2026年7月24日金曜日

読み手としてのアイデンティティーを育む

 マギーが小学1年生のとき、私は彼女の読み方支援(リーディング・サポート)を担当することになりました。指導が始まったばかりの頃、まずは読者としての彼女を知ろうと、私たちはテーブルに向かい合って座っていました。支援担当の教師として、私は子どもの強みや次のステップを把握するためにいくつかの評価テストを行うのが常でしたが、中でも一番気に入っていた方法は、子どもたち自身が自分のことをどんな読者だと捉えているかを知ることでした。子どもの読書に対する意識(マインドセット)を探るため、私はいつも決まって次の2つの質問をしていました。

  • 読むことに関して、自分の強み(得意なこと)は何だと思う?
  • あなたにとって、本を読むことってどんなこと?(自分はどんな読者だと思う?)

少し雑談をして場を和ませた後、私はマギーを見て最初の質問を投げかけました。「マギー、読むことについて、自分の強みはどこだと思う?」

マギーは目を見開きました。質問の意味を一生懸命に理解しようとしているのが伝わってきます。彼女は困惑した表情で私を見つめました。

「あなたの強みについて少し教えてほしいの。読むことで、自分はこれが得意だなと思うのはどんなところ?」と、質問の意味が分かりやすくなるように説明を加えました。しかし、マギーは肩をすくめるだけでした。

新学期が始まって間もない時期だったので、こうした質問に答えるのが難しいことは予想していました。たいていの場合、日々の指導の中でこうした対話を重ねていって初めて、子どもたちは答えられるようになっていくものだからです。

私は彼女が答えるのをじっと待ちました。どうしても返事が浮かんできそうにない様子だったので、次の質問に進むことにしました。「あなたにとって、本を読むとはどんなこと?」するとマギーは、「この先生、ちょっと頭がおかしいんじゃないかしら?」とでも言いたげな目で私を見つめました。一体全体、何を訊かれているのだろう、という顔です。私は言い方を換えました。「読者としての自分について教えて。」

それでもマギーは、どう答えたらいいのか分からないという様子でした。

「本を読むときの自分について教えてほしいの。どんな本を読むのが好き? どこで読むのが好きかな? お気に入りの本はある? 本や読むことに関して先生に教えておきたいことはある?」と、彼女のことを少しでも知りたい一心で言葉を重ねました。

彼女は言葉に詰まりました。私は焦らせないよう、静かに返事を待ちました。彼女は真剣に私の質問を考えています。私はさらに待ちました。「……ダニーの本と、グッド・ドッグ(いい犬)の本を読むのが好き」と、彼女は少し不安そうな声で答えました。

「犬が出てくる本が好きなのね」と私は推測しました。これから本を選んでいくための、小さな、でも大切な手がかりが得られて嬉しくなりました。

彼女は少しホッとした表情でうなずきました。

こうしたマギーの反応に、私は全く驚きませんでした。子どもたちに初めてこの質問をしたときには、よくある反応だからです。最初のカンファランスはいつも一筋縄ではいきません。「待つ時間」をたっぷり取り、質問を細かく噛み砕いて伝える覚悟が必要だと分かっていました。正直なところ、子どもたち(特に就学したばかりの幼い子たち)は、自分の強みを言葉にしたり、自分の好みを語ったりする機会など滅多にありません。しかし、時間をかけて意識的に言葉を交わしていくうちに、子どもたちはこうした問いに上手に応えられるようになっていくのです。

 

スキルの先にあるもの

教師になりたての頃の私は、子どもの読解力を「学習面」の観点から説明することなら、お手の物でした。さまざまな評価テストや少人数指導、個別のカンファランスを通じて子どもの学習状況を把握し、その進捗を具体的に描き出すことができたのです。「この子の今の強みはここで、次のステップはこれだ」と見極める知識もありました。もちろん、学習面での成長を知ることは大切ですが、それは子どもたちがもつストーリーのほんの一部に過ぎません。学力としての読書について語ることはできても、本当に知るべきことはそれだけではないと気づいたのです。

子どもたちに寄り添って指導を続けるうちに、読むのが得意な子は、単に「読むスキル」が高いだけではないことに気づきました。彼らは自分の「読書の世界」を、より広い視野で捉えているようでした。自分が何に関心があるかを自覚しており、身近に読み仲間と呼べる人がいて、好きな本について生き生きと語ることができました。彼らにとっての読むことは、学校にいる時間だけで終わるものではなかったのです。こうした子どもたちとの出会いを通じて、私は一人の読み手としての「アイデンティティー(「読み手としての姿勢や意識」)」をすくい上げるために、もっと本質的な問いを自分自身に投げかける必要があると学びました。

  • 私は、教室にいる子どもたちがどんな本を好むのかを知っているだろうか?
  • 彼らがこれまで本とどんなふうに関わってきたかを知っているだろうか?
  • 次に読む本を、彼らがどうやって見つけているかを知っているだろうか?

