『理解するってどういうこと?』の第9章の最後で、この本が書かれるきっかけになったジャミカの「問い」(「でも、あなたがたの誰も、わかるってどういうことか教えてくれたことはなかったわ」)に対して、「理解する」とはどういうことなのかを、エリンさんが心のなかでジャミカに答える(この時点でジャミカは高校生になっていますが、エリンさんはあくまでも小学校2年生の時のジャミカに向けて答えています)のですが、次のように閉じられます(この『RW/WW便り』で何度か言及した箇所です)。
根気よくいい質問をして、それに対して子どもがじっくり考えて発見したことを共有してあげる。しっかり聞く、つまり子どもの話にしっかり耳をすます。そうすることで子どもがじっくり考えて示したほんものの理解を見取り、聴き取ることができるというのです。
いい質問をして、しっかり聞くとそこで何が起きるのか。子どものほんものの理解を見取り、聴き取る大人の内部にも新しい発見が生まれます。それをまた子どもに伝えてあげることができる。上のエリンさんの言葉はそのようなインタラクションあるいはトランザクションが起こるようにすることが、理解を生み出すためにとても大切だということを教えてくれます。しっかり聞く聞き手のなかに生まれること、それが次の対話を引き出しても行きます。しっかり聞いてもらったら、話しているうちにそれまでモヤモヤしていたことが何かはっきりしてきたという経験をしたことのある人も多いと思います。
阿川佐和子さんの『聞く力』(中公新書、2012年)は、私たちが『理解するってどういうこと?』をつくっていた頃に刊行され、多くの人に読まれた本です。改めて読み返してみると、エリンさの「問いかけるだけでなくて、しっかり聞くこと」の大切さをとてもわかりやすい言葉で語っておられることに、遅まきながら気がつきました。
阿川さんは多くの人にインタビューをしていて、『聞く力』のなかにはそのエピソードがたくさん書かれています。たとえば、臨床心理学者の河合隼雄さんにインタビューしたときに阿川さんが「患者さんに、どんなアドバイスをなさるのですか」と質問すると、河合さんは「アドバイスは、いっさいしません」と答えます。その理由を河合さんはどう答えたか。
「つまり、他人のアドバイスが有効に働いたときはいいのですが、何かがうまくいかなくなったとき、そのアドバイスが間違っていたのだと思い込んでしまう。すべての不幸をアドバイスのせいにして、他の原因を探さなくなってしまうのです。」(『聞く力』114ページ)
河合隼雄さんとのやりとりのエピソードはそのほんの一例で、『聞く力』のなかには、エリンさんがジャミカに心のなかで約束した「しっかり聞くこと」を具体的にどうすればいいのかということのヒントを数多く見つけることができます。
最後にもう一つ『聞く力』のなかで私の惹かれた言葉。
ある文学賞を受賞した作家にインタビューをすることになった。会ってみると、その作家は痛々しく眼帯をしていた。その時、受賞の心境を聞くという本題に入る前に、まずはその作家が眼帯をしている「苦しみ」を聞き手が理解する必要があると書かれた箇所の冒頭に、上の言葉があります。そういう時、まずは相手の「心の中」の「今」を「慮る」ことがなければ「相手は聞き手に心を開きにくいだろう」と阿川さんは考察します。「推測する」は、エリンさんの言う七つの「理解するための方法」の一つですが、インタビューの名手の考察は、それが本や文章を読んで理解する場合だけにとどまらないことを教えてくれます。
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