2025年8月22日金曜日

効果的なフィードバックのコツ ~ 生徒が伸び、教師も疲れない

  成績づけ/評価をすることは、教師にとって大きなストレスの種。でも朗報があります。生徒の学びにとって本当に効果的なのは、「点数」ではなく、「的を絞ったフィードバック」。しかもそれは、私たち教師の時間とエネルギーも節約してくれるのです。

 と書くのは、教職に就いて10年以上は中学校の英語教師を務め、最近高校の英語教師に転身したCathleen Beachboard先生です。彼女は、教師であると同時に、著者であり研究者でもありますが、極度の虐待とネグレクト(育児放棄)のケースから5人の子どもを養子に迎えた経験をもとに、トラウマや不安を抱える人々の支援を改善することにも情熱を注いでいます。

あまり語られませんが、「成績をつける(評価をする/生徒にフィードバックをする)」という作業は、知らず知らずのうちに教えることへの情熱をすり減らしてしまうことがあります。夜遅くまでの作業。終わることのない作文の山。一生懸命書いたコメントが、授業の終わりには丸められてゴミ箱に入っているのを見たことはありませんか?

でも、救いはあります。研究によれば、もっと賢いやり方があるのです。

ジョン・ハッティとヘレン・ティンパーリーの「The Power of Feedback」というタイトルの研究★によると、すべてのフィードバックが学びにつながるわけではありません。成長を促すフィードバックには、タイミングがよく、具体的で、課題そのものに焦点を当てていることが必要です——個人ではなく課題に、です。
 ただし、たとえその条件をすべて満たしていたとしても、実はもうひとつ問題があります。それは、人間の脳が一度に処理できる情報には限りがあるということです。

 それが、生徒の作文に教師が一日がかりで添削して、たくさんのフィードバックをしても効果がない理由です。わずか数ページ(あるいは一枚)の作文に10~20のコメントを書き込んでも、生徒が受け取るメッセージは「あなたの作文はダメです」「直すところが多すぎます」であり、結果的に「やっぱり自分は作文はダメ/嫌いなんだ!」だけです。しかし、ライティング・ワークショップ(作家の時間)のときのように、やり取りする数を一つか二つに限定して(それも、作品をよくするためではなく、書き手を育てることに焦点を当てた)フィードバックをすることで、生徒は書く気を保ったり、新たな挑戦をする可能性が開けます。★★

 つまり、見直すべきなのは「評価の仕方/成績のつけ方」だけではありません。「フィードバックの伝え方(見取りの仕方)」そのものにも意図的な変化が必要なのです。★★
 ここでは、私が「より苦労せず、より効果的に」評価する方法をどう身につけてきたか、そして、どんな小さな工夫が、生徒の成長にも私自身の心のゆとりにも大きな変化をもたらしたかをご紹介します。

1. 点数の行進をやめて、「シングルポイント・ルーブリック」を使う

教師になったばかりの頃、私のルーブリックはまるで税金の申告書みたいでした。細かい文字、分かりにくい評価項目、そして数字のオンパレード。生徒たちはほとんど目を通していませんでしたし、正直、それも無理はないと思います。

今では「シングルポイント・ルーブリック(single-point rubric)」を使っています。もう元には戻れません。この簡潔な形式では、「何ができていれば合格(成功)なのか」だけを明確に示します。数字であれこれ示すのではなく、成功のイメージを共有するのです。期待を上回る出来ばえなら「どこがよかったか」を書き添え、基準に届かなかった場合は「どこを直すべきか」を伝えます。

ここで認知科学の視点から見た利点もひとつ:
フィードバックを「ひとつの明確な目標」に絞ることで、生徒のワーキングメモリ(作業記憶)に合った学びが可能になります。6つの評価基準を同時に意識させるよりも、生徒は本当に大事な部分に集中できます。そして私たち教師にとっても、時間とエネルギーの節約になります。

実践する際のヒント:

白紙のドキュメントかスプレッドシートを開いて、3列作ってみてください。真ん中の列に「成功の基準(Success Criteria)」と書き、目標を明確かつ生徒にわかる言葉で書きます。左右の列には「期待以上(Exceeds Expectations)」と「改善が必要(Needs Improvement)」という見出しをつけ、それぞれコメントを書き込めるようにします

◆ これだけでは、「シングルポイント・ルーブリック(single-point rubric)」が実際にどんなふうに見えるかをイメージしにくいかと思うので、実際の事例を下に示します。

テーブル

AI 生成コンテンツは誤りを含む可能性があります。

 これは書くプロセスの5つの基準(計画、修正、編集、推敲、新しいアプローチに挑戦)について、左右に改善が必要な点とすでに強みと言える点を書き込めるようになっています。

 それに対して、従来の「マルチポイント・ルーブリック(multi-point rubric)」の例としては、下をご覧ください。

グラフィカル ユーザー インターフェイス, テーブル

AI 生成コンテンツは誤りを含む可能性があります。

テーブル

AI 生成コンテンツは誤りを含む可能性があります。

 こちらでは、それぞれの基準に対して5つの段階の詳しい説明が書かれています。生徒は、一つの段階から一つ上(ないし二つ上)の段階を目指せることが意図ではあるのですが、実際にはその教師の意図がくめる生徒はそう多くないのが現実です。それで、最近はこの作成するにも時間のかかるマルチポイント・ルーブリックよりも、時間がかからないで作れ、かつ的を射たフィードバックが可能なシングルポイント・ルーブリックがより頻繁に使われるようになっています(https://www.edutopia.org/article/6-reasons-try-single-point-rubric を参照)。 なお、見本として示した2つのルーブリックの出典は、10月ないし11月に出版予定の『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化)の190~193ページに、その訳が出ます。(それまで待てない方は、生成AIを使って暫定的な訳をご覧ください。)

