2025年7月4日金曜日

「作家の時間」と「読書家の時間」の実践に関するアンケート

  4人の小学校の先生と2人の中学校の先生に、以下の6つの質問に答えてもらいました。

・「作家の時間」「読書家の時間」に取り組み始めたのは、いつからですか? 

・子どもたちの反応はどうですか?

・この教え方・学び方について、現時点でどう感じていますか?

・困っている点としては、どんなことがありますか?

・取り組み始める前にどんな情報(本)を参考にしましたか?

・教えている対象学年は?

 

 中学校の先生2人は、数年の実践経験がありますが、小学校の先生は2人が今年度からの実践、もう2人も昨年度からです。(もし可能なら、あなたもぜひ回答をpro.workshop@gmail.comにお送りください。)

 

●神奈川県、A先生

 

・今年度「作家の時間」「読書家の時間」に取り組み始めたのは、いつからですか?

「作家の時間」を4月から始めています。

 

・子どもたちの反応はどうですか?

9割の子どもは楽しんで取り組んでいます。特に僕のクラスが2回目で、作家の時間を知っている子たちは大喜びしていました。

 作家の時間の特徴として、授業以外でも作文を書く子が多くいるところにあります。休み時間や給食を食べ終わった後など、隙間の時間を見つけては自分の作品を書き進めている姿をよく見かけます。

これは彼らにとって、とても楽しいことであり、もっと上手く書けるようになりたいと思っているからだと思います。ほとんど遊びに近い感覚で作品作りをしていると思います。

 また、お互いの作品のことについてよく知っています。彼らは自分の書いたものは友だちに見せたいという気持ちが高く、様々な場面で読み合っています。友だちに見せて喜んでもらえることで、もっと書きたいという意欲が湧き、もっと上手くなりたいという目標がたてられているように思えます。

 さらに、僕が担任ではなくなっても書き続けている子もいます。彼女が2年生の時に僕は担任をしました。5年生になった今でも書き続けています。4年生や時には、自らコンクールにも応募しました。今年度もエントリーするために下書きを書いているノートをこの間見せてもらいました。下書きへ自分で問いの形で赤を入れていました。もう立派な自立した書き手の姿になっていました。

 

・この教え方・学び方について、現時点でどう感じていますか?

これだけ、子どもたちが楽しみにしている授業は中々ありません。子どもたちの様子をうまく見取れたことを使ってミニレッスンをすると、伝えたことをものすごく良く受け取ってくれる感覚があります。教科書に載っていて教えなくてはならないから教えるのと、子どもたちが必要そうにしているから教えることで学びの効果が大きく異なることを感じています。会話文を多く使っている様子があったのですが、「」の使い方を理解していなかったためミニレッスンで扱いました。すると、次の作品から「」を正しく使うことができるようになった子どもが何人もいました。

 

・困っている点には、どんなことがありますか?

自分の見取る力不足もあるのですが、33人の書いていることを中々追いきれていないです。周りで「作家の時間」を実践している人がいないので、より良い授業にしていくために子どもへの関わり方やミニレッスンの方法などについてディスカッションすることができない。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

 

・取り組み始める前にどんな情報(本)を参考にしましたか?

『作家の時間』『国語の未来は本づくり』『イン・ザ・ミドル』

 

・今年教えている学年は?

小学校3年生

 

 

●兵庫県、B先生

 

・「作家の時間」「読書家の時間」に取り組み始めたのは、いつからですか? 

作家の時間に本格的に取り組み始めたのは、今年度からです。昨年度は、3学期に「物語を書こう」というユニットを行っています。

本格的な「読書家の時間」はまだ取り組んでいません。昨年度2学期に「戦争に関する本を読もう」を、3学期に「科学読み物を読もう」を、一昨年度3学期に「斎藤龍之介の作品を読もう」という、範囲を限定した取り組みは試みています。

今年度のスタートは国語教科書の一教材終了後、4月後半です。

・子どもたちの反応はどうですか?

