2014年11月28日金曜日

朝読(や読解の授業)で読む力をつけるには?



No More Independent Reading Without Support, by Debbie Miller & Barbara Mossという本を読みました。これを日本の状況に当てはめると、表題のようなタイトルになるかと思います。直訳的にすれば、「教師の指導やサポートなしに、朝読(あるいは、図書の時間)は行わない」になりますが。

その本の47~53ページに、読む力をつけるための4つの要素について整理されていたので、紹介します。

   1)目的
   2)本物
   3)選択
   4)しっかり教える


1)目的 ~ 何を、どう、なぜ読むのかが明確

 ・今日読む目的は何か? → この本をなぜ読んでいるのか?
 ・何を明らかにしたくて読んでいるのか?
 ・自分が理解したこと/知ったことをどう示せるのか? → 紹介/評価
 ・読み手としての自分について今日何を学べるのか? 自分はどう賢くなるのか?

 目的が明確だと、主体的な学び/読みになる。モチベーションが上がり、主体的に取り組める。本当の読み手がしていることを体験してほしい。
 目的が明確だと、「振り返り・共有」の時間もより効果的になる。(上の問いの3番目や4番目を振り返れる/共有できる。)

とあり、ウ~ンと唸ってしまいました。朝読にしても、図書の時間にしても、読解の授業にしても、目的意識というのは極めて希薄だからです。目的のないところで、何か生まれるか? 問いの3番目や4番目は生まれませんね。


2)本物 ~ 本物の読み手がしていることか?

 子どもたちにさせることは、教室以外でやられているか/大人たちが本当にしていることか、が判断基準。していないことは、使われることがないので(=偽物)、やらないようにする。

49 以下の質問にどう答えますか?     (斜体は、吉田が加えた項目)
     読んだ後にワークシートを埋める?
     読む本は自分で決める?
     自分が読む本や読みたい本はリストアップしておく? もししていないなら、している人を知っている?
     読んだ後に、誰かの質問に答える?
     読んだ後に、本を紹介するポスターやチラシをつくる?
     友だちに本を紹介することがある?
     読んだ本について誰かと語り合う?
     自分にあったレベルの本を読んでいる? 簡単な本や難しい本も読む?
     ブッククラブのメンバーになっている? もしなっていないなら、誰かブッククラブをしている人を知っている?
     本を読み終わるたびに、要約や感想文を書いている?
     下線、質問、反応などを書き込みながら読んだことがある?
     段落毎に、自分が選んだ題材でないものを克明に読解するようなことはする?
     読むときには、音読する?
     読むときには、段落を区切って/順番に声を出して読む?

以上の質問に答えることで、何を発見しましたか? 何は今のままやり続け、何はやめた方がいいと判断しましたか?

3)と4)については、また別の機会に。

2014年11月22日土曜日

自立心と協調性との緊張関係


 『理解するってどういうこと?』を刊行していただいた新曜社から『ロボットの悲しみ』という本が出ています。この本では、岡田美智男氏をはじめとした執筆者たちが、「自立する」ということがむしろ「依存先を増やす」ことだという考え方★を一つのキーコンセプト(鍵となる概念)として、ロボットと人間との新たな関係を探っていくのです。環境心理学やコミュニケーション、発達心理学、ロボット研究の専門家たちの議論がとても面白くて、一気に読み終えました。

 え? ロボットの本が「理解する」こととどう関係するかって? それが大いに関係あるようなのです。

 一例を挙げましょう。『理解するってどういうこと?』の第4章に、チャールズ・レイク小学校のキャスィとジョディの教室での、リタという女の子のエピソードが出てきます。

 リタはメキシコからオハイオ州クリーブランドにやってきた子で、スペイン語を母語としていて、まだ英語をうまく使えないので、文字なし絵本を抱えていました。そのクラスの教師の一人キャスィは、リタとカンファランスをしていて、部屋の本の山のなかから言葉のある本を選んでくるように言います。リタが選んだのはアレン・セイの『おじいさんの旅』。若い頃日本からカリフォルニアに渡った、セイのおじいさんの生涯を題材にしたものです。作者自身のこれまでと、その、おじいさんの生涯とを重ねて描いています。私も読んだことがありますが、半世紀近くのことが20ページほどの絵本に収められているので、結構込み入った筋立ての巧みな絵本だという印象があります。

 キャスィはそのカンファランスで、少し前にこの本を読み聞かせながら実施した「大切なことを見極める」のミニ・レッスンのことを思い出して、リタ自身が大切に思ったことを考えさせました。リタはどんどん自分が大切に思ったことを言っていきます(128ページから129ページ)。結構込み入った絵本なのに、リタはミニ・レッスンの時のことを思い出して、この本の大切なテーマにかかわる発言を連発し、ついに自分で『おじいさんの旅』を読もうとするのです。

 でも、英語がまだうまく使えないリタですから本のなかにとてもたくさんの知らない言葉があることに気づきます。キャスィはそれらの言葉の意味を直接教えるのではなくて、自分の知らない単語に出会ったときに「あなたにできるのはどんなこと?」と質問しました。リタは「声に出すの」と言いましたが、さらに「他にできることは?」と問いかけます。リタの次の行動は、壁にあった「知らない言葉に出会ったとき、私たちができること」というタイトルの模造紙でした。そこには、子どもたちがブレイン・ストーミングして話したたくさんの方法を、キャスィが書き留めたものです。『理解するってどういうこと?』にはその内容までは書いてありません。すぐ後に、「これもまた、自立心の促進です」と書かれてありますから、読者にも自力で考えるように工夫された「空所」なのかもしれません。私は、「知っていそうな友だちにきく(質問する)」、「先生にきく」、「辞書で調べる」、「自分の知っている言葉と似ているところがないか考える」といった内容だったのかなと思います。実際にキャスィがリタに求めたのは「知らない言葉に出会ったとき」、どのような依存先を探せばよいのかということが「自立心の促進」だというのは、最初に取り上げた『ロボットの悲しみ』に書かれてあったことと妙に符合します。

