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2012年1月13日金曜日

メンター・テキストから、それぞれが学ぶべきことを学べるようにする

 メンター・テキストを使って教えることは、読み書きのつながりを大切にする教育活動であり、かつ優れた作家から、その作家の使っている工夫や技巧が学べますから、極めて効果的な教え方だと思います。

 メンター・テキストについては、このRWWW便りでも、何度か取り上げてきました。


 ◎ メンター・テキストについては、2010年の9月17日のブログをぜひご覧ください。メンター・テキストが何かということを、改めて確認するのにいいと思います。メンター・テキストは、たとえば2010年10月1日2011年8月5日のブログにも登場しています。(画面左上の検索コーナーに「メンター・テキスト」と入力して、虫眼鏡をクリックすると、全部見せてくれます。)

 今日は、メンター・テキストを使うにあたって、今、読んでいる本から学んでいることを書きます。

 それは「メンター・テキストから、それぞれが学ぶべきことを学べるようにする」ことも大切だ、ということです。

 今、読んでいる本の題名は、ずばり Mentor Author, Mentor Texts (メンター・オーサー、
メンター・テキスト)で、『ライティング・ワークショップ』の共著者の一人の、ラルフ・フレッチャー氏による本です。

 いくら素晴らしいメンター・テキストだからと言って、教師が常に「このテキストからは、こういうことを学びなさい」と押し付けていると、WWはつまらないものとなってしまいます。

 「先生がフレッチャー氏の本を使って、子どもたちに氏のように書こうという活動を押し付けたので、子どもたちは辟易した」、という子どもの言葉も、この本の中で紹介されています。

 フレッチャー氏は、メンターテキストの中で、教師があらかじめ決めておいたある技巧や工夫に、子どもたちの目を向けさせるのではなくて、子どもたちがどこに目を向けるのかを、子どもたちに選べるようにすること、
またそれぞれに学んだことをどうするのか、という点についても、いろいろな選択肢があることも語っています。

 読み手として読むときにも、書き手として書き手の目で読むときにも、子どもそれぞれに注目する点も違うし、その時点で必要としていることも違う、そしてその違いをお互いに語ることで、またお互いに学ぶこともある、それはメンター・テキストを使う学びでも然り、そんなことを改めて思いました。



 出典:

 上で紹介したのは、Ralph Fletcher, Mentor Author, Mentor Texts、 Heinemann 2011です。

 子どもの言葉が紹介され、そこから、メンター・テキストをどのように教えるのかという点は、4-7ページに、読み方や読んだあとの選択肢については、12-14ページに書かれています。

2019年2月9日土曜日

読み書きのつながり

 ライティング/リーディング・ワークショップの優れた実践者たちは、実践を積み重ねるなかで、それぞれのやり方を、経験から生み出しているように思います。そして、多くの場合、読み書きをうまくつなげています。

 ◆『ライティング・ワークショップ』の中に、「美味しい料理を味わうことなく、名シェフになりたいと思うでしょうか」という文があります(『ライティング・ワークショップ』95ページ)。上手に書くためには、優れた文章を味わう必要があります。優れた文章の響きを味わうためにも、書き手が使える技を学ぶためにも、また、題材のヒントを得るためにも、ライティング・ワークショップでは、(絵)本の読み聞かせが活用がされています。(詳しくは『ライティング・ワークショップ』第7章「ライティング・ワークショップのなかでの本の使い方」をご参照ください。また、7章以外にも、51~52ページ、142~143ページも参考になります。)

 ◆ リンダ・リーフという優れた実践者は、「人は、書くことをせずに読むことはできるが、読むことをせずに書くことはできない」と、自身の著書 Quickwrite Handbook: 100 Mentor Texts to Jumpstart Your Students' Thinking and Writing の中で述べ(8ページ)、書くことにメンター・テキスト★を活用しています。

(★メンター・テキストとは、メンターつまり指導者、助言者、師匠となってくれるようなテキストと、ということです。メンター・テキストについてはWW/RW便りで何回か取り上げていますので、ご興味のある方は、WW/RW便りのブログのウエブサイトhttps://wwletter.blogspot.com/2019/02/blog-post.htmlを開き、ブログサイト内で「メンター・テキスト」で検索してください。)

 ◆ WW/RW便りで何度も紹介している『イン・ザ・ミドル』のアトウェルは、「今日の詩」で毎回のワークショップを開始していますが、これも、読み書きのつながりのある時間です。「今日の詩」は、詩を一緒に読む時間で、生徒は書く練習は行いません。それにもかかわらず、「優れた文章について、(段落以外の)教えたいすべてのことが、詩から教えられる」というぐらい、書くことにおいても、効果的な時間となっています。(「今日の詩」については、『イン・ザ・ミドル』112~117ページ、67~68ページをご参照ください。)

*****
 
 上記のリンダ・リーフの著書で紹介されている「クイックライト」を、以下、簡単に紹介します。リーフは、週に何度か、「クイックライト」という方法に短時間を使うことで、授業を開始しています。

 ・題名 Quickwrite Handbook は、「quick(早く)とwrite(書く)をつなげた一語」+「ハンドブック」。つまり、「早く書かせる」という、リーフの実践を土台にしたハンドブックです。その副題は「生徒の考えること・書くことにエンジンをかけるような100のメンター・テキスト」(100 Mentor Texts to Jumpstart Your Students' Thinking and Writing)で、副題のとおり、多くのメンター・テキストが本に収録されています。ポイントは、短いメンター・テキストを使って、読むことと書くことをセットにすることで、メンター・テキストが書くことの出発点として使われています。この実践は、いわゆる「お題」を与えて書かせる、という練習とは、まったく異なります。

・まず、メンター・テキストを読むことからスタートです。メンター・テキストは、通常、短いもの(1ページ程度の散文、詩、絵、やや長めの本からの抜粋、短い絵本など)で、それを読んでから、それに対して、2,3分、ざっと、書きます。(3ページ)

・この、2,3分、書く時間ですが、いくつかバリエーションがあります。
授業で紹介されたメンター・テキストの「全体」から、頭に浮かんだことを、2,3分、できるだけ早く書きます。あるいは、「ある行(あるいはその一部)」を借りて、その行に自分の考えを導かせるような感じで、そこから思いついたことを、2,3分、止まらずに書き続けることもあります。また、「ある行やある文体」に注目し、それを使って書くこともあります。反応として、絵を書くこともOKです。(4ページ、12ページ)

・メンター・テキストの質がよければ、書き手は刺激を受け、連想することや、反応したいことがでてくるものです。ですから、メンター・テキストの選択はとても大切です。しかし、どうしても何も書けない子どもには、メンター・テキストからその一部をノートに写すように指示することもあります。(6ページ)

2,3分、たっても、半数以上が書いていれば、1分程度、時間を延長します。(8ページ)

・このクイックライトで書いたものを、それぞれの生徒が、すぐに見つけられるようにしておくと便利です。2~3週間ごとに見直してみると、ここからさらに発展させて、ひとつの作品が生まれることもあります。つまり、クイックライトは、これからの作品を生み出す方法の一つとしても使えます。(9ページ)

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 上記のページは、Quickwrite Handbook: 100 Mentor Texts to Jumpstart Your Students' Thinking and Writing(Heinemann社から、昨年2018年に出版)のページです。

 リーフのこの本の中にも登場し、邦訳がでている絵本に、シンシア・ライライントの『わたしが山おくにすんでいたころ』(ゴブリン書房、2012年)があります。クイックライトのメンター・テキストと思って考えると、たしかに、自分の子ども時代の情景を思い出したり、子ども時代の大切な人に思いがいったりします。『ライティング・ワークショップ』の著者の一人ラルフ・フレッチャーは、リーフのクイックライトの実践を、「自分が乗る言葉の波を見つけられるまで、他の人の言葉の波に乗るようなものだ」とも言っていますが、なるほど、と思います。

2023年3月11日土曜日

書き手の目で読む 〜メンター・テキストを使う二つのタイミング

 2月23日の投稿に引き続き、書き手の目で読むというトピックについて、今回は、メンター・テキストから考えます。メンター・テキストというと、私はすぐに「美味しい食事を味わうことなく、名シェフになりたいと思うでしょうか」(『ライティング・ワークショップ』フレッチャー&ポータルピ、2007年, 95ページ)という文を思い出します。メンター・テキストを活用するためには「美味しい食事を味わう」ことだけでなく、「どうやって調理しているのだろうと考えて、それをうまく活用する」ことも必要です。特に後者については、「自分の下書きに欠けているもの」を自覚することが前提にあると思います。そう思うと、「書き始める前」と「書いている間」で、メンター・テキストへのアプローチも少し変わってくるのかなと思い始めています。

1)下書きを書き始める前に使う 

 下書きを書く前に「見本になりそうなもの」を探すことは、私も日常生活で時々行なっています。例えば冠婚葬祭に関わるお知らせや手紙など、頻繁には書かないタイプの文章を書くときは、検索をすれば、サンプルになりそうなものが見つかります。でも、これは「メンター・テキストを探す」というよりは、「どういう情報を入れる必要があるのかを知る」とか「失礼にならないように注意する」というレベルの検索です。私は多くの場合、それ以上の努力はあまりしていないように思います。

