2月23日の投稿に引き続き、書き手の目で読むというトピックについて、今回は、メンター・テキストから考えます。メンター・テキストというと、私はすぐに「美味しい食事を味わうことなく、名シェフになりたいと思うでしょうか」(『ライティング・ワークショップ』フレッチャー&ポータルピ、2007年, 95ページ)という文を思い出します。メンター・テキストを活用するためには「美味しい食事を味わう」ことだけでなく、「どうやって調理しているのだろうと考えて、それをうまく活用する」ことも必要です。特に後者については、「自分の下書きに欠けているもの」を自覚することが前提にあると思います。そう思うと、「書き始める前」と「書いている間」で、メンター・テキストへのアプローチも少し変わってくるのかなと思い始めています。
1)下書きを書き始める前に使う
下書きを書く前に「見本になりそうなもの」を探すことは、私も日常生活で時々行なっています。例えば冠婚葬祭に関わるお知らせや手紙など、頻繁には書かないタイプの文章を書くときは、検索をすれば、サンプルになりそうなものが見つかります。でも、これは「メンター・テキストを探す」というよりは、「どういう情報を入れる必要があるのかを知る」とか「失礼にならないように注意する」というレベルの検索です。私は多くの場合、それ以上の努力はあまりしていないように思います。
今、読んでいる『Writing Clubs』という本の中で、ある先生が親しい友人の高校3年生の子どもに向けて「卒業に向けての手紙」(graduation letter)(★2)を書くように依頼されるというエピソードが紹介されています。先生はすぐに快諾したものの、「卒業に向けての手紙」(graduation letter)とはどういうものかや何が期待されているのかがよくわかりませんでした。
先生は、早速それについて調べてみます。すると、卒業していく生徒がこれまでの成長の過程に思いを馳せ、かつ今度に向けてのアドバイスも得られるような手紙であること、また、友人や家族が、いろいろな人に手紙を書いてくれるように依頼し、集まった手紙を束ねて、卒業していく生徒が集まる朝食会の日の朝にプレゼントする、というようなもののようです。
ここまでわかればなんとか対応できそうですし、私であれば、このタイミングで書き始めて、それで完成させて終わりになりそうな気がします。しかし、この先生は、メンター・テキストになるような優れたものをいくつも探します。そして、幾つも優れたものに触れてから、書き始めています。
以下の「2)書いている段階・推敲の段階で使う」と関わりますが、最初の段階で幾つも優れたものに触れているので、「2)書いている段階・推敲の段階でメンター・テキストを使う」ことがスムーズにできているように思います。
2)書いている段階・推敲の段階で使う
上記の先生は、下書きを書き始める前の段階で見つけたメンター・テキストの中でも特にお気に入りになった幾つかに、書いている段階で、何度も戻ります。
書いている段階・推敲の段階で使う時は、「美味しさ」の秘訣を解明し、自分に使える技がないかに焦点が移ります。この先生は、構成の仕方がとりわけいいと思ったテキストを参考にして自分の手紙を構成したり、ユーモアやエピソードの使い方を学んだりしながら、自分の手紙を仕上げていきます。
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「要求されている内容がわかった段階で書く」ことと「そのジャンルでの秀逸なものに触れてから書く」ことの差は大きいと思います。子どもも大人もあまり余裕なないので、前者で終わることも多そうです。前者だけで「合格点をクリアする」とか「無難なものを書く」ことはできそうですし、もちろん、これ自体、必要なスキルだと思います。
でも、メンター・テキストを「活用する」ことを考えるのであれば、もう一手間かけて、そのジャンルでの秀逸なものに触れる(=美味しい食事を味わう)ことが必須となりそうです。これは、下書きを書き始める前の段階から、できることです。
そして書き始めてからもメンター・テキストは必要です。それは書き始めてみないと、自分の下書きに欠けているものがわからないからです。自分の下書きに足りないもの、うまくいっていない箇所がわかれば、「どうやって調理しているのだろうと考えて、それをうまく活用する」段階がスタートできます。焦点も、自分の出合ったお気に入りのメンター・テキストではどのような工夫がされているのか、自分が使えることがないのかを見つけることに移ります。
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『Writing Clubs』の中では、書いている段階・推敲の段階でメンター・テキストを小グループで学ぶ例が出てきています。著者たちは、子どもたちの自己評価というプロセスも経て、子どもたちが必要としていることを理解してから、メンター・テキストの導入を計画・実行しています。こちらの具体的な方法については、また日を改めて紹介できればと思います。
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(★1)著者はLisa EickholdtとPatricia Vitale-Reilly、Stenhouse より2022年に出版。
(★2)上記の先生のエピソードは67-68ページに書かれています。
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