2021年8月28日土曜日

「伝えたい中身」と「自分のスタイルで伝えること」

  本をお薦めするブックトークはこれまでも授業で導入してきたものの、TEDなどのスピーチやプレゼン動画のお薦めトークは、どうやって行うのがいいのだろうか?と思ったことがきっかけで、最近、TEDトークの実例を挙げながら、TEDトークを上手に行うためのヒントが100以上も書かれている本を読んでいます(How to deliver a TED talkという題名で、Jeremey Donovan著、McGraw Hillより2014年に出版)。「ノンフィクションとフィクションの特徴」とか、「上手なブックトークのコツ」等、読書やブックトークに関わる文献や動画などは、自分の中に多少の蓄積はできてきたものの、TEDトーク(あるいはスピーチやプレゼン)という分野に特化した特徴については、知らないことが多いとも思いました。

 ここ1〜2年、私は以前よりもTEDトークを、より多く、授業で紹介するようになっています。理由は2つあります。

 一つは、私自身、TEDトークを楽しんで視聴していることです。運動や睡眠など、健康に関わる有用な情報を得て実生活に応用することもありますし、全く知らなかった世界についての知識や新たな視点を得ることもあります。時には、ユーモアたっぷりのTEDトークに大笑いすることもあれば、知っている作家や音楽家が登壇していて、彼らの思いがけない一面を学んだりもします。幅広いトピックと多彩なプレゼンの方法に触れられること、そして英語を教えている私には、いろいろな英語が聞けるのも魅力です。

 二つ目は、便利さです。私も遠隔授業の時期を経験し、また、対面の授業でも「紙類を媒介とした感染拡大を防ぐために、ブリント類の配布や提出・回収には十分配慮するように」とのことで、インターネット上で活用できそうなサイトや職場の図書館のeBookを、これまでよりも真剣に探すようになりました。TEDトークは、英語字幕だけでなく、日本語字幕を出せるものも多くあり、すでに大量のトークがあり、日々、増え続けています。動画の数が多すぎて、一見、選択が難しそうですが、多くの人がインターネット上に「私のお薦めTEDトーク」みたいなリストを載せているので、それらを活用することもできます。もちろん、スピーカー、トピック、長さ等々の条件をつけて検索することもできますので、この点も便利です。

 さて、上記の本(How to deliver a TED talk)ですが、序文の最後の方に書かれていた4つのアドバイスは、私がうまく言語化できないまま、引っかかっていたことについて、一つの道筋を示してくれたように思い、印象に残りました。(序文を書いているのは Richard St. Johnという人で、彼はかつて2時間で準備したプレゼンを、TEDが「3分のトーク」を導入し始めた頃に3分に凝縮し、「成功者だけが知る、8つの秘密!」というTEDトークを行った人で、この時の体験も序文に書かれています。)

 Richard St. Johnが序文の最後の方に書いたアドバイス(viiiページ)は、以下のような感じです。

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まず、素晴らしいスピーカーになろうという考えは捨てよう。ステージに上がり、自分の考えを最善を尽くして伝えなさい。話し方が人々に感銘を与えるのではない。感銘を与えるのは、その中身だ。

次に、それぞれには、それぞれのやり方がある。ケン・ロビンソンには彼のスタイルがあるし、私には私のスタイルがある。自分らしく自分であり続け、演台以外で行っているように、コミュニケーションを取ろう。

三点目は、準備した原稿に忠実になろう。何日も、何週間も、時には何ヶ月もスピーチの準備をしてきたのであれば、それを諦めて、その場で即興するのはやめよう。多くのスピーカーがアドリブで始めるのを見てきたが、通常、その部分がトークの最悪の部分になっている。

そして、最後に、ひたすら練習、練習、練習あるのみ。話すことも含めて、上手になるためには、練習しかない。多くの素晴らしいスピーカーにインタビューをしてきたが、誰一人して「生まれながらのスピーカー」はいなかった。みんな、他の誰よりも、練習していたのだ。

(以上、私の拙い、ざっと訳の紹介ですみません。なお、二点めで言及されているケン・ロビンソンのTEDトークは、天文学的な(?)数字の視聴回数を誇る、TEDではよく知られたトークの一つです。)

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 優先順位の問題だけかもしれませんが、上記の一つ目と二つ目、つまり「中身」と「その人らしさ」が確保されたうえで、「上手に行う」ヒントが提供されると、「伝えたいことがあって、よく伝わるように工夫したいから、応用できそうなヒントはどれだろうか?」となります。

