2014年10月25日土曜日

『理解するってどういうこと?』を使うために(1)著者の「思い描く授業」を思い描いてみる!

 はじめまして! 山元隆春です。
 エリン・オリヴァー・キーンさんのTo Understandという本を『理解するってどういうこと?』というタイトルで、吉田新一郎さんと翻訳して、10月に新曜社から刊行しました。
 この本を翻訳している時に考えたことや、翻訳書を読み直して考えたことを、私の専門である「読むことの教え方」と関連づけながら、少しずつ紹介していきたいと思います。
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 『理解するってどういうこと?』第7章の255~256ページには、著者の「思い描く授業」が子ども・教師それぞれの立場から書かれています。この七つの「思い描く授業」を読んで、①皆さんがこれまでに取り組んだことのあること、②これから試してみたいと思ったこと、をチェックしながら(①は黄色マーカー、②は赤色マーカーでチェックしてもいいでしょう)、読みながら思いついたことなどを書き込んでもいいかもしれません。そうすれば、授業のどこを変えるといいのか具体的に考えることができるでしょう。
たとえば、著者の「思い描く授業」の最初にはこう書かれています。
・教師は、自分が知っていたことや考えていたことに疑問をもち、考え直すきっかけになる本について語るだけでなく、自分がどう行動したのかも話している。教師は、自分に起きたのと同じ事が起こるような本を選ぶように子どもたちに働きかけている。
 この「働きかけ」方について一つのアイディアが浮かんだので書いてみます。
■『理解するってどういうこと?』を訳しながら、著者のエリンさんが取り上げている本のなかに『むこうがわのあのこ』や『ルビー・ブリッジス物語』や『スモーキー・ナイト』など、人種差別や人権の問題にかかわる絵本がたくさんあるのに気づきました。アメリカの子どもたちにはなじみのある本です。しかし、どうすれば、これらの本で言われていることを日本の読者も自分たちの問題として受け止められるか、と考えていました。
■そんなことを考えているときに、共訳者の吉田新一郎さんにギャヴィン・メイシーズ(松本剛史訳)『1421-中国が新大陸を発見した年』(ヴィレッジブックス、2007)のことを教えてもらいました。コロンブスよりも前にアメリカ大陸(と後に名づけられる場所)を中国人たちが発見したことがわかりました。
■もう少しこのあたりのことを知りたく思って、同じように西暦年をタイトルにした本がないかと探してみると、ありました。フランスの歴史家ジャック・アタリ(斎藤広信訳)『1492-西欧文明の世界支配』(ちくま学芸文庫、2009)がそれです。1492年の前年までに何が起こったのか、その後に何が起こったのか、そして、1492年については月ごとに西欧で起こったことが一つ一つ書かれています。メイシーズの書いている中国人の発見のことは一つも書かれていませんでしたが。
■コロンブスがアメリカ大陸を発見することで、西欧(ヨーロッパ)文明の世界支配の引きがねが引かれたことがよくわかるのです。次に、アタリの本に紹介されていたスペインの宣教師ラス・カサスの『インディアスの破壊についての簡潔な報告』(染田秀藤訳、岩波文庫、1976年)を読みました。宣教師の筆は、コロンブスの航海以降に新大陸に群がったスペイン人たちが、おびただしい数の先住民たち(インディオたち)を殺戮したその模様を克明に描いています(「簡潔な報告」どころではありません)。
■圧倒される内容ですが、ラス・カサスの記述にはいかにも大げさで、繰り返しも多い! なぜここまで書かなければならなかったのか?なぜ残酷な殺戮を(虐殺行為のほかのなにものでもありません!)しなければならなかったのか? そしてなぜラス・カサスはこれほどまで大げさな報告をしたのでしょう?
■そのラス・カサスが抜粋・要録したコロンブスの航海日誌も訳されています。林屋栄吉訳『コロンブス航海誌』(岩波文庫、1977)です。コロンブス船団が、新大陸に何度か行ったその理由も書かれています。何より彼らが新大陸の原住民たちに対して恐怖と不安を抱いていたことが伝わります。その恐怖と不安がやがて徹底的な虐殺行為を生み出した? もしそうなら、理解しようとすることとは真逆のことですね?
■スペイン人が恐怖と不安を抱いてもインディオたちの言葉に耳を傾けようとしていたら、世界史は変わっていたでしょう。何者かわからない存在を「他者」と言いますが、つねに「他者」との会話は「恐怖と未知の領域」(加島祥造『会話力―英語と比べて』展望社、2014)なので、その恐怖と未知のなかで相手の話に耳を傾けるようとしたらどうなるか? 耳を傾けなかったらどうなるか?
■ジャクリーン・ウッドソンたちが絵本で投げかけた問題も、このように考えると私たちの身近な問題と地続きであることがわかります。私自身、今挙げたような本を読んで、人が人を理解するために、相手をリスペクトしながら話に耳を傾けることこそがほんとうに大切なことなのだと考えました。
あれ? これって本書の358ページに書いてある著者のすばらしい考察とどこか似ています! 読むことの授業で、いかに読むか・考えるかの「モデルを示す」のに使えないかなぁ、と考えています。

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