思いのほか好評です。いわゆる体育会系やんちゃ男子が、食いついているのが意外でした。何を書こうか悩んでいる子もまだいますが、決して後ろ向きではありません。「本づくりの時間はまだか」「給食待っている間に書いておきます」といった、前のめりの子どもたちもいます。書きたいことが見つかると、スイッチが入るようです。

(一か月後の補足) 本づくりへの関心は継続しています。中には、家庭学習で題材あつめや下書きをしている子もいますが、全員が寝ても覚めても本づくり、というわけではありません。しかし、本づくりに後ろ向きな子は見当たりません。

ミニレッスンで、教科書教材を使った言葉や書き方の指導をしても、それを取り入れようとする動きもあります。当初は、動けなかった子も、気に入った本を見つけ、メモ帳に何やら書き出しました。プールの後もその本を衝立にして読んでいます。

 

・この教え方・学び方について、現時点でどう感じていますか?

子どものもっている力を引き出すので、かなりよい学び方だと思っています。たとえば、要配慮支援と言われていた子が、その豊富な知識を活かして科学読み物に取り組んでいます。表現の場ができて、生き生きしているように見えますし、得意なことを活かせる場となっていると思います。子どもの個性が見える教え方だと思います。

(一か月後の補足) 国語力を総合的につける学び方だと思います。例えば、教科書教材を使い、登場人物の気持ちや考え方を表す言葉見つけをする場合でも、自分の作品に活かせるので、自分事として探していました。同じ作者の目線で作品に触れるので、プロの作家のすごさに気づく子もいました。

教科書作品だけでなく、『読書家の時間』で紹介されている本も教室に置いていますが、それらの本を参考に本づくりをする子もいます。夢中になる中で、「言葉」を学んでいる気がします。

 

・困っている点には、どんなことがありますか?

ひたすら書く時間にカンファランスがなかなかできないことに困っています。どうしても偏った子に時間をとってしまい、まだつながりが浅い子たちもいます。

また教科書至上主義の人たちへの説明の仕方や材料集めがまだ、不十分です。

作家の技をミニレッスンする際に適度な本を探す力をつけたいです。

学習指導要領の中のどこに位置づけられるかを説明する力がまだありません。

(一か月後の補足) 出版した本を実際に読んでもらい、フィーバックをもらう機会がなかなか取れません。校内や保護者への協力要請が必要ですが、大規模校で若い先生も多いためか、学年でそろえた実践を、という名目で禁止される恐れもあり、まずはこっそりとやっているのが実情です。そのため、子どもたちには読者の声が届けられません(クラスの児童以外)。

まずは、ペア学年の5年生のペアクラスに読者になってもらおうと考えています。

また、まだ下書き段階の子どももいるなかで、どんな国語の力がついたか、保護者への説明の仕方が分からずにいます。その子その子に、どんな力(理解・スキル・態度など)がついたのか、説明できなければ、保護者の賛同も得にくい気がしています。

作家である彼ら一人ひとりが、作家としての成長をどのように感じ取っているのかも自覚させたり知っておいたりしたいですが、その時間がなかなか確保できません。

 

・取り組み始める前にどんな情報(本)を参考にしましたか?

『作家の時間』『読書家の時間』『国語の未来は本づくり』『理解するってどういうこと?』

 

・教えている学年は

小学3年生です。

 

 

●熊本県、C先生

 

・「作家の時間」「読書家の時間」に取り組み始めたのは、いつからですか? 

6月10日(火)から始めました。まずは「作家の時間」から。1週間後に「読書家の時間」も始めました。

 

・この教え方・学び方について、現時点でどう感じていますか?

一人ひとりをいかす教え方・学び方としての魅力を感じています。

「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」を念頭に置いた授業実践をしてきましたが、子どもたちの興味・関心などの違いをいかすということや、身につけられる度合いに関して、大きな違いがあります。

子どもたちの興味・関心について詳述すると、これまで知り得たもの(趣味や習い事など)以外の、子どもたちですら自覚していなかった興味・関心に気づけたことがありました。Rくんは、「作家の時間」で戦いに関する物語をつくっていましたが、「読書家の時間」では、冒険ものの本をよく読んでいました。カンファランスをしていくと、戦いよりも、冒険を通して、様々な人や事に出会うことが好きだということが分かりました。また、Rくん家はよく旅行をしていて、保護者の方が旅行好きだということも知ることができました。Rくんが「夏休みの旅行を楽しみにしている」という話をしてくれたときには、すぐにこれらの話を思い出し、いつも以上に思いを受け止めながら話を聞こうと感じました。