 ブックトークにしろ、お薦めプレゼンのトークにしろ、紹介をするための「お手本」を私はついつい提示したくなります。ごく短く紹介するにしても、何も指示やサポートをしないと、経験上、あらすじや概要を説明して終了というパターンが多いからです。でも、この優先順位の最初の部分、つまり「伝えたい中身」と「自分のスタイルで伝える」がないと、「お手本」が達成目標や評価基準になってしまう可能性もあります。

 ブックトークにしろ、お薦めのプレゼンのトークにしろ、うまく行かない時は、私は短絡的に「形」に関わるヒントを、提示したくなります。でも、伝えたい中身(ぜひお薦めしたい本、ぜひお薦めしたいTEDトーク等)が培えているのか、そして、それをうまく伝える方法は一つではないことに目を向けていければと思います。「お薦め」をする目的は、次に読みたい(視聴したい)ものを知る、と言うシンプルなものにするのも、その一助になるのかもしれません。


2021年8月21日土曜日

アナ―キック・エンパシー

  以前にも引用したことのある部分ですが、『理解するってどういうこと?』の第9章には、ロバート・コールズの『ルビー・ブリッジス物語』(未邦訳)のヒロインであるルビー(黒人で初めて白人の学校に登校した女の子)をめぐる次のような一節があります。

 「ルビーがただ黒人だというだけで、彼女の周りの人たちは彼女を嫌っていたと僕は思うよ。」

 待てと、私は自分に言い聞かせました。自分がいま話してはならないのです。

「ルビーにとっては、僕は未来に生きているんだけど、僕のお兄さんのようなよく知っている誰かは、ルビーの感じたことがわかるって思う。白人たちがルビーのことを嫌っているみたいなことね、時々黒人はまだ、うーん、よくわかんないけど、白人がね僕たちのような人みんなを、好きかどうか、うーん、ほんとに好きかどうか? 先生は?」

 私にはわかりません。わかりっこないのです。一人の白人として、私にはぜったいにわかりません。私は心が張り裂けそうなのですが、これは私には理解不能な領域の共感なのです。私が共感したいと思ってみても、彼らが何を感じているのかと想像しようと努力してみても、レイモンドやデヴォンテやサマンサと同じように深く理解することはけっしてできないのです。(『理解するってどういうこと?』354355ページ)

  「理解不能な領域の共感」とはどういうものなのでしょうか。それをわかりやすくあらわす言葉が、この直後にこの男の子に対するエリンさんの返事としてあらわれます。

 「デヴォンテ、私にはわかりっこないのよ、完全に共感することはけっしてできないの」と彼に言いました。「でも、どれほどあなたがたが共感したのかということは、この心で感じることができるの。」(『理解するってどうこうこと?』355ページ)

  「彼らが何を感じているのかと想像しようと努力してみても」「わかりっこない」が、そのひとたちが共感した行為の強さや意味については「心で感じる」ことができると言っているわけです。エリンさんの「心が張り裂けそう」と言っていますが、私にはこの「理解不能な領域の共感」こそが最強の「共感」に思われます。

 フレディみかこさんは、近著『他者の靴を履く―アナ―キック・エンパシーのすすめ―』(文藝春秋、20216月)で「エンパシー」(『理解するってどういうこと?』では「共感」と訳しています)をいくつかのカテゴリーに分けて述べていますが、そのうちの一つ「コグニティヴ・シンパシー」に次のような一節があります。

  つまり、自分を誰かや誰かの状況に投射して理解するのではなく、他者を他者としてそのまま知ろうとすること。自分とは違うもの、自分は受け入れられない性質のものでも、他者として存在を認め、その人のことを想像してみること。他者の臭く汚い靴でも、感情的にならず、理性的に履いてみること。(『他者の靴を履く』31ページ)

  フレディさんによれば「認知的」シンパシーと呼ばれるもので、とくに「想像の正確さ」がこの能力の基準だと言うことです。上の引用のあと彼女は「とはいえ、本当にそんなことはできるのだろうか。しかし、エンパシーが「ablility(能力)」だとすれば、きっとableな人にはできるのだろう」と続けて、一人の歌人のエピソードを取り上げます。