 依存先を探すことのできる場所に教室がなっているかどうか、つまり、協調性のある関係のなかで知的な発達を喚起するコミュニティになっているかどうか。「依存先を増やす」ことができることは、自立した読み手を育てる環境のとても重要な特徴なのです。「自立心と協調性との緊張関係」(133ページ)があらわれるための大切な条件なのです。

 

 

★岡田氏は、熊谷晋一郎氏の「依存先の分散としての自立」(村田純一編『知の生態学的転回』東京大学出版会、109-136ページ)という論文を参考にしています。

2014年11月15日土曜日

テストというジャンル(の中の詩)


 テストを避けて通れないとすれば、どうするのか?

「テスト作成者は、僕が、彼らが作った質問を理解できているのかどうかを見たいんだね。僕が(テスト問題として出されている)詩を理解しているかどうかでなくて」

 上の文は、今読んでいる本のなかで、でてきた小学校4年生の男の子のセリフです。

面白い分析だと思いませんか?

*****

 ジャンルの特徴を知り、その特徴を踏まえて読む、つまり読み方を変える。これは優れた読者が行っていることの一つだと思います。また読む目的によって、読み方を変える、これも、同じく優れた読者が行っていることの一つだと思います。★★

 テストも、避けて通れないのであれば、「その特徴と目的を踏まえて、読み方を変える、つまり、テストを一つの(特異な?)ジャンルとしてアプローチする」、そんなことを耳にしたことがあり、「なるほどね」と思いました。

 冒頭で紹介したセリフは、RW(読書家の時間)で、詩というユニットを経験した子どもたちが、「共通テストで出題される詩」について、その特徴を押さえようする過程で出てきたものです。

 具体的にこういう方法もあるのだ、と思ったので、以下、紹介します。

 先生は、子どもたちに共通テストの問題(今回は詩についての問題)を配布して、その特徴を考えられるようにしています。

 (これを読んでいると、子どもたちは、すでにRWでどっぷり詩に浸ったあとなので、テストに登場する詩の設問との落差も大きくて、その特徴を見つけやすいように、感じました。)

 先生は、「世界の中にある詩」と「テストの中の詩」と書いたベン図を準備しておきます。

 子どもたちは、まず付箋をもって、テストに登場する詩とその問題を見て、気付いたことを書き込んでいきます。

 先生は子どもたちにカンファランスをしながら、付箋に書かれたことを確認したり、それを深めるような問いかけをしたりします。

 最終的には子どもたちから出たことを、ベン図に書き込みながら、「世界の中にある詩」と「テストの中の詩」の、違う点と共通点を、クラスで深めていきます。

 子どもたちは、テストで詩が出る場合、普段の詩の読み方と、自分のアプローチを変えないといけないことにも気付いていますし、「え? これが小学校4年生の分析?」と思うぐらい、鋭い分析がでています。

 もちろん、この方法は、詩以外のジャンルでも有効だと思います。

   上で紹介した子どもの言葉は、以下の本の32ページにでてきます。このときの授業の様子は3033ページです。
Put Thinking to the Test (Lori L. Conrad, Missy Matthews, Cheryl Zimmerman, Patrick A. Allen著、Stenhouse, 2008).

★★ この点については、Conferring: The Keystone of Reader’s Workshop (Patrick A. Allen, Stenhouse, 2009)66ページに、とても明確な図があります。

2014年11月7日金曜日

自分の成長を後押ししてくれる目標を設定する




 学期の途中に、自分の学びを振り返り、次の目標を設定する、そんなことを考えておられる先生もいらっしゃるかもしれません。

リーディング関係の本★を読んでいて、「成長を後押してくれるような目標とは?」というワークシートをつくるのに、いいなと思うものを見つけました。

そのワークシート自体はとてもシンプルです。(1)「成長を後押ししてくれる★★目標とは?」という定義が書いてあって、その下に(2)自分の目標と(3)どうして、その目標が、自分の成長を後押ししてくれるような目標となるのか、という理由を書く欄がある、それだけです。

ここから自分なりに、自分のクラスに合うように、言葉を変えたり、足したり減らしたり等のアレンジをすればいいように思います。

私は、目標設定の前に振り返りがあるといいように思うので、目標設定に入る前に、振り返りを書く欄をつくろうと考えています。

この本で紹介されている「成長を後押ししてくれる目標とは?」の定義は以下の3つ(自分なりの意訳ですみません)です。シンプルですが、考え甲斐があるように感じています。

― 現在の自分を、現在では到達できていない新しいところへ、伸ばしてくれるもの
― 意欲的に、興味も持って取り組めるもの
― 実現可能であるもの

 またその下に、自分の目標を一度吟味できる欄があるのも、いいなと思いました。

*****
 
  この本は、1017日のRWWW便りでも紹介したSteven L. Layne著の
Igniting a Passion for Reading: Successful Strategies for Building Lifetime Readers (Stenhouse, 2009)
です。この日のRWWW便りにも書いたように、子どもを読書好きにしようと著者の気持ちがヒシヒシと感じられる本です。
★★ ワークシートは31ページに載っています。使われている英語はstrong reading goalなので、「強力な」ぐらいの日本語のほうがいいのかもしれません。