6月8日の「合い言葉は、ノーティス・アンド・ノート(そこに注目して! そこにちゃんとメモして!)」で触れたように、ビアーズとプロストは、生徒が理解するための方法を使わざるを得なくなる、本のなかの「道標」として「予想外の行動(対照と矛盾)」「アハ体験」「難問」「賢者の言葉」「繰り返し」「回想の場面」の六つを提案しました。この著者たちは、米国のさまざま地域の学校を訪ねてこうした「道標」を使ったワークショップを行い、本や文章を読むことと理解について、教師たちや子どもたちと議論しました。その経験をもとにまとめたのがDisrupting Thinking(『思考を創造的に破壊する』)という本です★。
彼女たちは、子どもたちが学年が進むにつれて、次第に自分がなぜ読むのかということを考えず、あるレベルに到達することや試験に合格するためにしか読まなくなる傾向があることに気づきます。読むために適切なマインドセットをもたせる、つまり「何を読むのか」だけでなく「なぜ、いかに読むか」ということをもっと考えさせなければ、活字離れ(aliteracy)が拡大するという危機感を抱きました。読むために適切なマインドセット、とはどのようなものか。ビアーズらは「読むことの最終目標」を「私たちが今ある以上のものになることである。今以上によくなることであり、自分のわからないことをわかるようになることである」と考えたのですが、どのようにすればそれを子どもたちに伝えることができるかということを、読むことと理解についてのワークショップを繰り返しながら試行錯誤します。
子どもたちに「読む時には、本や文章の言語的、知的、感情的な側面について考えてほしい。つまり、責任を持って、積極的に読んでほしい」などと言っても反応がなく、もう少しやわらげて「読むことはあなたを変えられます。世界を広げてくれます。しかし、読む時には、自分の反応について考え、本や文章の内容についても考えなければなりません。そして、これが、あなたを思いやりのある人間にするためにどう役立つか自問自答してください」と語っても、あなたたちはいつまでここにいるのと返され、シンプルに「今日は文章の内容について考え、同時にその内容に対する自分の反応についても考えてください」と言うと、これは評価の対象になる授業なのかと言われる始末。
こうした子どもたちのやりとり経て、彼女たちは「今日、読む際に、本の中身、頭のなか、そして心のなかについて考えてください」と伝えることにしたのです。ビアーズたちが黒板に、「本。頭。心。」と書いたその後の子どもの様子は次のようなものでした。
「本。頭。心。一人の少年が繰り返した:「本。頭。心」別の生徒が尋ねた。:「頭とは何ですか?」 私たちは「自分に『何にびっくりしたか?』と問いかけてみてください。そうすれば、本のない余蘊いついて考えながら、既に知っていることについても考えることができます」と説明した。彼は頷いて「すごい!」と答えた。別の子どもが「心に関する質問とは何ですか?」と尋ねた。私たちは「『これは私に何を教えてくれたか?』や『これは私の感じ方をどう変えるか?』と試みに自問してみてください」と答える。さらに頷きが返ってきた。私たちは息を飲んだ。
部屋は静まり返った。私たちが黒板に問いかけ文を書き加えるあいだ。子どもたちはこの三つの言葉を凝視していたのである。そして彼らは肩をすくめて「わかった!」と言った。そこに確かに書かれていた。三つの言葉。本。頭。心。私たちの考えたフレームワークが、子どもたちに、テクストから情報を抽出するだけでなく、もっと深く考える必要があることを思い出させたのである。
フレームワークの本、頭、心とは何を意味するのだろうか? これは、本や文章に注意を払い、それについて考え、そして読むことによってどのように感じたり、どれだけ変化したりしたか(たとえわずかな変化でも)に注意を向ける必要があることを示す、短い簡潔なフレーズである。」★★
「短い簡潔なフレーズ」で読むために必要なマインドセットを子どもたちに伝えることができたというエピソードです。英語で本はBook、頭はHead、心はHeart。読むために必要なマインドセットのことを、彼女たちはこのそれぞれの頭文字を使って「BHHフレームワーク」と名づけました。次のようなものです★★★。
1 「本のなか」に何があるか
・この本は何について書いてあるか?
・その話を語っているのは誰か?
・筆者が私に知って欲しいことは何か?
2 自分の「頭のなか」に何があるか
・何にびっくりする?
・自分が既に知っていたことをこの筆者はどう考えている?
・自分の既に知っていたことに反対したり、賛成したりする部分はどこ?
・自分は何に気づいたか?
3 自分の「心のなか」に何があるか
・自分自身について何を学んだか?
・自分がよくなることをこの本はどのように助けたか?
「「本のなか」に何があるか」「自分の「頭のなか」に何があるか」「自分の「心のなか」に何があるか」という三つの大きな柱のそれぞれについて「問いかけ文(prompt)」が設けられています。もちろん「本」には、長編物語だけはなく、短編の物語や詩歌も含まれますし、ノンフィクションの本や文章も含まれます。一つひとつの問いかけ文に対する自分の回答をメモして、ペアやグループで出し合って、何を手がかりにそういう答えになったのかを話し合ってみてはどうでしょうか? 「本のなか」に何があるのかということについて話し合っていたのに、いつのまにか「頭のなか」のことを話題にしているということがあるのかもしれません。はじめから「心のなか」に何が生まれたのかを話題にするのが好きな人もいるでしょう。そんなふうに三つの枠組みの境目は重なり合うこともあります。でも、今自分が語っていることは「本」「頭」「心」のいずれの「なか」のことを意識して確かめ合うことで、私たちが「何を」読んでいるのか、「どのように」読んでいるのかということを共有することができます。それが読むために適切なマインドセットを手に入れるということなのです。
★Kylene Beers and Robert Porbst(2017) Disrupting Thinking: Why How We Read Matters, Scholastic. 山元隆春著『自立した読者を育てる学習指導・評価法のデザイン』(溪水社、2026年)の第3章第2節で論じています。
★★Kylene Beers and Robert Porbst(2017) Disrupting Thinking, pp.62-63山元隆春著『自立した読者を育てる学習指導・評価法のデザイン』(溪水社、2026年)116~117ページ
★★★Kylene Beers and Robert Porbst(2017) Disrupting Thinking, p.63山元隆春著『自立した読者を育てる学習指導・評価法のデザイン』(溪水社、2026年)118ページ
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