2022年5月14日土曜日

(副題も含めた)題名のミニ・レッスン

 少し前に、中学生の教室でよく読まれた本や中学生におすすめの本を、中学校での教職経験のある先生方や司書の方にたくさん教えていただきました。知らない本のオンパレードだったこともあり、たくさんの題名を見ている間に、題名のミニ・レッスンについて考えてみたくなりました。

 まずは「副題のミニ・レッスン」です。『スマイル!』『祈り』『世界を信じるためのメソッド』『勇者はなぜ、逃げ切れなかったのか』『釜石の奇跡』。こういう題名を見ると、皆さんはどういう本を想像されますか? これらを副題つきにすると、以下のようになります。

『スマイル! ――笑顔と出会った自転車地球一周157ヵ国、155,502km』(小口良平、河出書房新社、2017年)

『祈り――忘れるな拉致――報道写真集』(新潟日報社、2020年)

『世界を信じるためのメソッド――ぼくらの時代のメディア・リテラシー』(森達也、理論社, 2006年)

『勇者はなぜ、逃げ切れなかったのか――歴史から考えよう「災害を生きぬく未来」』田所真、くもん出版、2016年

『釜石の奇跡――どんな防災教育が子どもの"いのち"を救えるのか?』(NHKスペシャル取材班、イースト・プレス、2015年)

 「釜石」と見て、サッカーを思い出した私は、『釜石の奇跡』は「スポーツ感動もの」だと思ったので、副題を見て、自分の的外れさに苦笑です。

 考えてみると、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ、新潮社、2021年)も、印象に残る題名ですが、ここからだけでは内容の見当はつきにくいです。この本に副題はあったのかな?と思って表紙を見ると、英語で小さ目の字で The Real British Secondary School Daysと書かれています。異なる言語で書き足すという方法があるのも学べます。

 ここまでに挙げた本は全てノンフィクション系の本ですから、「副題」を扱うのは、ノンフィクションの導入のときのミニ・レッスンでもいいのかもしれません。特にノンフィクションを書きたい子どもには、「副題とのコラボとその方法」は、自分が使える技の引き出しに入れておきたい一つのようにも思います。

 他方、フィクションの場合は、ノンフィクション系と比較すると、副題があるものは少ない印象を受けました。そこで、「気になった題名で著者が行っていること」を考えてみました。

 今回、教えていただいた多くの本を見ていて、一番、印象に残った題名は以下です。

 『か「」く「」し「」ご「」と「』(住野よる、新潮社、2017年)

 「 」を使われていることから、「句読法で工夫する」という方法にも目が向きます。

 子どもたちに、題名を分析してもらうと、いろいろと工夫のポイントが出てきそうですが、私も著者の行っている工夫を、もう少し考えてみました。

 ・よくある日本語の単語をカタカナにする 

(例) 『キケン』(有川浩、新潮社、2010年)

→ アマゾンで検索すると、略称「機研(キケン)」=危険、という紹介が書かれていたので、(カタカナのように)音だけにすると、複数の異なる漢字を示唆することができるのがわかります。

 ・一見マッチしない言葉を組み合わせる。

(例)『少年アリス』(長野まゆみ、河出書房新社、1989年)

『ミッキーマウスの憂鬱』(松岡圭祐、新潮社、2005年)

→ 少年とアリス? ミッキーマウスはハッピーなイメージなのに? と興味を惹かれました。

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 「どうやって選書をするの?」と学習者に聞くと、選書方法として「題名」がよく入ってきます。私自身は題名だけで選書することは少なく、「作家読み」か「人のお薦め」が多いです。とはいえ、気になった題名から検索すると、カスタマー・レビューが読めますので、助けになります。

 そして、「あ、これは素敵な題名だけど、自分には合わないジャンルや自分にはおそらく楽しめない本だ」と思うこともあります。それはそれで「あり」というか、教師が図書コーナーやおすすめ本を全て読まないといけない、いうことではありません。

 実際、優れた実践者のアトウェル氏は、ブックトークについて説明している箇所で以下のように言っています。

 「まだ私が読んでいない新しい本について、購入した理由、受賞歴、書評、同じ作家の他の本、本に印刷されている紹介や国会図書館のサマリーなどを読み上げる時もあります。そして、この本を一番に読みたい人がいないかを尋ねます。読んでみて、高く評価できれば、ブックトークするようにとも言い添えます。また私が苦手な、ファンタジーやサイエンス・フィクションの本については、そのジャンルが好きな生徒に渡して目を通すように頼みます」(『イン・ザ・ミドル』144ページ)

 『読書家の時間』では、教師は自分が読んでいない本でもカンファランスができることが書かれています(2014年版でも、今年6月下旬に刊行予定の改訂版でもこの部分は同じ内容です)。「カンファランス」という章の中に「教師が読んでいない本でもカンファランスはできる」というセクションがあり、以下のように書かれています。

 もし、子どもたちが読んでいる本の内容を正しく理解しているかどうかを確認するためにカンファランスを行うとするならば、教師は子どもたちの読んでいるすべての本に目を通し、その全てについて「正しい理解」ができていないとカンファランスを行うことはできません。

 <略>

 多くの教師が、子どもたちの成長を可能な限り最大限に引き出したいと考えているはずです。にもかかわらず、教師の知っている本や教材しか読ませないとするならば、子どもたちは狭い籠で育てられた鳥のように、大空を知ることなく1年間を過ごすことになります。<略>このようなことにならないためにも、読んでいない本でもカンファランスを行っていくようにしましょう。(『読書家の時間』104〜105ページ)

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 子どもたちが大空を知る鳥のように羽ばたけるためにも、おすすめ本リストは教師と子どもの強力なサポーターになりそうです。

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