2018年8月31日金曜日

(読解)テストへの対応


 リーディング・ワークショップやライティング・ワークショップ関連の文献で、テストへの対応が具体的に書かれている箇所を、時々、目にします。

 その中から、読解テストへの対応として、参考になりそうに思うのは、以下の2点です。

 1) テストを「一つのジャンル」ととらえ、いろいろなジャンルの特徴を学んでいくのと同様に、ある時期、「テストというジャンル」について学ぶ。
 2) 誰のために、どういう目的で、何を読むのかによって、(意識的に)読み方を変えることができるようになることをサポートする。

1)  テストというジャンルを学ぶ

 生徒が新しいジャンルに接したときに、そのジャンルの文章を分析し、特徴を見出しつつ学ぶように、テストについても「一つのジャンル」としてアプローチする、という考え方です。その具体的な様子は Put Thinking to the Testという題名の本の中で描かれています。この本の第2章は、「テストを一つのジャンルを考える: 共通テストの独自性」がテーマになっており、テストというのは、次のような3点の特徴のある、一つのジャンルだ、と考えられています(18ページ)。

 ある内容を、テスト独自の形式と方法で取り扱う。
 普段の授業ではあまり使わないテスト独自の語彙がある。
 生徒が従わなければいけない手順がある。

 これについては2014 1115日のWWRW便り「テストというジャンル(の中の詩)」で、次のような例を紹介しました。

 子どもたちが付箋をもって、テストに登場する詩とその問題を見て、気づいたことを書きこみ、先生は子どもたちの付箋に書かれたことを確認したり、それを深めたりし、最終的には、テストの詩とそうでない詩の読み方の共通点と異なる点が一目瞭然のベン図を作成しています。

 子ども(4年生)の中には、「テスト作成者は、僕が、彼らが作った質問を理解できているかどうかを見たいんだね。僕が(テスト問題として出されている)詩を理解できているかどうかでなくて」という分析をしている子もいます。
https://wwletter.blogspot.com/2014/11/blog-post_15.html

 この方法は、「まどろっこしい」と思われるかもしれませんが、生徒が付箋をもって、テストというジャンルで気づいたことを書き込みながら分析して、上のようなことを自ら発見することで、得られる部分も大きい気がします。

  ベン図で思い出しましたが、そういえば作文テストについては、『ライティング・ワークショップ』(新評論、2007年)の著者たちは、「ライティング・ワークショップと作文テストの関係」というベン図(133ページ)を作成し、それを子どもたちに見せて、作文テストについて説明しています。ベン図なので、共通点と異なる点がはっきりします。そして子どもたちは、説明を聞いたあとで、テスト形式で書いてみて、そのあと、先生が困った点や対応がはっきりするような質問をしてサポートしています。詳しくは『ライティング・ワークショップ』第9章 評価と評定の中の「州規模で実施される作文テストとライティング・ワークショップ」というセクション(131~135ページ)に書かれています。

 共通テストの特徴を伝えて、実際にテスト形式を体験し、対応を考えるというやり方は、先月、邦訳がでた『イン・ザ・ミドル』(ナンシー・アトウェル、三省堂)でも使われています。『イン・ザ・ミドル』では、読解のテストを受ける1週間ぐらい前に、テスト対策として、生徒たちが受ける読解テストについて、4種類の問題があることを先生が指摘し、テストの問題文と質問がどのようにつくられているのかを生徒が学ぶこと、問題文の読み方や答え方の手順を扱うミニ・レッスンも行うことなども書かれています(235236ページ)。

2) 誰のために、どういう目的で読むのか。

 上で紹介したPut Thinking to the Test の著者の一人、パトリック・A.アレン(Patrick A. Allen)さんが書いたリーディング・ワークショップのカンファランスについての本 Conferring:The Keystone of Reader’s Workshop ★★で、「(読むことの)目的と、誰に向かって読むのかの再定義」を論じているセクションがあります。

 この本の中では三角形の図で、誰に向かって読むのかについて、「自分」「自分と関係のある人」「まず会うことのない人」と3つに分けてかなり詳しく書かれています。 ここではごく短く紹介しますが、「誰に向かって読むのか」の中の、「まず会うことのない人」の中に、外部のテスト作成者が含まれます。  

 著者のアレンさんは、生徒たちが、誰に向かって、どういう目的で読むのかを意識することで、「読み方(プロセス)や、読んで得るもの(プロダクト)を、柔軟に変えることができる」ようにサポートしていくことを詳しく説明しています。

 私も、いろいろな読み方ができ、意識的に読み方を変えられることは、リーディング・ワークショップで身につく大切なことの一つだと思います。私の知人で英語を教えている人が、英語の授業でブッククラブをしたところ、学習者の一人が、「今までTOEICの読み方しか知らなかった」と言っていたそうです。英語を読むことについて、TOEICの読み方しか知らないというのは、個人的には、あまりにもったいない気がします。いろいろな読み方ができ、自分で必要に応じて、読み方を変えられることのメリットは大きいと思います。

 『ライティング・ワークショップ』では、「ワークショップ中の創作と作文テストでは受ける印象がまったく違います」としたうえで、「それでもなお、図9-1(←ベン図のことです)のようにライティング・ワークショップと作文テストを並べて検討すると、ライティング・ワークショップで学ぶことで子どもたちがテストを受ける準備ができているのが分かります。子どもたちは、作文テストに必要なスキルをワークショップで習得できるのです」(132ページ)と書かれています。

 『イン・ザ・ミドル』には、「本に夢中になって取り組む多くの時間こそが大切」とか「自分たちが受ける共通テストの形式や何が要求されているのかを知って、その練習に23日かければ、十分に適応できます」(どちらも235ページ)という文がでてきます。

もちろん、日本にそのまま当てはまらない点もあると思います。でも、上のような文を読むと、リーディング/ライティング・ワークショップの実践者たちは、ワークショップでの大量の読み書きを通して身につけていく力は、テストにも適応できる力の土台である、だから、テストの前に、適応できるようにサポートすれば十分だと実感しているように思います。

Put Thinking to the Test はLori L. Conrad, Missy Matthews, Cheryl Zimmerman, Patrick A. Allen著、Stenhouseより2008年に出版されています。

★★Conferring: The Keystone of Readers Workshop はPatrick A. Allen著、Stenhouse より2009年に出版されています。この本の66ページに三角形の図があり、62~75ページで詳しく説明されています。

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