2019年12月13日金曜日

イギリスにおける詩創作ワークショップ(2)


前回(http://wwletter.blogspot.com/2019/09/blog-post.htmlに引き続き、イギリスのArvon Foundation(アーヴォン・ファンデーション)の詩創作ワークショップについてご紹介します。

               写真① ワークショップの様子。

5日間のコースの中で、初日のウォーミングアップも含めて14種類の書く活動が提供されました★。それらは大きく分けて、次の3つの形で示されていました。
    詩を全員で読み合ってから詩の創作に入るもの
    チューターの出す質問に答えるだけで自然と行と連の形式ができあがるような仕組みになっているもの
    簡単なルールに従いながらことばを操作することで自動的に想像的な世界をうみだすもの
 ここでは、①と③からひとつずつ取り上げてご紹介しようと思います★★。

1 まきもど詩
 書く前に詩を読む場合は、詩の持つアイディアや構造を借りたり、詩の中のことばを入れ替えたりすることが唯一のルールとして示されます。例えばこの「まきもど詩」では、Michael Laskey(マイケル・ラスキー)によるHome Movies(「ホームビデオ」)をまず参加者同士で読み合いました★★★。
 この詩は、〈ビデオの最後のコマまで゙に〉から始まる、あるホームビデオを巻き戻し再生する様子を描いた詩です。ひとり1連ずつ音読した後、「経験を見るひとつの方法」としてのこの詩のアイディアについて、チューターのキャサリンは次のように言いました。
 ・物事が起きている時間の枠にとらわれることなく経験を見る方法を与えてくれるアイディアです。
 ・「巻き戻し」という魔法を使って馴染みのある経験をひっくり返すことは、経験を「異化する」ことを意味します。
 次に、生活の中でどんな瞬間でも良いのでひとつ取り上げて、頭の中で巻き戻しながら書き出してみるという作業に取り組みました。実際の経験でも良いし、完全にフィクションでもかまいません。エクササイズの中で「時間で遊ぶ」という経験ができていることをキャサリンは重要だと言いました。
 水へ飛び込む、パーティー、電車に乗る/降りる、雨が降り始める/止む、雪だるまを作る、…といった日常のシーンを思いつくだけキャサリンは私たちに提供してくれます。そうやってたくさんの例を示しながらチューターも横で一緒にアイディアを試している、というこの時間は、日本の教室では体験したことのないもので、とても印象的でした。
 詩を読み合って思ったことを話し合う時間は約10分、創作アイディアについてのキャサリンの説明はおおよそ4分程度で、それぞれがアイディアを試しながら紙に書く時間が20分ほど。その後、各々が書いた詩を読み合って共有しました。人生全体を巻き戻した参加者もいれば、その日の朝の歯磨きといった一瞬のできごとを巻き戻した人もいました。

2 シフト・ポエム
 まず全員で輪になって座ります。紙を左右に分け、左側の上部に「PARTY(パーティー)」と書きます。そして、「パーティー」と聞いて思い浮かぶものを1つずつ順番に挙げていき、それを上から下のように並べていきます。この時もちろんチューターも参加者と一緒に輪になって座り、思いついたことばを同じように挙げていました。

 今度は右側の上側に「FENERAL(葬式)」と書き、同じように思い浮かぶことを順番にあげて上から下に並べます。先ほどの「パーティー」と合わせて、次のようになりました。全て実際に挙げられたことばです。

 出そろった後は、上の「パーティー」と「葬式」を消して入れ替えます。そうすることで、「パーティー」という文脈の中に「葬式」から連想されることばが置かれ、「葬式」という文脈の中に「パーティー」から連想されることばが置かれます。この文脈の「ずれ」から、発想を転換して物語をうみだそうとするアイディアです。
 つまり、「葬式」から連想されることばを使って「パーティー」の詩を、「パーティー」から連想されることばを使って「葬式」の詩を書くのです。ルールはシンプルです。15個ことばが並んでいるので、1行につき1つのことばを入れながら15行の詩を書く、というだけです。順番も変えてもかまいません。
 「一番好きなことばはどれ?面白いもの、変わったもの、興味深いもの、おかしいもの…傘を開く人々、ダンスフロア…どうしてパーティーで悲しみを感じているんだろう?」と、チューターのキャサリンは書き出しや書く時の例をなるべくあげてヒントとなる声かけをしてくれます。私たち参加者は書きながらそれが耳に入ってくるので、そこから連想したり広げたりすることもできれば、それをそのまま使うことも許され、またそれを全く使わないことも可能です。
この活動で書かれた詩を、詩集Swallow Thisにおさめた参加者の方がいたので、許可を得てご紹介します。

 書いた詩を共有する時、チューターの2人は、「この連が良い」「ここで○○という言葉を使っているのがとても良い」「2行目が好き、もう一度そこを読んでみてくれる?」と、詩の中の〈お気に入り〉をいくつも指摘してくれました。直したいところではなく大事にしたいところを見つけてくれる声かけは、ワークショップの中で次第に参加者同士の交流の中でも広がっていきました。修正点を見つけて指摘したり、改善案を提示するよりもハードルが低い印象があったのも、広がった理由のひとつだったかもしれません。自分が書いたものに〈お気に入り〉を見つけてもらう喜びを共有できることは、お互いに書き手として励まし合う大切な反応の仕方だったと感じます。


★ウォーミングアップの「ことばあわせ」については、日本向けに作り直したワークショップを次の論文で紹介しています。山元隆春・中井悠加(2013)「「詩人の時間」を体験する」『月刊国語教育』No.498
★★ ②の例にあてはまる活動は、前回の記事(http://wwletter.blogspot.com/2019/09/blog-post.htmlの最後に示しした論文の中でひとつ紹介しています。
★★★ 日本語訳はありませんが、次のサイトで全文を読むことができます。何の場面を巻き戻しているのか、読んで考えてみると面白いです。https://www.poetryarchive.org/poem/home-movies

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