「作家の時間」「読書家の時間」以外の時間での子どもたちとの関わりにもよい影響を与える点が、特によいと思います。

 

ホンモノになることが、子どもたちの学びを後押ししているところも魅力的です。

子どもたちは互いに「作家さん」と呼び合い、ミニレッスン後は、「お仕事始めようー!」「よろしくお願いしまーす!」と言いながら、それぞれの学びの場(仕事場)へと向かって行っています。

また、「みんなで聞く時間」後は、「おつかれさまでした~!」と言い合っていて、毎度ほっこりします。

ホンモノになりきっているので、2年生ですが、書いたものを何度も読み返し、詳しく書き直したり誤字・脱字を訂正したりと、これまでの作文指導におけるやらされ感とは異なり、主体的な姿が見られています。

特にTくんは、昨年度から作文が苦手だったようですが、「作家の時間」を始めて間もなく、「作家の時間が楽しみ」という思いを(思わず)吐露し、周りの子どもたちから突っ込まれて、笑い合っていました。

始めて1か月弱が経ちますが、授業以外の時間にも学び続けている姿があり、そんな主体的な姿を継続できるよう、サポートに努めたいという思いや覚悟をより一層つよく感じています。

 

・困っている点には、どんなことがありますか?

サイクルを1度でも回すことができれば、出版というひとまずの達成感を味わえると同時に、見通しをもって取り組めるようになると思うのですが、いきなり長編を書こうとしているSさんは、一時的にでしたが(現作品を)書くことに飽きてしまいました。

出版までいかずに他の作品づくりをしてよいことや、続編のような形をとって、途中で区切って出版してよいことなども伝えましたが、Sさんは書き続けることを選びました。

社会科ワークショップを実践したことがありますが、その時は、まずはサイクルを小さく回すことを意識していました。

今回も、最初の方は(2年生ということも考慮して)サイクルを回すことを意識した方がよかったのかなぁと思いつつ、しかし、Sさんの止めどなく書き続けていた姿を思い返せばどうすればよかったのか、考え続けています。

教科書中心ではないことを、(同僚や管理職に)どう理解してもらうかということです。子どもの姿が最も説得力をもつとは思いますが、時間を要します。

「教科書の題材文はかなり考えて掲載されている」/「教科書はかなり考えてつくられている」という主張を受け止めつつ、「作家の時間」「読書家の時間」のよさも感じてもらえるように、教科書もうまく活用しながら進めていく方法を、(同僚や管理職と)一緒に考えていきたいと思っています。

 

・取り組み始める前にどんな情報(本)を参考にしましたか?

『国語の未来は「本づくり」』『増補版 作家の時間 「書く」ことが好きになる教え方・学び方【実践編】』『改訂版 読書家の時間 自立した読み手を育てる教え方・学び方【実践編】』『イン・ザ・ミドル  ナンシー・アトウェルの教室』です。

 

・教えている学年は?

小学校2年生です。

 

 

●新潟県、D先生

・今年度「作家の時間」「読書家の時間」に取り組み始めたのは、いつからですか?

「作家の時間」としてのスタートは 

 ①4月です。特別支援学級(情緒)の4人の生徒と共にです。

 通常学級では3年生が5月末から。俳句につながっていく問いづくりなどのスキルから始めています。

 通常学級の1年生は6月半ばから詩歌のWWに入る予定です。

 「読書家の時間」としては5月。1年生で「お試し読書」で絵本に点数をつけることをやってみました。

 

・子どもたちの反応はどうですか?