 23歳で獄死した金子文子という歌人のエピソードです。短い生涯のなかで激しく強く生きたひとのようですが、フレディさんが取り上げる彼女の歌のなかに、囚人の立場から「女看守」が食事に「めざし」をあぶっている姿を描きながら、その暮らしが「楽にはあるまじ」(きっと楽であろうはずがない)と詠んだものがあります。これはとてもできないはずのことです(「わかりっこない」ですが、金子文子の女看守に向けたまなざしの強さを「心で感じる」ことはできます)。フレディさんははじめそれが金子文子の「やさしさ」のゆえだと考えていたそうですが、「後になってこれこそがエンパシーなんじゃないかと考えるようになった」と書いています(そう書いているフレディさん自身のエンパシー能力もきわめて強いと思います)。そして金子文子が「self-governed(自らが自らを統治する)」を目指した生き方をした「自由」な人であり、「世間一般の「belonging(所属)」の感覚」から外れて生きていたがゆえに(「アナーキスト」として生きたがゆえに)、「他者としての存在を認め、その人のことを想像してみること」ができたのだとしています。

 フレディさんはこうした「エンパシー」を「アナ―キック・エンパシー」と名づけています。「他者の靴を履く」ための大切な条件が自己統治と「所属」からの「自由」であるという考えからの命名だと思います。エリンさんの言う「理解不能な領域の共感」もまた「自分とは違うもの、自分は受け入れられない性質のものでも、他者として存在を認め、その人のことを想像してみること」によって可能になるという意味で「アナ―キック・エンパシー」と多くの共通点をもつのではないでしょうか。

2021年8月13日金曜日

WWとRWは、「プロジェクト学習」そのもの!?

 『プロジェクト学習とは』のなかから二つの引用を紹介することによって、ライティングとリーディング・ワークショップ(WWRW)は究極の「プロジェクト学習」であることを示します。

1.

生徒には、各教科内容の知識やスキル★に加えて、①協働すること、②(口頭や書面という言語的な面と、映像などの非言語的な面での)コミュニケーション、③クリティカルな思考と④問題解決、⑤プロジェクトの管理と自己管理、⑥創造性と⑦イノベーション(革新性)、そして、⑦人生と世界の課題に取り組むためのエンパワーメントの感覚などといった「成功のためのスキル」★★★が必要とされています。本書で紹介されているプロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL=プロジェクト学習)を経験している生徒たちは、これらのスキルや性質を身につけているということができます」(『プロジェクト学習とは』のiiページより)

★従来の国語の教科書をカバーする一斉授業で、知識とスキルはどの程度子どもたちに定着する形で身についているでしょうか? かなりの部分は、教師が「自分はカバーしました」と言えるだけの教え方にとどまっています。

一般的には「批判的思考」と訳されますが、それが占める割合は四分の一からせいぜい三分の一です。より重要なのは「大切なものとそうでないものを見極める力」です。

★★★あるいは「21世紀スキル」と言われているものです。これらは近年、教科内容の知識やスキルと同じレベルか、それ以上に重要だと言われるようになっています。それらがないと、21世紀を生き抜くことが難しいとされているからです。①~⑦の中で、従来の授業によって、身につけられているスキルや性質はどれでしょうか? (そのいくつかには挑戦できていても、それを評価するところまではいっていないのではないでしょうか? 本書では、それを評価する方法も詳しく紹介されています!http://projectbetterschool.blogspot.com/2021/08/blog-post_8.html

 WWRWは、国語の知識とスキルをほとんどの子どもたちが身につけることはもちろんですが、①~⑦も重視して、常に練習し続けています。

 

2.

プロジェクトが高い質をもつと判断されるために、ある程度当てはまらなければならない「プロジェクト学習」の6つの枠組みに関する基準をご紹介します。

知的な挑戦と成果

 生徒は深く学び、クリティカルに考え、優れたものを目指しています。生徒は、

 ・挑戦的な問いや疑問に対して、長期間にわたって向きあうことができますか?

 ・教科領域や知的分野の中心となる概念、知識、スキルに焦点を当てることができますか?

 ・学習とプロジェクトが成功するために必要な、研究に基づいた指導とサポートを受けることできますか?

 ・最高の質をもっていると言えるような作品を完成させることに全力を尽くすことができますか?

 

本物を扱う

 生徒は、自分たちの文化、生活、将来に関連している、意味のあるプロジェクトに取り組みます。生徒は、

 ・学校外の世界や、個人的な興味・関心につながるような活動ができていますか?

 ・学校外の世界で使われているツール、科学技術、デジタル技術を使うことができますか?

 ・プロジェクトのテーマ、活動、成果物について、選択する権利をもっていますか?

