タミー・マリガン先生(小2の担任)は、読み聞かせを、教師が本を読み、子どもたちが聞くという活動にとどめず、子どもたちが自分なりの解釈を持ち寄り、互いの考えを聞きながら、読みを深めていく場として活用しています。そのために、週に1回程度、15~20分の時間を確保し、クラス全体で話し合う「読みを深める対話(Grand Conversations)」を行っています。話し合いの目的は、単に本の内容を確認したり、感想を発表したりすることではありません。
- 自分なりの解釈を表現する。
- ほかの子どもの考えを聞く。
- 自分の考えと他者の考えを結びつける。
- 作品について、より深く、複雑な解釈を構築する。
- 対話を通して、自分の考えがどのように変化したかを認識する。
つまり、一人ひとりが考えをもつことと、他者との対話によって考えを発展させることを、読み聞かせの中に組み込んでいるのです。マリガン先生は、子どもたちが対話する時間を意識的に確保しています。対話は、時間に余裕があれば行う付随的な活動ではなく、学びのために必要な活動だからです。★
1.対話を成立させるための2つの道具
子どもたちが自分たちで話し合いを進められるように、マリガン先生は二つの道具を用意しています。
① 学級全体のノート(The Whole-Class Notebook)
読み聞かせの際に生まれた考えを、学級全体で共有するノートです。毎日、一組の子どもたちがノートに記録します。このノートには、主に二つの役割があります。
第一に、話し合いの準備をすること。子どもたちは、これまでの読み聞かせで生まれた疑問や解釈を振り返り、話し合う価値のあるテーマを見つけます。
第二に、対話によって生まれた新しい考えを記録すること。話し合いの終了後、対話を通して何が新しく分かったのか、考えがどのように変わったのかを記録します。
このように、ノートは単なる読書記録ではありません。子どもたちの考えがどのように生まれ、他者との対話を経て、どのように発展したかを残すための道具です。
② 対話を支える言い回しのカード・掲示(Accountable Talk Sentence Starters)
子どもたちが互いの考えを尊重しながら、対話を発展させられるように、話し合いに役立つ言い回しを掲示します。例えば、次のような表現です。
こうした表現は、子どもたちが対話の経験を重ねるにつれて、徐々に充実していきます。大切なのは、単に発言することではなく、相手の考えを受け止め、それを踏まえて自分の考えを展開するための言葉を身につけることです。
2.読みを深める対話を進める6つのステップ
マリガン先生は、対話の進め方を明確にしています。これは、子どもたちが話し合いの手順を身につけ、やがてペア読書やブッククラブなど、ほかの場面でも自分たちで対話を進められるようにするためです。
ステップ1:全員の顔が見える円形に座る
子どもたちが互いの顔を見られるように、大きな円をつくって座ります。教師の方だけを向くのではなく、全員が対話に参加できる配置にすることが重要です。マリガン先生は、話し合いにおいて、すべての子どもが「最前列」にいるような環境をつくることを重視しています。
ステップ2:ノートを振り返り、話し合いたいことを見つける
学級全体のノートを見直し、これまでに生まれた考えや疑問を確認します。そのうえで、次のような問いを投げかけます。「この本について、たくさんの考えが出てきました。クラス全体で話し合う価値があるのは、どの考えでしょうか?」子どもたちは、まずペアで考えを出し合います。必要に応じて教師は、登場人物同士の関係、作品のテーマ、作者の表現技法など、より深い読みにつながる観点を提示します。
ステップ3:話し合うテーマを一つ選ぶ
クラス全体で話し合う問いや考えを一つ選びます。子どもたちの関心から選ぶこともあれば、学習目標に関わる文学的な要素を取り上げることもあります。重要なのは、次々と話題を変えるのではなく、一つのテーマについて考えを掘り下げ、互いの考えをつなげていくことです。
ステップ4:子どもたちを中心に対話する
ここからが、読みを深める対話の中心となる活動です。対話を進める際には、次のような約束を設けます。
- 発言する際に挙手はしない。ただし、話している人に目を向ける。
- 話し手は教師だけでなく、ほかの子どもたちにも目を向ける。
- 友達の名前を使い、誰の考えに応答しているのかを明確にする。
- 一部の子どもだけが話し続けないようにする。
- 発言の少ない子どもにも、自然に参加を促す。
- 必要に応じて学級全体のノートを参照し、本文の根拠を確認する。