「何ができるか(スキル)」だけでなく、「読み手としてどう生きているか」に目を向ける必要がありました。学校で何を読んでいるかだけでなく、放課後に何を読んでいるかまで想像を広げなければならなかったのです。子どもたちは私に教えてくれました。学習面でのサポートは不可欠だけれど、それだけでは十分ではないのだと。

だからこそ私は、読み手としてのアイデンティティーを育てることが重要なのだと確信しました。

マギーの指導にあたっても、彼女が必要としている学習面でのサポートを行うのは当然です。しかし同時に、これまでの教え子たちが気づかせてくれたように、彼女が「自分は本を読む人間だ」と思えるようになる手助けもしたいと考えました。彼女との日々の対話や学びの場において、私は次の3つの大切な考え方を常に意識するようにしたのです。

 

読み手としてのアイデンティティーを育む対話

私の場合、まずは子どもの様子をじっくり「観察し、耳を傾ける」ことから始めます。子どもたちが何度も繰り返し読んでいる本や、楽しそうに開いている本はどれだろうか。教室に足を運んで、子どもたちが自分のブックボックス(読書箱)にどんな本を選んで入れているかを確かめたり、図書室でどんな基準で本を探しているのかをおしゃべりしながら聞いてみたりします。また、一人で黙々と読むのが好きなのか、友達と一緒に読むのが好きなのかを観察し、家では誰と一緒に読んでいるのかを尋ねることもあります。そうするうちにマギーも少しずつ心を開いてくれ、アイデンティティーを育むときの「お決まりのやり取り」が少しずつ見られるようになっていきました。

私:「あなたって、きっと〇〇なタイプの読み手よね……」 子ども:「うん、私は〇〇なタイプの読み手だよ!」

 

読書コミュニティーとのつながりをつくる

マギーが読み手としての自分について語れるようになったら、次のステップは彼女を「読書コミュニティー(本を通じた仲間とのつながり)」へと繋ぐことです。自分と好みの似ている友達と話す機会をつくるのはもちろん大切ですが、あえて異なる好みをもつ子と話すことも、新しい世界や可能性に気づく素晴らしいきっかけになります。友達と語り合う時間を確保し、著者と繋がり、身近な読書仲間を見つけられるようにサポートすることで、子どもたちは「読み手としての人生」へ向けた第一歩を踏み出せるようになります。私がマギーのような子どもたちを読書コミュニティーへと繋ぐために、よく実践している具体的なアプローチは次の通りです。

  • 子どもたちの「おすすめ本」をクラスの話題の中心に据える
  • 「この本、(クラスの)誰が気に入ってくれそうかな?」と問いかけてみる
  • お気に入りの作品について、ブログを書いたり紹介動画を作ったりする機会をつくる
  • クラスの枠を越えて、学校全体や家庭などへおすすめ本を発信する
  • 著者のウェブサイトやSNSを通じて、作家本人と繋がれるよう手助けする

 

本への架け橋を架ける

子どもたちが自分なりの「読み手としての姿勢や意識=読み手としてのあり方(アイデンティティー)」をつかみ、仲間との繋がりを感じ始めたら、次はいよいよ「ステップアップ(背伸び)」の段階です。これまで触れたことのない新しい作家や本、ジャンルへと橋を架け、世界を広げていきます。教室にやってくる子どもの中には、最初からある程度「自分は読み手/書き手」としてのアイデンティティーをもっている子もいます。そうした子は、幼い頃から読み聞かせをしてもらっていたり、大好きな本が決まっていたりします。本の探し方を知っていて、次に何を読もうか決まっていることも多いものです。だからこそ、マギーのような子どもたちが一歩踏み出し、世界を広げられるようサポートすることが欠かせません。私が子どもたちと本との間に架け橋を架けるために、意識しているアプローチは次の通りです。

  • 「ありのままのあなた」や「これからなりたい自分」を、いつでも温かく迎え入れてくれる本を届ける
  • 「読者としての成長の歩み」が今どの段階にあっても、全肯定して伴走してくれる本を届ける
  • 教室の図書コーナー(学級文庫)の本の並べ方をこまめに変えて、まだ見ぬ本との出会いを演出する
  • 本の「ペアリング」を作る(例:「これが好きなら、次は〇〇がおすすめ!」「物語とノンフィクションの組み合わせ」「この登場人物が好きなら、今度はこのキャラクターに会ってみて!」)
  • 「読み聞かせ」を通じて、子どもたちが自分一人では選ばないような新しい本へと世界を広げる

子どもたちに「文字の読み方(スキル)」を教えることはできても、本当に難しいのは、彼らを「自発的な読み手」に育てることです。読むために必要なスキルや方法を伸ばすことが不可欠であるのは言うまでもありませんが、それ以上に、一人の読み手としてのアイデンティティーを見つけ、育めるよう手助けすることこそが、その後の人生を大きく変える決定打になります★。

学期の後半、マギーの保護者と彼女の成長について面談する準備をしていた頃、私は再びあの質問をしてみました。今度のマギーは目を見開くことも、困惑した顔をすることもありませんでした。読み手としての自信がしっかりと育っているのが見て取れました。

ある日の指導の終わりに、私はマギーに言いました。「読み手としての自分について教えてくれる?」

彼女は弾むような声で答えました。「私、犬と猫……あと、動物の本が好き! エイミー・クラウス・ローゼンタールさんの本も好き。『ジ・オーケー・ブック』★★と『イエス・デイ!』★★★が特にお気に入り!」彼女は一度言葉を区切り、パッと顔を輝かせてこう言いました。「私、本が大好き!」

私たちは、確かな一歩を踏み出していたのです。

 

出典・https://choiceliteracy.com/article/build-reader-identity/

 この記事を書いたキャシー・ミア(Cathy Mere)先生は、オハイオ州で幼稚園年長から小学6年生までの学年を担当する教師として勤務したほか、リテラシー・コーチ(読み書きに特化したインストラクショナル・コーチ)やリーディング・リカバリー(Reading Recovery)教師としても活動してきた。著書に『More Than Guided Reading』がある。

★リーディング・ワークショップとライティング・ワークショップでは、正解的なスキルとしての読み方や書き方を教えるよりも、一人ひとりの読み手や書き手によりよい読み手や書き手になることを教えることが大切と言われます。

★★『The Okay Book』は、Todd Parr作の絵本です。

★★★残念ながら、『Yes Day』の邦訳はありません。エイミー・クラウス・ローゼンタールの本で邦訳があるのは、『おかあさんはね』と『ディアガール : おんなのこたちへ』です。

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