 今、読んでいる『Writing Clubs』という本の中で、ある先生が親しい友人の高校3年生の子どもに向けて「卒業に向けての手紙」(graduation letter)(★2)を書くように依頼されるというエピソードが紹介されています。先生はすぐに快諾したものの、「卒業に向けての手紙」(graduation letter)とはどういうものかや何が期待されているのかがよくわかりませんでした。

 先生は、早速それについて調べてみます。すると、卒業していく生徒がこれまでの成長の過程に思いを馳せ、かつ今度に向けてのアドバイスも得られるような手紙であること、また、友人や家族が、いろいろな人に手紙を書いてくれるように依頼し、集まった手紙を束ねて、卒業していく生徒が集まる朝食会の日の朝にプレゼントする、というようなもののようです。

 ここまでわかればなんとか対応できそうですし、私であれば、このタイミングで書き始めて、それで完成させて終わりになりそうな気がします。しかし、この先生は、メンター・テキストになるような優れたものをいくつも探します。そして、幾つも優れたものに触れてから、書き始めています。

 以下の「2)書いている段階・推敲の段階で使う」と関わりますが、最初の段階で幾つも優れたものに触れているので、「2)書いている段階・推敲の段階でメンター・テキストを使う」ことがスムーズにできているように思います。

2)書いている段階・推敲の段階で使う 

 上記の先生は、下書きを書き始める前の段階で見つけたメンター・テキストの中でも特にお気に入りになった幾つかに、書いている段階で、何度も戻ります。

 書いている段階・推敲の段階で使う時は、「美味しさ」の秘訣を解明し、自分に使える技がないかに焦点が移ります。この先生は、構成の仕方がとりわけいいと思ったテキストを参考にして自分の手紙を構成したり、ユーモアやエピソードの使い方を学んだりしながら、自分の手紙を仕上げていきます。

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「要求されている内容がわかった段階で書く」ことと「そのジャンルでの秀逸なものに触れてから書く」ことの差は大きいと思います。子どもも大人もあまり余裕なないので、前者で終わることも多そうです。前者だけで「合格点をクリアする」とか「無難なものを書く」ことはできそうですし、もちろん、これ自体、必要なスキルだと思います。

 でも、メンター・テキストを「活用する」ことを考えるのであれば、もう一手間かけて、そのジャンルでの秀逸なものに触れる(=美味しい食事を味わう)ことが必須となりそうです。これは、下書きを書き始める前の段階から、できることです。

 そして書き始めてからもメンター・テキストは必要です。それは書き始めてみないと、自分の下書きに欠けているものがわからないからです。自分の下書きに足りないもの、うまくいっていない箇所がわかれば、「どうやって調理しているのだろうと考えて、それをうまく活用する」段階がスタートできます。焦点も、自分の出合ったお気に入りのメンター・テキストではどのような工夫がされているのか、自分が使えることがないのかを見つけることに移ります。

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 『Writing Clubs』の中では、書いている段階・推敲の段階でメンター・テキストを小グループで学ぶ例が出てきています。著者たちは、子どもたちの自己評価というプロセスも経て、子どもたちが必要としていることを理解してから、メンター・テキストの導入を計画・実行しています。こちらの具体的な方法については、また日を改めて紹介できればと思います。

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(★1)著者はLisa EickholdtとPatricia Vitale-Reilly、Stenhouse より2022年に出版。

(★2)上記の先生のエピソードは67-68ページに書かれています。

2010年9月17日金曜日

教師と生徒の力強い味方「メンター・テキスト」

 私たちは真似することで、いろいろなスキルを身につけていきます。
プロの作家もそこからスタートしている人たちが多いぐらいですから、小学生、中学生、高校生、大学生が同じことをやらない手はありません。むしろ、積極的に奨励しようというのが、このメンター・テキスト(師匠代わりの本)を使うという方法です。

 メンター・テキストの選び方は、
  ① 選ぶ教師自身が好きであること。
  ② 教えた「作家の技」がたくさん使われていること。つまり、単にストーリーが面白いというだけではダメということ。
  ③ 子どもたちのニーズとカリキュラムのニーズの両方を満たしていること。
  ④ 子どもたちにも気に入ってもらえること。
  ⑤ 多様なジャンルのメンター・テキストを探すこと。

 メンター・テキストの使い方は、
  ・ まずは、読み聞かせからスタートです。何よりも、子どもたちに気に入ってもらうことが先決ですから。
  ・ その後で、いろいろな形で使いこなしていきます。ミニ・レッスンで作家の技を教えるのに使ったり(作家の目で読んでもらったり)、個別(やグループ)カンファランスで使ったりします。要するに、メンター・テキストは子どもたちが自分でも試してみたくなるような書き方を多く含んでいるものが好ましいわけです。
なお、ミニ・レッスンやカンファランスで使う時は、本や絵本を全部使うことはありません。目的に適した部分のみを選んで使います。(子どもたちはストーリーをすでに知っているので、一部のみを使うことができるわけです。)
  ・ さらには、作家の技等を学ぶだけでなく、書く題材を見つけるのにも使います。

 メンター・テキストには、よく絵本が使われますが、その理由はいくつかあります。
  ・ 短時間で読めるだけでなく、年間を通して繰り返し読める。
  ・ 子どもたち自身で作家の技を探すことも容易にできる。
  ・ 子どもたちに真似して欲しい内容をたくさん含んでいる。
  ・ 長さは、質とは関係ないことにも気づいてもらえる。(短い方が、文章や作家の技が選りすぐられていることに気づける)
  ・ 何よりも魅力的なイラストが描かれている。読むのが好きではない子にとっては、それがあることが大いに助けになる。

 もちろん、メンター・テキストを絵本に限定する必要はありません。効果的なメンター・テキストの条件を揃えていれば、何でも使っていいし、また使うべきです。多様な方が好ましいです。(もちろん、教科書の中にある教材もメンター・テキストの候補に含まれるとは思いますが、上の5つの基準にあわないと、はずれてしまう可能性はあります。)

 以上は、Mentor Texts: Teaching Writing Through Children’s Literature K-6, by Lynn Dorfman and Rose Cappelli, Stenhouse, 2007を参考に書きました。

 具体的にどのような本がメンター・テキストとして使われているかというと、たとえば
    ジェーン・ヨーレンの『月夜のみみずく』
    ピーター・レイノルズの『てん』
    クリス・ヴァン・オールスバーグの絵本
    レオ・レオーニの絵本
    メム・フォックスの『おばあちゃんのきおく』
    バード・ベイラーの『だれにも石が大切』
    E.B.ホワイトの『シャーロットのおくりもの』
などです。「メンター・テキストの選び方」を参考にして、年間に数冊用意できるといいのではないかと思います。日本人が書いたのでいいのがあったら、ぜひ教えてください。

2023年9月8日金曜日

ほぼ無限大? 絵本や詩などの短いテキストの活用

ライティング・ワークショップのカンファランスや評価などの本でよく知られているアンダーソン氏(Carl Anderson)が、昨年出版したメンター・テキストについての本『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』(★1)を見ていると、絵本や詩などの短いテキストは、以下のように多くの場面、方法で使えることがわかります。
1) 下書きを書く前の段階から、下書き、推敲、校正、出版の、どの段階でも使える。
2) ミニ・レッスンでもカンファランスでも使える。
3) 直接的に教える形でも、生徒が探求して見つけていく形でも使える。


1) 下書きを書く前の段階から、下書き、推敲、校正、出版まで、どの段階でも使える。
 下書きを書く前の段階では、何を書くのかという題材探しのヒントで使うこともできます(『作家の時間』106ページ, 153-154ページ)(★2)。また、フローチャートやウエビングマップを書いたりする時にも、これまで読んだメンター・テキストを思い出して、作家たちがどんなふうに構成していたかなどを考えることもあります。(『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』9ページ)
 下書きを書き進めるにつれ、子どもたちが取り組むことも多岐に渡ります。『作家の時間』(125ページ、表6-1)には、子どもたちが行なった修正例として、以下がリストされています。メンター・テキストの協力を仰げる項目も多そうですから、教師一人で頑張る必要はなさそうです。
表6−1 子どもたちが行なった修正例
・ 常体と敬体を効果的に使い分ける
・ インタビューを入れて構成し直す
・ ユーモア仕立てにする
・ 並び替える(切って移動する)
・ 話の順序を変える
・ 書き出しを変える
・ 書きき終わり方を変える(意外な結末、情景、書き出しとセット、先が気になるようになど)
・ 削除する(不必要な箇所を削除する)
・ 題名を変える(読みたくなるような題名に)
・ 視点を変える(他の人や他の物も視点や立場で書く)
・ 章立てを使う
・ 比喩を使う
・ 一部に焦点をあてる
・ 擬音語、擬態語を入れる
・ 会話文を使う
・ 段落に分けて小見出しをつける
 校正や出版の段階で、メンター・テキストを使うことは、私はこれまで、あまり考えたことがありませんでした。
 アンダーソン氏によると、校正の時にメンター・テキストがあれば、言語事項の確認を、「実物」を参照しつつ行えます。また出版時にレイアウトを決める時にも、同じようなテキストを書いたメンターたちのレイアウトなどが参考になります(『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』 9ページ)。


