2017年7月21日金曜日

マインドリーディング(読心術)にみる理解のための方法


 「読心術」や「第六感」と聞くと、ミステリーか超能力か何かそのようなものを連想してしまいます。出張先で立ち寄った大きめの本屋の文庫コーナーに、ニコラス・エプリー(波多野理彩子訳)『人の心は読めるか?―本音と誤解の心理学―』(ハヤカワノンフィクション文庫, 2017年:初版単行本『人の心は読めるか?』は早川書房から2015年)という本がたくさん平積みになっていましたので、「読心術」ブームでも到来したのかと思いました。手に取って読み始めると、冒頭に次のようなことが書かれています。



・相手の気持ちを想像する能力が、人間のもっとも偉大な能力であることは、ほぼ間違いない。この本では、そうした能力のメカニズムや、他人の気持ちを間違って理解しているがために誤解や対立が生じる仕組みや、他人の気持ちを正しく理解する方法を述べていこうと思う。(14ページ)



 おっと「理解する方法」だって? 超能力本どころか、これは『理解するってどういうこと?』の関連本の一つではないかと思い、購入してじっくり読み進めると、ほんとうにエリンさんの本と通じることがたくさん書かれています。

著者エプリーの言う「読心術」とは「私たちが日々の暮らしのなかで、相手の考えや感情や望みや糸をとっさに推し量るときに一日も何度もやっていること」です。それが「あらゆる人間関係の土台を作り、推測と仮定の網を張りめぐらすもの」となって「そのおかげで広い社会がうまく機能」するのですが、このような意味での「読心術」を使うことが「真の意味での「第六感」」を働かせることなのだと、著者は言っています。



・人は、相手にも自分と同じ「心」があり、自分と同じ能力と経験を持っていることを、いともたやすく忘れがちだ。理性的に考えたり、自分の意志で選んだり、何かを感じたりする能力がないと一度見なされた人は、人間以下の存在に見られてします。要するに、非人間化とは、相手の人間性を認めないことだ。(78ページ)



 『理解するってどういうこと?』第9章にある、小学校3年生とエリンさんとでロバート・コールズの『ルビー・ブリッジス物語』★をもとに「関連づける」という理解のための方法を使いながら、「共感する」ことを学んだ授業のことを思い出させる言葉です。「共感する」ためには「他人と同じレンズを通して自分を見る必要」がありますが、それだけではしっかりと理解したことにはならないかもしれません。

次の言葉は、自分が『ルビー・ブリッジス物語』を黒人の子どもたちと同じようには「完全に共感することはけっしてできない」けれども、「どれほどあなたがたが共感したのかということは、この心で感じることができる」とエリンさんが言ったことと重なる内容です。



・相手の見方を頭のなかで想像するだけでは、レンズの問題は解決しない。実際にその見方ができる状況に自分を置いたり、実際に経験した人から直接話を聞いたりすることで、初めて乗り越えられる問題なのである。(187ページ)



 次の二つも、『理解するってどういうこと?』の内容と響き合います。一つ目は、子どもの能力を伸ばすために「相手の立場になって想像する」ことがいかに重要かを教えてくれます。二つ目の引用は、相手の視点を「獲得する」こと、つまり、相手の心の座のようなところに自らの身を置いて考えると、相手の望んでいることやしてほしくないことなどがわかってくるということです。



・相手の立場になって想像するのは、すばらしいことである。一二歳の私の息子が、学校の作文を手伝ってほしいといってきたとき、私は同僚の教授に対してやるように、好き勝手に批評したりしなかった。子どもが作文の書き方を学ぶには、不安を与えるのではなく励ます必要があるからだ。教師ならみなそうするように、意見をいうときは、相手が聞きたいことを話さなければいけない。相手の反応を、実際に目にする前に想像する能力は、人間のもっとも偉大な能力の一つだ。(262ページ)



・第六感の限界を認識すると、相手の心を知る別の方法が見えてくる。その方法とは、相手の視点を「取得」するのではなく「獲得」することだ。患者を理解しようとする医者には、昔から「患者は自分の悪いところを話そうとするから、黙って話を聞くこと」という助言があるが、それと同じである。(268ページ)



 『人の心は読めるか?』は、マインドリーディング(心を読む)ということは、超能力を使うことでもなく、魔法を使うことでもない、想像力を駆使しながら相手の発するさまざまなメッセージに耳を澄まして聞くことであると、わかりやすい言葉で教えてくれる本です。でも、タイトルに対する答えは、「読める」でいいと思いますが、その「読める」の半分は自分の心が「読める」ということにもなるようです。



★白人の学校に、黒人の子として初めて登校した女の子の物語です。ルビーは、多くの反発や偏見のなかを勇気をもって登校しました。ヘミングウェイが賛辞を送り、ノーマン・ロックウェルが彼女の登校シーンを描いたことでも有名です。

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