 

成果物を公にする

 生徒の成果物は公開され、議論の対象となり、批評されることになります。生徒は、

 ・自分の成果物を展示できる場があり、教室を超えて、仲間や見てくれる人に対して学習内容を発表できていますか?

 ・成果物を見てくれる人からフィードバックを受けたり、直接対話に参加したりしていますか?

 

協働すること

 生徒は、対面またはオンラインでほかの生徒と協力したり、大人のメンターや専門家からアドバイスを受けたりします。生徒は、

 ・複雑な課題を完了するために、チームで活動をしていますか?

 ・効果的なチームのメンバーやリーダーになるための学びを行っていますか?

 ・大人のメンター、専門家、地域の住民や企業や組織との連携方法について学んでいますか?

 

プロジェクト・マネジメント

 生徒は、プロジェクトの開始から完了まで、効果的に進めるためのプロセスに則っています。生徒は、

 ・多段階のプロジェクトを通して、自分自身とチームを効率的かつ効果的にコントロールすることができますか?

 ・プロジェクトをコントロールするプロセス、ツール、方法を使用することを学んでいますか?

 ・デザイン思考★の視点とプロセスを適切に使用していますか?

授業でデザイン思考がどう活用できるかについては、『あなたの授業が子どもと世界を変える』(とくに第7章)をご覧ください。

 

振り返り

 生徒は、プロジェクトを通して自分の成果物と学習を振り返ることになります。生徒は、

 ・自分自身やほかの生徒の成果物を評価し、改善点を提案することを学べていますか?

 ・学んでいる教科領域の知識、概念、成功するためのスキルについて考えたり、書いたり、話し合ったりしていますか?

 ・自分自身の主体性を高めるためのツールとして、振り返りを行うことを位置づけ、それを使うことができていますか? (以上、『プロジェクト学習とは』のviiixiページより)


〇以上の「6つの枠組み」★★とそれらを可能にするために生徒が実際にしているかを問う質問を読んで、どのような感想をもたれましたか?

〇あなたの授業で、どのくらいが満たせていますか?

〇すでにWWRWに取り組んでいる方は、どのくらい満たせていますか?

 

 ある程度WWRWに精通した教師なら、これらの質問はほぼすべて満たせています。

 まだ実践に踏み切れていない方は、この本(『プロジェクト学習とは』)やhttps://sites.google.com/site/writingworkshopjp/teachers/osusume から興味をもった本を読んでいただき、9月からぜひ実践をスタートさせてください。

今回紹介したことは、同僚や管理職を説得する際の材料として使えるのではないでしょうか。

 

★★この「6つの枠組み」はプロジェクト学習用に考え出されましたが、WWRWはプロジェクト学習として開発されたわけではありませんから、「いい授業がもっている6つの枠組み」としても使えそうです。

 

 

2021年8月7日土曜日

「学習環境」という優秀な教師〜『社会科ワークショップ』のオンライン試読版、第9章「もうひとりの教師――学習環境」を読んで考えたこと

 7月2日の投稿で紹介されていた『社会科ワークショップ』が届きました。(https://wwletter.blogspot.com/2021/07/blog-post.html)

 本を開くと、「目次」に続いて「お断り」というページがありました。「お断り」によると、二つの章を断腸の思いで、今回出版された本より削除したこと、そして、その二つの章を本の目次に残し、その内容を著者の一人、冨田先生のブログ(http://tommyidearoom.com/)にて公開していることが記されています。

 冨田先生のブログにアクセスすると、「試読版」として「第9章 もうひとりの教師――学習環境」と「第13章 生活科ワークショップで学習をつくりだす子どもを育てる」がダウンロードできるようになっていました。

 「こちらは『社会科ワークショップ』をご購入でない方にも、試読版としてもお読みいただけます。ぜひお読みいただき、ご感想などをいただけると幸いです」と、本を購入していない方にも開かれたものとなっています。

 読む順序が逆かもしれませんが、冨田先生のブログにあった試読版「もうひとりの教師――学習環境」という章の題名に惹かれて、この章を最初に読みました。(他の章については、まだ読み始めたところです。)

 さて、試読版「第9章 もうひとりの教師――学習環境」の冒頭は次のような文章でスタートしています。

「学習環境は、まさにもう一人の優秀な教師と言えます。 教師があくせくと動き回ってグループごとにカンファランスしている一方で、学習環境という教師は一人ひとり子どもたちを迎え入れ、子どもたちのニーズに応じて、必要な支援が得られるように取り計らってくれます。しかも、お節介な教師のように、丁寧すぎる対応や嫌味を含んだ助言はしません。 嫌な顔一つ見せずに、何度でも、何人でも対応しています」

