2026年11月7日土曜日

生徒の理解能力の評価と一体化して進んでいく学習指導の姿

 10月2日に取り上げたジェニファー・セラヴァロの『テクストと読者を理解する』★で「一冊まるごとの評価(Whole Book Assessment)」という評価法を提唱しています。これは、一人ひとりの生徒がどのような理解する力をもっているかを、生徒自身が選んだ本を読んでもらいながら、その生徒がどのような理解力をもっているか評価する方法です。そのために、「評価のために生徒たちが読む本や文章は、生徒自身に選ばせることが重要」なので、「自分のクラスの図書コーナーの本を読む際に、自分のクラスの生徒たちのさまざまな興味関心を考慮に入れて、そのレベルを代表する本で、いろいろな読者にアピールするかもしれない本や文章を2つ以上選んでおくといい」と言っています。

 そうやって生徒自身が選んだ本や文章でどのようなことをやるのか。

「生徒が読む本を選んだら、次に、あなたが評価することになる理解の目標と、それぞれの目標に関連する理解スキルを評価するためにあなたが使うことのできる、何種類かの質問を考えることになります。」

 どのような「質問」でしょうか。フィクション(詩や物語や小説)について言うと「プロット(筋)と設定」「登場人物」「語彙と比喩的言語」「テーマとアイディア」の四つの枠組みが設けられています。セラヴァロはこれらを「フィクションに対する理解を評価するための質問や手引き」と呼んでいますが、たとえば、たとえば、新美南吉「ごんぎつね」を例にすると「プロットと設定」の「スキル」と「質問や手引き」は次のようになります★★。

 

【プロットと設定】

(スキル)重要な出来事を説明する

(質問や手引き)

・最後の「六」で何が起こったか説明しなさい。

・ここまでの物語全体から、重要な出来事を三つか四つ説明しなさい。

・この物語の「六」までで、ごんが兵十に何をしたかすべて教えてください。

(スキル)因果関係をまとめる

I(質問や手引き)

・ごんが兵十に撃たれることになった理由は?

・ごんが兵十に撃たれることにつながる出来事にはどのようなものがありましたか?

・ごんが兵十に撃たれた後、兵十の言葉にうなずいた理由を説明しなさい。

(スキル)問題を確認する

・ごんが抱えているいくつかの問題はどのようなものですか?

・この物語の問題とは何ですか?

・ごんが兵十の捕っていた獲物(うなぎ)にいたずらをしたことはどのような問題の原因になりましたか?

(スキル)舞台設定を視覚化する

・「六」の場面の舞台設定を説明しなさい。できるだけ詳しく。

・この物語の舞台設定(時と場所)を説明しなさい。またこの話が語り手の「私」によって語られる舞台設定(時と場所)を説明しなさい。

・「六」の最後の場面で、文章をもとにするとどのような絵を描くことができますか?

 

 「プロットと設定」についての質問が示されているのですが、こうして書き出してみると、「ごんぎつね」という物語の重要なポイントを捉えて、深く理解するための手がかりになります(「ごんぎつね」は小学校の全ての国語教科書に半世紀近く掲載されてきた作品ですから覚えている人も多いかと思います。お手すきの時に、昔の教科書をお持ちなら引っ張りだして、上の問いの答えを考えてみてください。なお教科書の文章のもとになった「ごん狐」や、南吉の草稿「權狐」は青空文庫で読むこともできます)。

こうした質問をプリントにして、生徒が読む本や文章に挟み込んで、一人読みしながら書き込めるようにするのです。生徒は書き込んだ後、再び読み続けます。一つの本や文章に「8から12の質問」を挟み込めば「その読者の評価をするのに十分な情報を得ることができる」とセラヴァロは言っています。

とはいえ、上に掲げた質問にはいくつかの種類のものが混じっています。ですから、次のような工夫をすればいいと彼女は言っています。

「たとえば、説明の質問は第1章の終わりで、問題解決の質問は第3章の終わりで、舞台設定を視覚化する質問は第4章の終わりで、という具合にやります。三つの質問のすべてに生徒が答えることができたら、「プロットと設定」の目標に関してはスキルをもっていると判断するのです。/私はその本の全体にまんべんなくいくつかの質問を埋め込むので、読者はどこか一つの章で何度も留まったり、長く留まったりする必要はありません。強い反応を引き出すために、私は、読者がテクスト全体について考える必要があると考えている場所に手引きを位置づけるようにしています。私は自分の出したいタイプの質問を出せる箇所を探します。たとえば、語り手の説明が長く続いた後の登場人物についての質問をダサル箇所や、その登場人物が予想していなかったかたちで行動したところで質問を出して、生徒がそういうところに気づくかどうかを見たいのです。」

 その生徒の理解の特徴を捉えるために「読者がテクスト全体について考える必要があると考えている場所に手引きを位置づけるようにしてい」るという言葉は重要ですね。理解の急所と指導者が考えるところで「質問や手引き」に書き込んでもらえれば、その生徒がいまどのような理解の力をもっているのかということを知ることができます。

 セラヴァロは読み終えた後の生徒に、

・この本(文章)についてどう思った?

・この本(文章)はあなたにとってちょうどいい? やさしい? むずかしい?

・こんな本(文章)を次も選ぶ?

・この本(文章)が理解できたと思う? どうやって理解したの?

といった質問を二つ、三つしてみると「生徒が自分の理解を修正する能力」や「テクストに取り組む能力を評価する」ことができるようになるとも言っています。

 「質問や手引き」について書き込みながら本や文章を読み終えた生徒一人ひとりと「目標設定カンファランス」をしていくと、生徒が自分の読みの「目標」を意識することができるということも大切なことです★★★。これは、生徒の理解能力の評価と一体化して進んでいく学習指導の姿を示すものでもあります。もちろん、セラヴァロは子どもが自分で選択したテクストについてこのようなことをやっていますが、「ごんぎつね」のようなクラス共通テクスト(国語教科書学習材)を使った学習指導にも応用できるものです。「フィクションに対する理解を評価するための質問や手引き」をつくるためには、そのテクストを多角的に深く読み込むことが必要になりますが、それが学習者と学習材を関連づけるための学習材研究になることは間違いありません。その過程で指導者の側にもテクストについての新しい発見が少なからず生じることでしょう。対話しながら生徒の理解の現在地を把握することのできるアイディアだと思います。

 

 

★Jennifer Serravallo(2018) Understanding Texts & Readers: Responsive Comprehension Instruction With Leveled Texts, Heinemann.セラヴァロの言葉「 」で括ってありますが、いずれも、『自立した読者を育てる学習指導・評価法のデザイン』(溪水社、2026)のなかに訳出したものです。

★★セラヴァロの示した「フィクションに対する理解を評価するための質問や手引き」の全体は上記『自立した読者を育てる学習指導・評価法のデザイン』の164-166ページをご参照ください。

★★★実際に「カーリィ」という子どもとセラヴァロが行った「目標設定カンファランス」の実際については『自立した読者を育てる学習指導・評価法のデザイン』の171-174ページに訳出してありますのでご参照ください。

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