2021年1月9日土曜日

学習者に培ってほしい資質を、一連の絵本を使って教える

 私は、ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップを学んだおかげで、大人になってから絵本が大好きになりました。時には「お見事!」と感心したり、「えっ?」と驚かされたりしながらも、「あ、この絵本は『終わり方』を教えるのに良い」「この2冊の絵本は『同じテーマでも異なるスタンス』を教えるのにぴったり!」等、ミニ・レッスンやカンファランスのアイディアが浮かぶこともあり、そんな時は二重に得した気持ちです。他方「明日の授業では回想録というジャンルを教えたいけど、それに適した絵本は?」と目的を持って探すと、なかなか見つからなくて困るときもあります。

 学年や年齢を問わず、絵本を使うと学びやすいことはたくさんあります。比較的短時間で読めますし、絵もあるのでストーリーが把握しやすいのは大きな利点です。特に、テキストに書かれていることから「一般化できる概念」(つまり、他の本や他の場面に応用ができる概念)を取り出す、というような抽象的な思考が必要な場合、絵本を使うと、その道筋をはっきりと提示しやすいのも魅力です。(その他、ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップ関連の本では、絵本を使うことの利点はあちらこちらで言及されていますし、「メンター・テキスト」として使えることも大きいです「メンター・テキスト」については、かなりの回数で紹介していますので、この投稿のブログ版「RWWW便り」で検索し、ブログ版の左上に「メンターテキスト」と入力してください。過去の関連する投稿が出てきます。)

 さて、絵本でできることの中の一つに、「一連の絵本を使って、学習者に培って欲しい資質を教える」ことがあります。一つの実践例を、最近、読み直している本(Conferring: The Keystone of Reader's Workshop)★から紹介します。以下のページ数はこの本のページ数です。

 ここでは、より良い読み手になるために、「忍耐を持って、根気強く頑張り抜く」資質をどうやって培っていけば良いのだろうかと、小学校3年生を教えるアレン先生が考えるところからスタートします。アレン先生は、まず「忍耐を持って、根気強く頑張り抜くこと」を教えてくれるような引用を子どもたちに二つ紹介し、それについて、もし、反応したいこと等があれば、ノートに書いておくように促し、先生自身も自分のノートに書きとめます(アレン先生は「自分がやりたくないことは生徒にはやらせない」ことにしていますので、先生もその場でノートに書いています。 ← こういうスタンス、いいなと思います。)(52ページ)

 そして「忍耐を持って、根気強く頑張り抜く」ことについて、生徒たちがどんなことを知っているのか、どのように考えているかを把握した上で、一連の絵本を使って「忍耐を持って、根気強く頑張り抜く」ことを培うレッスンのスタートです。(52~55ページ)

 「これからの2、3週間、このトピックについて学ぶ」ことを生徒に伝えた上で、1冊目の絵本の登場です。ノンフィクションの絵本★★です。絵本とはいえ、一度の読み聞かせではちょっとカバーしきれないので、この時は複数回に分けたようです。「学習者が自分でできる部分をだんだん増やす」ことを意識しているアレン先生は、最初は先生の「考え聞かせ」からスタートです。「根気強く頑張り抜く」に関わるような箇所が出てきたら、その箇所を読んだ後に、「『時間』ということも関係あるかな? 登場人物たちが時間をたくさんかけていることが書いてある」等と、考え聞かせをします。(55ページ)

 こんな感じで生徒たちが「根気強く頑張り抜く」ことに、それぞれに関わることに気づき、自分のノートにメモできるようにサポートし、学びを続けていきます。

 読み終わった後に、それぞれがノートに書いたことを参考に、この1冊の絵本から学んだ「根気強く頑張り抜く」ことについて、クラスでリストを作ります。そのリスト例を見ると

・どんな時であろうとも信頼する

・計画がある

・辛抱強く、前向き

など、なんと「根気強く頑張り抜く」に関わることが、18項目も並んでいます。(56ページ)

 その後も、同じテーマで考えることができそうな一連の絵本を生徒たちは読みながら、最終的にはそれぞれにとってインパクトの強かった3冊を選び、題名、「根気強く頑張り抜く」とはどういうこと? 学び手としての自分に教えてくれることは? などを、それぞれに、自分のシートに記入しています。(57〜61ページ)