→①は、とても喜んでもらえました。「国語が楽しい」「詩を作ることがこんなに楽しいなんて」「やっていくうちにいい詩になって嬉しい」これらは、子どもの生の言葉です(授業記録に残してあります)。またやらないの?とか詩はいつやるの?とか、よく聞かれます。

 

 は、澤田先生の手法「ラッキーディップ」(https://askoma.info/?s=%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%97)でスタート。当たり前の言葉の組み合わせではなく、偶然が生み出す言葉の組み合わせを楽しんだり、芭蕉の俳句「古池や~」を映像化するための問いづくりをしたり、中学生の俳句を虫食いにして穴埋めを考えるワークをやったりして、スキルに触れたり、言葉を考えることに慣れているところです。中3で初めて出会った子どもたちで、正解を欲しがる、発言を怖がる、テスト成績が良くないなどの特徴がありますが、授業自体は楽しく活動しています。経験のない手法の国語の先生として認識されています。成果物を作る授業という認識ができつつあります。

 

 は、いわゆる荒れている学年です。小学校でのしつけがまるでできていない学年です。2カ月かけてキーになる生徒を席に座らせることができました(授業から飛び出す、不規則発言や私語で授業を妨害するなどの行為が繰り返されましたが、不安なのかな?最近は反抗的な態度が減り、座っていたことや時間を守れたことなどを承認して、頑張ってくれてありがとうという言葉を伝えると、悪い顔をしなくなりました。わかりやすい態度で、ダメなものはダメとしてきましたし、組織的な足並みを揃えた対応を続けてきました)。彼も時々参加してくれます。

現在は、教科書の物語を中心にしてスキルをレッスン中。6月半ばには詩歌の「作家の時間」に入ります。

 

 「読書家の時間」は図書館で絵本の「お試し読書」。わかったことは選書がへたということ。1年生は読書経験が少ないこと、幼い本を選びやすいこと。一方で、絵本を素直に読んでくれたことは収穫でした。今後のエッセイにつながる一歩だと思っています。

 

・この教え方・学び方について、現時点でどう感じていますか?

生徒が様々な言葉をいじって考える授業ですので、生徒にしてみれば大変だけれど楽しいのではないかと思います。成果物を作っている時や、仲間と話している時などはいい顔をしていますし、話がそれることもあまりありません。ある子が振り返りにこんな風に書いていました。「先生が個人個人を見て回ってくれて、自分も他の人もみんなに声をかけ、アドバイスをくれたり褒めてくれたりしたのがうれしかったです。他にも、友だちとどういうふうにやるかなどを相談できて良かったです。友だちを参考にできることがすごく助かりました。ただ、最初はやったことがなく、作業に慣れなかったです。(原文ママ)」これが、この授業をよく表していると思います。

もちろん、うまくできなかったという声もありますが、スタートして2カ月ですから。まだまだ、これからです。

 

・困っている点には、どんなことがありますか?

副免で講師として雇用された初めて授業をする20代、オールドスタイルの50代、私。今年度の国語部のスタッフです。

 ミニレッスン的に提供できる教材は提供しますが、ワークショップの手法は難しいです。余裕のない20代、買えるつもりのない50代。

 教科書の教材を扱うことは同じようにやりますが教材「を」教えるスタイルとの共存はできないので…ICTの活用も、私のレベルまでは難しい状態で、私が担当でないクラスの生徒から「おれたちもあれやりたいと言われた」との声を聞きました。心苦しいです。

スタッフのスキルの差。これは非常に良くないことです。子どもは教師を相対評価するものですから

 

 絵本を使った「読書家の時間」のために、教科書を超特急でミニレッスンに使い、時間の確保を目指しています。躾ができていない1年生に、思いの外時間を取られています。

 

・取り組み始める前にどんな情報(本)を参考にしましたか?

『イン・ザ・ミドル』『読む力はこうしてつける』『読書家の時間』『教科書をハックする』『挫折ポイント』『教育のプロがすすめる選択する学び』など。

 

・今年教えている学年は?

3、中1

 

 

●北海道、E先生

・「作家の時間」「読書家の時間」に取り組み始めたのは、いつからですか? 

→2021年から始めました。『最高の授業』に出会ってから、吉田新一郎さんの訳された本を探すようになり、WWRWに関する本を見つけました。

 

・生徒たちの反応はどうですか?

基本的に楽しんでいます。

 ・学びを自分で選択できること。

 ・進むペースを自分でコントロールできること。

 ・自分の興味がある分野から掘り下げられるので、洞窟状態★で学ぶことができています。

 ・図書室で行うので、気分がリフレッシュできています。

 ・書き終えたときの達成感があるので、作文嫌いも減りました。

 ・生徒が本を読む機会が増えました。

 

・この教え方・学び方について、現時点でどう感じていますか?

