語科)が、書評を書いてくれたので紹介します。

「会話は創造的な作業空間である」

  “対話的で深い学び”という言葉がアクティヴラーニングの代名詞のように使われるようになり、日本でも多くの教室の風景が変わってきたように思います。知識伝達を軸とする講義式授業からの脱却を図り、生徒たちが学びのオゥナーシップを持って、学習感を拡充しながら生き生きと取り組む授業をどうデザインしていったらよいのか?

そんな意識を持っていらっしゃる先生方が増える一方で、その具体的な進め方についてはあまり語られておらず、手探り状態で苦戦されている方も多いのではないでしょうか。実は私もその一人です。国語科の教員として、「会話」という体験を通して豊かな言語力と複雑な思考を楽しむことのできる力を手にいれてほしい、自分の学びに自信と誇りを持てるような、真実と成長のある教室を創りたい!という思いを抱きつつ道なき道を進んだあげく、ついに迷子状態に…。そんな私にとってタイムリーに現れた『学習会話を育む』というタイトルの本は垂涎(すいぜん)ものでした。

本書はさまざまなアプローチ(マインドセット、場づくり、具体的な実践方法、実践実例、学習会話を促進させるカードなどのツールやアクティビティの紹介、評価の方法等)から、「学習会話」の実践に挑戦する私たちへのパワフルな提案(サジェスチョン)がちりばめられています。道に迷っていた私にとって、まさに必要なポイントごとに具体的で明確な目印がうたれた地図そのもので、読めば読むほど「すごいアイテムを手にしてしまった!」と感動しきりでした。

 「学習会話」は日本では耳慣れない言葉ですが、 “生徒が学習内容の理解を深め、思考力や言語能力を高める上でとても有効な手段”と紹介されています。また、会話を価値づけることで、「いかに学び、生きるかについての生徒たちの見方が育ち、他者と話すことによって学ぶこと、考えをつくること、意思決定をすることの価値を理解した時、生徒たちの学習感は拡充される」とも言っており、「学習会話」のスキルを身に着けることが生徒たちのエージェンシー(主体者意識)を高めるために必須な力であることは間違いないようです。

 とは言っても、「このテーマについて話し合って」というファシリテーションだけでは、生徒たちは自分たちの「会話」を「学習会話」へと深めていくことはできません。

ただの「おしゃべり」を「学習理解を深め、学習感を深める会話」へと質を高めていくために、どのような手立てが必要なのでしょうか。

 この問いに本書は余すところなく、直球で答えてくれます。

「…それだけに、考えをつくりだす意義を生徒に理解させることは、根本的なことであり刺激的な挑戦ともなります。私たちは、生徒が考えをつくりだす習慣と、それを可能にするスキルの育成をもっと重視しなければなりません。そのために本章では、考えをつくりだすのに必要とされる会話スキルを身につけるための実践的な方法を紹介していきます(51~52ページより抜粋 )」

とあり、実際の生徒の学習会話の記録をもとに、“明日から使える”具体的な手法がたくさん紹介されています。カードや天秤などのアイテム、三連続ペアトークやテキスト・ウォーキングなど、思わず使ってみたくなるアイディアに刺激され、授業の組み立てのイメージが次々と湧いてきます。

特に第4章は「国語科での学習会話」の実践について詳しく述べられており、文学の解釈の授業を通して人間であることの意味をより深く理解してほしいと考えている国語科の先生方にはぜひ読んでほしいチャプターです。

少しだけ紹介すると、

4.1のモデルを見ると、本や文章についての会話には豊富な内容があることがわかります。他の人は自分とは異なる理解をもっており、新しい発見、質問、回答、説明議論を提供してくれます。二人の生徒が一つの文章について話せば、その文章の可能性は大きく広がるのです。……生徒に、理解に重点を置いた長く豊かな会話を展開できる力を身に着けさせるには、粘り強く指導していくことが大切になります。(149~150ページより抜粋) 


   おまけですが、本書全体を通して「会話は創造的な作業空間である」というメッセージが織り込まれており、これは生徒たちの前に、まず大人である我々が理解しなければならないスタンスだと感じました。たとえば「会議」などのシーン。それぞれの立場からの意見をただぶつけあうだけのコンフリクトな状況がしばしば生じますが、「会議という会話の場」は「新しいものを創り上げる、“考え”を練り上げる場」であると捉えれば、その時間がまったく異なる表情を見せるのではないでしょうか。 本書でも「生徒が会話をすることに開放的な場所、生徒の声を大切にする場所、生徒が考えをつくり上げることを許可する場所では、有意義で永続的な学びが起こります。」(239ページ)「学ぶことにより興奮し、クラスメイトとよりよい関係を築き、より確かで永続的な方法を使って学習内容を学び、他の人とつながりながら生きることの価値を認識した人間へと成長していく生徒の姿を見ていると、この努力や挑戦には価値があることがわかります。」(284ページ)と書かれています。これを我々大人にもそっくりあてはめて考えることができれば、私たちの職場も未知の可能性が広がるすてきな空間になり得る、そんな心境にまで導いてくれた、大切な一冊です。

 興味を持たれた方はぜひ、本書を手に取っていただき、会話から生み出される創造的な学びの空間の魅力に触れてみてください。

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