 また「読み手」という視点からもクラス全体で考え、「読み手」として「根気強く頑張り抜く」ことの「助けになること」と「それを妨げること」のリストもクラスで作成しています。(63ページ)

 アレン先生は、生徒たちに、先生が紹介した以外の他の本や読み物からも、「根気強く頑張り抜く」登場人物が出てきたら、このテーマを考えよう、とも励ましています。教室でのアレン先生の1冊の絵本の考え聞かせからスタートした探究が、関連するテーマの一連の絵本を教室で読む時にも、また、教室の外で読む時にも考えられるようになる、ということを意識されているように思います。(62ページ) 

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 この実践を読み直しつつ、思ったことや、今後、引き続き、さらに考えてみたいことが何点か出てきました。

▶︎ 読み手として成長するためには、「リーディング・スタミナ」と言われように、根気強く読み続けることも大切。このセクションをみていると、リーディングに限定されるスキルというよりは、学習者が多くの面において活用し、「学び手」としての成長できるような資質を学ぶことの後押しになっているのを感じます。

 アレン先生自身も「忍耐を持って、根気強く学ぶ、ということがどういうことかを考え、そこで学んだことが、読み手としてだけでなく、書き手として、算数を学ぶ人として、思考する人として、活かせるかを考えていこうね」とも言っています(54ページ)。ある意味、当たり前のことかもしれませんが、リーディングを学ぶ時に、こういう他の教科の学びにも役立つことを教えることもできるし、逆に他の科目でも、読み手の成長に貢献することを教えることができるのだなと思います。

▶︎ 絵本を使うことで、学習者に培って欲しい資質を導入するための文脈が生まれます。例えば「他者との協力や協同」を文脈なしで教えようとすると、「他の人の考えも尊重しつつ、しっかりグループで協力して勉強してください」という掛け声だけになりそうです。これでは、定着する効果はあまり期待できません。

▶︎ 絵本の使い方として、二つのベクトルというか、二つの方向がありそうに思いました。一つはアレン先生のように、教えたい資質やテーマを決めておいて、それに沿った絵本もたくさん準備し、また、教室外でもそのテーマを意識するように教える。絵本を読む時のポイントを教師側で予めガイドして、それに沿って読むということです。子どもたちも、探したいことをある程度、意識しながら読んでいると思います。今後、自分で何かテーマを決めて探究する時にも、このような読み方を学んでおくことは大きなプラスだと思います。また、先生があらかじめガイドしてくれた概念に関連することを見つけ出して、それを概念に沿った形で言語化すること自体が、「具体的な事例を一般化する」という練習になっています。自分で一般化できると、他の文脈にも応用しやすくなりそうです。そうやって考えると、ここからできるプラス面がたくさんありそうです。

 もう一つの方向は、見つけてほしいポイントなどは、予め指摘やガイドをしないで、「テキストに語らせる」という方向です。この場合は、「テキストが語っていること」を読書家・批評家として、楽しめる・気付けるように教えることをサポートしていくことになります。

 おそらくこの二つは、はっきり二つに分離しているものでもないと思います。あるテーマに関連する情報を探そうと探究的に目的を持って読んでいても、その本が語りかける他のことに目がむくこともありますから。また逆の場合もあると思います。

 ただ、教える側として、こういう二つの方向があること、時にはそのバランスを考えることも必要なのかなとも思います。この二つの方向については、この投稿を書きながら興味が湧いてきました。これからさらに考えを深めて、また投稿できればと思います。

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★Patrick A. Allen 著の Conferring: The Keystone of Reader's Workshop (Stenhouse, 2009年) という本の51-62ページが、忍耐をもって、スタミナを培うというテーマで書かれていて、上で紹介した例が詳しく書かれています。

★★『そして、奇跡は起こった!―シャクルトン隊、全員生還』(← こちらは単行本で、253ページあります)を書いたジェニファー・アームストロング (Jennifer Armstrong)の、同じテーマについて絵本です。絵本の方は、邦訳は見つけられませんでした。絵本のタイトルはSpirit of Endurance: The True Story of the Shackleton Expedition to the Antarcticです。

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