基本的にはこの教え方と学び方をベースにしていきたいです。そのための課題を挙げます。

 ・自分のカンファランスの力をもっと高めること。

 ・模試対策や入試対策が、授業の最大価値と考える人(同僚、保護者、生徒)たちに理解を得られにくいこと。「北海道の私立では点数さえ取れれば良い」という感覚の人が多いです。そういう部分では公立の方がやりやすいかもしれません(学習指導要領との関連から説明をすることができるため)。

  しかし、私自身はこのやり方を続けていった方が最終的に点数にもつながると手ごたえがあります。

 

・困っている点には、どんなことがありますか?

・点数学力が全てだと考えている方には理解してもらえないことです。

 ・生徒の作品を取りまとめて冊子にするときに時間がたくさんかかること。

 ・この学びを他の教員に理解してもらうこと。

 ・語彙の指導に時間がかかること。生徒が書いたものを添削する形で、自分の作品に使う漢字や文法を含めた語彙の指導をしていますが、時間がかかります。

  (漢字小テストで育てる教育に疑問を感じているので、新しい方法を模索しています。)

 

・取り組み始める前にどんな情報(本)を参考にしましたか?

『最高の授業』、『イン・ザ・ミドル』、『ライティング・ワークショップ』、『リーディング・ワークショップ』、『読む力はこうしてつける』、『作家の時間』、『読書家の時間』、『たった一つを変えるだけ』、『理解するってどういうこと』、『プロジェクト学習とは』などなど、吉田新一郎さんの訳された本はほとんど購入して参考にさせていただいております。

 

・教えている学年は?

20211

20221、中3

20231、中2

20241

20251、高2IB

 ★「洞窟」は、『学びの中心はやっぱり生徒だ!』の7つの要素の一つである「学習指導計画」のなかで生徒に提供される必要のある3種類の学習スペースの一つです。ほかの2つは、「キャンプファイヤー」と「水飲み場」(56~58ページを参照)。

 

●熊本県、F先生 ~ F先生は、小学校1年生の担任ということで、まだ始めていないので、昨年度、4年生の担任の時のことを書いてくれました。

 

・「作家の時間」に取り組み始めたのは、いつからですか?(今年度はまだ取り組み始めていないなら、通常取り組み始めるのはいつですか?)

昨年度は夏休み明けから取り組み始めました(4年生です)。夏休みに入るまでに、書くことの授業において子どもたちの主体性ややる気を引き出すことができておらず、やらせてしまっている学習になっていました。その状況をどうにか打破したく作家の時間の本を読んで取り組み始めました。

今年度は1年生担任なので、子どもたちのひらがな指導もひと段落したところなので夏休み明けから取り組めたらと思っています。

 

・子どもたちの反応はどうですか?

作家の時間の授業は、子どもたちの好きな授業ランキングでも上位に入るほどみんな楽しんでいました。行事等の関係で、できないことがあると「なんでですか!」と言ってくる子もいたほどです。何がそんなに楽しいのか聞くと、「とにかく自分が書きたいものに熱中して書けることが楽しい。」「自分が納得できるまで書けるから楽しい。」「最初の方の自分の文章に比べて、よく書けるようになっているのが嬉しい。」と言っていました。

 

・この教え方・学び方について、現時点でどう感じていますか?

とにかく子どもたちは熱中していますし、楽しんで活動しているので私自身も楽しくできています。ミニレッスンの時間は、私が何も言わなくても集まってくる姿から本当に楽しいのだろうなと感じていました。

また、作家の時間でやったことが読みの学習につながったり、読みの学習でやったことが作家の時間につながるなど領域同士のつながりも見られたのも驚きでした。(これまでの自分の授業ではあまりそう言う姿がなかったので)

 

・困っている点には、どんなことがありますか?

一人一人の状態に合わせたカンファランスには、難しさを感じています。

その子の状態を見取ることもそうですし、どのような声かけをするのか、どのようなフィードバックを返すのかなど一人一人の学びを高めていくために試行錯誤の日々でした。

また、指導要領や教科書の内容とどう折り合いをつけていくかも悩みながらでした。昨年度は、指導要領で示されている指導事項を押さえつつ進めて行きましたが、もっといい方法はないかと考えていました。

 

・取り組み始める前にどんな情報(本)を参考にしましたか?

