2025年8月8日金曜日

生徒の文章にポジティブなフィードバックをするには

「添削は細かく丁寧にしているのに、ほめ言葉はざっくり短くなりがちそんなあなたに、全米の教師たちからのアドバイスを紹介します」と、バーモント州バーリントン近郊にある小規模なオルタナティブなセラピーハイスクールで校長を務めた経験があり、現在はコミュニティー・カレッジの教師をしているアレックス・シェヴリン・ヴェネットさんは書いています。そして、さらに次のようにも。

「よくできました」「すばらしい」「この一文、力強いね」——こうしたあいまいで効果の薄いコメントが、最近の私の文章指導のフィードバックにまぎれ込んでいました。生徒にはあまり響かないとわかっていながらも、つい書いてしまうのです。そんな自分を画面越しに見ながら、「このままじゃいけない」と感じていました。
 一方で、改善点については長々と細かく書いていました。提案や修正のコメントばかりが目立っていたのです。生徒の文章を正すことにばかり意識が向いていて、「中身のあるポジティブなフィードバックを伝える」という、本来の目的が置き去りになっていたことに気づいたのです。

 書き手である私自身(2冊の本を書いています!)、ネガティブなフィードバックばかりが目立つと、どれだけしんどいかよくわかっています。誰にでも改善すべき点はあるけれど、直すべきところばかりに目が向くと、自分の力をちゃんと認めてもらえているとは感じられなくなってしまいます。
 私の生徒たちは、本当に一生懸命に文章を書いています。だからこそ、「よくできました」といった二語だけのほめ言葉では、とても足りないのです。

 このままではいけないと思い、私は自分がいちばん信頼しているプロフェッショナル・ネットワーク、つまり「教師たちのTwitter」に助けを求めました。
「生徒の文章に対して、あなたがよく使うポジティブなコメントは何ですか?」と問いかけたのです。
 すると、100件を超える返信がすぐにあり、その中には素晴らしいコメントや、いくつかの共通したテーマが見えてきました。

 皆さんは、こういう時にどうしていますか?

 身近な同僚に尋ねる? Twitter以外のSNSを活用して情報収集する? さらには、生成AIに頼る? いずれにしても、ネットワークをもっているか否かは、教師の実践に大きく作用することは確かです。(生成AIに関しては、個別の声は紹介してくれず、あくまでも「たくさんのなかの最も頻度の多いもの」を紹介してくれていると思うので、その特性をわきまえた使い方や判断の仕方が寛容かと思います。)

 以下で紹介されているのは、それらのなかから彼女が選りすぐったものです。

 

あなたが書いたものを読んでいるときの「読み手としての体験」を伝える

生徒は、自分の文章を読んでいるときの教師の様子を見ることができません。だからこそ、教師が「読み手としてどんなふうに感じたか/考えたか」を伝えるコメントは、とても力強くて前向きなものになります。
 教師のAmy Ludwig Van Derwaterさんは、次のようなコメントの書き出しを紹介しながら説明してくれました。

「書き方のスキルについて触れる前に、まず読みながらどんな体験をしたかを伝えることは、生徒への大切な贈り物のようなものです。」

 そして、具体的に次のような文章を紹介してくれています。

   この部分には本当に心を動かされました。

   この一文を読んで、思わず声を出して笑ってしまいました。

   あなたの文章を読んで、いろいろと考えさせられました。

   あなたの言葉が、私の中の何かをひらいてくれた気がします。

   この部分について、私は自分に問いかけています。

   この部分について、私は自分の経験とつなげて読んでいます。

   この部分と関連した昔のことを思い出しました。

これと似たような観点から、Virginia S. Woodさんはこんなふうに言っています。
「私は生徒に、自分が彼らの文章を読んでいて笑ったり、うなずいたり、ガッツポーズをしたりしたら、どこで/なぜそう感じたのかを必ず伝えます。」

私も最近、Woodさんのアドバイスを参考にして、生徒のプロジェクトの下書きを読んだときにとても楽しく感じたので、こう書きました。
「今、顔が思いきり笑顔になっています。すごくいいスタートですね!」

このように、読み手としての自分の体験を生徒に伝えることは、書くことの中にある「社会的・感情的な側面」との関連を明らかにするのに役立ちます。
 読んで感じたことを前向きなコメントとして伝えることで、生徒は「読み手にどう届くか」を意識して書くようになっていきます。

 

 この最後の点は、とても重要です。逆に言えば、こういうフィードバックがもらえないと、生徒のほとんどは「読み手にどう届くか」を意識できないことを意味します。

 

書き手としての工夫や選択を認める

効果的なフィードバックは、生徒の「書き手としての声」や「表現する力」を尊重することにもつながります。生徒がどんな工夫や選択をして書いているのかに目を向け、それを言葉にして伝えることで、「ちゃんと読んでもらえている」と実感でき、努力が認められていると感じられます。

