ライティング・ワークショップのカンファランスや評価などの本でよく知られているアンダーソン氏(Carl Anderson)が、昨年出版したメンター・テキストについての本『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』(★1)を見ていると、絵本や詩などの短いテキストは、以下のように多くの場面、方法で使えることがわかります。
1) 下書きを書く前の段階から、下書き、推敲、校正、出版の、どの段階でも使える。
3) 直接的に教える形でも、生徒が探求して見つけていく形でも使える。
1) 下書きを書く前の段階から、下書き、推敲、校正、出版まで、どの段階でも使える。
下書きを書く前の段階では、何を書くのかという題材探しのヒントで使うこともできます(『作家の時間』106ページ, 153-154ページ)(★2)。また、フローチャートやウエビングマップを書いたりする時にも、これまで読んだメンター・テキストを思い出して、作家たちがどんなふうに構成していたかなどを考えることもあります。(『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』9ページ)
下書きを書き進めるにつれ、子どもたちが取り組むことも多岐に渡ります。『作家の時間』(125ページ、表6-1)には、子どもたちが行なった修正例として、以下がリストされています。メンター・テキストの協力を仰げる項目も多そうですから、教師一人で頑張る必要はなさそうです。
表6−1 子どもたちが行なった修正例
・ 常体と敬体を効果的に使い分ける
・ インタビューを入れて構成し直す
・ ユーモア仕立てにする
・ 並び替える(切って移動する)
・ 話の順序を変える
・ 書き出しを変える
・ 書きき終わり方を変える(意外な結末、情景、書き出しとセット、先が気になるようになど)
・ 削除する(不必要な箇所を削除する)
・ 題名を変える(読みたくなるような題名に)
・ 視点を変える(他の人や他の物も視点や立場で書く)
・ 章立てを使う
・ 比喩を使う
・ 一部に焦点をあてる
・ 擬音語、擬態語を入れる
・ 会話文を使う
・ 段落に分けて小見出しをつける
校正や出版の段階で、メンター・テキストを使うことは、私はこれまで、あまり考えたことがありませんでした。
アンダーソン氏によると、校正の時にメンター・テキストがあれば、言語事項の確認を、「実物」を参照しつつ行えます。また出版時にレイアウトを決める時にも、同じようなテキストを書いたメンターたちのレイアウトなどが参考になります(『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』 9ページ)。
2) ミニ・レッスンでもカンファランスでも使える。
絵本などを「メンター」として、そこから書き手ができることを学ぶことは、ライティング・ワークショップの定番ミニ・レッスンの一つのように思います。「題名」「始め方」「終わり方」「話者を誰にするのか」「フラッシュバック」「比喩や象徴の使い方」など、少し考えるだけでも、次から次へと、ミニ・レッスンのトピックが浮かびます。ミニ・レッスン集も、英語圏では何冊も出版されていますが、そのトピックにあった絵本や詩とともに紹介されていることも多いです(★3)。
また、1冊の絵本から学べるポイントは複数ありますから、1冊の絵本を複数のミニ・レッスンでも使えます。ストーリーがすでにわかっている方が、子どもたちも安心して、書き手が行なっていることを学べますから、読み聞かせで使った絵本を使うことも、同じ絵本を違うミニ・レッスンで使うこともお薦めです。
絵本や短いテキストはカンファランスでも重宝しそうです。なにしろ、メンター・テキストは「優れたテキストで、生徒がそれぞれに書いているものを、どうやって上手く書くのか、また、言語事項をどうやって使うのかを、わかるように助け」てくれるからです(『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』2ページ)。
個別カンファランスの場合、その特定の子どもの取り組み中の作品と、その子がもう少しの助けがあるとできることを考慮しながら、その子だけのメンターを選ぶこともできます。
3) 直接的に教える形でも、生徒が探求して見つけていく形でも使える。
直接的に教えるというのは、「教えるポイントを言語化し、その重要性を伝え、メンター・テキストで例を示し、それを読み上げ、著者がそれをどのように使っているのかを示し、生徒がどのようにトライできるのかを説明する」という手順です。(『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』104ページ)
この方法の場合「ミニ・レッスン」を比較的短い時間に収めやすいかと思います。
しかしながら、ミニ・レッスンを対話的に行い、生徒自ら気づくことを推奨する場合もあります。この「探求的に教える」場合、教師との対話を通して、生徒たちは「書き手の目で読む」練習ができます。例えば、今日は「書き出し」について学ぶので、著者が書き手として行なっていることに注目して、教師が提示するメンター・テキストから、書き出しについて気付いたことを話そうというようなやり方です。(『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』106-107ページ)
上記では、教師が「書き出し」に限定していますが、生徒たちが自らポイントを決めていくことも可能です。
2023年5月27日の投稿でも触れた『Writing Clubs』(★4)では、生徒たちが自分たちの好きな作家をメンターとして、小グループで学ぶ例が紹介されています。選択した作家の作品を複数読み、その作家から、書き手ができることを、生徒たちが見つけていきます。その作家が行なっていることに、「気づく」「名前をつける」「なぜ、その作家(メンター)がそれを使っているのかを考えてメモをする」「自分の書くことにトライしてみる」(『Writing Clubs』135ページ)という練習です。
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絵本や詩などは、メンター・テキストとしていろいろ活用できそうですが、「メンター・テキストの蓄積をするために、頑張って探そう!」と思わない方がいいかもしれません。むしろ、自分が大好きな絵本や詩について、時折、「どうして、私はこの絵本や詩が、こんなに好きなんだろう、私を惹きつけるために著者が何をしているのだろう」と考えてみるといいかもしれません。
私が定期的に読んでいる「あすこま」さんのブログに以下の文がありました。
「初めて出会う詩に『これ好き』とつぶやく子たちに、『いいでしょう?世の中にはこんな素敵なものがまだまだあるんだよ』と言ってあげたくなる」
「こんな素敵なもの」に教師が出合うこと、メンター・テキストの蓄積は、それに尽きるように思います。
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★1
Carl Anderson著の『A Teacher's Guide to Mentor Texts, Grades K-5』は、2022年にHeinemannより出版。全ページカラー、オンラインのリソースいっぱいの本です。最近の本はこういう「つくり」なんですね…著者もいろいろな本をメンター・テキストにして、この本を作り上げたんだろうと思います。
★2
『作家の時間』はプロジェクト・ワークショップ編で2008年に新評論より出版。「中高の国語」と「高校の英語」を加えた増補版が、2018年に出ています。
★3
例えば、1998年に初版が出て、2007年に第2版が出た 『Craft Lessons: Teaching Writing K-8』(Second Edition)。著者は『ライティング・ワークショップ』と同じ Ralph J. Fletcher と Joann Portalupi。Stenhouse社より出版。幼稚園から8年生(中学校2年)までを対象としており、ロングセラーのミニ・レッスン集です。
2007年出版ですので、メンター・テキストもやや古い本が多いですが、この本で、複数のミニ・レッスンで紹介されていた絵本や児童向けの本としては、『ゆうかんなアイリーン』(らんか社、2021年)、『むこうがわのあのこ』 (光村教育図書、2010年)、『スモーキーナイト』(岩崎書店、2002年)、『月夜のみみずく』 (偕成社、1989)、『のっぽのサラ』(徳間書店、2003年)、『穴』(講談社文庫、2006年)、『だめよ、デイビッド』 (評論社、2001年)などがあります。
★4
『Writing Clubs』著者はLisa EickholdtとPatricia Vitale-Reilly、Stenhouse より2022年に出版。125-147ページに、一人の作家について協働で学ぶことが詳しく説明されています。
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