2) ミニ・レッスンでもカンファランスでも使える。
 絵本などを「メンター」として、そこから書き手ができることを学ぶことは、ライティング・ワークショップの定番ミニ・レッスンの一つのように思います。「題名」「始め方」「終わり方」「話者を誰にするのか」「フラッシュバック」「比喩や象徴の使い方」など、少し考えるだけでも、次から次へと、ミニ・レッスンのトピックが浮かびます。ミニ・レッスン集も、英語圏では何冊も出版されていますが、そのトピックにあった絵本や詩とともに紹介されていることも多いです(★3)。
 また、1冊の絵本から学べるポイントは複数ありますから、1冊の絵本を複数のミニ・レッスンでも使えます。ストーリーがすでにわかっている方が、子どもたちも安心して、書き手が行なっていることを学べますから、読み聞かせで使った絵本を使うことも、同じ絵本を違うミニ・レッスンで使うこともお薦めです。
 絵本や短いテキストはカンファランスでも重宝しそうです。なにしろ、メンター・テキストは「優れたテキストで、生徒がそれぞれに書いているものを、どうやって上手く書くのか、また、言語事項をどうやって使うのかを、わかるように助け」てくれるからです(『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』2ページ)。
 個別カンファランスの場合、その特定の子どもの取り組み中の作品と、その子がもう少しの助けがあるとできることを考慮しながら、その子だけのメンターを選ぶこともできます。


3) 直接的に教える形でも、生徒が探求して見つけていく形でも使える。
直接的に教えるというのは、「教えるポイントを言語化し、その重要性を伝え、メンター・テキストで例を示し、それを読み上げ、著者がそれをどのように使っているのかを示し、生徒がどのようにトライできるのかを説明する」という手順です。(『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』104ページ)
 この方法の場合「ミニ・レッスン」を比較的短い時間に収めやすいかと思います。
 しかしながら、ミニ・レッスンを対話的に行い、生徒自ら気づくことを推奨する場合もあります。この「探求的に教える」場合、教師との対話を通して、生徒たちは「書き手の目で読む」練習ができます。例えば、今日は「書き出し」について学ぶので、著者が書き手として行なっていることに注目して、教師が提示するメンター・テキストから、書き出しについて気付いたことを話そうというようなやり方です。(『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』106-107ページ)
 上記では、教師が「書き出し」に限定していますが、生徒たちが自らポイントを決めていくことも可能です。
 2023年5月27日の投稿でも触れた『Writing Clubs』(★4)では、生徒たちが自分たちの好きな作家をメンターとして、小グループで学ぶ例が紹介されています。選択した作家の作品を複数読み、その作家から、書き手ができることを、生徒たちが見つけていきます。その作家が行なっていることに、「気づく」「名前をつける」「なぜ、その作家(メンター)がそれを使っているのかを考えてメモをする」「自分の書くことにトライしてみる」(『Writing Clubs』135ページ)という練習です。

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 絵本や詩などは、メンター・テキストとしていろいろ活用できそうですが、「メンター・テキストの蓄積をするために、頑張って探そう!」と思わない方がいいかもしれません。むしろ、自分が大好きな絵本や詩について、時折、「どうして、私はこの絵本や詩が、こんなに好きなんだろう、私を惹きつけるために著者が何をしているのだろう」と考えてみるといいかもしれません。
 私が定期的に読んでいる「あすこま」さんのブログに以下の文がありました。
「初めて出会う詩に『これ好き』とつぶやく子たちに、『いいでしょう?世の中にはこんな素敵なものがまだまだあるんだよ』と言ってあげたくなる」
 「こんな素敵なもの」に教師が出合うこと、メンター・テキストの蓄積は、それに尽きるように思います。
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★1
Carl Anderson著の『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』は、2022年にHeinemannより出版。全ページカラー、オンラインのリソースいっぱいの本です。最近の本はこういう「つくり」なんですね…著者もいろいろな本をメンター・テキストにして、この本を作り上げたんだろうと思います。

★2
『作家の時間』はプロジェクト・ワークショップ編で2008年に新評論より出版。「中高の国語」と「高校の英語」を加えた増補版が、2018年に出ています。

★3
例えば、1998年に初版が出て、2007年に第2版が出た 『Craft Lessons: Teaching Writing K-8』(Second Edition)。著者は『ライティング・ワークショップ』と同じ Ralph J. Fletcher と Joann Portalupi。Stenhouse社より出版。幼稚園から8年生(中学校2年)までを対象としており、ロングセラーのミニ・レッスン集です。
2007年出版ですので、メンター・テキストもやや古い本が多いですが、この本で、複数のミニ・レッスンで紹介されていた絵本や児童向けの本としては、『ゆうかんなアイリーン』(らんか社、2021年)、『むこうがわのあのこ』 (光村教育図書、2010年)、『スモーキーナイト』(岩崎書店、2002年)、『月夜のみみずく』 (偕成社、1989)、『のっぽのサラ』(徳間書店、2003年)、『穴』(講談社文庫、2006年)、『だめよ、デイビッド』 (評論社、2001年)などがあります。

★4
『Writing Clubs』著者はLisa EickholdtとPatricia Vitale-Reilly、Stenhouse より2022年に出版。125-147ページに、一人の作家について協働で学ぶことが詳しく説明されています。

2010年10月1日金曜日

短いので、メンター・テキストとしても扱いやすい詩

 9月3日のブログで紹介したアトウエル氏は、A Poem a Day: A Guide to Naming the World (Heinemann, 2006) の中で、毎日の短時間の詩のレッスンの締めくくりのポイン トとして、子どもたちに「詩の読み手、書き手として、詩の新しい可能性を見 いだせ るようにすること」つまり、今日授業で読んだ詩のように「こういうこと もできるのでは」と気付 かせることを大切にしています(26-27ページより)。

 これを読んで、それほど長くない詩は、短いメンター・テキスト(9月17日のブログ参照)としても、とても有効な気がします。 絵本や小説よりも短いものであれば、子どもにとって把握もしやすいし、教師にとっても短時間で提示できるという のも魅力です。

***

 さて、私の先週のWWの時間ですが、ひとりの生徒が下書きの段階で、ノートに音楽の魅力を断片的にいくつか書いていました。しかし、このままでは形になりませんし、本人も、どうまとめていいのか方向性が見えないというか、まだそこまで考えていないという感じでした。

 そのときに、ふと昨年の生徒の書いた詩をひとつ思い出しました。

 この昨年の生徒は、最初にこれから 書くことを簡潔にまとめた文を書き、そのあとにずっと具体例を並べて、最後に「だから大好き!」みたいな感じの文でまとめていました。

 その詩を見せたとたん、その生徒は急に自分の書くことの構成について、自分のイメージが生まれ始めたようでした。

 短い詩だと、短時間のカンファランスでもメンター・テキストとして使うことができ、しかも文の構成というかなり大きなトピックを扱える、と思えた瞬間でした。

*****

 短時間で使える詩のメンター・テキスト、これの可能性を感じられたのはいいのですが、やはり自分の中のメンター・テキストのストックの少なさ(特に詩!)に、がっかりです。

 詩を読むときに、しっかり味わったあとに、これをメンター・テキストに使う場合、ここから何を教えたい? (例えば、構成? 単語の使い方? 詩人の技? 等々)と問いかけてみて、付箋を貼ってみようかなとも思いました。

 絵本などを読むときは、「これは会話文を教えるのにいい」、「これは書き出しを教えるのにいい」、「これは物の立場から書くということを教えるのにいい」等、わりと考えることがありますが、詩については、あまりそういう目でみたことがありませんでした。

 書き手の目、つまり詩人の目で読むーーこれは未知の世界ですが、なんだか楽しそうです。

 今日の冒頭に書いた「詩でこんなこともできる」と気付けるかもしれません。

2023年3月24日金曜日

ジャンルごとのユニット vs 自ら選択したジャンルで書くという喜び 

  ライティング・ワークショップの新年度の計画を考える中で、「自ら選択したジャンルで書く」という時間(ユニット)を確保しておくのはいかがでしょうか? 