『作家の時間』、『ライティング・ワークショップ』、『イン・ザ・ミドル』

また、知り合いの先生のつてで実際にWWをやっている先生からお話を聞くこともできました。

 

・今年教えている学年は?

小学1年生です。

2025年6月27日金曜日

作家の時間で自己表現「『推し』の魅力を伝えよう」ユニットを振り返る

(全ての人物の名前は仮名です。学習場面にも、ある程度のフィクションが入っています)
(全く関係ないですが、尾瀬の写真もお楽しみください)

特別支援学級から一般学級へ


 久々のブログへの投稿になります。昨年度は特別支援学級で行う作家の時間について、具体的な事例を織り交ぜながら、実践を紹介させていただきました。一般学級の子どもへの視点とは違った角度から子どもを捉える経験を積ませてもらえたと思っています。ぜひ、今年度から特別支援学級で書くことを楽しむ教室を作りたい方は、こちらのブログから検索をかけていただければ、実践をご覧いただくことができます。是非ご参照ください。


 今年は久々に一般学級の6年生の担任をしています。コロナ元年からはずっと特別支援学級担任だったため、過去に取り残されていた感覚があります。コロナ前とコロナ後では、大きな体制から些細な方法までたくさんの変更があり戸惑っていますが、タブレット時代になったとしても、やっぱり自分には拡大コピーやホワイトボードなど、アナログが好きな自分に改めて気付かされています。特別支援の深く濃密な関係作りから、一般学級の膨大な児童情報の洪水へと一気に環境が変わり、目が回るような毎日ですが、なんとかがんばっています。

(日本三名爆に入ることもある三条の滝)



「推し」の魅力を伝えよう


 さて、一部教科分担制ということで、今年度は6年生の全クラスの約週1時間を担当することができました。学習指導要領や私の引き出し、行事や子どもたちの実態などを総合して、年間のカリキュラムを編成しています。もちろんその中には、作家の時間も含まれています。そこで、「『推し』の魅力を伝えよう」というユニットを実践しましたので、それを紹介したいと思います。
 子どもたちの生活や文化の中で「推し」はその一部になっています。それが自分を構築するセルフイメージやアイデンティティの一つとなっている子も多く、大切なものです。それを作家の時間の軸として扱いました。作家の時間の魅力は、子どもが本気で取り組むこと、そしてその本気で取り組んだ作品は、子どもたち自身が凝縮されていて、それを通じて教師とつながったり、アセスメントを深めたりすることができます。この学年の子たちを初めて受け持つので、私にとってはメリットの多いユニットになりました。
 作家の時間の作品の読者は、6年生全体と設定しました。6年生の多感な子どもたちが自分をしっかり出せるように保護者は入れず、全クラスの6年生、約100人という設定です。子どもたちも自分の「推し」を心ゆくまで表現できることから、教室はワクワク感でいっぱいになりました。(普段は学習とは関係ない「推し」を検索することは注意を受けてしまいますが、学習の中で堂々とできるのでそれも楽しかったようです。)

 学習スケジュールは、全5回。ミニ・レッスンのシリーズは
①作家の時間の構造
②テーマの設定(どの程度具体的にするか)
③話し言葉ではなく書き言葉(「すごい」って何?)
④主語と述語(あなたしか分からない自己満足な文章)
⑤読者に届く効果的なタイトル
のようにしました。(子どもたちの様子から事前に立てた計画から調整をしました。)
 本来の作家の時間であれば、複数の作品を書くことができるぐらい余裕を持って行うことができますが、このスケジュールでは、やはり一人1作品になりました。
 すべてタブレット端末で「ひたすら書く」を行い、出版もタブレット端末上から読んで、ファンレターを送るシステムになっています。私にとってははじめての、全てタブレット端末で完結する作家の時間の実践になりました。

(たくさんの水芭蕉。今年の尾瀬沼は雪が多く降ったことで、水芭蕉が例年にも増して群生してるそうです)