◆ 皆さんは、シングルポイント・ルーブリックとマルチポイント・ルーブリックのままではわかりづらいと思ったので、生成AIに助けを求めたら、Single-point rubricは、単一基準ないし単一点ルーブリック、Multi-point rubricは、複数基準ないし複数点ルーブリックを提示してくれました。これで、わかりますか? 私はわかりづらいと思ったので、逆提案してみました。

前者は、評価する基準は複数ありながら、各基準の段階は「到達すべき目標」が一つ示されているだけなのに対して、後者はたとえば、未達、部分的に達成、おおむね達成、完全に達成などの段階にわけて、それぞれの段階の達成状況が示されているルーブリックなので、単一到達段階ルーブリック と 複数到達段階ルーブリックでどうでしょうか、と。

 これには生成AI君も賛成してくれました。皆さんも、わかりやすい名称を模索してください。

 説明が長くなりましたが、2番目のポイントに移ります。

 

2. 生徒が前に進めるフィードバックを、少しずつ、確実に

フィードバックをするとき、私は「一度にすべて直そう」とはしません。ハッティとティンパーリーの研究も、それを裏づけています。
 間違いをあれこれ一気に指摘してしまうと、生徒のやる気をそぎ、結果的にどのフィードバックも活かされなくなってしまうのです。

そのかわりに私は、まず「今いちばんのつまずき」に注目します。基準に届かない最大の原因は何か?たとえば、根拠が弱いのか、構成がずれているのか。そのポイントに集中して伝えるようにしています。

でも、フィードバックは「欠点を直す」だけのものではありません。

動機づけの研究者キャロル・ドゥエックらの研究によれば、生徒は「改善点」とともに「強み」も示されたときの方が、フィードバックに前向きに取り組めるそうです。
 だから私は必ず、たとえ小さくても「うまくできていること」を見つけて伝えるようにしています。努力でも創意工夫でも、いい書き出しでも――「ここ、いいね」と伝えることで、生徒は「見てもらえている」と感じるのです。

実践する際のヒント

    まずは本気のポジティブから始めよう
 改善点を伝える前に、「ここがいいね」と思える具体的なポイントを見つけて伝える。
 これは、生徒の心を開き、「あなたにはできる」というメッセージを届けるため。

 例:
 - 努力:「考えをまとめるのに、すごく時間をかけたのが伝わってきます」
 - 思考:「主張が明確で、筋が通っています」
 - 成長:「前の下書きと比べて、根拠の示し方がずっとよくなっています」

  改善点は、12個までにしぼって明確に
 前向きなコメントのあとで、「ここをよくすれば、もっとよくなる」という点を12個にしぼって具体的に伝える。

 例: 「主張をもっと強めるには、具体的な例を増やして、それがどう関係するのかも説明するといいかもしれません」

    最後はこれからにつながる声かけで締めくくる:
ドゥエックの研究が示すように、生徒に「成長できる」と思わせる言葉が大切。

 例:
 - 「すでにいい方向に進んでるよ。この一歩で、もっと完成に近づくね」
 - 「今の努力の積み重ねが、書く力を伸ばしてくれる。ぜひ挑戦し続けて!」

 今回の紹介はここで終わりにしますが、原文では、あと2つの実践例を紹介してくれています。最後に、以下のようにまとめてくれています。

 

成長を後押しし、脳にもやさしいフィードバック

成績づけ(評価)は、あなたの夜やエネルギーを奪うものである必要はありません。

タイミングがよく、具体的で、脳が処理しやすいフィードバックに焦点を当てることで、私たちは「学びを止めるフィードバック」ではなく、「学びを促進するフィードバック」があふれる教室をつくることができます。

それは「基準を下げる」ことを意味するわけではありません。本当に意味のある成長を促すには、脳のはたらきに沿った、より賢い仕組みが必要なのです。生徒にとっても、そして私たち教師自身にとっても。

なぜなら、最終的に私たちの影響力を決めるのは、費やした採点時間ではなく、生徒に届けるフィードバックの「明確さ」「思いやり」、そして「脳にやさしい方向づけ」だからです。それなら、もっと賢くやっていきましょう。やる価値は、十分あります。

 

★興味のある方は、https://simvilledev.ku.edu/sites/default/files/PD%20Resources/Hattie%20power%20of%20feedback%5B1%5D.pdf で読めますが、かなり専門的な内容です! このテーマでは、『教育の効果 フィードバック編』 ハッティ,ジョン/クラーク,シャーリー著、法律文化社が出ていますが、これも結構専門性の高い本という匂いがします。(そもそも、筆者のCathleen Beachboard先生は、先に出ている本のこちらではなく、一般の教師には入手しにくい論文の方を引用しているの? という疑問もわいてしまいますし!)

★★ まさに、文科省が25年ぐらい前に言いだして、いまだに実体のない「指導と評価の一体化」の具体的な中身について書いてくれています! 教師が教えつつ、それが生徒の学びや成長に寄与する評価(というよりも、生徒にとって意味があり、かる活かせるフィードバック)を実現することですから。言い換えると、評価が、生徒がよりよく学べるように教師の教え方の変更を迫ってそれを実現するものになることが「指導と評価の一体化」が本来言わんとしていることなのですが、言い出した当事者たちも、いまだにそのことをイメージがつかめていない(というか理解できていない)と思います。「指導と評価の一体化」の要は、フィードバックであることは間違いありません! それも、教師から生徒への一方的なものではなく、生徒から教師へや、生徒相互のフィードバック(さらには、今のICTの時代では、教室外の多様な人たちのフィードバックまで)が同じレベルで価値あるものと捉えられる必要があります! 

出典・https://www.edutopia.org/article/effective-feedback-saves-teachers-time

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