 そんなことを思ったのは、アメリカでは、ライティング・ワークショップが広まり始めた1980年代と比べて、「いろいろなジャンルをバランスよく」学べるように、詩、回想録、説明文、意見文、フィクションなど、ジャンルを土台にした「ユニット」がきっちり組まれるようになってきている印象を受けるからです。ジャンルごとのユニットがしっかり組まれていることのプラス面が大きいのはよく分かります。しかしながら、ジャンルごとのユニットが連続するために、ライティング・ワークショップが「窮屈」になっている印象を受ける時もあります。

 ライティング・ワークショップでは、「自ら選んだ題材について書く」という「選択」が大切にされています。教師が設定したユニットでジャンルごとに学び、あるジャンルを学んでいるときは、そのジャンルだけしか書けない場合、子どもたちの選択の幅は、そのジャンル内に限定されることが続くことになります。

 それぞれに好きなジャンルや大きな飛躍を遂げるジャンルは、子どもたちによって異なります。次から次へと、自分があまり好きになれないジャンルが続くと、夢中になって取り組めない子どもたちが出てくることもあるでしょう。そこで、時には、教師が決めたジャンルという枠を外して、「どのジャンルで書くのか」も子どもたちが自ら決める時間を設けてみるのはいかがでしょうか。

 このところ読んでいる『Writing Clubs』(★1)でも、ジャンルごとのユニットの学びが年間を通して土台にあります。しかし、時折、「ジャンル」という枠を外すユニットを設けることで、子どもたちの書きたいという意欲を、再度、うまく引き出し、それがライティング・ワークショップへの新たなエネルギーにもなっているようです。

 ジャンルごとのユニットをきっちり組み立ててきた教師にとっては、複数のジャンルに共通するミニ・レッスンを考えることは、悩ましく思えるかもしれません。でも、例えば、「メンター・テキストを使った題材探しの方法」「書き手がどのように自分の下書きを読み直し、書き直すのか」「どうやって焦点をはっきりさせるのか」「具体的に描くことでより良い言葉の選択ができること」(『Writing Clubs』104ページ)など、複数のジャンルに共通するミニ・レッスンのテーマは、いろいろありそうです。

*****

 この本の題名であるWriting Clubsからも分かるように、リーディング・ワークショップにおいてブッククラブで学ぶ時間があるように、ライティング・ワークショップでも、ライティング・クラブで学ぶ時間を組み入れることも可能です。この本はそのやり方を紹介しています。上記のように、子どもたちがジャンルを選ぶユニットは「ジャンル・クラブ」と名付け、協働で学ぶ時間も取り入れています。

 これまでに、リーディング・ワークショップにおいてブッククラブを行ったクラスなど、子どもたちが協働で学ぶ経験がうまく機能してきたクラスでは、それを「ジャンル・クラブ」に応用してもいいかもしれません。

 ブッククラブで読みたい本の候補から、ブッククラブをうまく作れたクラスであれば、同じような方法で、ライティング・ワークショップの「ジャンル・クラブ」で扱いたいジャンルをいくつか選び、子どもたちをグループ分けしてみる、というイメージです。

 *ちなみに『Writing Clubs』の著者たちは、ライティング・ワークショップでクラブを作る際、参考になる情報やインプットを、常に子どもたちより得て、その情報を活用して、クラブを作っています。「ジャンル・クラブ」の場合は、「読むのが好きなジャンルは?」 「書くのが好きなジャンルは?」 という質問をしています。また、子どもたちが選ぶジャンルの選択肢それぞれについて、8~10冊程度のメンター・テキストを準備し、子どもたちは、それぞれのジャンルのメンター・テキストを、ざっと見て、それぞれのジャンルについて、気づいたこと、このジャンルで書きたいかどうか、そのジャンルへの希望の強さ(第1希望、第2希望)などをメモしたりしています(『Writing Clubs』105-111ページ)。それぞれのジャンル・クラブは、そのジャンルが好きな子どもたちが集まることが魅力ですから、それができるように何らかの手立ては必要です。

 クラブのメンバー分けが終わった後は、クラブメンバーと一緒に、メンター・テキストから、そのジャンルの特徴として気づいたことに名前をつけ、なぜそのことが大切なのかをメモする(『Writing Clubs』111-112ページ)という時間も経て、それらを自分の作品に活かしていきます。

 『Writing Clubs』では、「自ら選んだジャンルで書く」以外にも、「自ら選択した作家から学んで書く」というユニットも紹介されています。これも、ジャンルごとのユニットが続いて単調になってしまう時に、ジャンルという枠を外す一つの方法として考えてみてもいいのではないかと思います。もちろん、リーディング・ワークショップでの「作家について学ぶ」というユニットと関連させることもできそうです。

*****

★1著者はLisa EickholdtとPatricia Vitale-Reilly、Stenhouse より2022年に出版。この本は、2023年3月11日土曜日の投稿「書き手の目で読む 〜メンター・テキストを使う二つのタイミング」でも紹介しています。


2011年4月22日金曜日

やはり難しい? 修正の教え方とそのタイミング

 子どもたちは、そろそろ第1作目や2作目を仕上げ、次に書く題材を選んだり、それを発展
させたりしている頃でしょうか。

 「先生、できたよ」と提出されたもの、つまり、子どもたちが完成したと思ってい
るものに対して、教師は、もっとその作品がよくなる余地が多く残されていることに
気づくことが、わりとよくあるのはないでしょうか。

 教師としては、「さあ、今から修正が始まるよ」と伝えたいものの、それは、完成した、
と思っている子どもの気持ちを思うと、意外に難しいものです(←少なくとも私の場合は)。

 いくつか方法を考えてみました。

1) 下書きの段階で修正方法をたくさん教える。

 下書きの段階で、修正方法をたくさん教えてしまうのも、一つの手かもしれません。

 WW関係で、いい本を何冊も書いているレイ氏は、「最初に書いた下書きが、ちゃん
とできていないから修正するのではない、そうではなくて、修正とは、下書きについ
て、今からどんなことが可能かを考えてみる、いいチャンス」ととらえられるように教えよ
うと言っています。

 そしてメンター・テキストからそのアイディアを得るのも一つの方法だと言ってい
ます。教師が自分のメンターテキストを語り、このメンターテキストから学んだ、
書くことについての作家の技を使って、自分の下書きに何ができるのか、

自分の下書きをどう変えたいのかを紹介しています。

 (メンターテキストは子どものよく知っている絵本だと、
子どももイメージしやすいと思います)。

2) 下書きのチェックリストや自己評価をしてみる

 私は前回のミニ・レッスンで、「いい題のつけ方」を取り上げて、いい題の条件を
書いたものをシールにして、作家ノートに貼る(← 前回のブログの、「作家ノート
は教室の壁」というところをご参照ください)ように言ったにもかかわらず、前回の
授業の終わりに、なんの工夫もない題をつけて提出した生徒もいました。

 いくつかミニ・レッスンのポイントをまとめて、例えば、「題の工夫、書き出しの工夫、終
わりかたの工夫、段落の順番(構成)の工夫」などのチェックリストをもって、自分
の下書きを見直すのもいいかもしれません。

 また、自己評価的に、自分が、そのチェックリストの項目をどのように工夫したの
か、それはうまくいったのかどうかを書いてもらうというのも、ありかもしれません。

 ただ、これは、初期だけで、いつかはチェックリストの必要がなくなるほうが、いいと思います。

(3) 完成作品だと思っているものに修正の提案をされて、気を悪くした人の話を
して、気を悪くするのはソンだとわかる例を出す。

 生徒から、「完成した」と思って提出されたものに、今から修正を教えるのはちょっと難しいなと
も感じます。

 作家ノートについても、WW全般についてもいい本をたくさん書いているフレッチ
ャー氏は、詩の書き方について書いた本のなかで、友達が詩を見せてくれたときのことを書いてい
ます。

 フレッチャー氏は、その詩の中のイメージをほめたあとで、その詩を今よりもさらによくする提案をしたとこ
ろ、その友人は、気を悪くして、「変える気はないよ」と言うシーンが出てきます。

 これが普通の人の反応なのかもしれません。一度書いたら、完成、これで終わりと
いう反応です。

  彼の書いた詩の教え方の本では、「この気を悪くした人が例外でなくて、この人
のように、作家の技をいろいろと使って、自分の詩をよりよくする意識のある人は少
ない」ことが書かれています。

 そこで、まずはこんな感じの、よりよくする提案について、気を悪くする人のエピソードを紹介します。

 (先生の周囲で実際にあったことだと、より説得力があるとは思います。)

 そして、その後、フレッチャー氏は、「でも、実は、よりよくするいろいろな方法が
ある」ことを述べ、そして、具体的な方法を具体例とともにいくつか出してくれています。

 これにならって、「実は、よりよくする具体的な方法は、いくつもあるんだよ」、と言って、
かなりパワフルな例をいくつか立て続けに紹介します。

 その具体例がとてもパワフルなので、上の人ように気を悪くするのが、ソンだと思
わせてしまうような感じがします。

 これは昨年の子どもの例を見せるのと、かなり効果的だと思います。
 
出典:

レイ氏の修正についての上の箇所は、Katie Wood Ray, What You Know by Heart
(Heinemann, 2002) の64-67ページです。

フレッチャー氏の詩の教え方についての本は Ralph Fletcher, Poetry Matters,
(HarperTrophy, 2002) で上のことが載っているのは59-73ページです。

 

2011年3月18日金曜日

いろいろな言葉があること、そして選択

巨大地震・大津波から1週間が過ぎようとしています。

 被災地の状況、甚大な被害が明らかになっていくなかで、短期でできること、
長期でできることを考え、行動に移していかなければと思います。

そんな中で、言葉のもっている意味と選択ということについて、いくつか考え
ました。

○ 状況は全く違いますが、「困難な中にいるときにも人は言葉を持っている」
ということを考えていて、ある詩集のことを思い出しました。

 This Place I Know: Poems of Comfort という詩集です。題を直訳すると
「私の知っているこの場所~安らぎ、癒しの詩」という感じでしょうか。

