2019年12月6日金曜日

公立中学校におけるRWの実践紹介


新潟県の国語教師の吉澤孝子さんが、実践レポートを送ってくれました。実践当時は中学校で、現在は高校で教えています。
先月の佐藤可奈子さんに引き続き、新潟県がリーディング・ワークショップの日本のメッカになりそうです! 

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 この実践は新潟市立早通中学校において、2016年度~2018年度の3年間をかけて行った実践である。
 早通中学校では、「自立した読み手を育てる」ことをめざして、2016年度は集中的に、2017年度からは、週1回国語の授業の中でリーディング・ワークショップ(以下RW)の実践を積み重ねてきた。2016~17年度は、1年生対象に、2018年度は12年生対象に行った。読む練習をするたくさんの時間を確保し、さまざまな活動をすることで生徒たちは何より読むことが好きで、読むことを楽しむようになった。
  1回の RWの授業は、「ミニ・レッスン」→「ひたすら読む」→「共有の時間」という流れで行った。年間を通して、基本的には「自分の選んだ本を読む」が、同じことばかりしているとマンネリ化してしまうので、「絵本の評価」を行う時期(6月~7月)、小説の冒頭やノンフィクションの自分が興味のあるところを3分間読む「おためし読書」に取り組む時期(小説編11月~12月、ノンフィクション編2月~3月)を設定した。
「絵本の評価」で使う絵本や「おためし読書」で使う本は司書による選定なので、生徒からすると自分で選んでいないのであるが、かなり読書家の生徒であっても、自分の読む枠(ジャンル・作家)が決まっている生徒が多く、毎回ライトノベルばかり読んでいる生徒たちに「今まで読んだことのないジャンルにもおもしろい本があるよ」と揺さぶりをかけるねらいがある。実際、「おためし読書」の後に小松左京著『復活の日』や黒柳徹子著『トットちゃんとトットちゃんたち』などが人気になったり、新刊図書やライトノベルの前にいた生徒たちが小説の本棚の前に集まるようになったりと、ちょっとした変化が起こった。さらに、しばらく人が選んだ本を読んでいて、いつもの「自分の選んだ本を読む」時期に戻ると、生徒の読書は加速する。やっぱり自分で選んだ本を読むのがいいと実感するようだ。

 2016年度は研究授業の関係もあり、9月~10月と2月~3月に集中的に行った。中学1年生ということもあり、小学校の「図書の時間」の感覚を取り戻し、生徒たちはあっという間に読書家になった。しかしながら、それが終わると、あっという間に普通の人に戻ってしまった。それを見たときに、継続的にやることの必要性を痛感したのである。
  どんな成果があったのかについて、後半2年の実践から述べていきたい。
まず、読書家になることで、読むことに対する抵抗感はなくなっていき、教科書で扱われている長い小説などもつい読んでしまう生徒が増えたり、教科書の作品をジャンルでとらえて、以前習った説明文と今、習っている説明文を比較してとらえる生徒が出てきたりした。日頃、表紙があり、場合によってはあとがきがあり、奥付を見ている生徒にとっては、教科書の教材は切り取られたコピー数枚といった印象なのだろう。読書家にだれがどこでなるのかというのは、やはりその生徒にとってヒットする本との出会いであるのだなという場面をいくつも見ることができた。また、本との出会いの中で自己に対する気づきが促される場面も多くあった。山田詠美著『僕は勉強ができない』や鴻上尚史著『孤独と不安のレッスン よりよい人生を送るために』を読むことで、自分の勉強に対する苦手意識に気づいたり、コミュニケーションに対するコンプレックスに向き合ったりして、他者の目を通して、自分を肯定的にとらえることのできた生徒もいた。そんなそれぞれの感想を共有する中で、他者への気づきも促され、教科書の小説を読んでいてわからないことがあると、よく読めているあの人ならばわかるはずと聞いている場面もあった。同じ本を読んでも感じ方やとらえ方は違うというそのずれの中で読むことの楽しさに浸るようになった。

 自分にとって「読む力はどうやってつけたらいいのか」というのが、永遠のテーマである。そして、5年前に『「読む力」はこうしてつける』に出会ったときに衝撃を受け、いつかこれをやってみたいと思ったものの、現状の国語の授業に組み込むことは無理だと思っていた。しかしながら、2016年度に早通中学校に転勤し、有志でやったブッククラブに参加していた生徒たちが「読むことが好きでたまらない」「自主的に読んでいる」という「自立した読み手」だったのを見て、とにかく読む練習をするたくさんの時間が必要だと思い、週1回のRWを実施するしかないと見切り発車的にスタートした。それでもやればやるほどRWは奥が深く、生徒たちにとって中学時代にしか手に入れることができない、さまざまな学びを創出していけると感じ、本当にやってよかったと思っている。
さまざまな活動をしていくことでほとんどの生徒が読書家になっていくが、残念ながらそうなっていかない生徒が数人いる。貧しい言語環境で育った子どもの語彙、読解力は学年にして3学年の開きがあるというが、正にそういった生徒は中学校の図書館で自分に合った本を探すことができないのだと思われる。そう考えると
小学校と連携し、どんな本を図書館に入れていくのかを検討していく必要がある。
 現在、私は定時制の高校に勤めているが、RWに取り組むことがむずかしい生徒が多くいる。それでも、文章が書けないのかといえば、そうでもない。読めないからといって書けないわけではないということに気づき、今頃、『作家の時間』と『ライティング・ワークショップ』をあわてて読んでいる。読めない人には、実はライティングが先の方が取り組みやすいのではないかという気がしてきている。ライティングをやっていけば、自然にリーディングのモチベーションにつながっていくのではないかと。
WWの本も本当にいい本で、子どもが書けるところから広げていく、その段階でできていないところがいっぱいあっても、できているところに目を向けさせるというアメリカ的で、日本のやり方と逆だ。こうやって育てていくと書けるようになるんだろうなと思える。読むことと書くことは両輪で、これを学んでいくと教師にとっても子どもの見え方が違ってきて、この生徒に何を教えていけばいいのかがわかるようになる。RWとWWを実践することは、生徒にとっても、教師にとってもプラスになると思っている。

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以上は、吉澤さんが「博報賞」 国語・日本語教育部門に応募し、受賞した作品を基にまとめてくれたものです。全文(詳しいミニ・レッスン、様々な活動内容、生徒対象のアンケート結果等を含めた実践報告)を読んでみたい方は、吉澤さん(メール・アドレスは、zawako1015@gmail.com )に直接問い合わせてください。


1 件のコメント:

  1. すごいですね。実は僕の先生です。できれば成績おねがいします。

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