成果

「推し」を通じて、自分に気づく


 とにかく、8割の子どもは熱中して取り組みました。子どもたちの「推し」は多岐に渡り、アニメやゲーム、芸能人やミュージシャンはもちろん、レストランや食材、動物、歴史上の人物など、いろいろなジャンルが挙がりました。多くの子どもたちは書きたいものをすぐに決定することができるのですが、その後立ち止まります、「あれ?どうして好きなんだろう?」という問いが生まれるのです。
 普段自然と感情が動いて「推し」と認識しているので、いざ言葉でなぜ好きなのかと問われると、言葉にすることに苦労する子は多くいました。この問いと立ち向かえた子は良い作品を残せています。(一方で、この問いから逃れようとすると、情報に偏った紹介になり、魅力を伝えるというテーマから外れたものになってしまいます。課題参照)
 漫画『ONE PIECE』を推している子どもは、よく考えた結果、登場人物が発する名言が好きだという結論になりました。絆を大切にする言葉を例に挙げて、「もう涙が出ちゃう」と泣きながら書いていました。また、「トランスフォーマー」の熱をすごい勢いでぶつけてくる子もいます。私は少ししか知らないのに、熱っぽく「読んでくれー」と切望してきます。この子は「大好きな乗り物や動物の形が変わる」ということが、好きな理由なのだそうです。子どもたちの「推し」への思いは計り知れません。
 一方で、特徴的な子もいます。「好きなものがない」「好きなものを出したくない」という子です。私が一緒に考えても、友達が(結構強く)励ましても、一向に好きなものを決めることができません。友達が「そんなんでいいのかよー! 好きなものないなんて、寂しすぎるぞ!!」と言われても、「うーん」と濁した返事を繰り返します。同じようなケースで、「好きなものを出したくない」という子は、自分のイメージが崩れるからか、本当に好きなものは書けないと言います。他のものを書くことで妥協しましたが、高学年ともなると、やはり、自分の好きなものを表明した時に、周りの友達からどのように思われるか、とても気になるようです。対人過敏の子にとって、推しを他者の視点にさらすことを不安に感じるようです。そのような子が、自分の好きと向き合って悩むこと自体が、自己理解を深める成長のチャンスであると思っています。作品の完成のために無理に書かせててしまうことがないよう、気を配りました。

 「推し」を通じて、人と繋がる


 4月から出会った私と子どもたち。まだ関係を厚く結ぶことができていません。しかし、子どもたちの「推し」を通じて、会話を始めたり感想を交流したりすることで、関係を深めていくことができたのが大きな成果でした。私は子どもたちが教えてくれるミュージシャンやアニメを、短時間ですが、自分で調べたり子どもたちから教わったりすることで、先生と子どもが同じ土台で会話をすることができます。そこから、コミュニケーションの糸口が見つかり、その子の人間らしさを垣間見ることができます。今年のクラスの子どもたちの傾向なのか、コロナ後の子どもたちの一般的な特性なのか分かりませんが、授業の中では教師と子どもの関係は保ちつつも、1:1の関係では、こんなおじさん先生とも、友達感覚で接してくるフラットな関係を望む子どもが多い気がしています。私もそれをカンファランスの中で受け入れ、好きな気持ちを一緒に共感する場を作ることができました。「学習を通じて子どもを理解する」という視点は、私が大切にしている点であり、作家の時間の大きな魅力の一つであるように感じています。
 また、今年度から初めて同じクラスになった子ども同士のコミュニケーションのきっかけとして、「推し」が生かされています。「沼」という言葉を使って、推しのカテゴリー分けをしているのですが、たとえば「アーティスト沼」の中に、Mrs. GREEN APPLE推しが何人かいると分かると、「何の曲が好きなの?」と会話が始まります。教師と同じように、子どもたち同士もコミュニケーションの糸口となっているのです。昔は、子どもならば誰でも好きというものがありました。例えば、私の時代であれば「ドラクエ」や「ドラゴンボール」だったのですが、今はそのように一括りにはできそうにありません。Youtubeでもその子の趣向に合ったリコメンドがありますし、音楽などもサブスクで聞いていると一つのアーティストが好きという思考にはなりづらいのかもしれません。友達の好きなものと自分の好きなものの共通点が見つけづらい社会になっているように思います。だからこそ、「推し」を学校の中で伝え合う活動が、人間関係の最初の一歩を踏み出せるきっかけになれたことが、私としてもとても嬉しい思いでした。