 アマゾンに載っている説明によると、もともとは、2001年9月、同時多発テロ
が起こったあとに、安らぎ・癒し、希望をニューヨークの子どもたちに与えよう
として、19世紀から現代の詩人まで、いろいろと集めたようです。

 このような詩は、年代や場所を超えて、多くの人に語ってくれるものがあると
いうことで、それぞれの詩に絵を描くアーティストたちも参加し、そして、18
の詩とそれに合う絵がついたこの絵本のような感じの
詩集がつくられたそうです。

 WWは、書き手が書き手を教えていく授業と言ってもよいと思いますし、読み書
きのつながりも大切にされています。

 言葉の持つ力を知っている人たちがいるから、この詩集ができたのだなと
思いました。

 また一つの詩でなくて、いろいろな詩が集められているのもいいなと思いまし
た。子どもそれぞれに反応も思いも違うだろうと思うからです。

○ そんなことを考えていて『綱渡りの男』という絵本も思い出しました。同時
多発テロが起こらなければ、この絵本をつくられなかったのではないかとすら思
えます(アマゾンには、「とりわけ感動的なのは、本書の最後を飾る絵――
フィリップと彼の渡り綱によってつながれた、今や『
記憶の中』の存在となった
ツインタワーのイメージ」と書かれています)。

 書くということ一つをとっても、それぞれに、詩、絵本と、いろいろな表現方法があるとも思
いましたし、その選択を子どもたちが持っていることも大切だと思います。

 そして子どもたちにとっても、いろいろなメンター・テキストになりうるもの(メン
ター・テキストも一人一人違うと思います)に触れることも大切だと思います。

 WWの中で の「選択がある」ということは、書く題材だけでなくて、書き方(ジャンル)もメンター・テキストの選択においても、そうである、と改めて思います。

 (メンター・テキストについては 2010年9月17日と10月1日のブログをご参照ください)。

○ ここ何回かのWW便りに紹介したドナルド・マレー氏の書いた、直訳すると
「ひとりの書き手が書くことを教える」(原題:
A Writer Teaches Writing)と
いうような題になる本を最近読んでいました。

 その中に、以下のような文がありました。ざっと訳の拙訳で申し訳ありません
が、2カ所、紹介します。

 「どのクラスも、いろいろな生徒がいて、その多様性がチャレンジでもあり喜
びでもある」

 「書くことは、世界を理解する一つの方法であり、私たちの多様な理解を共有
することによって、私たちが匿名性と孤立から抜け出す一つの方法である」



出典など:

This Place I Know: Poems of Comfort という詩集の説明は、以下のアマゾン
のサイトで、(上で説明したよりも)もう少し詳しく書かれています。
http://www.amazon.com/This-Place-Know-Poems-Comfort/dp/0763628751/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1300430778&sr=8-1


『綱渡りの男』(モーディカイ・ガースティン著、川本 三郎訳、小峰書店
2005年)の説明は以下で見れます。

http://www.amazon.co.jp/綱渡りの男-YOU-絵本コレクション「Y-」-モーディカ
イ・ガースティン/dp/4338202041/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1300431832&sr=1-1-
catcorr

(→ もし、実話をもとにしたすぐれた絵本を生涯10冊選べと言われると、私の
場合、この絵本は入るように思います)

マレー氏の本情報は以下です。

Donald M. Murray, A Writer Teaches Writing (revised second edition)
Thomson, Heinle, 2004.


上の言葉が載っていたのは、それぞれ、245-246ページ、246ページです。

2024年3月9日土曜日

共同授業者としての本 〜[鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸](★1)

「多様な本に溢れている」教室。ーーーリーディング・ワークショップでも、ライティング・ワークショップでも、事例を見ていると、多様な本が活用されていることをよく感じます。

 多様な本の活用において、「絵本等の中から書き手の足跡を学ぶこと」と「絵本等から外の世界を学ぶこと」という二つの方向があるように思えることにも、興味を感じています。

 前者、つまり絵本等の「中から」学ぶことは、絵本をメンター・テキストとして、作家が行った工夫や技を見つけるような学びです。メンター・テキストという言葉は、ここ15年ぐらい? 耳にする回数が増えました。「メンター・テキスト」という言葉を題名に含む本も、多く出版されています。「子どもたちにできるようになってほしい書き手ができる技や工夫」を念頭において、教師は選書をしていきます。

 他方、後者、つまり「絵本等から外の世界を学ぶこと」については、絵本の読み聞かせや対話的読み聞かせを通して、生徒たちが自分や社会について学び、世界を広げたり、その中で自分のできることを考えたりということに主眼があるように感じます。絵本は、教師一人では提供できない世界観を教室に持ち込む「共同授業者」(★2)という位置付けで捉えられることもあります。

 今日の投稿は、そういう世界観を広げるという点から、教室の図書コーナーや教師自身が読む本について考えます。

 2023年8月11日の投稿「選択という扉の向こう側にある世界〜[鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸]」で紹介したビショップ氏(Rudine Sims Bishop)の比喩をよく思い出しますが、どのような内容、テーマで、誰が」書いた本を選ぶのかが問われるように思います。氏は多文化児童文学の観点から、多数派ではない人たちが主人公になっている本の少なさ、また、本に登場しても、否定的なイメージで描かれたりすることに警鐘を鳴らしています。

 ビショップ氏は、本は世界を見せてくれる[窓]であり、読者が想像力を働かせて[ガラスの引き戸]を通り抜けて本の中に入るとその世界の一部になることができる。[窓]である本は光線のあたりかたによって、[鏡]にもなり、読者の人生や経験の一部を映し出してくれると、説明してくれました(★1)。今から30年以上も前の1990年のことです。

 [鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸]は、30年以上時間が流れた現代でも、とても有効な枠組みだと思いますし、アメリカの図書館の司書や教師の指針にもなっているようです。

 図書館司書のフィリップス氏(Jaenie Phillips)は、[鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸]に関連して、Great School Partnership という団体のブログに2022年8月に投稿(★3)し、この枠組みを実際にどのように、自分に応用したのかを記しています。

 この投稿によると、フィリップス氏は15年前に自分の読むものを、この枠組みを使って見直したそうです。白人である氏は自分が読んでいるものの大半は、自分の[鏡]となる本、つまり白人によって、白人について書かれている本だと気づきます。そこで、自分の読む本の少なくとも50%は、非白人の人によって書かれている本を読むという目標を設定します。この目標を毎年、達成していく中で、これまで読むことのなかった多くの素晴らしい作家の本を読むことになり、自分とは異なる人種の登場人物の立場で考えることで、自分も成長したと述べています。

 また、フィリップス氏は、2018年に出版された児童書を見ると、約27%が動物を主人公としていて、この数字は、白人でない登場人物の本を全て合わせた割合よりも高い数字であると指摘しています。つまり非白人の子どもたちにとっては、自分の人種的アイデンティティの[鏡]となる本が少なく、白人の子どもたちは、自分と異なる人種的アイデンティティを持つ人たちについて学ぶ機会が少ないまま過ごしていることになります。

  自分の[鏡]となる本が教室の中や、社会に溢れている場合、上記のフィリップス氏のように、最初は意識的に自分の読書生活を見つめて何らかの目標を設定しないと、狭い世界にとどまってしまう危険性があることは、自分自身を見ていて、よくわかります。

 リーディング・ワークショップや対話的読み聞かせが積極的に行われている教室の事例などから、アメリカの教室にいる様々な子どもたちの[鏡]になるような本を知ることができ、私もそれらを少しずつ読むようになってきました。しかし、例えば、アメリカ社会での移民の子どもたちや家族が主人公のストーリーを読む時、対岸の出来事として読んでいるところもあります。

 日本の教室や社会にある多様性ーーー例えば、日本在住の外国ルーツや難民の人たちが書いた、あるいは日本にいるLGBTQや障がいのある人が書いたお薦め本は?と言われても、さっと提示できません。読んだ本を思い出して、ようやく「そういえば」という感じです。私の場合、読んでいる絶対数が少ないことが大きいです。

 自分の成長に必要であるからこそ、[鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸]という枠組みを通して、定期的に自分の読書生活を振り返っていかなくては、と思います。

*****

(★1)

以下の情報は、2023年8月11日の投稿でも紹介しましたが、下に記すURLでPDFが読めます。PDFの最後には次のように出典が記されています。

Source: By Rudine Sims Bishop, The Ohio State University. "Mirrors, Windows, and Sliding Glass Doors" originally appeared in Perspectives: Choosing and Using Books for the Classroom. Vo. 6, no. 3. Summer 1990. 

http://www.rif.org/us/literacy-resources/multicultural/mirrors-windows-and-sliding-glass-doors.htm

また英語ですが、著者が語っている90秒ぐらいの動画を見つけました。

https://www.youtube.com/watch?v=_AAu58SNSyc

(★2)

Layers of Learning: Using Read-Alouds to Connect Literacy and Caring Conversations (JoEllen McCarthy, Routledge 2020年)のなかで、「私たちの住んでいる世界について、考え、可能性を見出し、真実や時には厳しい現実を明らかにするのを助けてくれるような、「教師の共同授業者」(16ページ) と書かれています。

(★3)

https://www.greatschoolspartnership.org/mirrors-windows-and-sliding-glass-doors-a-metaphor-for-reading-and-life/

2011年8月5日金曜日

夏休みの間にメンター・テキストを増やそう!!