ここで注目したいのは、教師が対話を完全に管理しようとしていないことです。話し合いが停滞することもあります。沈黙が続いたり、複数の子どもが同時に話し始めたりすることもあります。しかし、マリガン先生は、それらをすべて教師が解決すべき問題とは捉えていません。子どもたち自身が対話の難しさに向き合い、試行錯誤しながら話し合う力を身につけていくことも、学びの一部だと考えています。★★
ステップ5:対話によって生まれた新しい考えを記録する
話し合いの最後に、教師は次のような問いを投げかけます。「今日、私たちの新しい考えは何でしょうか?」「対話を通して、私たちの考えはどのように発展したでしょうか?」そして、一組の子どもたちが、新しく生まれた考えを学級全体のノートに記録します。ここで重視されているのは、最初から正しい解釈にたどり着くことではありません。他者と話し合うことで、自分たちの考えが変化し、発展したことを認識することです。
ステップ6:翌日、新しい考えを読み返して学習を続ける
翌日、前日の話し合いで生まれた考えや疑問を読み返します。それを踏まえて、再び読み聞かせを進めます。こうして、対話によって生まれた考えが、その場限りで終わることなく、その後の読みを深める手がかりになります。およそ5日後には、また新たな読みを深める対話を行います。このように、読み聞かせと対話が交互に繰り返され、学びが積み重なっていきます。
3.読みを深める対話によって育つもの
マリガン先生は、この活動によって得られる学びを、大きく二つの側面から説明しています。
① 対話する力が育つ
子どもたちは、対話を繰り返すことで、次のような力を身につけていきます。
- 相手の話を注意深く聞く。
- 自分の考えを明確に表現する。
- 友達の考えと自分の考えを結びつける。
- 分からないことについて質問する。
- 複数の人が参加する会話の中で、適切に発言する。
- 他者の考えに応答しながら、自分の考えを発展させる。
これらは、対話のルールを説明しただけで身につくものではありません。実際の対話に参加し、うまくいかない経験も重ねながら、徐々に身につけていくものです。★★
② 読解を深め、子どもの理解を見取ることができる
もう一つの重要な効果は、教師が子どもたちの理解をより深く把握できることです。
対話を通して、教師は次のようなことに気づきます。
- 物語のどの部分が理解できていないのか。
- 登場人物の関係をどのように捉えているのか。
- どのような解釈や疑問が生まれているのか。
- 本文の表現をどのように理解しているのか。
- どのような考えをもち、何を手がかりに推測しているのか。
記事の冒頭では、ある子どもが物語に登場する「亀の甲羅」の意味について疑問を口にする場面が紹介されています。その子どもの発言によって、教師は、子どもが物語のある表現を十分に理解できていないことに気づきます。もし対話の時間がなければ、そのつまずきは表面化しなかったかもしれません。マリガン先生は、教師が一歩下がって、子どもたちの話すことを観察し、耳を傾けることによって、多くのことを学べると指摘しています。つまり、対話は子どもたちの理解を深める活動であると同時に、教師が子どもの思考や理解の実態を見取るための重要な機会でもあるのです。
以上を要約した図は、次のようになります。
出典: https://choiceliteracy.com/article/grand-conversations-and-read-aloud/
タミー・マリガン先生は、2冊の本の共著者で、普段はHanscom Primary Schoolで小学2年生を教えています。仕事がない日は、庭で過ごしたり、森をハイキングしたり、子ども向けの本を山のように積み上げて、その陰に隠れていたりします。X(@TammyBMulligan)やInstagram(@TammyReadsKidLit)で、マリガン先生とつながることができます。
★ここまで読まれただけでも「読み聞かせ」の捉え方が日本で行われているのはだいぶ違うと思われたのではないでしょうか? 日本で行われている読み聞かせはたくさんの方法の一つにしかすぎず、主には学齢期前の子どもを対象にしたやり方なのです。小1以上の子どもたちにはぜひ他のやり方を模索してください。参考になる方法が、『読み聞かせは魔法!』で紹介されています。そのうちの一つが「対話読み聞かせ」というものですが、ここで紹介されているのを何回かした後は、それに移行できます。
★★ここで紹介されている以外の方法として、スパイダー討論があります。教師の役割は子どもたちが話したくなる話題/テーマを提供して、あとは参加者の発言を図化する役割を担う方法です(子どもたちがいい話し合いができた時には、きれいな蜘蛛の巣図が描けることからこの名前がついています。正式名称は、スパイダー・ウェブ討論です。『最高の授業』アレクシス・ウィギンズ著に詳しいやり方が紹介されています。子どもたちは何度でもやりたくなる方法です!

