2011年3月11日金曜日

1×4 > 4×1

 今日の午後、東北で大きな地震がありました。関東でもかなり揺れたようです。私のところは(東海地方です)は、ゆっくりとしばらく小さな揺れが続きました。小さな揺れですが、怖かったです。震度の高かった地域での被害ができるだけ少ないことを願っています。

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 今日の「WW便り」は数字の題です。

 普通なら「1×4」と「4×1」はイコールのはずなのですが、書くことにおいてはそうではなさそうです。 

 この前、読んでいた本の中に、「一つの作品に4回取り組むほうが、一回書いて終わりにする作品を4つ書くよりもよい」と書いてあり、なるほどと思いました。つまり、「1×4」のほうが、「4×1」より、いいということです。(→ そこから上の題を思いつきました)。 

 今日は、この言葉から考えたこと、思い出したことをいくつか書きたいと思います。 

○ 『ライティング・ワークショップ』の共著者の一人、ラルフ・フレッチャー氏の作家ノートについてのある本の中に「下手に書く場所」という名前の章があります。

 これはもちろん、意識的に下手に書くという意味ではありません。

 フレッチャー氏によると、ちょうど初めてスキーにトライしたときには沢山転ぶように、書くことにおいても、たくさん転んでもいい場所が必要だということです。

 また、同じ本の違う章の中で面白いエピソードも紹介しています。

 洗濯機に入れる前にシャツのボタンをとめているフレッチャー氏を見て、奥様が「前から聞きたかったんだけど、どうしてそうするの?」と尋ねます。

 「そのほうが、形が崩れないから、ってマリアン(前の妻の名前)が言っていたから」とフレッチャー氏。

 現在の奥様の前で、急に前の妻の名前が出てきた、そのときの感情を、フレッチャー氏は、作家ノートに「汚れたシャツのボタンをとめるーーマリアン」、と数単語だけメモします。

 そして、その数週間後、その数単語の書き込みに戻り、そこから詩を仕上げます。

 最初からうまく書くということを目指すのは無理だし、最初は断片だけ書いて、あとからそこに戻ってもいいということを教えられます。

○ 先週のWW便りでも紹介したドナルド・マレー氏ですが、面白いことを言っています。

 拙い意訳で恐縮ですが、2つ紹介します。

 「多くの教師は、子どもたちがちゃんと文を書けないと嘆く。私は、自分の学生たちが文を書くことを嘆く。(自分の学生たちは)あまりに早すぎる時期に(文を書く)。(文という)形を整えつつ、意味をなおざりにする」

 「上手に書くためには、下手に書くことをしなければいけない。もちろん。下手に書くというのは、きちんと整っているかとか、完全であるかとか、そういういう点において、そうではないということである。というのは、しっかり頭が動いているときには、その思考は、まだ整っていないし、完全ではないからだ」

 つまり、頭がどんどん動いているときには、そのスピードに、文をつくるということはついていけないぐらいだというわけです。

 マレー氏の上の言葉がでてきた章を見ていると、最初から文を書くことはありえない? とすら思わされます。

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 フレッチャー氏やマレー氏の本を読んでいると、本当の作家にとっては、1×4ではなくて、4のところの数字がもっと大きい気がしました。

 そして本当の作家にとっては、読者に読んでもらうに耐えるものを書くために、まずは文をつくろうとも思わずに、どんどん思考し、その断片を書きとめ、それに何度も修正、校正両面から、「手を入れる」、これが本当に書くサイクルなんだろうとも思います。

 本当に書く体験をめざすWWの授業では、1×4(以上)というサイクルは存在しても、4×1は存在しないのでは?とも思います。

 1×4 > 4×1は、「本当に書くサイクル」 > 「本当ではない書くサイクル」みたいな気までしてきました。

出典:

「一つの作品に4回取り組むほうが、一回書いて終わりにする作品を4つ書くよりもよい」と書いてあったのは、Mary Sullivan, Lessons for Guided Writing Grades 5 & Up, (Scholastic, 2008) 10ページ。

 フレッチャー氏の「下手に書く場所」という章が出てくる本は Ralph Fletcher, Breathing In, Breathing Out (Heinemann, 1996)  55-57ページ、汚れた洗濯物にボタンととめるエピソードは、17-19ページ。

 マレー氏の上の言葉がでてくるのは、Donald M. Murray, Expecting the Unexpected (Boynton/Cook, 1989)の39ページと46ページ。

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