 とにかくたくさんの本(特に、絵本★)を夏休みの間に読んで、WW(作家)の時間にメンター・テキストとして使える本を探してください。

 まずは、自分がおもしろいと思える本、子どもたちに紹介したいと思える本を探してください。それらはすべて、読み聞かせ用の本として最低限使えます。さらには、RW(読書家)の時間をしている方は、そのメンター・テキストとして使える可能性大です。

 おもしろい/紹介したいと思った本は、いい文章の要素3回連続で紹介したWilliam Zinsserの「いい文章を書くには」などの視点(要するに、「作家の視点」)で見てみると、どういうとき(ミニ・レッスン)に使えるかが浮かんできます。身近においておくと、カンファランスでも使えます。

 いい本は、ぜひ教えてくださいWWサイトに載せますので。


★ 特に絵本をお薦めするのは、短時間で読めたり、紹介できたりするだけでなく、いい文章の要素が凝縮される形で詰まっているからです。

2021年1月9日土曜日

学習者に培ってほしい資質を、一連の絵本を使って教える

 私は、ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップを学んだおかげで、大人になってから絵本が大好きになりました。時には「お見事!」と感心したり、「えっ?」と驚かされたりしながらも、「あ、この絵本は『終わり方』を教えるのに良い」「この2冊の絵本は『同じテーマでも異なるスタンス』を教えるのにぴったり!」等、ミニ・レッスンやカンファランスのアイディアが浮かぶこともあり、そんな時は二重に得した気持ちです。他方「明日の授業では回想録というジャンルを教えたいけど、それに適した絵本は?」と目的を持って探すと、なかなか見つからなくて困るときもあります。

 学年や年齢を問わず、絵本を使うと学びやすいことはたくさんあります。比較的短時間で読めますし、絵もあるのでストーリーが把握しやすいのは大きな利点です。特に、テキストに書かれていることから「一般化できる概念」(つまり、他の本や他の場面に応用ができる概念)を取り出す、というような抽象的な思考が必要な場合、絵本を使うと、その道筋をはっきりと提示しやすいのも魅力です。(その他、ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップ関連の本では、絵本を使うことの利点はあちらこちらで言及されていますし、「メンター・テキスト」として使えることも大きいです「メンター・テキスト」については、かなりの回数で紹介していますので、この投稿のブログ版「RWWW便り」で検索し、ブログ版の左上に「メンターテキスト」と入力してください。過去の関連する投稿が出てきます。)

 さて、絵本でできることの中の一つに、「一連の絵本を使って、学習者に培って欲しい資質を教える」ことがあります。一つの実践例を、最近、読み直している本(Conferring: The Keystone of Reader's Workshop)★から紹介します。以下のページ数はこの本のページ数です。

 ここでは、より良い読み手になるために、「忍耐を持って、根気強く頑張り抜く」資質をどうやって培っていけば良いのだろうかと、小学校3年生を教えるアレン先生が考えるところからスタートします。アレン先生は、まず「忍耐を持って、根気強く頑張り抜くこと」を教えてくれるような引用を子どもたちに二つ紹介し、それについて、もし、反応したいこと等があれば、ノートに書いておくように促し、先生自身も自分のノートに書きとめます(アレン先生は「自分がやりたくないことは生徒にはやらせない」ことにしていますので、先生もその場でノートに書いています。 ← こういうスタンス、いいなと思います。)(52ページ)

 そして「忍耐を持って、根気強く頑張り抜く」ことについて、生徒たちがどんなことを知っているのか、どのように考えているかを把握した上で、一連の絵本を使って「忍耐を持って、根気強く頑張り抜く」ことを培うレッスンのスタートです。(52~55ページ)

 「これからの2、3週間、このトピックについて学ぶ」ことを生徒に伝えた上で、1冊目の絵本の登場です。ノンフィクションの絵本★★です。絵本とはいえ、一度の読み聞かせではちょっとカバーしきれないので、この時は複数回に分けたようです。「学習者が自分でできる部分をだんだん増やす」ことを意識しているアレン先生は、最初は先生の「考え聞かせ」からスタートです。「根気強く頑張り抜く」に関わるような箇所が出てきたら、その箇所を読んだ後に、「『時間』ということも関係あるかな? 登場人物たちが時間をたくさんかけていることが書いてある」等と、考え聞かせをします。(55ページ)

 こんな感じで生徒たちが「根気強く頑張り抜く」ことに、それぞれに関わることに気づき、自分のノートにメモできるようにサポートし、学びを続けていきます。

 読み終わった後に、それぞれがノートに書いたことを参考に、この1冊の絵本から学んだ「根気強く頑張り抜く」ことについて、クラスでリストを作ります。そのリスト例を見ると

・どんな時であろうとも信頼する

・計画がある

・辛抱強く、前向き

など、なんと「根気強く頑張り抜く」に関わることが、18項目も並んでいます。(56ページ)

 その後も、同じテーマで考えることができそうな一連の絵本を生徒たちは読みながら、最終的にはそれぞれにとってインパクトの強かった3冊を選び、題名、「根気強く頑張り抜く」とはどういうこと? 学び手としての自分に教えてくれることは? などを、それぞれに、自分のシートに記入しています。(57〜61ページ)

 また「読み手」という視点からもクラス全体で考え、「読み手」として「根気強く頑張り抜く」ことの「助けになること」と「それを妨げること」のリストもクラスで作成しています。(63ページ)

 アレン先生は、生徒たちに、先生が紹介した以外の他の本や読み物からも、「根気強く頑張り抜く」登場人物が出てきたら、このテーマを考えよう、とも励ましています。教室でのアレン先生の1冊の絵本の考え聞かせからスタートした探究が、関連するテーマの一連の絵本を教室で読む時にも、また、教室の外で読む時にも考えられるようになる、ということを意識されているように思います。(62ページ) 

*****

 この実践を読み直しつつ、思ったことや、今後、引き続き、さらに考えてみたいことが何点か出てきました。

▶︎ 読み手として成長するためには、「リーディング・スタミナ」と言われように、根気強く読み続けることも大切。このセクションをみていると、リーディングに限定されるスキルというよりは、学習者が多くの面において活用し、「学び手」としての成長できるような資質を学ぶことの後押しになっているのを感じます。

 アレン先生自身も「忍耐を持って、根気強く学ぶ、ということがどういうことかを考え、そこで学んだことが、読み手としてだけでなく、書き手として、算数を学ぶ人として、思考する人として、活かせるかを考えていこうね」とも言っています(54ページ)。ある意味、当たり前のことかもしれませんが、リーディングを学ぶ時に、こういう他の教科の学びにも役立つことを教えることもできるし、逆に他の科目でも、読み手の成長に貢献することを教えることができるのだなと思います。

▶︎ 絵本を使うことで、学習者に培って欲しい資質を導入するための文脈が生まれます。例えば「他者との協力や協同」を文脈なしで教えようとすると、「他の人の考えも尊重しつつ、しっかりグループで協力して勉強してください」という掛け声だけになりそうです。これでは、定着する効果はあまり期待できません。

▶︎ 絵本の使い方として、二つのベクトルというか、二つの方向がありそうに思いました。一つはアレン先生のように、教えたい資質やテーマを決めておいて、それに沿った絵本もたくさん準備し、また、教室外でもそのテーマを意識するように教える。絵本を読む時のポイントを教師側で予めガイドして、それに沿って読むということです。子どもたちも、探したいことをある程度、意識しながら読んでいると思います。今後、自分で何かテーマを決めて探究する時にも、このような読み方を学んでおくことは大きなプラスだと思います。また、先生があらかじめガイドしてくれた概念に関連することを見つけ出して、それを概念に沿った形で言語化すること自体が、「具体的な事例を一般化する」という練習になっています。自分で一般化できると、他の文脈にも応用しやすくなりそうです。そうやって考えると、ここからできるプラス面がたくさんありそうです。

 もう一つの方向は、見つけてほしいポイントなどは、予め指摘やガイドをしないで、「テキストに語らせる」という方向です。この場合は、「テキストが語っていること」を読書家・批評家として、楽しめる・気付けるように教えることをサポートしていくことになります。

 おそらくこの二つは、はっきり二つに分離しているものでもないと思います。あるテーマに関連する情報を探そうと探究的に目的を持って読んでいても、その本が語りかける他のことに目がむくこともありますから。また逆の場合もあると思います。

 ただ、教える側として、こういう二つの方向があること、時にはそのバランスを考えることも必要なのかなとも思います。この二つの方向については、この投稿を書きながら興味が湧いてきました。これからさらに考えを深めて、また投稿できればと思います。

******

★Patrick A. Allen 著の Conferring: The Keystone of Reader's Workshop (Stenhouse, 2009年) という本の51-62ページが、忍耐をもって、スタミナを培うというテーマで書かれていて、上で紹介した例が詳しく書かれています。

★★『そして、奇跡は起こった!―シャクルトン隊、全員生還』(← こちらは単行本で、253ページあります)を書いたジェニファー・アームストロング (Jennifer Armstrong)の、同じテーマについて絵本です。絵本の方は、邦訳は見つけられませんでした。絵本のタイトルはSpirit of Endurance: The True Story of the Shackleton Expedition to the Antarcticです。

2010年11月12日金曜日

自分もメンター?

