2020年12月11日金曜日

『生徒指導をハックする』の「関係修復のアプローチ」とRWおよびWWの共通点

 一見、生徒指導と国語の指導は関係ないように思えます。しかし、RWWWのアプローチと、『生徒指導をハックする』の中で中心的に紹介されている「関係修復のアプローチ」には大きな共通点があります。そのことについて、共訳者の一人の中井さんが書いてくれました。

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 言うまでも無く、生徒にとって学校で過ごす時間の大半は授業であり、その時間が有意義で楽しい時間になればなるほど生徒は学校に行きたいと思うようになるでしょう。そんな魅力的な学びをつくり出すためにたゆまぬ努力を続けることが教師の使命であり、それが教職のやりがいでもあります。

 けれども、生徒のやる気がなくて満足に学習できなかったり、昨日は良かったのに今日は生徒がまったく集中できていなかったりして思うように学習が進められないことがしばしばです。そもそも、いわゆる「困難校」では毎日生徒指導に追われて教材研究や学習開発どころではない…そんな声はいつでも多く聞こえてくる、学校現場で働かれている先生方の「身をひきさかれる思い」が吐露されたもののように感じます。学習指導と生徒指導は地続きの関係にあるのが現実です。けれども、だからといって国語の時間を利用して生徒指導に単純に結び付けるのは、国語の学びとしても生徒指導としても、効果をもたないばかりか、逆効果にさえなってしまう恐れがあります。例えば、人を思いやることや命の大切さをもっともらしく文学の授業のゴールにしたり、作文の中から生徒の“深層心理”を解読して家庭環境を探ったりしてしまえば、生徒は読むことが嫌いになり、心を閉ざして何も書かなくなってしまうかもしれないのです。

 本書は、こうした学習指導と生徒指導はそれぞれ異なるシステムをもった別個のものではなく、同じ構図の上で自然と重なり合っているものだという発想をもたらしてくれます。その根底に流れるのが、考え続けること・考えるのを止めないこと、です。

 例えば何か問題が起きた時、本書では、教師が問題を解決してその解決策(多くの場合は罰のような既成の処分)に生徒を従わせるのではなく、その問題の解決方法を生徒自身が自分たちで考え、それを教師としてサポートする方法が示されています。そのために教師は、なぜその生徒がそのような行動を起こしたのかを対話の中から丁寧に考え、根本となる原因をつきとめようとします。自分自身で問題を解決しようとすることで生徒は自分の行動の意味を考え、それがもたらす結果に責任をもとうとします。教師も生徒のどちらもが、あらかじめ設えられたものに従うのではなく、自分自身で考え、それを伝え合うことで「一緒に自分たちの文化をつくること」が大切にされています(『生徒指導をハックする』の主にはハック3)。こうした教師と生徒の関係性は、RWWWで共に読み合い、書き合うコミュニティーでも当然のように大切にされてきたことです。

 校則やルールとして決められた、覚えきれないほど膨大な「守らなければならないこと、やってはいけないこと」をひとつひとつチェックするような生徒指導もやめてしまいます。その代わりに、「安全・安心な学びの場にする」といったシンプルな「期待」をクラスで考え、それを満たすために自分がするべきこと、するのをやめるべきことは何かと、生徒は自分自身で考えます(同、ハック4)。これらのことを考え、考え続けることは決して簡単なことではなく、きっと脳に汗をかくような営みです。けれども「自分はできない」と諦めてしまうのではなく、その努力の先にある成長を信じてあきらめずに試し続ける「成長マインド」を育てる方法についても示してくれています(同、ハック5)。

RWWWの中でも、生徒は自分で目標を設定し、それを意識しながら、どのような方法で読んだり書いたりするのが良いだろうかと自分自身で考えます。そしてきっとこの取り組みの先には成長した自分がいるだろうと信じて、「脳に汗かく」ことを楽しみながら試行錯誤する姿ともぴったり重なり合うものではないでしょうか。

 このように、本書では育ちあうコミュニティーとしての「考え続ける学校」を生徒と教師がともにつくっていく方法が9つのハックとして示されています。学校を安心・安全な場にするために築き上げられてきたはずの校則やルールが逆に教師と生徒両方の思考を止めてしまっていることに気付き、再び考え始めることの必要性を感じざるを得ません。

それは国語の授業でも同じです。一斉指導や、一見対話的に見えるもののその内実は教師がもつ「正解(のようなもの)」を言い当てるような授業では、教師も生徒もあらかじめ用意されたものをそのまま受け取ることにのみ注力してしまい、思考がすっかり停止しています。その思考停止状態にいちはやく気付き、「考え続ける教室」を構築しようとするのがRWWWなのだと、本書を読むことで改めて「関係修復のアプローチ」★と国語の学習とのつながりを知ることができます。

★「関係修復のアプローチ」および『生徒指導をハックする』については、http://projectbetterschool.blogspot.com/2020/12/blog-post_9.htmlをご覧ください。

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