課題


情報の羅列になってしまう子がいる


 子どもたちは書いているうちに「『推し』の魅力を伝える」という目的を見失ってしまうことがあります。例えば、ONE PIECEの魅力を伝えるという目的が、ONE PIECEのキャラクターの図鑑作りのようになってしまったり、スプラトゥーンの楽しさを紹介することが、いつの間にか、攻略情報ばかりになってしまったりするということです。気づくと、情報ばかりの大作ができあがっていることもあり、カンファランスのタイミングの遅れを感じることもありました。
 最初からテーマ自体を理解できていなかった可能性もありますが、私は大方の子はそれができていたと考えています。書いているうちに図鑑作りや攻略情報の方が楽しくなってしまい、コントロールを失っていきます。この情報に偏重した文章ではたくさんの読者に届かないですし、新しいファンを増やすこともできません。相手意識が希薄になっていってしまう子がいました。
 また、「私はなぜ『推し』が好きなのか」という問いから避けようとして、作品の中に自分の存在を消していくような心の動きがあるように思います。昔の子どもも今の子どもも同じですが、自分の気持ちを表現することや、どうして自分の気持ちが動いたか理由を考えることは、あまり得意ではありません。感情を表す言葉を獲得できていないという問題もあるでしょうが、視点が自分の内側に向きにくい(メタ認知の視点の未発達)点もあるように思っています。また、情報を多く持っている方が優れているという感覚も子どもの中に確実にあります。確かに情報は大切ですが、自分と「推し」との関係について掘り下げるための支援をもっと想定していなければなりませんでした。
 また、タブレットで書くということが、すぐに検索できるという環境であるために、自分との対話から外れやすくなっていく側面もあるように思います。コピー&ペーストがしやすくなっているので、安易に文章を仕上げてしまいたいという気持ちをもちやすい環境になっているのかもしれません。あらためて、書くという学習が、読者との対話、自分との対話が大切であることに気付かされることになりました。
 自分の作品への熱量は高いものでしたので、子どもたちは夢中になって取り組んだことは事実です。それを目的のために調整する振り返りや、事前のアセスメントの中でそれを想定して支援していくことができれば、さらに読者に届く文章がかけたように思います。次また同じようなユニットを作ることができたならば、そこに配慮できたらと思っています。

まとめ

自己表現をする機会の中で、効果的な表現方法を学ぶ


 今年は全クラスに週1時間程度入って国語の授業をしています。その中で、書くことだけでなく、詩や読書、書写なども織り混ぜて指導しています。その中で私は、自己表現をする機会をできるだけ大切にするようにしています。
 例えば、書写では一般的に同じ字を使って指導しますが、4月の当初は「今年の目標を表す一字」というテーマで行いました。どの字を選び、どんなことに気をつけて書くのか、子どもたちが決められるようにし、お互いに成果を見せ合って6年生をスタートさせました。詩では、教科書教材にも採用されている独楽吟を使って、自分自身の小さな幸せについて、短歌の形式で表しています。
 なぜ自己表現を大切にするかと言えば、繰り返しになりますが、「学習を通じて子どもを理解する」という視点を重視しているからです。子どもの力を伸ばすという視点ももちろん大切ですが、それは子どもの好きなことや得意なことを理解した上で、その子どもに合う教え方学び方を提供できれば、もっと意欲的に安心して学ぶことができるはずです。また、学習の効果は、教師と子どもの関係性などの環境に大きく依存します。人間関係が悪くなれば、良い学習を設定しても子どもたちは不安に煽られて良い学びができません。遠回りのようですが、子どもを理解し、関係を結んでいくということが、回り回って安心して学べる環境作りになり、子どもの力を伸ばすことにも通じるように思います。

 今後も、読書や詩、そして作家の時間を使って、子どもたちの自己表現を後押しするような授業を計画しています。またこちらのブログで、私自身の振り返りを含めて、お伝えできたら良いです。


(尾瀬沼に写る逆さ燧ヶ岳)