 メンター(師匠のような人)から学ぶ、これはWWの学びのポイントの一つだと思います。

 さて、子どもたちにとってメンターは? と言われると、まずはプロの作家(の作品)が浮かぶ人も多いのではないかと思います。

 つまり、メンター・テキストです。WWでは教えるのは先生だけでない。世界中の
すべての作家が先生になりうる、ということです。(7月30日10月1日に扱いました。)

 メンターは、世界中のプロの作家だけではありません。もちろん、教室の中にいる人、つまり先生や他の子どもたちもメンターになれます。

 今回、In the Company of Children という本を読んでいて面白いなと思ったのは、 「自分自身もメンター」ということを、WWで教えることでした。

 
「自分自身もメンター」とはどういうことなのかと言いますと、自分が書き手としてよくできている点に気づき、 そのよくできている点を基にして、書き手としてさらに成長するということです。

 子どもたちは、自分の書き手としてのよくできている点に、自分では意外に気づいていないようです。

上の本の著者Joanne Hindley 氏は、時々、それぞれ自分の作家ノートを見て、自分の書き手として優れているところ、誇りに思えるところを見つけるように言うそうです。

 見つけたあとには、どうしてそこを選んだかも書いてもらうそうです。

 これは、自分の書いたことを、違う視点で読み直すということでもあります。

 自分がよくできていることを見つける・気づくことで、達成感を持って、自分の書い たものを見直すことができますし、そこから将来書く作品にも、再度使いたいという 作家の技に気づくかもしれません。

 また、自分の書いたものを見直すことで、そこから、さらに将来へのプロジェクト (例えば、ある作品を書き直すとか)が出てくることもありそうです。


 さて、自分自身がメンター、ということからは少し離れたことも、以下、書き込みます。

 書いたものを見直してよくできている点に気づくというのは、もちろん、クラスメイトの書いたものを見るときにも使えます。

 クラスメイトだけではくて、時には学年を飛び越えて行ってもいいかもしれません。

 上の本で、Joanne Hindley 氏は、3年生の子どものクラスに6年生に来てもらうという 活動も紹介しています。

 6年生の子どもは、3年生の子どもに読んであげる箇所を自分で選び、なぜ、そこを選 んだのかを話します。

 また、3年生の子どもには、その6年生が書いたものを配り、「うまく書けていると思う点に下線をひいて、なせ、その箇所を選んだのかを書いてもらったりもしています。

 そして6年生の子ども(メンター)から学んだことで、(3年生の)自分の目標にできることをみつけてもらったりもしています。たとえば「細かい点の描写がちゃんとできるようにな りたい」などがでてきています。

 以上、Joanne Hindley著、In the Company of Children 
Stenhouse 1996)、 34-39ページを基に、紹介しました。

 なお、ここ何回か、ブログに書き込むと、迷惑メール扱いになって、メルマガに配信されないことが続いていました。ハンドルネームを変えてみたら?とご助言をいただき、今回、akkr より graphyに変えました。これでうまく送付できるといいのですが。

2011年7月8日金曜日

「人について書く」というユニット 

 前回のWW便りでは、自己紹介という題材について書きました。その拡大版?で、今回は「人につ
いて書く」というユニットについて書きます。

 先日、詩をパラパラ見ていました。その中に小学生向きの詩があ り、もし、我が家
の犬が言葉を話せれば、お父さん、お母さん、自分などに向けて、それぞれに、こう
いうことを言うだろう、という ものがありました。

 これを読んでいて、そうか、「飼い犬の口から家族を語らせる」こ とも可能なんだと
思いました。

 これは自己紹介というよりは家族の紹介です。

 家族だけでなく、他の人を紹介する文を書くということは(たとえば、 新しく赴任
した先生を紹介するなど)、現実生活でも時々必要とな る、ひとつの分野だと思います。

 自己紹介、自分の家族の紹介、他の人の紹介など、「人について 書く」というユニ
ットをWWにつくるのもいいのではないかと思いました。

 その理由は、二つあります。

1)まず一つ目の理由です。いろいろなジャンルやスタイルのメン ター・テキスト
が、さがしやすいので、何かについて書くときに、 いろいろなジャンルやスタイルが
あること提示しやすいというメ リットがあることです。
これを活かして、「書き手と
いうものは、ジャン ルやスタイルを選択することが必要だ」ということを教えるの
に、 いいユニットになると思います。

 私は英語の教師なので、どうしても英語のWWでのメンター・テ キストを考えてし
まいますが、少し考えただけで「人について書 く」ユニットのメンター・テキストと
して、以下のことが浮かびました。

 自分のことを、ある切り口で書いた詩。(これは前回のWW便りをご覧ください)。

 自分の家族のことを、第3者の口(たとえば、家族の飼って いる犬)から語らせる詩。

 自分のあこがれの人、マイケル・ジョーダンについて書いている詩

 歴史上の人物、ハリエット・タブマンについて書いている詩 

 詩は短い時間で紹介できるというメリットがありますが、詩だけ に限っても上のよ
うに、いろいろとあります。

 詩以外で、頭に浮かんだのは、アメリカの大学のホームページの 中で、在学生を何
人かを、かなり詳しく紹介しているページです。(→ 紹介されている人によっ て、
書かれている情報はかなり異なります。)

 また、出版されている本に載っている著者紹介も、長いもの、短 いもの、フレンド
リーな感じのもの、フォーマルな感じのもの、と とりまぜて紹介するのもいいかもし
れません。

 上記のように、少し考えるだけでいろいろなメンター・テキストが浮かびますので、 「作家が行う選択」
というテーマも、教えやすいと思います。

 (「作家とは選択をするもの」ということは、早めの段階で教え ておいてもいいこ
とのように思います。この点については、『ライ ティング・ワークショップ』53-
54ページで、「作家には決断が必要です」ということが書かれています。
この「決断」をジャンルやスタイルという点から教えるのに、このユニットはいいように思います。

2)二つ目の理由は、お互いを知ることの助けになることです。

 自己紹介だけに限定せずに、「人について書く」と範囲を広げることで、自分にあ
った、自分の安心できる自己開示 を自分で選択できる、というのも悪くないのかなと
も思います。 

 誰について、どんな切り口で書こうとも、その生徒自身やその生 徒が関心や関わり
をもっている人について知ることができるので、教師に とってもプラスだと思います。

 一人一人の生徒に対して、理解しようという気持ちは、WWでは大きいと思いま
す。書き手としての生徒を、一人ひとり知ることは、一人ひとりを個人レベルで(あ
るいは同じ課題をもっている生徒を小グループで)教え サポートしていくカンファラ
ンスの土台の一部ともいえます。

*****

* 本日の題に書いたユニットというカタカナですが、「単元」と訳されることもあ
ります。ただ、単元というと、「教科書ベースで、それをカバーする」イメージもあるよう
にも思いますので、カタカナのまま「ユニット」と書きました。

* 本日のWW便りは、前回のブログに対して、以下のコメントをいただいたことがきっ
かけで、書けました。ありがとうございいました。

「自己紹介」をすべてのジャンルをそろえて
学年の早めの段階でやってみるというのは
いい考えかもしれませんね。

生徒たちのことを知れる(生徒相互に知れる)
だけでなく、ジャンルの多様さも提示できます
から。

出典:

○ 自分の家族のことを、第3者の口(たとえば、家族の飼って いる犬)から語らせ
る詩は,
Kirk Mannの書いた If Dogs Could Talk で、Perfect Poema with Strategies
for Building Fluency: Grades 3-4
(Scholastic, 2000)に載っています。


○ 自分のあこがれの人、マイケル・ジョーダンについて書いている詩は Jay Spoon
 が書いた
A Sestina for Michael Jordan で、この詩はNancie Atwell のNaming the World
(Heinemann, 2006)に載っています。

○ 歴史上の人物、ハリエット・タブマンについて書いている詩は、Eloise
Greenfield の書いたHarriet Tubman で、この詩は、Eloise Greenfield のHoney,
I Love and Other Love Poems
(Crowell, 1978)に載っています。

○アメリカの大学のホームページの 中で、在学生を何人かを、かなり詳しく、紹介し
ているページについては、例えば、
http://www.semo.edu/spotlights/students.htm
ご覧ください。

