蔭山洋介さんの『スピーチライター-言葉で世界を変える仕事-』(角川oneテーマ21,2015)がこの1月に書店に並びました。大統領や総理大臣の演説の陰にスピーチライターがいるということは、ご存知の方も多いはず。代筆屋あるいはゴーストライターみたいなものかなと、最初は私も思っていました。が、この本を読んで、だいぶ印象が変わってしまいました。構成は次の通りです。
はじめに 注目を浴びはじめた「影」の存在
第1章 世界を動かすスピーチライター
第2章 スピーチライターの役割
第3章 スピーチライターの仕事
第4章 スピーチライティングの実際
第5章 スピーチライターとして活動するために
おわりに スピーチライターは世界を変えられるのか?
くわしくは第4章に具体的なスピーチライターの仕事例が挙げられていて、それはとても臨場感があります。はっきり言って、スピーチライターはすばらしい表現と理解のコーチです。単に誰かの代わりに文章を書く仕事ではないということが、蔭山さんの本を通じてとてもよくわかるのです。依頼者の人となりや依頼者が関心を持っていることを理解しなければスピーチライティングはできません。相手の語ることに耳を傾け、しっかりと見つめ、ともに考え、ともにつくる――それがスピーチライターの仕事で一番肝心なことです。この本にはとても大事な「理解の仕方」が書かれていると思います。
『理解するってどういうこと?』の第8章「すばらしい対話」。その306ページから307ページにかけて「表8・2 子どもたちと話すときの原則」が示されています。15項目ほどありますが、そのなかから二つだけ引いてみます。
・書き手や読み手が、より洗練された言葉やより適切な言葉を使おうと試みるしかたを説明し、モデルで示す。
・考えていることを説明するときには、明確で、かつ一貫した言葉を使う。たとえば、熱烈な学びについて話し合うときは、子どもたちの学びの魅力を説明するときも、偉大な思想家たちについて学ぶときも、「熱烈な学び」を一貫して使う。
一つめは、言葉の使い方をモデルで示すようにすること、二つ目は「一貫した言葉」を使う重要性を間接的に教えることになります。いずれも、蔭山さんの本のなかでは、スピーチライターがクライアントと一緒にスピーチをつくるときに使われる方法と重なります(『スピーチライター』第4章を読むとよくわかります)。そして『理解するってどういうこと?』の308ページと資料Cに書かれている「考え聞かせをする」「モデルで示す」「実演してみせる」「カンファランスをする」「共有する」という、「子どもたちと話すときの原則」を授業で応用する五つの方法は、まさにスピーチライターの仕事の実際において、納得のいくスピーチを生み出していくために盛んに用いられています。「理想と希望を語る言葉」を生み出す「献身の仕事」のなかで。そこでは、スピーチをするクライアントの頭のなかにも、それをコーチする人の頭のなかにも「宝物」が生まれているはずです。スピーチライターの仕事のなかに、エリンさんが探究した「理解の種類とその成果」がいくつもあらわれます。私たちが理解するためのまたとないモデルの姿がそこには示されていると言えるのではないでしょうか。
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