2021年7月2日金曜日

新刊『社会科ワークショップ』

リーディング・ワークショップの日本での実践を紹介した『読書家の時間』の中心的メンバーだった冨田明広先生が、今度はそのアプローチを社会科に応用した実践報告を紹介してくれています。

 *****

 勤務校の経験年数の浅いA先生から、5年生の「我が国の国土の様子と国民生活」の学習の進め方について、質問を受けました。「運動会が終わった時期で、学習計画も手際良く消化させていきたい」「新聞づくりを学習成果物としてゴールに設定し、暑い土地、寒い土地、高い土地、低い土地、それぞれの暮らし方について、調べ学習を取り入れていきたい」そのようなリクエストがありました。自分の「社会科ワークショップ」の知見を生かして、細やかなアドバイスをしてみることにしました。

 まず、A先生が参考にしていたものの一つに、業者テストがありました。見ると、業者テストは、暖かい土地のテストと寒い土地のテストとで別々の内容になっていたのです。これでは確かに、「一つ一つの土地の暮らし方をしっかり教えなければ」という気持ちになってしまうのもよく分かります。しかし、もっと高い視点から考えた方が、先生だけでなく子どもたちにとってもおもしろい学習ができるでしょう。

 ゴールの設定にテストを参考にしてしまうのは、おかしいからです。経験の浅い先生にとって、自分の教えている内容が正しいかどうかという不安はとてもよく分かります。けれど、それではどうしても知識偏重の単元構想になってしまいます。

 暖かい土地と寒い土地をはっきりと分けて考える必要はなく、むしろ、例えば衣服という観点で暖かい土地も寒い土地も、そして自分たちの今の衣服など、複数の視点で調べて比べる方が、子どもたちにとっては、暮らし方の違いがわかりやすいでしょう。A先生は「寒い土地をどう教えようか」という狭い視点で考えていたので、「気候の特色と暮らし」全体でユニットのデザインを考える必要があります。

 社会科ワークショップでは、ユニットという考え方があり、教科書単元ごとに学習を区切るのではなく、大きく学習内容を捉えたり、子どもたちの実態にあった具体的な学習の範囲を設定したりと、子どもたちの学習に応じた学習内容やゴールの設定を行います。A先生は、ユニットの枠をもっと広げて、子どもたちが暮らし方を土地間で比較できるように工夫すると良いように思います。

 新聞作りも、国語と関連させてじっくりと取り組むならばよいですが、時間が限られている中で、書く力の良し悪しに大きく影響をする新聞作りを全員に行うと、子どもたちに負荷がかかりすぎて、5・6月の段階から社会科嫌いを作ってしまいそうです。もっとアウトブットの負荷を減らして、ユニットの最後だけでなく、何度も自分の考えを伝えられるカードやICTを活用したペアでの活動などを提案しました。子どもたちの様子に合わせて、ユニットのデザインを調整していくと、子どもたちにも無理のない学習が進められます。

 A先生が行いたいと思っていた調べ学習。私たちの勤めている市では、子ども一人につき一台のiPadが配付され、授業の中で活用しようと先生たちが工夫をこらしています。A先生も同様に、子どもたちにiPadで、寒い土地の代表として取り上げられている札幌市の暮らしについて調べさせたいと考えているようです。新しいことにチャレンジしようとするA先生の試みは大変素晴らしいものです。

 しかし、心配なことは、子どもたちの調べ学習で完成した新聞作りが、札幌の観光サイトなどからの引用文で埋め尽くされ、自分の思考がまったく入らない物になってしまうと予想されることです。子どもたちは意気揚々と先生から出された学習課題である札幌の雪祭りや農作物で検索をするのでしょうが、観光協会などのサイトで雪まつりの盛り上がりについて理解はできるものの、そこにその土地の気候と暮らしが関連していることまで考えを深めるられる子は少なく、観光ガイドブックの延長のような新聞がたくさん作られてしまうでしょう。

 子どもたち一人ひとり、自分が興味をもつところは違います。雪まつりに興味をもつ子どももいれば、家屋、農産物、観光業など、子どもによって目の付け所は様々です。しかし、そこばかりに目をつけていると、暮らしというテーマから離れていってしまいます。ですから、興味をもって調べ始めた子どもたちに、「暖かい土地では、どんな観光イベントがあるの?」「札幌の家と比べて、私たちの県ではどんな工夫がある?」と、比較して考えられる暖かい土地の暮らしや4年生で学習した自分の都道府県の特色と結びつけて考えられるように一人ひとり助言をしてあげると、気候や暮らし方へと思考は動いていくでしょう。「社会科ワークショップ」でいうと、これは「カンファランス」になります。

 調べ学習は、先生が調べる内容を設定してしまいがちです。目的の知識にたどり着いたら終わりでは、社会科を十分に楽しんだとは言えません。調べ学習から探究学習へと移行させていきましょう。調べたことから、問いが生まれ、考えが浮かび、終わることのない探究のサイクルが回り始めます。何度も発表できるカードやICTを活用したペアとのやりとりであれば、時間の許す限りサイクルを回し続けられますし、家庭でも学習の続きを行うことができます。

 ICT活用は、本来、多様な学習を可能にするツールであり、学校や家庭などの障壁を超えて学習を深められるツールであるはずです。知識を得るためだけに使っていたのでは、ICTの真の活用とは言えないでしょう。社会科ワークショップにICTの活用を組み込めば、もっともっと学習は多様性を広げ、一人ひとりに応じた探究を行うことができるでしょう。

 その後のA先生の実践を聞くと、私も勉強になることがありました。ロイロノートというアプリケーションを使って、社会科のアウトブットを行ったことです。情報をカード化して視覚的に繋げられるこのアプリケーションは、手軽なアウトブットを可能にしています。感染症対策などで、ペアや小グループでの対話が制約されている中、便利なアプリケーションを活用して、視覚的な対話を行うことができたことは、とても素晴らしいことだと思います。 

 社会科は、自分と社会、自分と友達のように、人と人との繋がりの中から学習を深めていく教科。社会科は、人の顔が見える学習でありたいものです。

 

 しかも、教師にも生徒たちにも主体性はほぼゼロなので、知識としてほとんど残らないことが約束されます!

 

◆本ブログ読者への割引情報◆

1冊(書店およびネット価格)2640円のところ、

WW&RW便り割引だと    1冊=2400円(送料・税込み)です。

5冊以上の注文は     1冊=2300円(送料・税込み)です。


ご希望の方は、①書名と冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 

pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

 

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでください。

 


 

0 件のコメント:

コメントを投稿