2013年5月8日水曜日

読書ノート 9  

第4章 作家のように読む
60 多くの人にとって、読むことと書くことのつながりは見えていない。読むことと学ぶこと/考えることのつながりも見ていないんじゃない!! 私も、長いこと見えてませんでした。 多くの作家たちは、書くためには読まないとダメ!と言っている。子どもたちにはもちろん、親たちにも2つのつながりをわかりやすく説明することは、とても大切なこと
61 ピアジェの具体的なものから抽象的なものへは、算数ではわかりやすい。物を使った計算から、式を使った計算へ。
 読みから書きへの移行も、具体的に書かれた作品から、自分が白紙から作り出す作品への移行(具体的なものから抽象的なものへの移行)で説明がつく。とてもわかりやすい!
 たくさん読めば読むほど、自分の中に書くときのための駒が蓄積されていく。← 将棋の棋士がしているようなもの。過去の取り口を読み直すことで、自分がとるときの参考にしていく
 ヴィゴッツキーの理論もサポートしてくれている。責任の移行★も。一歩先のモデルを示されることで、それが自分だけでできるようになっていく。
 自分にあった選書ができるようになることは、書くことの練習(題材探し)の練習になっている。
62 これらのことをうまくまとめてくれているのがBrain Cambourneの自然学習モデルの8つのステップ★★
63 いい文章に浸ることで、書くときの準備がはじまっている。
絵本の『ヘンリー・ブラウンの誕生日』を使った事例の紹介
 息を呑みながら読んだところあった?
 書き手の立場に立って読んでみる
64 それを示す具体的な子どもたちとのやりとり
65 Ralph Fretcherがいう「slowing down the hot spot
  絵本で使われていた「作家の技」を教師が書いた文章で示す ← そうだよ、この作家の技をたくさん身につけるのが、読むことと書くことのつながり。でも、ただ読んでいるだけじゃ、「作家の技」を見出せない子はたくさんいるから、それを立ち止まってしっかり教える必要がある。それが、WWでするのか、RWでするのかはどちらでもいい。
  その上で、子どもたちにも使ってみることを奨励する
66 子どもたちが新しい「作家の技」を試してみたら、ほめる。
  浸らせる、モデルを見せる、試す、ほめるのサイクルをどんどん回し続ける。

 Katie Wood RayFrank Smithが、作家のように読むことを奨励している。
 でも、それを9歳児にどうやって教えるのか?
 ミニ・レッスンのあとに、自分が書いた文章を読み直してみて、今日教わったことが使えそうなところを探してみることをしてもらう。なかったら、教師がモデルを見せたように自分で書いてみる。
 「作家のように読む」ことは、本物の作家や教師や友だちの文をその視点で読むだけでなく、自分が書いたものも含まれる。
 「作家のように読む」ことは、ただ読むのとは違う。ブッククラブのために読むのとも違う。好きな本を読み直すのとも違う。書き手の視点で読むこと。 ← そのためには、時間/機会をつくる必要がある。私でさえまだできていませんから。

 これを練習するには、リテラチャー・サークルがいい。中でも、「表現係」が。
 リテラチャー・サークル(特に、表現係=「作家の技」発見係)の価値は、これにあると言っても過言ではない。
68 これができるようになることで、よりよい書き手になっていく。
息を呑んだ箇所、笑った箇所、泣いた箇所、唸った箇所などが、「作家の技」が使われているところ
 それをやるのに読書ノートを使おうが、作家ノートを使おうが、それは問題じゃない。
2つを一つにして使っている先生もいる。
 たくさんのメンター・テキストをもっていると便利。それぞれの「作家の技」を教えるために。
69 『クレージー・マギーの伝説』は、効果的な読みの方法★★★と作家の技を同時に学ぶには、おすすめの本。
70 『クレージー・マギーの伝説』の131~2ページを使った実例の紹介。
 これをする時は、3回読んでいる。まずは、教師が読み聞かせをするだけ。2回目は、教師が読みながら、子どもたちは印をつける。3回目は、各自が考えたことを書き出す。
71 くりかえし読まないと、書き手としての立場に立てない。(最初のうちは、内容を理解しようとして「読み手」でしかあり得ないから。最初に見た文章を「書き手」として読むことは不可能!!) くりかえし読むうちに、内容以外のものが見えるようになる。
 だからこそ、メンター・テキストが大切。内容はすでに知っているもの、という前提。
 自分自身、同じメンター・テキストを繰り返し使うたびに、新しく見えてくるものがある。
 書き終わったら、ボランティアにOHPで説明してもらう。子どもたちは、説明するのも好きだし、他の子のを聞くのも好き。なかなかできない子たちにとっては、教師以外のクラスメートからサポートを得られる貴重な時間。もちろん、参考にするのは大歓迎。


★ 『「読む力」はこうしてつける』の66~8ページを参照。
★★ 同、65~6ページを参照。
★★★ 『「読む力」はこうしてつける』は、これを紹介するために書かれた本です。

2019年8月9日金曜日

学ぶために読むことと書くことを軽視(無視?)している学校


 あなたは、表題に賛同しますか? それとも反対しますか?

  私たちは考えることを通して学びます。その手段として、読んだり、聞いたり、書いたり、見たり、したり(体験したり)します。(他に、考えたり、学んだりするのに効果的な手段はありますか?)
 しかし、学校での授業での中心は、教師ががんばって教科書をカバーすることです。(生徒ががんばって教科書をカバーする、というのは聞いたことがありません! 生徒ががんばりたくなるようなシロモノではないからでしょうか?)結果的に、教師が話すのを聞くか、教師が教科書に書いてあることを違う形で板書したものを見ることが中心になります。(板書したものは、自分のノートに書き写すことがほぼ義務づけられていますが、それに能動的/主体的な部分はほぼゼロですから、価値としてはどんなものがあるのでしょうか? テスト前に暗記して、テストが終わると同時に忘れるぐらいの価値でしょうか?)

 別に、聞いたり、見たり、したり等をおとしめるつもりはまったくありませんが、私たちが学んだり、考える際に読むことと書くことの価値を否定する人はいないと思います。それは、多くの大人が日常生活の中でしていることでもあるからです。(ある意味では、あまりにも当たり前にしているので、気づかないぐらいです!)
 しかし、そのもっとも効果的といえる手段が、学校の中で使われることはあまりないのです。学ぶことに特化した場所である学校や大学が、そんなふうでいいのでしょうか?
 教師ががんばって話したり、書いたりする代わりに、生徒ががんばって話したり、書いたりするだけで、生徒たちの学びの量と質は飛躍的に伸びると思いませんか? 生徒が聞き手にとって面白い話ができるようになるためには、必然的に面白い話を聞いたり、たくさんの本や資料を読んだりすることになります。
 この単純な転換を図ることはできないでしょうか?

 このシンプルな転換をみごとに実現した方法の一つが、ライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップ(以下、WWRWと略す)です。(WWRWを実践する教師は、だからといって、楽をしているわけではありません。自分ががんばって話したり、板書したりする代わりに、カンファランス、ミニ・レッスン、共有の時間等、他のより効果的な方法で生徒たちを支援していますから!)
 そして、WWRWのクラスには、唯一絶対の教科書は存在しません。多様な教材やメンター・テキストのうちの一つとして教科書は存在します。生徒たちは、自分に合った本(書く際には、もっとも参考にしたいメンター・テキスト)を選べる能力を磨く形でWWRWの時間を過ごします。この選書能力は、生涯にわたって読み続ける/書き続けることを考える際に、もっとも役立つ力と言えるかもしれません。

 また、読むときに優れた読み手が当たり前のように使っている「理解のための方法」も大事にされています。それには、読みながら①関連づける(自分と、他の本と、世界で起こっていることと)、②質問する、③イメージを描く、④推測する、⑤何が大切かを見極める、⑥解釈する、⑦自分の読みや理解を修正するなどが含まれています。(これらについて詳しくは、『「読む力」はこうしてつける』と『理解するってどういうこと?』を参照してください。)
 この「理解のための方法」のすばらしさは、読むときだけでなく、聞くときや見るときはもちろん、話すときも、さらには書くときも使えるものです。使った方が、理解や学びの質と量が大きく伸びます。より多くを考えますから。

 これら読み書き能力を国語で練習し続けることは当然なのですが、算数・数学、理科、社会、そして他の教科でも使うことを考えたことはありますか?
 使わないと、かなり貧弱な学びが続いてしまうことを意味しています。

 そして、表題に書いたように、教科書以外の読み物★を大量に読んだり、教科書とは関係のないことを大量に書いたりするようにしないと、学びの楽しさも味わえないと思います。

★残念ながら、教科書を「読み物」と捉えられる人は、百人に一人もいないでしょう。どうがんばっても、誰にとってもあれが進んで読みたいものになることは考えづらいです。
 欧米では、20年近く前から教科書も含めた「テキスト・セット」という考え方が普及し始めています。一つの教材が生徒全員に等しく受け入れられるはずがないからです。多様なニーズと興味関心および読みのレベル等の生徒たちに受け入れられるには、複数のテキストを用意して選んでもらうのが、よりよい学びをつくり出すために欠かせないと判断したからです。これについては、『教育のプロがすすめる選択する学び』と今冬に出版予定の『教科書をハックする』が参考になります。