 学習環境という教師を活用しないと、どうなるのでしょうか。『社会科ワークショップ』著者の一人、冨田先生は、「かつての私のように、学習環境に頼ることのできない熱心な教師は、学習に必要なことはすべて教師から発せられるものである」と考えがちであることを指摘し、「そのため、全体指導の時間が増え、言葉も多くなりました」と振り返っています。

 私は、小学校で教えたことがなく、社会科や生活科の授業がどのように進むのかについても、ほとんど何も知りません。しかし、学習環境にうまく頼れず、そのために全体指導の時間が増え、一人ひとりを個として捉えられないという自分の課題について、改善のヒントを得たいと思いながら読み、今回、以下の二つのことを考えました。

1)『社会科ワークショップ』9章には、「学習環境を育てる」という題名のセクションもあり、面白いなと思いました。学習環境を「育てて」いくことも必要、そして育てる中で、教師も成長すると思います。ある意味、「学習環境という教師」と、「私という教師」は、お互いに切磋琢磨?しながら、お互いに成長していく仲間なのかもしれません。ともに成長できるような時間を、新学期の準備のなかに組み込みたいと思いました。

2)学習環境は、「嫌な顔一つ見せずに、何度でも、何人でも対応」してくれる、という点から思い出しのたが、フランク・スミスが書いた本『なぜ、学んだものをすぐに忘れるのだろう?』(大学教育出版、2012年)の中の「何も強制しない著者」という箇所でした。次のように書かれています。

「著者は、どんなに子どもに甘い両親と比較しても、子どもたちや幅広い世代の読者にとって、最も忍耐強い協力者であるといえよう。学習者が17回続けて物語を読みたくても、難しい文章を飛ばしても、頻繁に間違った解釈をしても、ある部分に戻り続けても、著者が決して異議を唱えることはない」(44ページ)。

 『社会科ワークショップ』で描かれる「一人ひとり子どもたちを迎え入れ、子どもたちのニーズに応じて、必要な支援が得られるように取り計らってくれる」学習環境、そして、フランク・スミスが本を「忍耐強い協力者」とみなすこと。これらから、ここ1〜2年、多用されるようになったオンライン上に置かれた教材も、「一人ひとりに対応可能な、忍耐強い協力者」になる可能性もあると思いました。

 とはいえ、オフラインであってもオンラインであっても、その協力者が活躍できていない場面も多々あるように感じます。試聴しなければいけない動画教材が溜まってこれば、それを見るのは苦痛かもしれませんし、あるいは退屈を耐えながら見ているだけ、ということもあるかもしれません。

 ここから思い出しのたが、前回の投稿をお願いした吉沢先生とのメールのやりとりでした。前回の投稿依頼についてのやりとりをしている中で、吉沢先生は、詩が読めない・苦手意識を持っている人がいることに対して、「優れた詩が紹介されていないだけだという気がします」と書いていました。

 詩も、もちろん「忍耐強い協力者」になれる可能性がありますが、優れた詩が紹介されていない/出合っていない人が多い。そう思うと、「学習環境という教師」を育てるだけでなく、その教師を紹介されること、つまりその教師との出合いも必要、ということになります。その出合いは、自分の調べたいテーマや関心の延長線上にあるかもしれません。あるいは、自分にフィットするものに、意図せずに出合う、ということもあるかもしれません。

「もし、読むことが好きでないなら、ぴったりの本に出合っていないということです」と、J.K.ローリングも言っています★。("If you don’t like to read, you haven’t found the right book.")

→ 試読版「第9章 もうひとりの教師――学習環境」は、この夏、「学習環境という教師」とお互いが成長できるように切磋琢磨する時間、そして、どうやって出合えるスペースや時間を組み込むのかを考える、こういう方向性を私に示してくれたように思います。

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★ Reading Rockets という英語のサイトがあります(https://www.readingrockets.org/)。主に子どもたちを教える教師むけに、読むことに関わるいろいろな情報を提供してくれているサイトです。ここに引用を集めたページもあり、ローリングの言葉もそこにありました(https://www.readingrockets.org/books/fun/quotable)。 

このサイトには、100名以上の児童文学や絵本作家/イラストレーターへのインタビューの動画(しかも書き起こし文付き)などもあり、100名以上の児童文学や絵本作家/イラストレーターへのインタビューは、私のお気に入りの一つです(https://www.readingrockets.org/books/interviews)。