2022年10月14日金曜日

『感情と社会性を育む学び(SEL)』を読んで

  私立桐朋学園小学校(東京都国立市)の有馬佑介先生が送ってくれたので、紹介します。

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 この本は、「SEL」について書かれた本です。「SEL」とは聞き慣れない言葉ですが、訳者まえがきによれば、「「Social Emotional LearningSEL)」を日本語に訳すと、「感情に向きあう力であるEQ(感情知性)と、社会性にかかわる力のSQ(社会的知性)をはぐくむ学びとなります。」とされるものです。

 実は、僕はこの本を少し敬遠していました。感情や社会性、いわゆる情緒のようなものは、形にならず言語化は難しいと感じていたからです。一方で、それは教育のなかでとても大切なものだとも感じていました。言葉に表しづらい情緒を、経験則や直感で扱えることが小学校教員としての専門性だと捉えていたと言えるかもしれません。言葉に表しづらいものを無理に言葉に直せば、大切なことが抜け落ちるのではないかと感じていたのです。そのような先入観を抱き、この本を敬遠していました。

 きっかけがあり、実際にこの本に向かい合ってみると、僕の先入観は、偏狭な思い込みであったと自覚しました。そして、すべての学校が、この本に書かれていることを土台にできればいいと思うほどの内容でした。

この本には、教員自身が目の前の子どもの感情を受けとめ、誠実に寄り添っていく方法がまず書かれています。(第1章・第2章)それは、僕が教員としてずっと大切にしていたことでした。その方法として挙げられていることも、例えば必ず朝教室に入ってくる子に名前を呼びながら挨拶をすることなど、自分自身が心がけてきたことがいくつも見当たりました。読み始めてすぐに、この本がとても丁寧に書かれていること、そして、自分自身が行ってきたことと親和性がとても高いことを感じました。

第3章・第4章は子どもが自分自身を知ること、第5章・第6章は子ども同士がお互いを受けとめ、理解・関係を深めていくことが書かれていました。子どもと教員、子ども自身、子ども同士という章立てと言えます。実際のエピソードを挟みながら書かれているので、自分自身の経験に重ねながら読むことができました。脳科学の側面からの説明は、やや難解でしたが、脳の働きとして起こり得ることなのだと意識できるようになったことは収穫です。なぜなら、どの子どもも人間としてそういう仕組みになっていると考えられるからです。

この本にはいくつもの手法が丁寧に書かれていました。もちろん初めて知るものも多くありましたが、実は現在、全国の学校で行われているだろうことも複数書かれていました。「朝の会」や「グループでの活動」(日本における「班活動」に置き換えられるでしょう)、「クラスの仕事」(こちらは「係」「会社活動」)などは、今、実際に取り組んでいる方も多くいると思います。僕もそのひとりです。

この本の題名「SEL」は聞き慣れない初めての言葉でしたが、決してそれは新しい概念ではありませんでした。むしろ、私たちがずっと大切にしてきたものと僕には感じられました。そして、今こそこの本を教員みなで読み合うべきだとも思いました。なぜなら、この本に書かれていることは、私たちがずっと大切にしてきたものですが、それが今教育の場から失われていると感じられたからです。前述の朝の会にしろ、係活動にしろ、目的のための手法だったものが、いつしか慣例となり、手段が目的となることで本来の目的が失われているように考えます。この本を読むことで、その錆をきちんと落とすことができるでしょう。私たちがやっていることの本来の意味をよみがえらせることができると思うのです。

この本を同僚と読み合いたいです。そのうえで「学校」とはそもそも何のためにあるのか、今「学校」がある意味はなんであるのか、そんな問いを投げかけ、一緒に考えたいと思いました。

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SEL関連情報: これから半年間ぐらいの間に、SELに関する本が、上記の本以外に3冊出る予定です。それほど大切なことです。一冊はSEL評価との関連、一冊はSELと教科指導との関連(タイトルはなんと『学びはすべてSEL(仮題)』!)、一冊は教師がSELを身につけるには具体的にどうしたらいいかが多様に書かれた内容です。お楽しみに。

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