Joel Garzaさんは、フィードバックの中で「私は〜と思った」という言い方は避けるようにしているそうです。それは、読み手としての感想が中心になってしまい、生徒の書いたものの価値が伝わりにくくなることがあるからです。

代わりに「あなたが〜した」という言い方を勧めています。たとえば、

  • 「〇〇という効果を、〜という工夫でとても自然に出せています」
  • 「このテーマをとてもひきこまれる形で展開していますね。特に〜の使い方が効果的です」
  • 「このトピックにぴったりの語り口(トーン)を選んでいますね。〜だからだと思います」

また、7年生の教師Jennifer Leungさんは、次のような表現で「上手に書けている箇所」を指摘することを提案しています。
「〜(つなぎ言葉、具体例、文法構造など)の使い方が上手です」

このようなコメントは、授業で扱った文法や表現のポイント、書き方のテクニックを定着させることにもつながります。

 ここでも、最後のポイントが大切です。教師の役割は、その文章をほめたり、さらによくしたりするよりも、書き手にいい書き方のテクニックを定着させて、よりよい書き手になってもらうことだからです。

 A Teacher’s Guide to Mentor Texts』の共著者のRebekah O'Dellさんは、フィードバックの中でメンター文(お手本となる文章)を活用する際の例をいくつか紹介しています。

  • 「ここの表現で、〇〇(メンター文)を思い出しました」
  • 「この部分は、〇〇(メンター作家)の書き方に似ていますね」

O'Dellさんのアドバイスは、「読むこと」と「書くこと」のつながりの大切さを改めて思い出させてくれます。これら二つをセットで考えることで、生徒の中に「読みながら学び、書きながら活かす」サイクル(フィードバックループ)をつくることができます。

たとえば、最近の精読(close reading)の活動では、生徒に「このメンター文(日本では教科書教材で扱った文章が中心だが、できるだけ本物を使いたいものです!)から学んだことを、自分の文章にどう活かせそうか」を考えてもらいました。
 生徒が次に書いたものにフィードバックを返すときは、「その学んだことが実際にここに表れているね」と伝えることができます。

 別の教師のGrete Howlandさんは、「評価っぽくならない言葉の選び方」として次のような表現を提案しています。
「私は『効果的ですね』という言葉をよく使います。そして、なぜそう感じたのかをできるだけ具体的に伝えるようにしています。そうすることで、『良い/悪い』のような意味のあいまいな評価から離れることができ、書くことを読み手とのやりとりとして捉えやすくなると思うのです。」

 O'Dellさんの読むことと書くことのつながりはとても大事です。特に、生徒たちが「読みながら学び、書きながら活かす」サイクルをつくり出せれば、読み書きの両方が飛躍的に伸びていくことでしょう。それが、本物の作家やノンフィクション・ライターやジャーナリストたちがしていることですから。

 また、Howlandさんの書くことを読み手とのやりとりとして捉えられたら、書くことが苦痛なものではなく、楽しいものになる可能性は大です!

 

成長をたたえる

ポジティブなフィードバックは、生徒の成長を支える大きな力になります。教師(またクラスメイト)による前向きなコメントは、生徒が「自分は書き手なんだ」という自信と意欲を育てていくうえでの原動力にもなります。

Kelly Frazeeさんは、成長を示す具体的な例を見つけて伝えることをすすめています。たとえば、
「この部分から、〇〇の力が伸びているのが伝わってきます。前回と比べて〜ができるようになっていますね」といったように。

教師は、生徒自身が気づいていない変化や成長を見つけることができます。だからこそ、「ここが前と違っています」と具体的な成長の証拠を示すことで、生徒自身が自分の前進に気づけるようになるのです。

最後に、ミシガン大学の講師Susan Santoneさんの素敵なアイディアをご紹介します。生徒が本当に見事な一文を書いたときには、そのことをしっかり伝えているそうです。Santoneさんはこう言います。
「大学生を教えていて、ものすごく深いことをたった一文で言い表しているのを見つけたら、『ツイートして!』『Tシャツにプリントして!』『額に入れて壁に飾って!』と書きます。つまり、これは取っておいて、誰かに見せる価値があるよって伝えるんです。」

 こういう称えられ方をしたら、誰だってうれしいですよね! 皆さんもほめ上手というよりは、称え上手になりましょう。生徒たちのさらなるやる気を引き出すために。

 以上は、教師による添削ないし対面のカンファランスの形で行われますが、その際の私のおススメは書き手に対する「大切な友だち」という方法でフィードバックすることです。そのやり方は、このブログの姉妹ブログの PLC便りの左上に「大切な友だち」を入力して検索すると、たくさんの情報が得られます。

 

出典: https://www.edutopia.org/article/how-give-positive-feedback-student-writing

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